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資料1

国際教育協力懇談会(第7回)議事録(案)
平成14年5月30日(木)14:30〜16:30
文部科学省  別館11階大会議室


1 開会
  中根座長による開会の挨拶、前回会合の総括及び今回の会合の進め方の概略についての説明の後、事務局より、資料1の第6回国際教育協力懇談会議事録確認及びその他の配付資料の確認を行った。

2 議事
(1) アジア開発銀行と我が国の大学の連携について
  アジア開発銀行戦略・政策局  西本昌二局長より資料2に基づき以下のとおり説明があった。

西本局長)まず、こういう場にアジア開発銀行を呼んでいただき感謝したい。いろんな意味で、我々、Multilateral Development Bank(MDB)は、皆さんに知られていない部分が多々あるかと思うが、このような機会を通じて相互理解が深められれば幸いと思っている。
  早速だが、本日のプレゼンテーションについて、簡単に要旨を紹介させていただきたい。
我々MDBサイドとしては、知識、経験のあるところ、これは大学、研究機関等を問わず、新しい調査研究を促進する機関と協力することは当然のことなので、このような懇談会での議論を踏まえて、そういう協力体制が強化されることを大歓迎する。
もっとも自然な形での協力というのは、例えば、調査研究セミナー等を開設することである。これは非常に自然な形だと思う。次に、MDBが実施するプロジェクトに、先生が個人ないしチームとして参加していただく。その次は、これは非常に難しいとは思うが、MDBがやりたいプロジェクト、プログラム等の発掘、アイデンティフィケーション等を途上国と一緒になってやっていく、こういう順序かなという気がする。
  MDBの協力機関が、機関や個人に要求したいものは、過去の実績とか国際社会からの一般的な評価である。これは鶏と卵のような関係になると思うが、例えば、我々の経験からすると、日本の大学の中でもコンクリート力学の専門家とか橋梁の設計に関する権威であるとか、ないしは水産関係の技術の専門家等、専門分野で実績のある機関、個人の研究者、先生であれば、そういう方との協力関係がもっともやりやすかったなという気がする。
  日本の商業ベースでのコンサル会社での、アジ銀及び世銀での受注実績は非常に小さいことを考えると、なかなかMDBプロジェクトを直接日本の研究機関ないし大学が受けるということは難しいのではないか、という気がする。これは事務局が作成されている資料の中にもいろんな困難点、障害が指摘されており、私もなるほどというところがあるが、これについてもう少し後で詳しく考えたいと思う。特に国立大学や公立大学だと、いろいろな規制等があって、それから、教授陣というよりもむしろ事務局側が実施すべき組織的な支援は今の段階ではMDBとの協調関係を実施するには強化される必要のある部分が多々あるという風に考える。
最初は、日本の援助機関であるJICA、JBICのプロジェクト等で、アンタイドのものでも日本の専門家が出やすい部門で実績を作っていくことによって、それを土台に国際社会の方に発展させていくというのが一番自然ではないかという気がする。
いずれにせよ、いろんな意味でのサポートサービスを提供するセンター、中核になるようなセンターが必要だという気がする。これは、各大学に設置するのは無理があるし、重複になるので、日本の中心部門でそういうセンターを作って、そういうようなサポート体制を作っていく必要があるような気がする。
  次に、問題点に対する対応策を考えてみたい。
  まず最初に、ビジネスオポチュニティーの発掘をどうしてやっていくのかということである。ビジネスという言葉が妥当かどうかわからないが、MDBと共通のビジネスを実施していく大学は、我々の求めている機会を知って頂かねばならない。これについては、途上国の中にある研究機関、コンサルとの緊密なる技術及び情報交換等が必要になってくると思う。
  それから次に、資料等にもあるように、いわゆるMDB内部の職員との個人的な接触、情報交換、これが非常に重要な側面を持っている。我々としても、組織として動いているが、所詮人間なので、過去にいろいろ仕事等で知り会いになった研究員、教授とはどうしても次の仕事も一緒にやりたいというところがあり、こういう意味での個人的な接触、情報交換が必要ではなかろうかと思う。
  ということで、先ほどのビジネスオポチュニティーの開発についても、やはりサポートするようなセンター等を作って、そのオポチュニティーの発掘を専門にやる、いわゆるビジネス・ディヴェロッパーというか、そういうことをやる人が必要ではなかろうかと思う。そこが、各大学及び研究所の比較優位ないしは専門家のルースター等を作成されて、それでマッチメイキングをやる。この場合、大学の方からとしては受注が成功裏に実施された場合には、何らかのコストシェアリングをするというようなことも考えられるのではなかろうか。
  その次に、商業ベースでやっている日本のコンサル会社とタイアップして協力してやっていく。その後は、先ほど申し上げましたように、途上国内での教育、研究機関と協調してセミナー等を共催していく。
  その次の問題点と対策としては、個人的な専門家ないしはチームの結成をタイムリーにしていく必要がある。さきほど申し上げたビジネスオポチュニティーというのは、3ヶ月、6ヶ月、1年前からわかっている場合と、来週というような緊急を要することもある。だから、そういう場合に、そういう短期間での通知で1週間ないしは2週間ミッションに参加できるような体制に本当に持っていけるのかどうかというのがある。当然研究機関、大学等で教えておられる人はそれなりのプログラムがあるわけですから、そういう授業とか研究を中座してでも、そういうプロジェクトに参加できるのかどうか疑問が残る。先ほど申し上げたように、我々の仕事では計画はあるところと無いところがあるので、あるところは職員の貼り付けが我々としても容易にできるが、無い場合に外からの専門家を要請する場合が多い。そういうときに、大学、研究機関の先生方がタイムリーに動けるかどうか、特にチームになった場合に、そういうエクスパティーズのスキルミックスがうまくできるのかどうか、こういうのを調整するセンターみたいなものがあれば、そういうこともお手伝いできるのではないかと思う。現状では、非常に難しいところがあるかのように思う。
  それから、事務局側の資料にもあったが、専門家の派遣をする場合の、我々のいわゆるレポートライティングとか仕事のやり方についてのスキルの再教育をどういう形でやっていくのか、誰がやっていくのかという問題がある。
  現場の知識、経験が非常に大事なことはいうまでもないが、それと同時に、いろんな意味でのコミュニケーション、会議に出席してみんなと一緒に意見をまとめていけるようなスキル等が必要になるわけだが、これに対する訓練体制なども必要だと思う。
  それから、我々のところでは単独に先進国のコンサル会社が1つの仕事を100パーセント請け負うという例は非常に少なくなりつつある。ほとんどの場合、現地のコンサルタント等とタイアップしてやっているというのが現状である。と言うと、途上国側のコンサルタント、研究機関、教育機関等とのネットワークのお世話を誰がやるのかという問題があると思う。普段から誰が見てもプレゼンスが明確な場合を除くと、日本の大学はそういうところで活動している例は少ないと思われる。
  また、いろんな問題が現場で出た場合に本部からの支援も必要になってくる。病気等で欠員が出たらすぐに代替を出せるという体制になることも必要である。そういう意味でロジ及びチームをバックアップする本部の体制は誰が面倒をみるのか問題がある。先ほども申し上げたセンター等がそれの促進にはなると思うが、完全な解決策にはならないと思う。ということで、この問題点とその対策の1つのサジェスチョンは、相互的にそういうことに対応するシステムが中央レベルで必要ではなかろうかという気がする。
  次に、大学における国際協力機会の促進について、私なりに別な角度から何か見られないかと考えてみたが、それを申し上げたい。1つは過去の日本の奨学金等で日本に来られていた留学生の多くの方が、本国に戻って非常に重要な地位についておられるので、過去の日本留学生ネットワークを活用するということは出来ないのかと。それから、我々のようなMDBへの職員として2、3年出向されるというか、職員になられる、ないしは途上国への大学へ客員教授として出向される。その次は、商業ベースのコンサル会社への出向、ないしはコンサル会社でなくても商業ベースの専門的な建築、土木、水道、教育、医療等の企業への出向等も考えられるのではないかと。それから、既にやっておられると思うが、国内及び国際的なNGOへの参加、それから、もう一つ、途上国には日本人子弟のために日本人学校というものがいろんなところにあるが、そこにおられる教員は在途上国日本人子弟の教育に追われており、私の観察するところ、他に現地の教育界と一緒になって何かをするということはあまりやられていないので、途上国の教育担当者と広く協力して、日本人学校の職員が日本人の子弟の教育だけにとどまらずに、もう少し途上国の教育問題についても参加できるのではなかろうかという気がしている。レポートの一部にもあるが、日本の内なる国際化ということの側面が、ビジョンとしては必要ではなかろうかという気がする。
  それから、追加して言わせていただくと、やはり「国際開発協力=コンサルタント」という図式というのは、それはいかがなものかなという気がする。やはり国際協力というのは、公・民・NGO等、色々なチャンネルがあるし、またコマーシャルベース、ないし、ローンなのか無償なのかといういろんな区別がある。ということで、まず日本の大学及び研究機関の国際化ということに、どれほど興味があって、どれほど強いビジョンがあるのかということである。今日の新聞では、センター・フォー・エクセレンスというプロジェクトが立ち上がるように報道されたが、そういう意味で日本の大学の中で限られた分野についてのセンター・フォー・エクセレンスを作っていくと、自ずとそこが求心力を持って国内外で教育に対して、ないしはヒューマン・ディベロップメントに関して力を持ってこられるのではなかろうかという気がする。先ほども申し上げたとおり、日本の大学の地域におけるアウトリーチ活動というか、そういうことも拡大していく必要があるのではなかろうかという気がする。
  確かに理想的な大学像みたいなものが本当にあるのか、ということがあるのだが、個人的な経験から申し上げると、ハワイにある東西センターというところに行き、ああいう形は望ましいものの1つではなかろうかと思った。大学の横に1つの研究訓練機関というものを作って、そこで各種の研究教育文化交流等を通じて広く国際開発協力に貢献するという人材を育てるという性格のものである。その東西センター自体がコンサル業務的なことをやっている部分もあるが、それは一部で、むしろ東西センターの卒業生が各分野で開発協力に貢献するというのがそもそもの目的であり、まさしく、センター自身、ないしは日本の大学、教育研究機関自身が出かけていくということではなくて、本来の機能を強化することによって、その機関ないし大学の卒業生が国際社会で強く通用する人材を作成すると、そういう卒業生がまさしく国際教育協力の主力になるという薫りの高い姿を持つといくことも必要ではなかろうかという気がする。これは、まさしくヴィジョナリーな話なので、私のようなものが申し上げる筋では無いかもしれないが、そういう形で考えて頂くと、もう少し国内での活動を強化することが日本の大学の国際化につながるという線が強化されるのではなかろうかいう気がする。

