平成14年7月
文部科学省
第1部
第2部
(添付資料)
本懇談会は、文部科学大臣の私的懇談会として、平成13年10月に設置されたものである。平成12年6月から11月まで開催された前回の「国際教育協力懇談会」における検討結果を踏まえつつ、その後の新たな課題に対応し、更に議論を深めることを目的とした。
具体的には、第1部として、急務の課題である、「万人のための教育」を実現するための「ダカール行動枠組み」への対応を、また、第2部として、我が国の大学の知的な資源に着眼し、大学による国際開発協力の促進の在り方を主要議題として取り上げた。
本最終報告書は、その主要な議論を取りまとめたものであり、我が国による協力の質的な転換を図るため、国内体制の抜本的な整備に関して提言を行ったことが最大の特徴である。
なお、カナナスキス・サミットの機会に小泉総理から発表された、我が国の国際教育協力の基本的な考え方である「成長のための基礎教育イニシアティヴ(BEGIN)」においても、本懇談会の議論が反映されている。
昨年のジェノバに続き本年のカナナスキス・サミットにおいても「万人のための教育」の実現について改めて強い支持が確認されるなど、国際教育協力、とりわけ、初等中等教育分野の協力重視は、世界的な潮流となっている。このような動きを踏まえ、我が国としても開発途上国の自助努力を促しつつ、国際教育協力を促進する重要性がますます高まっている。
また、国際教育協力は、学校や非政府機関(NGO)等を含め、我が国のあらゆる層の国民が参画可能な協力分野であり、協力活動を通じて、我が国の「内なる国際化」を促すとともに、開発途上国と我が国の国民の共生を深めていくという意義も大きい。
我が国としては、「米百俵の精神」をもって教育を国づくりの根幹としてきた我が国の教育経験を、現職教員の派遣などを通じて活用することにより、「万人のための教育」の達成に効果的に役立て、「日本人の心」が見える協力を実現することが重要である。
なお、アフガニスタン等の紛争終結後の国づくりにおける協力は、教育が一日たりとも休むことのできない営みであることにかんがみ、平和国家である我が国が、応用問題として積極的に取り組んでいくべき課題である。
また、我が国の知的な資源を有する大学は、今後一層、様々な分野の国際開発協力に貢献していける大きな可能性を有している。これを実現するためには、従来の大学教員個人による協力活動から、大学組織としての協力に転換することが不可欠である。一方、政府開発援助(ODA)全体の戦略研究をする場としても大学は期待されている。
初等中等教育等の分野において、我が国による協力の実績が多く、ニーズも高い理数科教育、教員研修制度、学校運営など、我が国の主力となる協力分野等について、中核となる大学のもと、他の大学やNGO等が、我が国の国際教育協力における経験の共有化を図り、協力モデルの開発や現職教員への伝達を行うための「拠点システム」の構築について提言する。また、これを通じて、協力経験の浅い分野におけるグループの形成を支援するとともに、我が国の教育経験を整理し、ワークショップ等の対話のプロセス(過程)を通じ、情報提供の拡大を図っていくことが肝要である。
なお、「成長のための基礎教育イニシアティヴ(BEGIN)」においても、「現職教員の活用と国内体制の強化(「拠点システム」の構築)」として、本提言が反映されている。
意欲と能力を有する大学が国際援助機関(我が国及び多国間の援助機関を含む)との組織間契約に基づき、有報酬・有責任の体制で国際開発協力に参画していくことは、大学にとっても、実践的な研究や教育を進め、それぞれの特色を生かした大学づくりをしていく上で大きな利点と考えられる。ただし、そのためには、我が国の大学と国際援助機関との間、あるいはコンサルタント企業・国内外の大学などの連携機関との間の結節点となり、両者の関係強化を図る「サポート・センター」の設置が必要であると提言する。また、分野ごとの国際開発協力戦略の形成については、既に国立大学に設置されている分野別のセンターとの密接な連携が必要である。
