2010年1月29日
日本経団連 井上 洋
新興国の台頭による国際競争の激化や少子化・高齢化の進展など、わが国企業をとりまく環境は激変している。企業が急激な変化に対応し、より付加価値の高い競争力のある財・サービスの創出を可能とするためには、これまでの既成概念にとらわれないアイデアやビジネス・モデルを構築し、それを推進・下支えすることで、広義のイノベーションを起こしていくことのできる人材、つまり競争力強化に資する人材を育成・確保することが不可欠である。
こうした企業の競争力の源泉となる「競争力人材」は、革新的な技術やアイデアの創造、確立のみならず、実際に財・サービスを市場に供給する現場に至るまで、また、製造業・非製造業を問わずあまねく必要とされる。同時に、企業活動に国境がなくなり世界規模で迅速な市場ニーズへの対応が求められていることや、事業分野、場所を問わず多様な価値観や発想が求められていることを考えると、今後わが国として「競争力人材」を国籍にとらわれることなく育成・確保していくことも必要となる。
東京外国語大学「多言語・多文化教育研究センター」の協働実践研究の一環として、2007年より上田市周辺地域の製造業の実態を調査しているが、上田市周辺の技術力、財務力の優れた企業は、既に中国、ベトナム等に工場進出を果たしている。例えば製造業派遣に厳しい制限を課す改正法が施行されれば、企業は日本国内で正社員を増やすのではなく、中国やベトナムの製造ラインを増設して対応することになろう。
今回の世界同時不況で、かなりの数の零細企業が倒産、あるいは廃業に追い込まれたが、その一方で、技術が優れ財務状況の良い企業には受注が戻っている。しかしそのような企業でも、従前通り、派遣社員を一気に増やし増産することはないだろう。製造業における派遣社員の活用は今後、改正派遣業法の中身にもよるが、日本語と技能がある程度のレベルにある者に限られてこよう。日本語教育とともに職業訓練を地域ベースで強化していくことが強く求められる。
2016年、リオデジャネイロでの五輪開催が決まったが、地域の製造業がブラジルへの投資、事業展開を考えるのであれば、日本で生活している日系人を活用することが視野に入ってくる。彼らが、日本語と日本で修得した技能、ノウハウを活かせるようになれば、日本企業のブラジル進出の際に力になる。
とりわけ日本の公教育を受け、高卒以上の学歴があり、日本語もできる日系人第二世代が、今後有力な人材となるようなシステムを地域独自でつくりあげることが重要である。地域の企業も、そのような事業、プログラムであれば、積極的に協力するものと考えられる。
以上
大臣官房国際課企画調整室