(2)

保健医療分野における国際機関との連携について
  名古屋大学大学院医学系研究科  青山温子教授より以下のとおり説明がなされた後、資料5が配布された。

青山教授)私は大学で教鞭をとるようになって1年4ヶ月になる。その前は矢崎委員が総長である国立国際医療センター国際医療協力局に勤務して、主にODAの保健医療分野の仕事に携わっていた。その間、パキスタンの母子保健プロジェクトの立ち上げなどにも関わり、当時パキスタン大使であった懇談会委員の川上JICA総裁にお目にかかる機会もあった。また、96年から99年まで、ワシントンにある世界銀行本部の中東・北アフリカ地域担当部局で実際のプログラムを動かしていた。そういった経歴から、開発援助の現場の状況と大学がどんなことをしたいのか、本音のところを話してくれないかということでお招きいただいたのではないかと思っている。文部科学省でお話させて頂くのは初めてあり、これまでの懇談会の流れを必ずしも正確に把握しているわけではないので、万一重複等あればご容赦いただきたい。
  では、これからOHPを使って説明させていただく。お手元に資料はないかと思うが、後ほど配布するよう、事務局にお願いしている。
  今日は、なるべく希望に満ちたことをお話しするよう言われているので、我が国大学による国際協力の可能性を拡げる、というタイトルをつけてみた。
  最初に、世界の保健医療分野で開発援助機関がどんなことを課題としているかをお話しする。次に、世界銀行や西本局長のアジア開発銀行はじめどのような国際機関が保健医療分野で活動しているのかをお示しする。最後に、日本の大学と国際機関との連携ということについて、私なりの提言を加えてご説明する。
  開発援助機関が対象としている国の経済や社会の水準について少しご説明したい。この地図をご覧になっておわかりのように、一人当たりの収入が750ドル以下というサブサハラアフリカなどの非常に貧しい地域が対象となる。しかし、必ずしもきわめて貧しい国ばかりではなく、例えばラテンアメリカ、あるいは旧社会主義諸国なども開発プログラムの対象となっている。経済水準が違うと、保健医療の課題も異なってくる。世界の出生時平均余命を見ると、貧しい国々では55歳以下であるが、比較的平均余命の長い国々に対しても、保健医療のプログラムが行われており、その課題は、必ずしも感染症対策や予防接種などばかりでなく、保健医療のシステムを改革していくことなどが重要課題となっている。
  保健医療セクターでどのようなことが課題になっているのかを、10項目にまとめてみた。保健医療政策形成、あるいは社会保険や医療経済の制度、薬剤セクター管理、病院の管理運営など、システムの部分が重要課題である。それから、疾患対策、予防接種、人口家族計画、女性の健康など、公衆衛生的な分野、人材養成などの課題がある。このような課題に対して、開発援助機関がいろいろなプログラムを実施している。
  保健医療分野の課題に対する戦略や対策には、大きく分けて2つの枠組みがある。保健医療のシステム形成と、予防的・公衆衛生的活動である。なぜなら、最大多数の人々の健康を改善することが開発援助の大きな目的になってくるからである。ところが、我が国の大学医学部が得意としている、例えば診断・治療技術などは開発援助の分野の中では非常に小さい部分にすぎない。華々しく取り上げられる緊急援助も重要ではあるが、開発援助の中では一部分でしかない。また、保健医療の枠を越えて教育や貧困緩和など医学、医療にとどまらない幅広い視点を持った人材が求められる。
  保健医療分野で活動している開発援助機関の例をあげる。大まかに分けて資金協力を主とする機関と技術協力を主とする機関がある。資金協力機関に篠沢委員が総裁をしておられるJBICが含まれる。JICAは無償資金協力も実施しているが、技術協力を中心としている。国際機関では、私がかつて所属していた世界銀行や、西本局長のアジア開発銀行などの開発銀行は主に資金協力をしているが、資金を提供して専門家を雇うというような形で技術協力も提供している。世界保健機関 (WHO)、ユニセフ、国連人口基金などの国際機関も保健医療の分野で活動しており専門家を必要とすることがある。1999年の世界銀行の分野別融資比率を見ると、保健医療が7パーセントとなっており、世界銀行の融資額全体が非常に大きいことを考えるとかなりの額にのぼっている。年によって上下するが、10パーセント程度の世界銀行融資が保健医療分野に流れている。
  では、これから大学と国際機関との協力についてお話しする。今日の課題は大学が組織として国際機関の仕事をするということである。大学が国際機関の仕事をするには、大きく分けて、組織としてと、個人としての2通りがある。個人としての方については、開発援助機関の活動に専門家やコンサルタントとして個人を雇用しているのを見聞きした経験がある。私も世界銀行にいた時に、プロジェクトを準備する予算が非常に限られているので、いろいろな国のタイドの信託基金を使って人を雇わなくてはならなかったことがあった。たとえば、ベルギーのお金があるからベルギー人の専門家を探したり、あるいは、日本のお金があるから日本人の専門家を探したりした。また、開発途上国の大学の先生には、自分でNGOを運営している事もよくある。先ほどNGOに参加するというお話があったが、NGOを自分で持っていて資金を獲得しようとする場合もある。
  本日の本題の組織としての方であるが、例えば、大学のある部署がプロジェクトや研修などの全体、あるいは一部を請け負うことがあると思う。私が知っている例では、後ほど黒田先生が詳しくご説明になるかと思うが、アメリカの政府開発援助機関であるUSAIDがコントラクトアウト方式を取っているため、USAIDのプロジェクトを大学が請け負っているのは良く見かけた。世銀の例はあまり経験がないが、ハーバード大学のHarvard Institute for International Development(HIID)が請け負ったパレスチナの小さいプログラムがあった。
  もう一つのやり方は、大学の中に横断的な特別の組織を設立することである。ジョンズ・ホプキンズ大学にJHPIEGOという組織があり、人口家族計画、リプロダクティブヘルス分野を専門として、USAIDの仕事などを請け負っている。JHPIEGOはコーポレーションとあるので、どういう組織かは詳しく調べないとわからないが、他の部署の研究・教育とも連携しているようだ。
開発援助機関側から見た大学には一体どんな魅力があり、どんな問題点があるのかをまとめてみた。開発援助機関には専門分野の人材がいないが、すべての専門家を雇用しておけないため、専門知識や技術を外部から手に入れたいということがある。それからタイドの信託基金などがある場合に大学の先生などを使いたいというところがある。外部の人を使うということで客観的な評価ができるし、競争の原理が出てくるので効率性が高くなるという利点もある。