大学には、学問的省察を通じ時々の政策の妥当性を吟味する学問の府として、国内外の動向を的確に捉えた上でODA政策を客観的に研究するという役割も期待されている。こうした期待に応えるため、我が国の大学にODA戦略に関する研究・分析を担う独立した「国際開発戦略研究センター(仮称)」を設置することを検討すべきであると提言する。
なお、(2)(3)の両センターの機能の相乗効果にかんがみ、両者の密接な関係を確保できるよう、設置形態も含めて、十分な配慮が必要である。
なお、上記(1)(2)(3)の体制整備とともに、国別援助計画の重点化等、ODA政策の戦略化・重点化等の政府全体の取組みに対応するため、文部科学省としても、関係省庁との連携、大学等機関による国際開発協力に関する企画・調整をより一層、組織的に充実していくことが必要である。
本懇談会において、アフガニスタン復興をはじめ、個別の紛争終結地に対応した具体的な国際教育協力に関しては、文部科学省が、関係機関と連携しつつ施策を検討すべきとの議論があった。これに基づき、文部科学省は、アフガニスタンに対しては、4月にアミン教育大臣(当時)を我が国に招聘するなど、外務省と連携しつつ、各種の施策を検討・実施している(「別紙1」参照)。
アフガニスタン教育支援の進捗につれて、教育関係者、NGOが多く参画し、また報道を通じ、国民各層が関心を示すなど、国民多数が国際教育協力を意味ある支援と受け止めている。国際教育協力は、国民が協力の有効性を実感し、「日本人の心」の見える協力を期待し、参画を欲している分野である。
一方、本懇談会の議論に基づき、NGOや地方自治体(教育委員会)と連携し、本懇談会にタスクフォース(作業部会)を設置した結果、初等中等教育分野等における協力強化のための「拠点システム」や国際教育協力における現職教員の参加などを、NGOや地方自治体と協力して実施していくこととなった。また、アフガニスタンとの協力についても、女子教員支援のための女子大学コンソーシアムや教育支援募金等、具体的なNGOとの連携が進捗している。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)等の国際機関が開発途上国において協力実績を有している分野に関し、我が国の教育経験を付加価値として活用し得る場合には、これら機関との連携を図ることも有意義と考えられる。
これに基づき、我が国として協力経験の浅い健康教育分野に関し、開発途上国での実績を有している世界食糧計画(WFP)及びユネスコとの連携を図りながら、我が国の栄養教育を含む食の教育の経験の活用など、どのような協力が可能か、検討が行われている(「別紙2」参照)。
我が国は、貧困、環境、人口爆発、食糧、エイズ、紛争など、さまざまな問題を抱える開発途上国への人道上の観点から、またアジアなどの開発途上国との共生を通じ我が国の生存と繁栄を維持するという観点から、これまでにインフラ(基幹施設)の整備から保健・医療に至るまで、幅広い分野においてODAを実施してきているが、以下のような理由から更に国際教育協力を推進する必要が痛感される。
教育は、家庭教育、学校教育、社会教育などの様々な形において、人間の一生を通じて実現されるべきものであり、人格形成と、人権、環境、経済産業等のあらゆる領域の基盤を形成するものである。とりわけ、最大の課題である貧困に対して教育は、人間の潜在的な能力の開発を促すため、開発途上国が自らの努力によって貧困から脱出し持続的に発展していくための基盤づくりに大きな役割を果たすことができる。さらに、教育は、人々に自ら考える力を与え、対話を通じて他者や他文化を理解する力、国際協調の精神を重んじる態度をはぐくむことができる。
我が国は、戦後、教育を国づくりの基本とし、「米百俵」の精神をもって復興してきた。国民生活、経済活動のあらゆる領域の基盤となる教育に人的・物的資源を傾注する、このような経験は、開発途上国、そして、世界各地で見られる紛争地域での紛争解決後の国づくりにとっても大いに参考になり得る。
