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資料4

文部科学省国際教育協力懇談会, 2002.5.30

国際入札参加の事例(東京農業大学の経験)

東京農業大学 国際食料情報学部 教授
国際交流センター 所長
藤本彰三

  国際入札対象のプロジェクト名
●Package I : Project Consultant and Visiting Fellows
●Package II : Academic Advisors and Technical Specialists
Higher Education Project ADB Loan No. 1254-INO
Directorate General for Higher Education, Ministry of Education and Culture, Republic of Indonesia
応札日 1995年5月21日
プロジェクトの概要
ADB融資(2億3500万ドル) 1994年末~1999年10月30日
高等教育制度の質と効率の改善によって、地域・国家開発への貢献をより効果的ならしめる。そのため、経済発展に要請される領域の卒業生の資質向上、および大学の研究と社会サービスプログラムの適当性と効果性の改善。
具体的には、3つの主要な柱がある。第1は地方大学開発(Regional University Development)で、いくつかの大学の能力を強化する。第2は大学ネットワーク(University Networking)で、大学間の格差是正。第3は高等教育管理強化(Higher Education Management Strengthening)で、高等教育制度の内外的効率の改善のために中央および機関レベルでの管理強化を図ること。
全体として、当事業は、良質な高等教育と人材へのアクセスに関する地域格差の減少と地方の研究・開発機能の改善を生むことが期待されている。
対象は次の9つの公立地方大学および近くに位置する22の私立高等教育機関。加えて、高等教育総局(DGHE)および2機関がResource Universityとして参画する。

企業名(指定された6企業団体の1つ)
●Consortium for International Development, Tucson, AZ, USA
Partners (To be sub-contracted):
Lembaga Pengembangan Manajemen Pendidikan (Institute of Educational management Development)
P.T. Hasfarm Dian Konsultan
Tokyo University of Agriculture
Texas A & M University
University of Kentucky

CID Member Universities(11大学):
  University of Arizona(UA)
University in Pomona (CalPoly)
Colorado State University(CSU)
University of Hawaii, Manoa (UHM)
University of Montana (UM)
New Mexico State Univesity (NMSU)
Oregon State University (OSU)
Texas Tech University (TTU)
Utah State University (USU)
Washingtton State University (WSU)
University of Wyoming (UW)

経緯
(1) 1994年1月24日 CIDメンバー2名がインドネシアへの途中、本学を訪問し、プロジェクトの説明と本学の協力を要請
(2) 1994年5月12日 CIDメンバー3名が本学を訪問・協議。
(3) 1994年5月15日 31日 藤本:フィリピンおよびインドネシア出張(旅費 オレゴン州立大学負担)
(4) 1995年4月12日 4月27日 藤本:インドネシア出張(旅費は本学学長室予備費より支出)
(5) 1995年4月27日 CID Directorがインドネシアからの帰路、本学に立ち寄り、協議
(6) 1995年5月21日 CIDが応札書類を提出
学内的には、学長の「特命」下における新たな国際協力形態の模索として、調査段階から参画した。教授会で出張承認時に一度だけ学長から説明があった。
工業関連で、東京工業大学の参加要請を行ったが、実現しなかった。

日米協力の4つのメリット(CIDの考え方)
(1)インドネシアに関心を持つ研究者数の拡大によって、協力活動の充実を図れる
(2)インドネシアが日本へ研究者を派遣したがると思われるが、それに対応できる
(3)日本の参加を得れば、国際テンダーで有利になる
(4)日米大学の協力によって、より広い国際的アプローチが可能になる