  問題点としては、先ほど西本局長もおっしゃったとおり、時間的に間に合わないことがある。また、大学の先生は研究とか教育とか別のアジェンダを持っているので、必ずしも開発援助の目的どおりに仕事をしてくれないことがあるので、しっかり監督しなくてはいけないということもある。それから、どのような専門家が存在するのかがよくわからないし、専門知識があまりない国際機関のスタッフには、その専門家が本当に有能であるかを評価するのが難しいということもある。それから、特定の優秀な専門家を繰り返し雇っているうちに、いつのまにか特定大学とばかり契約している状況に陥ることがあって問題である。一方ある大学が必ずしも全ての人材を備えているわけではないこともある。先ほど申し上げたHIIDの例でも、HIIDは請け負ったものの人材がいなくて外の人を雇って派遣していた。
  では、大学から見た開発援助機関というのはどんなものか。今大学にいるので開発援助機関の仕事が欲しいほうの立場になったが、私も研究費獲得には苦労しており、一定の資金枠と活動期間が保証されたらこんな素晴らしいことはないと思う。また、自分が研究した成果をオペレーショナル・リサーチのような形で検証するには、プロジェクトが必要であるし、大学院生を一緒に連れて行ければ教育の機会を与えることもできる。このように、研究・教育のフィールドにできるばかりか、仕事をしている中で人脈を形成できるし、国際機関の仕事なら、個人の研究者にはアクセスが難しい政府のデータを見ることもできる。また、国際機関と仕事をしているということは、その大学がある一定の技術水準を認められたということにもなる。
  問題点としては、先ほど示した開発援助機関側の視点と反対のことがある。大学側はもっと研究・教育をしたいのだが、国際機関側からいろいろと制限を受けるうえ、一定期間内に一定の成果をだすことを要求される。突然の出張を依頼されたりもする。それから開発援助機関側の都合でプロジェクトが中止になることもある。USAIDの例なのだが、イエメンから撤退することが決まり、あるNPOの契約していたプロジェクトが予定期間を残したまま中止されたことがあった。また、大学にとって適切なプロジェクトがあるとは限らないし、契約してくれるかも確かではない。
  では、大学と国際機関の連携を進めるためにはどのようなことを考えていけば良いのであろうか。まず、大学が雇ってもらおうと思ったら顧客である国際機関のニーズにこたえなくてはいけない。それはきわめて重要なことなのだが、大学の人間にはなかなかこういう考え方は出来ない。まずは顧客が要求しているような知識や技術を提供しなくてはいけない。国際機関には特有の仕事の進め方があり、プロジェクトを形成する各段階ごとに報告書を出すことなどが要求されるので、そういった仕事の進め方を理解して実施しなくてはならない。それから時期のことがあげられる。2週間後に評価ミッションがあるから来てくれと言われることもある。報告書が書けることはきわめて重要である。私の経験でも、ある信頼できる方に紹介されて、新しいコンサルタントをミッションに連れて行ったのだが、コンピューターすら持ってこず、報告書が書けなかったことがあった。たとえば、世銀の2週間のミッションでは、その国を出るときまでに、エイド・メモワールというきちんとした報告書を書かなくてはならないのだが、その報告書がかけないような人が来ては、逆に迷惑してしまう。そのような国際機関の仕事の手順を理解していて、国際機関の書式で正確な英語の報告書が書ける人でなければ困る。さらに、国際機関のスタッフが何かわからないときに、いつも気持ちよく知識をあげているような関係を作ることも大切である。
  次に、顧客に選んでもらえるような存在にならなくてはいけないということである。そのためには、コンサルタント会社などに対して競争力をつけなければならない。それは、必ずしもお金だけの問題ではなくて、コンサルタント会社より質の良いサービス、高いレベルの知識・技術を供給できるということであってもよい。また、日頃から広報活動等をしておくことが重要である。私が世界銀行にいたとき、ヨーロッパの小さな国等では、大使館から、コンサルタントに会って欲しいという電話がかかることがあった。それらの国では大使館が自ら広報活動をしているわけである。国際機関のスタッフには、どうやったら大学の専門家にアクセスできるかわからない。契約する手続きが国際機関の側から容易にならなければ、せっかく適切な専門家がいて雇用したいと思っても、どうすればよいかわからないことになる。また、日頃から仕事があったときにはきちんと対応して信頼関係を築くことが大切である。それから、大学側から専門的なことを国際機関に提案することも必要だと思う。私が世銀にいたときには、いろいろな大学の人がいろいろなプロポーザルを持ってきた。ほとんどが研究目的なので、丁寧にお断りする手紙を書いて終わりだったが、中には今後の課題になりそうなものもあった。例えば、ジョンズ・ホプキンズ大学の外傷関係グループなどが、開発途上国では外傷が公衆衛生上の課題であることから、世界銀行のスタッフとも話し合って、世界銀行の研修コースに含めていったことがある。正確にはどちらが働きかけたかは知らないが、大学側もかなり働きかけていたように思う。開発の課題になって大学の研究教育のテーマにも合っているようなことを積極的に提案していくことが必要なのではないかと思う。
  そして、今後何ができるか何を進めていくかということであるが、これは独立行政法人化のことをにらんでいると思う。まず、各部署の人事とか予算とかが、独立性・流動性をもたなければならない。すなわち、あるプロジェクトをする時に、必要な人を必要な期間雇えるようなことが必要である。横断的組織とは、あるプロジェクトをする時に1つの部署だけでは専門分野の人材が足りない時に、別の部署からもさまざまな専門家を動員して横断的な組織ができるような枠組みがあるということである。
  それから、国際開発援助機関の取り組んでいる課題に答えられる人材がまだまだ不足していると思うので、このような知識、技術を持つ人間を今から育てていかなくてはいけないと思う。経験というのは簡単につめるものではないので、国際機関などの仕事を受ける中で、一緒に若手も連れて行って育てていくことが必要であろう。
  また、日頃から国際社会に大学の存在感を認知してもらわないことにはなかなか仕事は来ないであろう。日本側の一体となった対応も重要であり、財務省、外務省、厚生労働省、文部科学省など省庁間の風通しをよくしていかなければならない。日本側が一つになって、外務省の方にも大学の広報活動をしていただくぐらいにならなければならないのではないか。
  大学が国際機関の仕事を請け負う前に、やはり練習が必要であると思われる。これだけアメリカの大学が育っているのは、USAIDがこれまでずっとコントラクトアウト方式をとってきたからである。日本の大学に明日からやりなさいと言ってもそれは出来ないので、しばらくは練習が必要である。そのためにはJICA等も大学にコントラクトアウトする方式を、一部でも良いので取り入れて、日本の大学を鍛えていただかないといけないのではないかと思っている。

(3)