一方、我が国においては、教育に関して学校や草の根レベルで様々な交流が行われている。こうした交流が土台となって、よりきめの細かいODA協力へと発展していく可能性がある。政府のODAで実施されている国際教育協力を、我が国の国民が参画した交流へと結び付け、裾野の広い協力に発展させていくことも考えられる。
このように、国際教育協力は、あらゆる層で我が国の国民が、開発途上国の国民とつながりを緊密化することを促し、日本とアジアをはじめ開発途上国との共生をより深いレベルで実現していく可能性を有している。
また、教員が開発途上国において国際教育協力に従事することによって、コミュニケーション、異文化理解や概念化の能力を身に付け、国際化のための素養を児童・生徒に波及的に広めるならば、「内なる国際化」を促進し、相互理解と相互依存の必要性がますます高まる国際社会に対応できる日本人の形成にも資することができる。
さらに、開発途上国と我が国との間では、教育の背景となっている歴史や社会・文化が大きく異なることから、我が国から派遣された教員が、両国の教育経験を比較することにより、我が国の教育の良い点を再認識でき、また、国内の教育に生かせる点を見出すことができる。このため、国際教育協力に参加した教員は帰国後に自身の経験を教育の現場に還元できるようになり、我が国の教育の質を結果的に高めるという効果もある。
このように、国際教育協力において我が国の教育経験を活用することにより、「日本の顔」だけでなく、「日本人の心」が見える協力となる。そして、多くの日本人が協力の有効性を実感できることになる。この点から、国際教育協力は国民によるODA理解を増進していく上でも大きな意義を持つ分野である。
「ダカール行動枠組み」の目標(「別紙3」参照)の中心である初等中等教育等(就学前教育、女性教育等を含む)は、高等教育やその他あらゆる分野での人づくり協力の基盤であり、このような基礎的な人材の土台があってこそ初めて、技術協力をはじめとする各種の協力の成果が点から線、線から面へと発展していく。
この意味において、初等中等教育分野等に対する協力は、我が国のODA協力全体の効果を底上げし、発展させていくためにも重要な役割を持ち得るものであり、我が国は今後、初等中等教育分野等に対する協力を重点的に強化し、「ダカール行動枠組み」の目標達成に向けて協力していくことが重要である。
なお、協力を進めていく際に、全般的に留意すべき点として、開発途上国における子供のみならず、親、青年、成人を含めた地域社会のメンバー全体を取り込みながら、協力を計画・実施していくことの重要性が挙げられる。
また、当該分野における我が国のこれまでの協力は、学校施設の建設などハード面の協力が中心となってきたが、これらと我が国からの人の派遣を通じたソフト面での協力を組み合わせることが、初等中等教育分野等における協力の効果を一層高めることにも留意すべきである。
「成長のための基礎教育イニシアティヴ」(BEGIN)においても、以下に示す「我が国の教育経験の活用」とともに、これらの議論が反映、明記されている。
教育を国づくりの根幹としてきた我が国の教育経験を活用し、得意な分野に対して重点的に協力を進めていくことが重要である。このことは、我が国による主体的な協力を確保する上で重要であるとともに、我が国が培ってきた具体的な成果を生かし、それぞれの国の教育発展に効果的に役立てることになる。
一方において、開発途上国の抱える教育ニーズは、伝統や文化のあり様によって多様であることから、我が国の経験をそのまま現地に適用することは困難である。したがって、開発途上国におけるニーズに我が国の教育経験を適合させていくことが必要になる。その際、これまで我が国が関係省庁やその他国際援助機関等のODA事業を通して蓄積してきた成果を十分勘案しつつ、開発途上国が自らの努力により自立していくことを促す必要がある。
こうした観点から、開発途上国における共通の教育課題である「ダカール行動枠組み」の六つの目標と、我が国の教育経験分野を照らし合わせた結果、「別紙3」のように、開発途上国への国際教育協力に活用できると考えられる分野が現時点で10分野ある。ただし、これらに関しては、我が国による協力経験が浅い分野(7分野)と協力経験の豊富な分野(3分野)に分かれる。