想定された本学の参加方法
(1) CIDからの申し込みでは、本学の参加方法として2通り考えられた。第1は、CIDのメンバー大学とほぼ同等な資格で、正式なパートナーとしてプロジェクトに参加する。この場合は、CIDがインドネシア政府(DGHE)・アジア開発銀行と取り結ぶ契約内容の履行に関して法的責任が生ずる。第2は、Resource Universityとして参加する。この場合、CIDの運営下で、現地で2?3カ月にわたって指導する人材派遣、留学生の受け入れ指導に関する協力を実施する。必要な経費は配分されるプロジェクト予算で負担する。
(2) 本学は、後者のResource Universityとして参加を決め、10?20名の分野別専門家候補者リストをCIDへ送付した。CID事務局は各大学から提出された候補者リストから、適任者を選抜しプログラムを作成した。本学からは3名が選抜され、応札文書の中に記載された。採択の場合は、実際に数カ月間の現地指導を実施する計画であった。  なお、専門家候補者は次の3要件を満たす者に限定された。1)博士号を保持すること、 2) 専門分野で10年以上(短期専門家)あるいは12年以上(長期専門家、ただし生物学専門家はチームリーダーとなるので20年以上)の経験を有すること、および 3)国際的出版を含む最近の研究業績が十分あること。
(3) プログラムには外国大学での人材養成も含まれており、必要に応じて、本学も大学院への留学生を受け入れる計画であった。

落札できた場合の本学にとってのメリット(私見)
(1) 本学は伝統的に国際協力(教育と研究の両面で)を重視しているので、国際貢献に新たな形態(ビジネスとしての国際協力)を加味することになる。
(2) 本学学生に対しFirst hand情報が提供ができるので、教育的効果が期待できる。
(3) 加えて、海外農業を専門に研究している教員にとっては、情報・データ収集など研究上のメリットがある。未だ海外研究に従事していない場合でも、将来の研究の国際化に繋がる。(現在本学では、国際協力も業績評価の1つに加えられるように見直し作業中。また、出向制度を新設中)
(4) 大学院留学生の確保に繋がる。
(5) 国際協力分野で本学の名声向上に貢献する。とくに業界での人脈拡大とノウハウ蓄積。

組織として受注するための課題
(1) 受身ではなく、準備段階から積極的な参画が必要。準備段階の経費は自己負担となる。大学の国際貢献戦略に位置付け、予算措置も必要。
(2) 学問分野での専門的知識、国際業界での専門的知識、語学力、交渉力、人脈、調整能力、迅速な意思決定能力と権限などを備えたプロパーの人材が必要。組織的に確保すること。
(3) 情報収集能力が不可欠。国際機関などへサバテイカルを活用し、誰かが常駐する仕組みの創設。組織的な取組みが必要。
(4) 対象国での協力団体(企業)の確保も不可欠。これ自体も国際競争の舞台となる。
(5) 1大学では対応が困難。分野別コンソーシアムの設置。国内外の民間企業や大学との連携。
(6) 受注に至るプロセスも問題であるが、プロジェクトを実施する能力・体制の整備およびそれに対する国際的評価(信頼)がなければ、国際教育協力分野への日本からの参入は困難。
(7) 農業分野での国際入札においては、経験と実績が豊富なアメリカ、オーストラリア、オランダ、ドイツ、フランスなどとの競争が想定できる。日本独自のプロジェクト案で競争すること、および他国の大学連合体と協力する共同プロジェクト案で競争することの2方向が考えられる。いずれにしても、日本の優位性を強調する必要がある。学問的優位性というより、むしろ制度的優位性(たとえば関連政府機関のサポート)があると有利になると思われる。

その他(東京農業大学の組織としての国際活動)
(1) 2001年度にウズベキスタン職業高校教員養成プロジェクト(JBIC)に関する国際入札に、某コンサルタント会社と共同でかかわった。上記のADB Loan Projectと同じように、本学の新しい国際協力の1方向として位置付けた。
(2) Global Consortium for Higher Education and Research in Agriculture (GCHERA)(約140カ国400に達する農業大学の組織)が、教育研究面での大学間の国際協力を推進している。本学も理事大学として参加している。FAOと提携予定。
(3) Asian Association of Agricultural Colleges and Universities (AAACU)に入会手続き中。正式入会は2002年12月の予定。
(4) 東南アジア国際農学会を組織し、本部事務局校として域内での農学発展に寄与している。
(5) 昨年11月の「新世紀の食と農と環境を考える世界学生サミット」開催に続いて、世界学生フォーラムを組織し、毎年サミットを開催し、世界の食・農・環境問題の専門家養成を企画中。14カ国・地域の14大学との交流を基盤に実施。
(6) 農学分野での国際協力は本学建学の理念に沿ったもので、一層の充実を図っている。国際教育協力を推進する農学系大学コンソーシアムが設置されるのであれば、積極的に参加したい。


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