欧米の大学と国際開発協力について
  広島大学教育開発国際協力研究センター  黒田一雄助教授より資料3に基づき以下のとおり説明があった。

黒田助教授)本日頂いた題目は欧米ということであるが、15分ということなので、アメリカを中心に他の国の事例も若干交えてご説明させていただければと思う。
  前回の懇談会では岡谷室長から大学人個人の参画から大学組織の参画へ、無報酬、無責任の体制から、有報酬、有責任の体制へということでご提案があった。これを受けて、西野先生や荒木委員からアメリカの事例が参考になるのではとの発言があって、今日のお話にもそういうことがあった。
  では、アメリカの大学がどのくらいの規模で国際案件を受注して、組織としてやっているのかを見てみたいと思う。
まず、例1をご覧いただきたい。USAIDは州ごとにどんなコントラクトアウトをしているかを発表しているが、ちょっと古い数字で恐縮だが、96年フロリダ州で、例えばフロリダ国際大学は1千4百万ドル、日本円で20億円近くのコントラクトを得ている。これは大学がフロリダ州全体の中では、案件数では1割強、コントラクト全体の金額では3割の案件を受注している。例2を見ていただくと、ハーバード大学にいたっては27件で7千万ドル近く、日本円で80億円以上のコントラクトをUSAIDと結んでいた。これは、まさにHIID 恐るべしということなのだが、HIIDは2000年に解散してしまったので、今は少なくなっているかもしれない。もちろん小規模のリベラル・アーツ・カレッジのようにコントラクトを全く持っていないところもたくさんある。研究大学の中にも例2の中に示しているように、ばらつきがある。だから、一概には言えないが、日本の大学では研修などを除けば、こういう形で資金を伴った案件受注というのはほとんどゼロなので、いかにアメリカの大学が活発に国際協力案件を受注しているかということがおわかりいただけるかと思う。
  では、どのようなシステムでこういった案件受注が行われているかということであるが、これも青山先生が既に説明されたが、まずは個人として大学人が国際協力に参加するということである。アメリカの大学人は大学に1年のうち9ヶ月もしくは10ヶ月の契約で雇用されている。医学部では12ヶ月ということもあるようだが。残りの3ヶ月はコンサルタントとして外部で働くことが認められている。サマースクールで教えるといったこともある。また、無給休暇とかサバティカルなどの、日本ではあまり発達していないシステムが利用されることもあり、全く大学のリソースを使わない場合には大学はオーバーヘッドを課し得ない。だが、大学の学期期間に出張に行かなくてはいけないとか、もしくは大学の施設を使用する場合には、大学はケースバイケースでオーバーヘッドを決定して徴収する。もしくは、大学人がコンサルタント報酬を使って、これは面白い制度なのだが、自分の勤務時間を大学からバイアウトと言うが、買いとるという制度を持っているところもある。アメリカではあまり無いが、オーストラリアとかはそういうことがある。
  次に、大学が組織として国際協力に関係する場合であるが、USAIDなどと正式な契約を結び外部資金を供与されながら、コントラクトアウト、つまり、大学が責任を持って事業を実施する形である。これは、公募案件に入札する形も当然あるが、必ずしもそれだけではなくて、大学人とUSAIDとの間で概ねの合意があって、それを大学のほうでプロポーザル化してUSAIDが審査して契約を結ぶというようなこともあるようだ。とにかくいずれにしても、大学はしばしば50パーセントに及ぶオーバーヘッドを取る。非常に高額なオーバーヘッドである。だが、普通の研究費でもそのくらいのオーバーヘッドを取っている。しかし、一方で別の講師を雇って、担当の教官の授業負担を減免するとか、組織的なもしくは事務的なサポートを、もしくは大学の施設を提供したりするわけである。この形態だと、教官は職務の一環として無理なく国際協力活動に専念できる。日本とは非常に違ったシステムだと思う。
  大学が単独で受注するのではなくて、他の大学とコンソーシアムを組んだり、コンサルタント会社やNGOのサブコントラクターとなって案件を受注したりするケースも頻繁にある。前回の懇談会でECFAの方が大学人のコンサルタントとしての問題点をいろいろ述べられていて、本当にそのとおりだと私は思っている。しかし、面白いのは世銀やUSAIDの人と議論をいていても欧米の大学人もそういった問題を抱えている、例えば研究志向が過ぎたり、今日もお話があったわけだが、協調性が無かったりということを言われる方が、よくいらっしゃる。なので、業務実施においてはそういう意味での優位性と言うか、しっかりした民間のコンサルタントと連携して大学が、もしくはサブコントラクターとして仕事をすることで、両者の得意不得意を補完し合うというようなこともよく行われている手法である。
  次に通常のコンサルタント業務ではない形なのだが、大学に特化したユニークな形だと思う。まず、特定の学部学科が助成金を受けながら、長期的な人材育成をしてコンサルタントサービスを提供するという形なのであるが、これはイギリスに特徴的なやり方である。例えば、エジンバラ大学社会人類学科は教官21名中、実に8名が英国の国際開発庁からの助成金によって雇用されており、その教官は年80日間のコンサルタントサービスを提供する義務を負っている。日本に置き換えると、JICAの国際協力専門員のような方々が大学で通常は客員教授のような形で人材育成に当たっていて、1年の数ヶ月を国際協力に従事するというイメージだと思う。
  次に、これはアメリカに特徴的なやり方であるが、大学がUSAIDのパートナーとして費用を分担しながら国際協力に取り組むという形である。これは大学の国際化戦略や研究戦略と照らして、大学側にしかるべきメリットがある、もしくはそれにより国際化が進んだり、大学の名前が挙がったりというような場合に、ある程度の費用を分担して取り組むというような形、マッチングファンドのような形でUSAIDが4分の3の資金を提供するような形がある。4分の1を大学が提供すると言っても、実際にはオーバーヘッドとして大学が取るべき分だったところを取らないといった形、もしくは大学人をフリーで出張させるといった形なので、現在JICAのプロ技に日本の国立大学の教授が無償で関わっているのと似たような制度なのかもしれない。
  アメリカの大学では様々な形態で国際協力への関与が行われているが、これを可能にしている1つの要因は、非常に発達している外部資金の受託事務のサポート体制である。単なるサポートだけではなくて、専門家のロースターを作ったり、案件開拓のためのマーケティング、プロポーザル、契約書の交渉締結、事業実施の管理など様々な活動を大学のほうで行ったりする体制がある。大学によっては、国際関係の事務、そういった事業を専門に担当する部署とか職員を配置して、USAIDなどと定期的な協議を行っているようなところもある。
  また、大学の中だけではなくて、アメリカでは高等教育機関の協会が6つあるのだが、これらの団体が中心となってAssociation Liaison Office for University Cooperation in Developmentという国際機関促進のための全国ネットの組織を作り、USAIDとの双方的な協力条件の交渉であるとか、入札が公募されている案件の周知徹底、広報などを行っている。また、援助機関の方でも高等教育機関との連携に対してはっきりとした政策を持っており、例えばUSAIDは大学との友好なパートナーシップに関して、USAID Higher Education Community Partnershipという政策指針を策定しています。また、スウェーデンのSIDAでも大学との連携に関して専門の部局を設置している。