また、これらに加え、教育行政や学校運営など分野横断的課題については、公教育の普及と教育の質の向上を両立させてきた我が国の歴史そのものが貴重な参考事例であり、開発途上国からの関心が高く、「ダカール行動枠組み」の目標すべてに関連して有意義なものと考えられる。
理数科教育、教員研修制度、職業教育 + 分野横断的課題(教育行政、学校運営等)
これらの分野や課題は、開発途上国からのニーズが高いと考えられることから、開発途上国ごとの状況の違いに配慮しつつも、要請ごとの個別的な対応ではなく、分野や課題ごとに共通して活用できる経験を取りまとめ、共有化し、派遣者などに伝達していくことが重要である。
なお、当面は、開発途上国からのニーズが引き続き高い、「理数科教育」、「教員研修制度」と「分野横断的課題」を中心とすることが適当である。
幼児教育、環境教育、家庭科教育、女性教育、障害児への教育、健康教育(学校保健・学校給食を含む)、学校施設1
これらの分野に関しては、我が国の教育経験について、開発途上国に必ずしも十分な情報や理解があるとは限らないことから、相互に対話・検討を重ね、開発途上国の現場での我が国の教育経験の有効性を実証していく過程が重要である。
ユネスコ等の国際機関が開発途上国において協力実績を有している分野に関し、我が国の教育経験を付加価値として活用し得る場合には、これら機関との連携を図ることも有意義と考えられる。
例えば、我が国として協力経験の浅い健康教育分野に関しては、世界食糧計画(WFP)やユネスコに開発途上国での実績が相当ある一方、我が国の栄養教育を含む食の教育の経験を付加価値として用いることが可能であるため、これら機関との連携を進め、アジアを中心に我が国の健康教育の経験を役立たせることが肝要である。
また、識字教育やノンフォーマル教育においては、これらに実績を有するユネスコと連携し、我が国の経験を活用しつつ、寺子屋運動や「コミュニティー学習センター」などの活動を引き続き充実させていく必要がある。
全国の現職教員 2は、指導案の作成、教材開発、各種の指導技術など、子供に密着した実践的な教育経験や能力を有しており、「日本人の心」が見える国際教育協力を進めていくための、重要な人的資源と考えられる。しかも、これら現職教員のうち、4.3%(約4万人)が国際協力活動に従事することを希望しているとの推計もある3。また、現在、国際開発協力に携わっている人材の多くが中高生時代に国際協力に携わった人に触発されていることから、開発途上国で活躍した教員が我が国の教育現場に増えることにより、将来の国際開発協力人材の裾野が広がることが期待される。
これら現職教員のODA事業への参画は必ずしも活発ではなかったため、前回(平成12年度)の国際教育協力懇談会の提言に基づき、青年海外協力隊に「現職教員特別参加制度」4が創設された(平成13年度募集においては、合計63名を派遣予定)。
自治体によれば、青年海外協力隊への参加は、教員自身のための研修としても大きな効果があると評価されている。その一方で、依然として応募数が十分ではない理由として、(1)事前の活動場所の状況や活動内容が十分に分からないために、校長として奨励しづらい面があること、(2)開発途上国での経験が少ない現職教員が自分の専門性や能力を開発途上国で十分に発揮できるか不安であること、(3)自治体の財政負担を伴うことから、派遣数に制約があること、などが主要な要因として挙げられている。
したがって、現職教員の参加を更に促進していくためには、現職教員の活動参加に対する広報活動を更に積極的に行ない、幅広く関係者の理解を求めることが必要である。また、派遣される現職教員に対し、あらかじめ基本的な活動内容の提示、協力の事例集や共通して活用できる教材等の提供、派遣前研修や派遣期間中の指導・相談を行うなどの、サポート体制を強化していくことが重要である。
また、自治体としては、自治体の顔の見える援助活動に結び付けたいとの意向も強いことから、派遣元としての主体性を高め、より長期的な計画をもって派遣を可能とする派遣方法などの検討が必要である。
