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3.我が国の大学が有する「知」の活用

1. 大学の知を活用する意義・大学が担う役割
 
(1)  大学の知を活用する意義
   貧困・飢餓、災害、地域紛争、感染症といった地球的規模の困難な課題解決に向けて、先進各国には資金面だけではなく、知的貢献が求められている一方、これらはいずれも複合的で学際的取組が必要となる大きな課題であり解決が容易ではない。こうした背景の下、我が国が国際社会において責任ある役割を担い、知的貢献を果たすためには、知的源泉として大きな責務を有する大学を有効活用し、国際開発協力の質的向上に役立てていくという視点が必要である。
 このような国際貢献は、教育、研究、社会貢献という大学の役割の一翼を担う重要な取組であると言える。特に、自然科学分野に比べ競争的研究資金の種類が少ないといわれる人文・社会科学分野においては、国際開発協力への参画により、外部資金を得て、社会貢献とともに教育研究に役立つ実践フィールドの確保が期待できるなど、大学側にとっても参画する意義は大きい。

(2)  大学が担う役割
   大学の知を広く国際開発協力に活用するためには、開発途上国が抱える各種の開発ニーズと大学が有する援助リソース(研究成果や高度人材育成機能)双方に関する情報をオープンにし、相互のマッチングを行うことが必要である。このため、国際開発協力に参画する大学としても、開発ニーズの把握に努めるとともに、自らが有するリソースに関する情報を収集・公開する等の組織的な役割を果たすことが求められる。
 なお、上記のマッチングを機能させるためには、個々の大学の努力に加え、大学、援助機関、政府機関等の関係者が一体となって、第1章の「基本的な方向性」において提案した「知的コミュニティ」を構築することが不可欠である。

(3)  留意事項
   大学は、自らの個性・特色を踏まえた上で、国際開発協力に参画するに当たっては、例えば、まずは数多くの実績を有する留学生受入れや大学間学術交流を中心とした活動に戦略的に取り組むとともに、必要に応じ、他大学や外部の援助関係者とも連携しながら国際協力活動を充実させていくといった視点が重要となる。この際、大学として国際開発協力を本来業務として明確に位置付け、学内のサポートを得ながら取り組むとともに、併せて学内における組織的な体制整備を進めていくことが重要となる。

2. 取組を期待する環境整備の方策
 
(1)  大学の知を活かし得る体制の整備
 
1 大学の援助リソースに関する見本市機能の創設
   サポートセンターが核となり、大学の援助リソースに関する情報を一覧化するとともに、開発途上国の開発ニーズや大学の援助リソースについて援助機関等と大学の双方が情報共有・意見交換できる場を整備する。

2 知的ネットワークの形成
   開発途上国の研修員受入れやODA評価・調査業務などを対象に、サポートセンターが核となり、援助機関等と大学のネットワーク化を進め、我が国の大学総体として開発途上国のニーズに柔軟かつ的確に応えられる知的ネットワークを形成する。

3 プロジェクト・コーディネーターの育成・確保
   サポートセンターが核となり、大学における国際協力活動の企画・実施を担当するプロジェクト・コーディネーターの発掘・育成に努める。各大学においても、キャリアパスとしての位置付けなど、国際協力活動を担う専門人材への配慮が期待される。

(2)  大学の国際協力活動への支援
 
1 援助リソースの活用のための支援
   大学の援助リソースを新たに国際開発協力に役立てるためには、開発途上国での活用に先立ち、開発途上国のニーズに応じて研究成果等の改善や実証・実験を行うことが必要である。将来的には、援助機関等において、こうした改善等に必要となるアドバイスや資金の提供を行うことが期待されるが、当面は、大学の知の活用に関する検証を行う観点から、サポートセンターが核となり文部科学省において試行的に支援する。

2 競争的研究資金における国際開発協力への配慮
   競争的研究資金は、その性格上学術的見地から選考されるのが当然であるが、開発途上国の開発ニーズに対応した研究に対しては研究成果の社会還元という観点からの配慮も期待される。特に、地域研究等の中には、国際開発協力を進める上で有益な研究も多く、ODA予算による支援を含め、特段の配慮が期待される。

3 国際協力活動を支える基盤的資金の確保
   大学が国際開発協力に参画し、継続的・安定的に国際協力活動を展開していくためには、上記(2)2の競争的資金における配慮に加えて、大学の教育研究組織の存立を支える基盤的資金を十分確保する必要がある。

(3)  国際開発協力に参画する大学に求められる改善事項
   国際開発協力に参画する大学は、国際協力活動を本来業務として位置付け、大学として取組を行うことが重要となる。この際、国際協力活動に従事する教員の活動実績が学内において適切に評価されるような仕組みが望まれる。
 また、特に、国際協力プロジェクト受託による参画の場合、教員組織・事務組織双方に亘る対応が必要であり、上述したプロジェクト・コーディネーターを含めた学内体制の整備が求められる。

(4)  サポートセンターの抜本的見直し
   サポートセンターは大学の国際協力プロジェクト受託促進を目的として平成15(2002)年から活動を行ってきたが、これに留まらず、広く大学の組織的な国際協力活動に対する支援を行うこととする。加えて、NGOを含めた教育関係者が参画する国際協力活動全般に対する支援を行う。その際、開発途上国の多様なニーズに応えながら、先方と発展的かつ継続的な関係を築いていくために、学術交流に関連した事業を実施している機関をはじめ、種々の機関との連携・協力を強化する。このため、本報告書において既に記載した新たな取組に加え、以下の取組を開始する。
目利き人材によるコンサルテーション
   援助機関や大学OBなどのシニア人材も活用し、大学の有する知的な援助リソースに関し専門的見地から技術的なアドバイス等を実施する。
大学間相互の協力体制構築のためのコーディネート
   複数の大学等が参画する国際協力活動におけるネットワーク化を促進するため、サポートセンターがコーディネート機能を担う。
 なお、サポートセンターについては、大学の国際開発協力に対する支援が中心であることに鑑み、将来的には、大学関係者による主体的な運営体制の下、NGOや経済界など援助関係の多様な人材が集う場へと移行していくことが望ましい。


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