  非常にざっとだが、アメリカを例として大学の国際協力の連携システムについてお話しさせていただいた。
  それでは、どうして英米の大学がもしくは大学人が、国際協力にこれほど積極的に関わるのかを考えながら、日本への示唆を探ってみたいと思う。
  財政的、経済的インセンティブというのはやはり大きいと思う。特に、サッチャー政権以降のイギリスの大学であるとか、90年代のオーストラリアの大学というのは大学財政が非常に困窮したので、こうした外部資金の獲得というのが非常に重要な課題となった。そういう状況の中で、外部資金多様化の手段として国際協力への関与が促進されたという状態はあったと思われる。しかし、それ以前のイギリスとかオーストラリアの大学も非常に国際協力に活発に取り組んでいたし、アメリカでは自分の大学でコストシェアリングをしながら国際協力に携わっているようなこともあるので、経済的なインセンティブだけでは当然無いわけである。私も英米の大学人とこのことについて何度もディスカッションしたが、100パーセント最初に言うのは、大学人の国際協力は公的な使命があるということである。人道的なインセンティブと言うか、自分の研究成果を開発協力、貧困な状況にあるときに状況改善に役立てたいということは当然大学や大学人が持っている思いだと思う。だが、それだけではなく、もちろんきれいごとだけではなくて、それをきちんと評価するシステムがある。例えば予算配分のための政府による大学評価であるとか、それから大学人個人にとっては採用や昇進、給与の決定にいたるまで国際協力などの社会貢献が積極的に評価されるというようなシステムがあって、大学、大学人の国際協力の積極的な取組ということになっているのであろうと思う。例えば、フィンランドでは、大学人が国際協力に何日出張したかによって配分される研究費が決まるというようなこともあった。また、大学の本来の仕事である研究や教育にも、大学、大学人が国際協力に携わることで非常に大きなプラスがあるという認識が徹底されていた。もちろん、開発援助は大学の教育のためにあるのではないが、より高い主準の開発研究、より高い水準の開発人材の育成というのは長期的にはその後の国際協力の質を高めていくことになる。私自身、アメリカの大学でPhDをやったが、身をもって感じた。アメリカの学会では、例えば国際協力によって得られたデータを使った研究発表というのは非常にたくさんある。また、アメリカの開発分野の大学院生というのは、大学が受注している国際協力案件にアシスタントとして関わることによって、データを得るという意味でも、奨学金を得るという意味でも、それから実務経験を得るという意味でも本当に多元的に利益を得ていると思う。そしてこうして育成された人材が、将来的には国際協力の質を上げていく。つまり国際協力に積極的に大学、大学人が関わることによって、大学側としては研究、教育、社会貢献と言う3つの責務を国際的に大きく展開していくことが出来て、国際協力の側からは、長期的に大学の開発研究が大学に蓄積されて、大学による援助人材の育成が行われるということで、大学が戦略的で効果的な援助をサポートする拠点となっているということでメリットがあると思う。こうした良い循環がアメリカにはあるように思われる。だが、少しアメリカを誉めすぎてしまったかもしれない。アメリカでの援助があまりにも国内に回りすぎていて、せっかくそれだけの人材が育って知見があるにもかかわらず、実際に途上国に行くお金は少なくなってしまい、あまりその知見が生かせないという批判を聞いたこともある。ただ、日本は全く反対である。あまりにも国内的なインプットがなされないがために、効果的な援助の制約要因になっているのではないかと私は思っている。
  最後になるが、簡単に日本への示唆ということでお話させていただきたい。まず、有報酬、有責任の国際協力を大学が行っていくためには、独立行政法人化というのは素晴らしいチャンスなのだろうと思うが、独立行政法人化をしただけで、大学が国際協力をばっとやりだすというようなことは絶対無いと思う。これには本当にいろいろなシステムを整えていくことが必要である。ここにも羅列したが、勤務形態の柔軟化とかオーバーヘッドシステムとかトレーニング専門組織、協議会、大学がコンサルタント業務に本格参入するのは民間コンサルタントにとっても脅威だと思うのでそういうデマケをどうやってやっていくのか,それから協力体制をどうやって作っていくのか等、きちんとやるべきことはたくさんあると思う。それに、前回の懇談会で矢崎委員の方からご指摘があったが、大学や大学人が国際協力に携わることを積極的に評価するシステムが必要ではないかと思う。国際協力が、先ほど申し上げたが、キャリア・ディベロップメントの一環となっていく、それから、何か良いことがあるというようなシステムが必要で、これには文部科学省の方の政策的な努力が必要なのではないかと思う。
  それから、ここで申し上げるのが適当であるかわからないのだが、開発援助政策の側にも提言させていただきたいことがある。
  まず第1に、大学を調査研究にもっと活用していただきたい。大学は現在例えば、研修とか、専門家派遣とか、プロ技とかそういう教育的なスキームには非常に活用されている。調査研究でも、評価調査とか事前調査とかにはまあまあ活用がされている。しかし、本当にJICAとかJBICの本道である開発調査とかプロ形の調査とか、もしくはJBICの有償資金協力促進調査、それから開発セクター調査にはほとんど活用されていない状態だと私は思う。こういう調査ものというのは大学の特性を生かす素晴らしい機会だし、大学人の参加インセンティブも非常に高い分野だと思うので、こういったスキームで大学、大学人が活用されるようにすることが非常に重要だと思う。また、USAIDのように、コントラクトアウトのスキームをもっと活用するとか、開発パートナーシップ事業はあるわけだが、大学はなかなか難しいところがあるわけで、大学にあわせるような形でスキーム展開ができないかなと思う。
  第2に、国際教育協力懇談会で申し上げるのもちょっと変なのであるが、JICA、JBICあるいは外務省のほうでも大学とのパートナーシップについて議論をされてはどうかと思う。USAIDは実に詳細にこうした政策を作っているわけであり、ぜひ、日本の援助機関にもそうした検討を行って頂いて、どのような関係を大学が援助機関と持つことが国際協力の質を上げていくことにつながるのかを検討していただく必要があると思う。第二次ODA改革懇談会では、国民の心、知力と活力を総結集したODA、戦略を持った重点的、効果的なODAが最終答申に掲げられた。この2つの意味で、大学は独自の貢献が出来るものと私は信じている。大学のコンサルタント業務への参入は非常に重要な課題だと私も思うが、ここで議論が止まっては21世紀のODAを考えていくためには、少し議論のスケールが小さいのかもしれないと思う。これからの知力を結集した戦略策定の基礎となる調査研究拠点、人材育成拠点としての大学を整備して、活用して頂くことで、大学と国際協力が双方に比し合うようなパートナーシップを築いていくことが重要なのではないかと思う。