さらに、現職教員の参加促進に際しては青年海外協力隊の対象とならない40才以上の現職教員についても併せて考えることが課題となっている。平成10年度10月時点で現職教員の平均年齢は41.8才となっており、40才以上の現職教員が全体の6割近くを占めるに至っている。実際、40才以上の現職教員からも参加を強く希望する声が多く挙がっている。
このため青年海外協力隊の場合と同様、1派遣前研修と活動期間を我が国の学校年度に合わせ、2各自治体の教育委員会を通じた募集・応募を行うことでシニア海外ボランティア制度への40才以上の現職教員の参加促進を図ることが望まれる。
他方、これまで40才以上の現職教員を対象とした開発途上国の教育機関からの要請案件がなかったことから、開発途上国のニーズ発掘を進めていくとともに、現職教員の募集及び派遣につき地方自治体・学校長等の理解と協力を促進することも必要である。これらを踏まえ、シニア海外ボランティアへの現職教員の参加については、開発途上国のニーズに応じ試行的・段階的に進めることが肝要である。
また、退職教員についても、その知識及び経験を国際教育協力に活かしたいと希望する者も多いことから、これら退職教員のデータを有する各自治体教育委員会を通じた応募勧奨を行い、シニア海外ボランティア制度への参加促進を図ることが望ましい。
なお、言語の問題であるが、現地語での意思疎通は、国際教育協力を進める上で最も重要な点であるため、JICAが行う派遣前語学研修、並びに現地語学訓練の充実はもとより、派遣された教員の不断の努力により、言語問題の克服に努めていくことが強く望まれる。
前節までにおいて、我が国の教育経験の活用及び現職教員の活用を促進していくことの重要性とその具体的な方法について検討を行ってきた。これらを実現するためには国内の実施体制としての「拠点システム」が必要である(「別紙4」参照)。
我が国における協力経験を直接開発途上国へ移転できないことは、これまで議論されてきたとおりであり、とりわけ、初等中等教育分野等においては文化や社会的な背景への配慮が不可欠である。
しかしながら、これまでは多くの場合、個別の要請に応じて個々に協力の活動内容や教材等の検討が行われ、しかも、派遣された専門家やボランティア個人による現地での努力に負うところが大きかった。
これに対し、「拠点システム」は、あらかじめ我が国の協力経験やノウハウを国内で整備しておくことにより、協力要請に前もって備えておくことを可能とし、協力の質的、量的、さらにはタイミングの観点からも、開発途上国の要請に対して、的確かつ体系的に対応していこうとするものである。
これを可能とするために、国際教育協力に実績のある広島大学及び筑波大学の「教育開発国際協力研究センター」を拠点システムの中核としつつ、国立、公立、私立及びNGO、民間企業等からなるネットワークを形成し、省別又は官民といった枠に縛られることなく、関係機関の協力の下、以下に述べる活動を行う。
「理数科教育」、「教員研修制度」、及び分野横断的課題である「教育行政」や「学校運営」等は、「成長のための基礎教育イニシアティヴ(BEGIN)」においても、「重点分野」の柱とされており、かつ我が国の協力経験の豊富な分野である。これらの教育分野に関し、これまでの協力経験を蓄積・分析し、協力に共通して活用できる協力モデル(活動内容や教材等)の整備を図る。
また、協力経験の浅い地域・国や、新たな協力手法等に関しても研究を実施していくことが必要である。
さらに、個々の分野あるいは分野横断的な課題に加え、教育協力全般につき、国際動向分析を行うとともに、我が国の協力経験を積極的に国際社会に発信していくべきである。
上記に示した中核となる大学の指導・助言の下、特に地域の教育大学の積極的な協力により、青年海外協力隊、シニア海外ボランティア等として派遣される現職教員に対して、蓄積された経験や協力モデルを伝達し、開発途上国での活動経験の浅い現職教員の適格性を培っていくことが重要である。
