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資料3

平成14年5月30日

文部科学省第7回国際教育協力懇談会
「欧米の大学と国際開発協力」

黒田一雄
広島大学教育開発国際協力研究センター

  1. 欧米の大学における国際協力状況
    (1) 活動状況
    −大学組織として、活発に国際協力事業を「有報酬・有責任」で受託している。

    例1   米国における州ごとの実績の例
    フロリダ州の場合
    1996年度のUSAIDからの州全体のコントラクト126件、106,356,000ドルのうち、
      ・フロリダ大学   8件   8,662,000ドル    
    ・フロリダ州立大学 1件 7,934,000ドル  
    ・フロリダ国際大学 5件 14,071,000ドル  
    14件 30,667,000ドル 他に644名の留学生奨学金
    ワシントン州の場合
    1996年度のUSAIDからの州全体のコントラクト39件、45,246,000ドルのうち、
      ・ワシントン大学   1件   341,000ドル
    ・ワシントン州立大学 5件 12,068,000ドル
    ・東ワシントン大学 1件 350,000ドル
    ・べレビューワシントン市立大学 2件 662,000ドル
    9件 13,421,000ドル

    例2 米国における個別の大学の事例
    1996年度のUSAIDからのコントラクト
      ・ハーバード大学の場合   27件   68,804,000ドル   他に19名の留学生の奨学金
    ・スタンフォード大学の場合 1件 954,000ドル  
    ・テキサスA&M大学 2件 6,231,000ドル  

    (2) 大学の国際協力関与の種類と形態
    1   大学人が個人としてコンサルタント契約を結ぶ場合
    大学人は大学に1年のうち9ヶ月ないしは10ヶ月の契約で雇用されているので、残りの2−3ヶ月に関してコンサルタントとして外部機関で働ける。
    無給休暇・サバティカル年・週一日相当の研究日の利用
    大学の施設やリソースを使わない。
    大学はオーバーヘッドを課さない。
    2 大学人が職務として学期期間中にコンサルタント業務を行う場合
    大学はオーバーヘッドを徴収、もしくは大学人が大学から勤務時間をBuy outする。
    3 大学が組織として正式な契約を結び、資金を供与されて実施にあたる場合
    参画する大学人は授業負担の減免され、大学人個人の国際協力参加は容易に。
    大学が組織としての責任をとりながら、案件を実施。
    大学はしばしば50%に及ぶ高額のオーバーヘッドを徴収する。
    4 複数の大学がコンソーシアムを組織して契約を結び、資金を供与されて実施にあたる場合
    より適切な専門家を配置することができる。
    Midwest University Consortium for International Assistance (MUCIA)等の地域コンソーシアムの存在
    5 コンサルタント会社(NGO)のサブコントラクターとして請け負う場合
    互いの優位性・不得意分野の補完−大学はマーケティングや実施管理に弱いことが多い。
    例−Advancing Basic Education and Literacy (ABEL)プロジェクトはAEDがメインコントラクターとなり、ハーバード大学やフロリダ州立大学がサブコントラクターとなった。
    6 特定の学部・学科等が助成金を受けながら、長期的な人材確保をしてコンサルタントサービスを提供する場合
    例−エジンバラ大学社会人類学科は教官21名中8名が英国国際開発省からの助成金よって雇用され、その教官は年80日間コンサルタンシーサービスを提供する義務を負う。
    7 大学が国際協力のパートナーとして費用も分担しながら取り組む場合
    USAIDは1990年代、米国内250以上の大学の途上国におけるパートナー事業の実施に援助した。この資金の負担は事業ごとに異なるが、おおむね大学から25%、USAIDから75%が負担されている。
    大学側のイニシアチブの重視
    例−ジョージア大学が約10万ドルをUSAIDより得て、エチオピアのユニティー大学においてジャーナリズム学のキャパシティビルディングを行っている。

    (3) 国際協力参加促進のための学内組織
    1   事務サポート体制
    ・専門家ロースターの開発
    ・マーケティング・案件開拓
    ・プロポーザルの作成(倫理基準の審査を含む)
    ・契約の締結
    ・案件の実施
    2 事例
    例1  エジンバラ研究・革新
    →エジンバラ大学100%出資の株式会社で大学事務と一体となって活動
    →国際協力のみならず、産学連携全ての事務・マーケティングをサポート
    例2  ロンドン大学教育研究所International Development Unit
    →国際活動・コンサルティングサービスを推進
    例3  北米大学のOffice for Sponsored Research (Projects)
    →外務資金の受け入れのマーケティング・事務サポートを専門的に実施。
    →ソフトの職員とハードの職員
    大学によっては国際関係の研究・事業を専門に担当する部署を設置している大学もあり、この場合は大学内の国際関係に専門性のある教官のロースターの開発、USAIDや国務省、国際関係に関心の高い財団等との定期的な協議等の、事業ニーズの把握・新規事業の開拓を行う。(インディアナ大学、サスカチュワン大学等)
    例4  ハーバード大学International Education Group
    →専門家を内部に抱える組織。独立採算制

    (4) 大学における国際協力促進のための全国的組織
    開発協力大学協議会連絡会
    (Association Liaison Office for University Cooperation in Development)
    →2400の高等教育機関をメンバーとする6つの団体が協力して設置。
    →設置目的−USAIDと高等教育機関との連携を促進する。

    (5) 援助機関による高等教育機関との連携に関する施策
    1   USAID・高等教育界パートナーシップ
    USAIDは大学とのパートナーシップ構築に向けた政策指針を策定している。
    2 スェーデンSIDA学術協力局
    SIDAでは総予算の7%を、大学リソースを活用した国際協力に当て、専門部局を設置して重点的に事業を実施している。1998年には90の国内大学の学部・学科と途上国の50大学の連携を支援した。

    (6) なぜ大学が国際協力に携わるのか
    1   大学の社会に対する貢献・公的使命としての国際協力−大学への社会的評価の向上。
    2 研究成果の実践における応用・国際化や研究資金の獲得を通じた研究活動の促進。
    3 教育内容の国際化や大学院生の奨学資金の獲得を通じた教育活動の促進。
    4 オーバーヘッド収入による大学財政の強化・多様化(特に英国、オーストラリア)。

    (7) なぜ大学人が国際協力に携わるのか
    1   自らの研究の成果を途上国の開発のために役立てたいという人道的インセンティブ
    2 国際協力事業に参加することによって、自らの研究を量的にも質的にも伸ばすことが出来るというインセンティブ
    3 国際協力事業に参加した経験が大学での昇進、テニュア審査、大学への採用において積極的に評価されるというインセンティブ
    4 副収入源としての経済的インセンティブ

  2. 日本への示唆
    (1) 大学における国際協力促進のための体制整備
    1   勤務形態・教育負担の柔軟化、オーバーヘッドシステムの導入
    2 教官・事務官の意識啓発と必要なトレーニングの実施
    3 大学における国際協力促進のための専門組織の整備(単独または複数共同で)
    4 大学の国際協力促進のための協議会の設置
    5 民間コンサルティング企業との協力・競争体制の構築
    6 大学・大学人の国際協力活動の評価対象としての認知

    (2) 援助機関への提言
    1   援助機関の大学との連携方針の明確化
    2 職員や専門員の大学教官としての派遣
    3 大学を対象とした連携スキームの創設
    4 大学・大学人の調査案件(開発調査、SAF等)への活用のシステム化
    5 研究的・教育的インセンティブの拡大
    −  長期的人材育成・研究拠点としての大学の活用


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