(4)

国際入札参加の事例について
  東京農業大学国際交流センター  藤本彰三教授より資料4に基づき以下のとおり説明があった。

藤本教授)1994年、8年から7年前に1つ仕事をやり、入札に関わったことがある。非常に拙い経験だが、これが少しでも役に立つのであればご披露したいということで書類を作成してきた。行った仕事は、Higher Education Project ADB Loanである。応札した日が、95年5月21日。これはインドネシアの、特に東インドネシアにある国立の地方大学、総合大学だが、それのてこ入れをして地域開発に貢献できるシステムをつくりたい。つまり、大学のてこ入れプロジェクトであった。いろんな業者が関係して入札したのであるが、私が関係したのは、Consortium for International Development(CID)であった。アメリカの11大学の連合体であり、彼らと一緒にパートナーとして、インドネシア国内から2つの機関、1つは政府系の機関でもう1つは民間のコンサルの会社、それに東京農業大学と、テキサスA&M大学、ケンタッキー大学が一緒になって仕事をした話である。
  最初にこういう話がきたのは、1994年の1月にCIDのメンバー2人がこのプロジェクトの関連で出張するときに、東京経由で現地入りした。その時に、農大に寄り、プロジェクトの説明をし、更に農大も一枚かんでくれないかという申し込みがあった。そのときは協議しただけであり、すぐに行動は取れなかったが、その年の5月12日にCIDのメンバー3人が、再度本学を訪問した。その前に既にやり取りをしており、私も一緒に行くということにしていた。それで、5月15日から31日まで、フィリピンと、フィリピンというのはADBそのものであるが、インドネシアの教育省や大学を訪問し協議するために出張した。これは予算的に大学の方が間に合わなかったので、オレゴン州立大学に負担して頂いた。翌年、いわゆるショートリストというか、指定業者にCIDが選ばれて、それから本格的なプログラムを作るに当たって、CIDのメンバー大学から何人も調査団が出た。そのときに私も一緒に同行し、4月12日から27日まで出張した。CIDのメンバーと一緒に分担していくつかの大学を回ってきた。4月27日に帰国したが、その時、CIDのディレクターも東京経由で農大に寄って協議してからアメリカへ帰った。そして5月21日にはCIDが入札したという経緯であった。
  この事業に対し大学として組織的にどのような対応をしたかについては、実は組織的な対応というところまで至っていなかった。学長は、一種の特命扱いにしてくれて、新しい国際協力形態の模索という形で藤本を派遣しているという扱い方で、教授会には出張起案をしたときに1回説明があった。それ以外は全部、私と学長と相談しながら進めていた。これは農学だけのプロジェクトではなかった。農業に加えて、工業も商業もあった。英語そのものもあった。工業関係においては、CIDは東京工業大学の参加を要請したしたく交渉していたという話を聞いていたが、最終的には東京工業大学の参画が得られなかったという経緯がある。
  資料4の4番目は、日米協力の4つのメリットである。これはCIDが一緒に組もうと東京農業大学に話を持ってきたときに、こういうメリットがあると彼らが言ったことを私がメモしただけである。インドネシアに関心を持つ研究者の増加であるとか、日本も受け入れてくれるとか、国際的な協力であれば国際テンダーが有利になるとか、より広い国際的アプローチが可能になるとかということであった。
  このプロジェクトに参画するに当たって、東京農業大学としてはどんな絡み方があるのかということであるが、CIDは実は2通りの提案をしてきた。正式なパートナー、もう1つはリソース・ユニバーシティーという形である。正式なパートナーとしては法的な責任があるので、本学はそこまでは踏み込めず、リソース・ユニバーシティーとして参加しようという形を取った。つまり、他の大学からもそうなのであるが、ヴィジティング・フェローシップの中でこういう専門家がいるという候補を挙げる。CIDがそれぞれの大学から挙がってくる候補を見ながら、プログラムを組んでそれぞれの仕事に最も適していると思われる人材を選出する。東京農業大学では学長の命令で、候補者に履歴書と業績書を出させて、その中から行けそうだと思われる教員のデータを送った。時間的に余裕が無くやったが、CIDはその中から最終的に3名を選んだ。そしてテンダーには3名の名前と、膨大な関係書類が添付された。結果的に駄目になってしまった話で参考になるかわからないが、CIDとしては、専門家を出すときには3つの条件を持っている人ということであった。ドクターを持っていること、専門分野で10年以上研究業績があること、あるいは国際的な研究業績があることであった。正確な数値は覚えていないが、英語で授業し、英語で研究し、英語で指導できる人間でないとこういう仕事が出来ないので、うちの大学もかなり教員数が多いが、やはり英語で機能できる人となるとぐっと少なくなる。また、専門の合う、合わないということもあり、最終的には農大からは10数人の履歴書を送って、CIDが3名を選んだ。それから、このプログラムは現地の大学で指導するということに加えて、人材養成、つまり留学生の受け入れということも予定していた。
  もし運良く落札できた場合、本学にとってどんなメリットがあるのだろうかということを、これは私見だが、5点にまとめてみた。
  1つは、東京農業大学は昔から教育と研究の両面において国際協力を積極的にやっており、この国際テンダーでやるような仕事というのは、ビジネスとしての国際協力ということで1つの新しい国際貢献の形態ではないかと我々は考えた。だから、ぜひこの可能性を探ろうと努力した。2つ目は、現地に行くということでファーストハンドの情報が手に入るから教育効果も期待できる。当然3つ目に書いておいたが、研究上にもそれなりにメリットがある。以上のようなことで、最近では国際協力も農大の中では業績評価の1つの基準に加えようと評価基準を見直している。これは来年あたりには実際そういう基準で動くことになると思われる。同時に、国際機関や公的機関からの要請があったら、うちは私立大学なので簡単に出てもらっても困るところがあるかもしれないが、教職員の出向制度を学内で整備し社会の要請に応えようという手続きも進めている真っ最中である。そういうことで国際協力というものに対して、農大は積極的に展開する準備を今やっている。それから4番目は、こういうプロジェクトをやっていると、留学生の受入れというものがあるので、大学院に留学生を確保するというメリットも大きいのではないか。5番目は、総合的に本学の名声向上に貢献するのではないかと思う。つまり、国際協力の分野でそれなりの仕事は今までしてきているが、更に東京農業大学としてやっていこうというつもりがあり、これはかなり人脈の問題とかノウハウの問題が絡んでくる。これには、いろんなことに顔を出したり、手を出したり、口を出したりしないとわからない部分というのがたくさんあるので、やってみることで、友達が出来、人脈が出来、信頼関係が生まれていくと思っている。そういう部分は大きなメリットだろうと考えている。
  それから、組織として受託するための課題についてであるが、これも私見であり、この資料を作るに当たって少し考えてみた点である。最初のポイントは、受身ではテンダーには勝てないということ。つまり準備段階から積極的な参画が必要である。私も1年半かけてこれをやったのだが、CIDは70年代からある組織で、いろんなプロジェクトをやっており、ノウハウを持っているが、それでも今回は落札できなかった。準備段階は現地へ行ったり、関係者と協議したりするのでいろいろ経費がかかるが、これは全て自己負担になる。そのための予算措置が必要だし、そのためには大学としての国際貢献戦略をきちんと作って、その中に位置付けないと、いくら私立大学といってもそんなに簡単にお金は使えないので、私どもとしても国際戦略という大義名分が必要だというのが1つ目のポイントである。
  2つ目のポイントとしては、人材の確保であるが、これはテンダーの準備段階の話だと、専門的な知識、業界での知識、語学力、交渉力、人脈、調整能力、それから迅速な意思決定能力と能力があっても権限が無ければ駄目なので、それなりの権限を備えたプロパーな人材を準備しておき、常時そういうことがやれるような体制を組織的に作るということが大事だと思う。3番目は、情報収集能力。情報が決定的に重要になると思う。CIDがやっている方式では、メンバー大学の研究者がサバティカルを利用して、例えばADBや世銀に行って駐在し、そしてそういう人達が内部情報を入手する。今度どこどこでこういうプロジェクトが動くということが正式に動く前にわかってしまう。そういう情報戦を踏まえて動き出すことになるので、組織的に対応して常に誰かがいるようにするような体制を作っていかなくてはならないと思う。4番目は、先ほどの例でも現地にコンサルタントがいた。現地での協力団体というか、企業との連携も必要である。ただ、現地にあるのは、そんなに数が多くないので、どの会社をつかまえるかということ自体が、また国際競争そのものになると思われる。だから、これも信頼関係というか、お互いの関係の蓄積の上にやっていくものだと思う。5番目は、出来るという大学もあるかも知れないが、少なくとも1大学、東京農業大学だけでは対応困難だと私は考えた。やってみたが、仕事量等を考えても、とても1大学では出来ない。人材の確保もうちは何百人といるが、やはり難しい。そういう意味では分野別のコンソーシアム、例えば医学分野、農学分野という形で大学の連合体を作っておいて、企業や別の国の大学との連携というのも模索する必要があるのではないかと思う。6番目は、いままで受注に至るプロセスが中心になったが、プロジェクトを実施する能力と体制をどうやって整備するのかということだと思う。それが無ければ、いくら良いプログラムを作っても結局落札できないだろう。ということは受注する能力、体制を作って、どこかで実績を踏まなくてはいけないということになるわけだが、そうした実績を踏まえた国際的評価が無ければ、次のプロジェクトには移っていかないということになり、そんなに容易なことではないと考える。7番目は、特に農業分野に限らせてもらうと、こういう分野にでているのは、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、フランスというようなところが中心になると思われる。日本独自の組織で案を作って競争するということが1つ方法であると思うし、もう1つは他国の例えばCIDのようなものと組んで共同プロジェクトでやるということも考えられるのではないかと思う。いずれにしても、こういうプロジェクトの中で日本が出てくるとなれば、日本の優位性をどうやって強調する。日本の場合は、コスト高になるから、どちらかというと日本よりお金のかからないもっと簡単に英語が通じるような国に任せたがる傾向があるように思うが、そういうときに日本の方が良いということをどういう風に納得させるのか。そこで、日本の学問の例えば農学分野の特徴を出すことに加えて、日本は日本独自の制度的な優位性を作ったらどうかと考える。例えば、そういうものを落札したときには日本政府のいろんな部局がこういう形で協力するということを前もってやれば、入札書類にそれが書けるということ。すると表向きの、直接のプロジェクトはこういうものだが、日本には国を挙げて支援制度があるということが、全面に出てくれば勝てるかもしれない。
  最後に東京農業大学が、組織として行っている国際活動を宣伝させていただきたい。1つは、JBICのテンダーに参加した。これは日本の某企業と一緒にやったのだが、これも成功しなかった。しかし、大学としてはこういう機会があれば、また積極的に参加していこうと思っている。2番目は世界の農業大学の組織が出来あがっており、これに2年前から大学として理事を出して参加している。3番目は、アジアのなかで似たような組織があり、これに今年から参加することにした。大学間の情報収集に我々は一生懸命努力している。4番目は国際農学会という研究者の組織であるが、それの事務局も今東京に持ってきて我々がやっている。これは日本学術振興会の拠点大学事業を20年も我々はやってきており、今無くなっているが、それに関係した研究者を学会という形で組織し、年に2回の学術雑誌を出したり、毎年研究大会を開いたりしている。5番目は、学生を対象にして世界の学生フォーラムというものを立ち上げようと画策している。昨年11月に世界学生サミットを開催し、これが大成功したので毎年サミットを開いて学生の大会もやれるように計画して実行中である。6番目は、国際協力は本学の建学の精神に沿ったものであるので、これを一層充実していこうと考えている。農学系のコンソーシアムというものが本当に立ち上がるのであれば、農大としても積極的に参画したい。理事長からも組織的な対応をすると言われている。