具体的には、協力モデル等について、派遣前研修を通じて伝達し、現職教員に協力の内容や活動のイメージを明らかにするとともに、インターネット等を通じた派遣中の相談を通じて、現地活動での課題に対する助言を与えていく。
なお、開発途上国の現場における現職教員の体験は、「拠点システム」に還元され、我が国の協力経験に、新たな付加価値を与えていくことが期待される。
我が国としての協力経験の浅い分野(学校保健、環境教育等)に関しては、分野別のグループ、又は中心機関を形成していくことを促進し、我が国の教育経験の整理を行い、開発途上国との対話の過程等を通じ、情報提供を拡大していくことが肝要である。
これに対して拠点システムの中核となる大学が、このようなグループ等による検討会に参画し、教育行政などの分野横断的課題や、教育協力の国際動向等につき助言することは、極めて有効であり、協力経験の浅い分野の活用促進を側面から支援していくことになる。
なお、現職教員の支援と同様、協力経験の浅い個々の分野における協力の進捗や開発途上国での応用は、「拠点システム」に還元されていくこととなる。
冷戦の終焉(えん)後、頻発する地域紛争は人間の生命や生活のみならず、それを支える経済・社会基盤などの開発成果を損なうとともに、その後の復興・開発を困難とする様々な問題を引き起こしている。紛争地域での紛争解決後の国づくりにおいて、教育が果たすべき役割はとりわけ重要であると考えられる。すなわち、教育は国民生活や経済活動など、復興に関するあらゆる分野の基盤となるばかりでなく、歴史や宗教、民族について相互理解を促進し、平和構築と長期的な発展のために大きな役割を持つからである。
したがって、紛争解決後の復興期において、地域に次の世代を担う子供が現存することにかんがみても、教育は一日たりとも休むことができない営みであり、平和国家である我が国が、教育分野において積極的な支援を行うことは大きな意義と効果がある。
地域の行政機構の安定が図られつつある段階にあっても、平時とは異なる緊急対応的な国際教育協力が必要となることがある。このような対応としては、国際機関及びNGOに多くの活動経験があるため、これら諸機関との連携も含め、我が国としてどのような役割を果たし得るのか検討することが必要である。しかし、緊急暫定的対応もやがて平時の国際教育協力に移行していくため、このような連携に際して、我が国の二国間教育協力を視野に入れた検討が必要である。その際、上記で検討された平時の対応を応用しつつ、段階的かつ長期的な対応を検討することが肝要である。
また、紛争解決後の国々においては、宗教上の問題など、社会的文化的な要素が教育に大きな影響を与えている場合が多いので、我が国がこれまでに同様の背景を有する国々で行ってきた協力の成功例などを分析し、その経験を援用することが有益である。
アフガニスタン復興をはじめ、個別の紛争終結地域に対応した具体的な国際教育協力に関し、文部科学省は上記を十分に踏まえ、関係機関と連携しつつ施策の検討を行っていくべきであるとの議論がなされた。
特に、アフガニスタンに対する国際教育協力については、本懇談会の議論を踏まえ、アミン教育大臣(当時)の本邦招聘など、着実に施策が実行されてきており、(「別紙1」)、引き続き、積極的に検討・実施していくことが必要である。
前述のアフガニスタン教育協力が進められるにつれて、教育関係者、NGOが多く参画し、また報道や募金プロジェクトを通じ、国民各層が関心を示していることにかんがみれば、多くの国民が国際教育協力を意味ある支援と受け止めていると考えられる。決して我が国の国民がODAや開発途上国への支援を一律に批判したり、無駄であると考えているわけではない。国際教育協力は、このように多くの国民が協力の有効性を実感し、「日本人の心」の見える協力を期待し、何らかの形での参画を欲している分野である。
一方、国際教育協力を展開するに当っては、独自の交流を行っているNGOや地方自治体(教育委員会)等と、ODAを推進している政府とが連携することにより、一層裨益効果の高い協力を実現していくことが期待されている。このため、本懇談会ではNGOや地方自治体(教育委員会)と連携したタスクフォースを設置し、我が国の教育経験や現職教員を活用した国際教育協力に関する具体的な検討を行った。