(5) 意見交換
  座長より、本日の発表を踏まえて、各委員等の自由な意見が求められた。

平野委員)いま、4人の方々のお話を伺っていると、この広い国際社会には国際協力の仕事もたくさんあるのだと、あるいはお金もいっぱいあるのだというような大変前広なお話のように承ったが、そのような中、日本の大学にお金、仕事を取ってくるやる気があるのかどうかということと、やる気があってもお金あるいは仕事を取ってくる能力があるのかどうかということになると、その辺りは言葉が濁ってくることも無きにしもあらずだったが、外から日本を眺めてこられた経験の長い西本さん、青山さん、その辺りのことは率直的に言ってどうなのか。もし出来れば、あるとすればで良いが、ないとするならば阻害要因を作っているものは一体何なのか、そこまでお話いただきたい。

西本局長)事務局の資料にもあったが、日本の商業ベースのコンサル会社の受注のシェアも日本のODAの中で非常に小さい。これはむしろ、日本のコンサル会社というものは国内のディマンドが多々あり、構造的なものであると伺っている。そこで、言葉は悪いが、安易に仕事にありつけて、しかも高いフィーがいただければ、わざわざMDB等に出かけていって、競争していろんな苦労をして応札をしても仕事がもらえるかわからない、そんなところに行っている暇は無いというのが、私の知っている商業ベースのコンサルタントの率直な意見だと思う。ただ、土木関係等でその道のかなりの経験等をもっておられる企業等はそれなりの努力をしておられて、日本のODAが中心だが、ADBとか世銀の受注に入っておられる方もおられる。そういう意味では、企業のビジョンと戦略に関わるものであるから、一概にあるのかないのかといわれても会社によって違うと思う。やろうと思えばやれる能力は皆さんお持ちだと思う。ただ、やるインセンティブが無いのではなかろうか。いわゆるマーケット・フォースがうまく働いているようなことと思う。
  藤本先生のお話にあったが、日本は、これは構造的なものであるが、公共事業というものは官が主導でやっておられる。だから、港湾整備、道路整備、空港整備、通信網等、ずっと官が主導でやっておられた。だから、行政及び実施のエクスパティーズというものはむしろ官にある。大学には研究能力はあっても、実施上の政策面、ないしは民間との関係をどうするかというノウハウは残念ながらおそらく大学人には無いと思われる。だから、最近は官の方から定年前に大学に移られる専門家もいると伺っているので、そういう方々に日本の官での経験を大学の方に活かされる、そういうことがむしろ大学の力に繋がって、政策面等でも実施面でもODAの実施に繋がるような経験を持った大学人が今後増えるのではなかろうかという気がする。そういう意味で平野委員のご質問の裏には、日本のいろいろの技能、産業構造で競争原理が働く形にならないと外への競争には立ち向く力が付きにくいのではないかという意味があると思う。

青山教授)ご質問の趣旨は日本の大学にやる気があるのかと、それからやりたくても出来るかどうかということだと思う。私は今大学に所属しており、やる気がある。そして、私に100人のスタッフを雇わせてくださったら、明日からでもやる、というのが本音である。私自身もやりたいことは山ほどあるが、ご承知のとおり国立大学であり、人事の権限が私にはない。現状の教職員にはかなり能力のミスマッチがあり、その方の能力が無いわけではなくて、新しい分野には適していない場合でも、一度国立大学の教員になってしまえばずっと残ることができる。そうすると、その分野にあった人を雇いたいと思っても、ポジションが無いという事態が起こる。だから、もう少し人事を流動化して、あるプロジェクトをやりたいときに、一定の人事権を与えるようなシステムがあれば出来るところは結構あるのではないかと思う。
  私が例えば今世界銀行のスタッフだとすると、世界銀行の経験のあるものだったらよいが、世界銀行の経験の無い人はちょっと怖くて雇えないというのが本音である。世界銀行の仕事の進め方というのがあり、2週間のミッションの間に英文のきちんとしたレポートを書くということなども理解している人でないと、その後始末を世界銀行のスタッフがしなければいけないことになってしまう。
  私のところにも世界銀行やアジア開発銀行のスタッフから電子メールで、2週間後に評価ミッションに参加できる専門家を知らないか、などと問い合わせを受けることがある。私に2週間後に行けと言われても行けないし、すぐ誰かと言われても簡単には思いつかない。どこにどんな専門的能力があるのか、日頃から蓄積していく必要がある。もし日本の大学が組織としてやっていくとしたら、先ほどセンター化というご提案もあったが、どういう人材がどこにいるかをわかるようにして、それを文部科学省か外務省かが、国際機関にマーケティングしておく必要があると思う。
  能力の面ではもう一つ問題点がある。開発援助機関の求めるような分野というものがある。保健医療分野で言うと、世界銀行やアジア開発銀行では、ローンなので中進国を対象とすることが多く保健医療システム形成などに専門性をもった人材が必要になる。例えば、日本の社会保険制度を学びたいという開発途上国の人もいるが、残念ながら文書も全て日本語なので、日本で学ぶことが難しいし、日本人の人材を送るにも英語ができて世界の社会保険事情に詳しい人は殆どいない。必要な分野の人材を少しずつ育てていくことが大切である。

篠沢委員)今、4人の方の実践に裏付けられたお話をお聞かせいただいて興味津々だったという感じである。特に藤本さんは、テンダーにビジネス的に成功するところまではいかなかったが、具体的実践にアクティブに取り組んでおられる。こういうのは、将来的に結実する可能性があり、大変面白かった。大学人が個人としての能力を買われて、いろんな国際協力の現場に出ていくのは、既に相当増えているのではないかと思う。私どもの銀行の提供しているファシリティーで言うと、先ほども触れられた有償資金協力促進調査であるとか、開発政策、あるいは開発事業支援促進調査であるとか、そういったいくつかの事例、つまり具体的なプロジェクトではなくて、具体的なプロジェクトの前にある促進調査事業が何種類かある。それから評価事業、つまり、実施したプロジェクトの具体的な評価を、私どもは全件評価の形でやっているので、相当評価の件数が多い。その評価事業においても大学先生方の参加というのもかなり増えてきているのではないかと思っている。この評価は、今までは大体はJBICスタッフによる自己評価であったので、だんだん第三者的な評価を増やしていかなくてはならない時代になっている。第三者評価の形で全件を評価するのは無理だとは思うが、相当これから増えていく。そういう意味では、さっき申し上げたような促進調査方式のものと、評価といったもので、大学の方にタッチしていただく機会が増えていくという風に思う。そしてそれを、これから国際的な潮流の中で出来るだけ組織として大学の一つの事業として、組織として取り組むと言うところに繋げていく。そこまで行くには超えなくてはならない壁があると感じた。大学人個人の参画も多くなってきたと言いながら、これからだと思うので、出来るだけこれを積極化する方法を当会として提言するべきだと思うし、それを大学の一部分が組織として受け止められるようにするための方策というのを提言しなければいけないと思う。そして、その間にあって経験を多く積むためには、コンサルタントの方、彼らは自分の商売として懸命にやっておられるので、コンサルタントの方が実際商売として取り組まれるときに、大学あるいは大学人、大学の組織というのがどういう個人参加あるいはジョイントで入っていけるかということを探らなくてはいけないのではないかと思う。それを私達発注者側から強制するわけにはいかないことだと思うが、そこのところの連携を考えていかなくてはいけない。また、先ほど日本の大学が入るとコストが高くなるというお話があったが、そこのところにも難しい問題が内在していると感じた次第である。

團野委員)三菱総研はきわめて部分的に海外協力の仕事もやらせて頂いているが、先生方のお話は非常によく理解できるものであった。我々は自分で利益を確保していかなくてはいけないプロフィット・オーガナイゼーションなので、先ほど西本さんからご指摘があったが、外の仕事を引き受けても、まず本当に取れるのかという競争力の問題、それから、取れないと事前の準備が無駄になる。そのための無駄が出るということがある。また実際に取れても、なかなかもうけになる仕事にならない。これは、不慣れであるとか、人材が足りないとか、あるいは経験が不十分であるとかいろいろなことが要因が複合的に作用して、エクストラコストがいろいろ出て採算に合わなくなる。おまけに海外でやる場合にはいろんなリスクがあるので、リスクテイキングについてよほど余力が無いと取り組めないというような問題があり、結果的には先ほど西本さんがご指摘されたように国内中心になっており、海外の仕事に手が回らない。国内の仕事をやっている方が確実に利益になるし、しかも仕事が無いかというと仕事がありすぎて困るような状況であるから、なかなかそっちにいかないということである。従って、我々のところで大学との連携という話になる前に、我々がそういうお引き回しをさせていただくようなベースというものを何か考え出さないと積極的にこういう活動には突っ込んでいけないというのが実状である。
  それから、先生方の話の中で対外協力には内なる国際化がいるという論点があった。ところが内なる国際化のためには対外協力の経験が要るという循環の問題がある。そのためには端的に言えばお金と時間が必要である。そして人が必要である。その予算を取って、こういった形を実現するためにはいろんなやり方があるが、先ほどあまりお国に頼っちゃいけないという話もあったが、やはりコンセプショナリゼーション、世界の経済と社会の安定に貢献することが国益に繋がるというコンセプトについて、コンセンサスが必要なのでないか。つまり政治力、軍事力の無い日本が本当にそういった意味で貢献するためには、資金と技術による国際協力しか道がないという、戦略的なコンセンサスが出来れば、そういったコンセプショナリゼーションをベースにして「予算を伴う国際交流への大学の活動指針」がはっきりとした形で出てくるのではないか。そうすれば、その上で各大学にこういうプロジェクト、こういう分野ということでこの指とまれで募集をしていくつかのモデル・ケースをつくり、予算が許される限りで、フェーズプログラムと普通言うが、少しずつ段階的に進めていく。こういう長期的なやり方を全体としてやらないと、今のままでばらばらに、皆さん努力をしておられてもなかなか効率的な成果がまとまらないのではないかというのが私の所感である。

荒木委員)全くそれについては同感である。今、お話を聞いていて2つ言いたいことがある。第1点はODAのコンサルタントと大学教育関係のプロジェクトの受注というか、コンサルタント登録の制度を設けているJICA、JBIC等々もそうだが、そういうODAの登録制度を設けている側と大学などの登録する側とのミスマッチがあるような気がする。つまり、本当にODA側の実施機関が大学を通じた国際教育協力を本気でやる気があるのか。そのためには登録制度を整備しなければならない。それではどういう形の登録制度にするのか。その辺の決意というか決意の基になる基本政策というのが今委員の方からもお話があったように、日本の中でちゃんと議論されてないという問題が一つあるのではないか。
  第2点は、例えば、ODA総合戦略会議というのを第二次ODA改革懇談会の提言に基づいて実施しようとしている。そこでは基本的な政策というのを考えて、そういうヴィジョンを考えようとしている。教育協力というものも、保健協力もそうだが、貧困削減計画のなかで非常に重視されているが、これを従来のような援助の積み上げ方式で、各国の要請を待って積み上げた結果どうだという話ではなくて、日本の基本政策として教育と保健をやるんだというようなことを政府が決める。それに基づいて、資金とシステムと大学との協定の問題も含めて考えていくという流れを政府が作らないといけない。これは、結局、非常に各人ご苦労されているが、ばらばらの努力ではエネルギーが一つに結集されないという欠陥があるのではないかと思う。したがって、ODA総合戦略会議でも基本政策というものを議論する予定のようであるが、長期的に考えると、こういう問題は、アメリカと同じように、知的インフラの整備ということでODAの資金を投入すべきだろう。アメリカの場合とかヨーロッパの場合は、援助する側が援助するだけの資格を持たなくてはいけないということで、結局教育者の教育とかシステムの改革とかをODA資金を使ってやっている。まずそれが無ければ途上国をどうして教育援助できるのかという基本的な問題がある。日本の場合は途上国にあったニーズが出てきたら要請という形で、それ出てきたと、一本釣りという方式で先生方に頼んで、やっている。そういうばらばらな政策でない、統合された政策を取らない限り、もう限界に来ているのではないかということで、出来うるならば長期的な視野でオールジャパンとしてのODA総合政策、戦略を研究する研究機関の設定というものも将来にむけて必要かなという感じを今皆さんのお話を聞きながら痛切に感じた。

西尾委員)今、私自身は大学人ではないが、大変お一人お一人のお話に興味深く、非常に感ずるところが多い。この話は、本日はとにかく大学と国際協力の話で始まっており、それで終わるべきであるのだが、私はもう一歩退いて見てみると、世界と日本ということの、あらゆるところに通じる象徴的な事柄だという風に捉えることが出来ると思った。例えば、少し具体的に申し上げると、随分いろんな方が言われたので、言われてないところを抽出して申し上げると、大学の学内の国際協力参加システムというものが、どうこれから構築されていけば良いのか、その構築がされていないということ。人材活用にしても、まだまだこれからだ、難しい問題がある、課題があるとおっしゃいますが、それではどのように構築していくのが良いか、理想はいくらでも言えるが現実的にどういう施策が取られていけば良いかということを考えなければならないと思う。
  それから、先ほど團野委員が、国内の内なる国際化ということをおっしゃったが、黒田さんがおっしゃった国際協力というものは公的使命であるという意識、社会貢献の意識を日本人一人ひとりが持つべき教育を国内で日本人教育の中で積極的に行っていかなくてはならないと思う。それは子供のときからの教育に全部盛り込まれていなければならないので、大学に行ってすぐ、さあ国際貢献だと言っても、それは絵に書いた餅になりうると思うので、その点、国内の初等中等教育の段階から国際協力というもの、先ほど国益に通ずるとおっしゃったが、社会貢献の意識というものを一人ひとりの日本人の中に植え付けることが肝要だ。それはまさに文部科学省が一番専門の省なので、1つ具体的な施策を考えていただきたい、という風に思った次第である。
  それから、先ほど残ったキーワードがいくつかある。日本の売りの形は何だということ、これを生み出さなくてならないということも非常に印象に残ったし、大学人、コンサルタントの人材バンクを整えていく方法、これは実は申し訳ないが、本当に何年も聞きつづけていることである。考えつづけていることである。指摘も何年も、10年もずっとされていることなのだが、何で進まないのであろうかということをここでもう1回取り上げて反省すべきであり、分析すべきではないかと思う。面と向かって申し上げにくいが、なんと言っても、省庁間の縦割りの壁は低くして頂かなければならない。最後に国際教育協力懇談会、この文部科学省が主催されている会で報告を出す際に、キーワードを連ねるのでなくて、それに対する具体的な施策を盛り込むところまでの意欲で、私達は掘り下げて議論しなくてはならないと痛感する次第である。

中根座長)今日はずいぶんいろいろな意見があった。前回と今回で大学の国際協力の問題が出てきたので、それからまた西尾委員がおっしゃったようにより大きなパースペクティブで問題を取り上げる必要があることは十分わかった。一応事務局で、前回と今回のご意見を整理して頂いて、キーワード的でも良いが、それから1つは先ほど藤本教授がおっしゃったように、大学一つでは非常に難しいということ、コンソーシアムかあるいは特別のオーガニゼーションを作って、それを中心にして1つの大学自身ではできないことを進めるのも1つの方法では無いかということ、こういうご意見もあるようなので、このことについても事務局で少し考えていただいて、次の会議ではもう少し整理したものを出して頂いて、それについて議論を行いたいと思っている。

3 閉会
  事務局より、次回は6月20日(木)15:00から17:00を予定しており、詳細については追ってお知らせする旨発言があった。



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