我が国の教育経験の活用を検討するタスクフォースでは、日本の教育経験がNGO等と共有化されるとともに、3-4.の「拠点システム」におけるモデル開発等の研究にも、NGOが参画していくこととなっている。また、NGOからも大学教員等の専門家によるNGO活動への参画・評価が要望されている。今後、政府とNGO双方の協力関係の下、更なる国際教育協力の質の向上が期待されている。
現職教員の参加促進のためのタスクフォースにおいては、多くの地方自治体の教育委員会と意見交換を行っていく中で、校長会や教頭会等、様々な教育層と連携することにより、現職教員の参加を促していくことが可能であることが判明した。
また、アフガニスタン教育支援についても、NGOの協力を得て「アフガニスタン女子教育支援のための女子大学コンソーシアム」が形成されるとともに、文部科学省の協力の下、NGOによる「アフガニスタン教育支援募金」プロジェクトが実現するなど、幾つかの連携事例が始動するに至っている。
今後は、国内における「内なる国際化」とより深いレベルの開発途上国との共生を促進していくためにも、本懇談会を通じて生み出されたNGOや地方自治体との交流や連携を、更に多くの国民各層に発展させていくことが望まれる。そのための布石として、本懇談会のシンポジウムを開発途上国・国際機関等の関係者の参加を得つつ、全国各地で開催し、国内における国際教育協力活動の理解促進を図るとともに、より深い国民各層の参画の機会を模索していく必要がある。
我が国の大学が国際開発協力に参画していくことは、援助関係者の裾野を拡大するのみならず、我が国の知的な資源を国際開発協力に活用していき、日本の「顔の見える援助」を実現していく面からも、大きな期待が寄せられている。
しかしながら、大学による従来の協力は、ほとんどが大学教員個人による協力であり、無報酬、すなわち、大学に対する人件費の補てん等がなく、協力期間中に授業や研究活動に欠員が生じる状況となっている。このため、大学側にとって長期間あるいは頻繁な協力が困難になっている。
このような問題を解決するため、大学が国際援助機関との契約に基づき組織的に携わり、人件費、間接経費を得て、欠員等の補充に対応することが必要である。
このような国際援助機関との契約に基づく国際開発協力プロジェクトの実施は資金的な利点のみならず、教育・研究面においても意義が大きい。例えば、工学、医学、環境、農業分野の各種の調査・研究や評価・分析等、我が国の大学がその特色を生かした研究等を進めるのに適したプロジェクトが多く存在しており、研究資源としての魅力が大きい。
また、国際機関のプロジェクトに参画していくことは、大学の国際的な認知度や名声にも反映され、個性豊かな大学づくりに資すると考えられる。教育面においては、学生に対して開発途上国における実地経験を通じた教育を施すことが可能となるため、実践的な人材輩出にも効果が高い。
このように、今後は、国立大学の法人化も視野に入れつつ、能力と意欲を有する国立、公立、私立の各大学がその特色を生かし、国際開発協力プロジェクトに組織として主体的、戦略的に携わることが望ましいと考えられる。その際には、大学が果たすべき使命や機能にかんがみ、また、民間のコンサルタント企業との仕分の観点からも、大学本来の教育・研究の業務及びそれに密接にかかわる事業に限定した上で、参画を促していくことが必要である。
なお、大学がこのように組織的に国際開発協力活動に携わっていくことは、国際援助機関にとっても安定的な協力体制の確保の点から望ましい。我が国のODAにとっても、我が国の知的資源を活用した「顔の見える援助」の実現が可能となる。さらには、我が国からの国際機関への就職者の拡大も期待される。
現在の国立大学には、契約上の問題(国立大学と外部機関との契約形態には、一般的な契約の慣行になじまない点がある)とともに、任用上の制約から大学教官が協力活動に従事する際に、授業等に欠員が生じるといった問題が起こっている。
しかしこれらに関しては、国立大学の法人化により、国の機関としての諸規制が緩和され、各大学の自主性が拡大されることに伴い、基本的に解消の方向に向かうものと考えられる。
ただし、これまでも組織的な協力が可能であった私立大学においても、必ずしも協力活動が活発でなかった実態にかんがみれば、このような制度上の制約要因が解消されたとしても、直ちに国際開発協力活動が進展するとは限らない。したがって、今後、国立大学がこのような活動に参画するためには、以下の(2)に示す国公私立大学共通の課題に対応する活動が必要であるとともに、インセンティブをいかにして付与していくかも検討する必要がある。
なお、国立大学法人(仮称)が国際援助機関と契約を行う場合の間接経費の在り方や、受託可能な業務の範囲等については、国立大学法人が本来果たすべき使命や機能に配慮しつつ、外部資金の導入がより積極的に可能となるよう、今後の国立大学の法人化に際して反映させていくことが重要である。
上記(2)の1から4までの活動は、基本的に、我が国の大学と、国際援助機関との間、あるいは、連携機関(コンサルタント企業や国内外の大学など)との間を結び付ける活動であるため、個々の大学、個々の分野を横断したサポート・センターを設置し、大学の教育・研究の一環としての国際開発協力活動を支援していくことが肝要である(ただし(2)1の大学評価、及び2における国内援助機関の環境整備を除く)。
それに対し、上記(2)5の分野ごとの国際開発協力戦略の形成については、それぞれの分野に特色を持った大学機関等が中心となる。ただし、サポート・センターに国際援助機関や連携機関から寄せられる専門的な照会事項に関しては、サポート・センターから、分野別の大学センターに相談するなど、両者の密接な連携の下に活動を行うことが肝要である。
なお、これまでは、我が国の大学が国際開発協力に契約に基づいて参画した例はほとんどないため、性急な成果を求めるのではなく、大学と国際援助機関、あるいは連携機関との中長期的な関係構築を模索しながら、試行錯誤しつつ、かつ着実に取り組んでいくことが肝要である。
大学には、その知的な資源を国際開発協力活動に活かすという役割のほか、学問的省察を通じ時々の政策の妥当性を吟味する学問の府として、国内外の動向を的確に捉えた上でODA政策を客観的に研究するという役割も期待されている。
こうした期待に応えるため、我が国の大学にODA戦略に関する研究・分析を担う独立した「国際開発戦略研究センター(仮称)」を設置することを検討すべきである。
このセンターにおける研究成果を、外務省の「ODA総合戦略会議」をはじめとする政府関係機関に発信することにより、我が国の叡智を結集した我が国ODA戦略の形成が可能となる。
「国際開発戦略研究センター(仮称)」が行う研究・分析を通じて得られた人脈は、サポート・センターにとっても有用である。また、サポート・センターとの連携に基づき、分野別の大学センターが我が国の優位性を検討する際にも、「国際開発戦略研究センター(仮称)」による研究・分析は有益である。このような両センターの機能の相乗効果にかんがみ、両者の密接な関係を確保できるよう、設置形態も含めて、十分な配慮が必要である(「別紙6」参照)。
(敬称略、五十音順)
荒木 光彌 | 株式会社国際開発ジャーナル社代表取締役・編集長 |
川上 隆朗 | 国際協力事業団総裁 |
佐藤 禎一 | 日本学術振興会理事長 |
篠沢 恭助 | 国際協力銀行総裁 |
團野 廣一 | 株式会社三菱総合研究所常勤顧問 |
千野 境子 | 産経新聞社論説委員 |
中根 千枝 | 東京大学名誉教授(座長) |
西尾 珪子 | 社団法人国際日本語普及協会理事長 |
平野 次郎 | 日本放送協会解説委員 |
宮田 清蔵 | 東京農工大学長 |
矢崎 義雄 | 国立国際医療センター総長 |
平成14年7月
文部科学省
今後は、引き続きWFP及びユネスコと連携した以下のような事業を実施する予定。
なお、日本の成功例に学びたいという中国政府の要請を受け、北京で開催される学校給食ワークショップにおいて、当省担当者が講演を行う予定。
国際教育協力懇談会