「我が国の教育経験の活用等に関するタスクフォース」
検討結果
総論(我が国の教育経験活用に関する基本的な取り組み方)
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我が国の教育経験に関しては、まず、公教育の普及と教育の質の向上を両立させてきた我が国の歴史自体が途上国における教育発展の貴重な参考となりうる。また、個々の教育経験分野を横断した教育行政制度、取り分け教育委員会の仕組みなどについても同様に途上国の参考となるものである。
このような我が国の教育全般に関する紹介を積極的に行いつつ、個々の教育分野における我が国の経験を途上国への協力に活用していくための基本的な取り組み方については、以下のとおり考えられる。
1.途上国での協力経験の浅い分野
幼稚園教育、環境教育、家庭科教育、女性教育、障害児教育、健康教育(学校保健・学校給食を含む)、学校施設
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(1)我が国の教育経験に関する情報提供と対話プロセスの強化
- 我が国の教育について、途上国には的確な情報が不足。途上国側として、我が国に何を求めることができるのかが分からないことに問題。
- まず、我が国の教育に関する情報提供機能の強化が重要。特に、我が国の教育現場を途上国の関係者に実際に見てもらうことが大切。
- その上で、我が国の経験をどのように活用できるか相互に対話・検討し、途上国の現場で実証していくプロセスが重要。
- なお、情報提供に当たっては、現状のみならず、どのような課題と政策判断のもとに、現行の取り組みがあるのか、その考え方を伝えることが大切。
- (2)考えられる具体的な方策
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○ | 各種の研修制度等を通じて、途上国の関係者を我が国に招聘し、我が国の教育制度や教育現場に直接接触する機会を提供。
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○ | ワークショップの開催等を通じ、我が国の教育経験について途上国が活用できる内容やその適用方法について対話・検討。
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○ | 途上国関係機関との人的ネットワーク構築と、インターネット等を通じた我が国からの情報提供による助言や交流。
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○ | 途上国における我が国及び現地の関係者による問題分析、及び協力可能性の調査(現地のモデル校における実証調査等)。
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○ | 上記の方策を踏まえつつ、途上国からの要請に基づき、ODA等の各種協力形態を通じた協力の実施について検討。
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(3)並行して取り組むべき事項
- 関連法規等の英語化や、我が国の教育現場の映像化なども含め、情報提供に必要な資料やその作成・管理体制について強化することが重要。
- 途上国との対話プロセスを進めるためには、中間報告で提示された「拠点システム」(分野別の検討グループ等の形成を含む)のあり方について、併せて検討することが必要である。
2.途上国での協力経験の豊富な分野
(1)協力経験の共有化と伝達
- 既に途上国における協力事例が積み重なってきている分野に関しては、引き続き協力のニーズが高いため、「協力経験の浅い分野」とは異なる対応が必要。
- 具体的には、限られた協力資源と時間の中で効果的かつ効率的な協力を行なうため、途上国毎の状況の違いに配慮しつつも、分野ごとに共通して活用できる各種教材等の作成や、協力活動の基本パターンの整備を進めることにより、協力経験の共有化と伝達を促進することが重要。
- また、併せて、国や地域によって事情が異なる部分(宗教等に関係する事項、旧宗主国のカリキュラム等の影響など)についても、これまでの教訓や留意事項を整理することが必要。
- (2)考えられる具体的な方策
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○ |
様々な協力形態別や協力機関別の経験やノウハウを集積 |
○ |
関係機関との協力のもと、成功事例や教訓を抽出 |
○ |
現地での協力に共通して活用できる各種の教材等(途上国の教員のための指導書、各種教材、問題集、到達度評価試験、現地事情の調査項目・質問票など)の整備 |
○ |
協力形態などに即した有効な活動パターンの研究と整備(国・地域などの特殊事情に関する留意点を含む) |
○ |
共有化された内容を、派遣される人員に伝達 |
- (3)当面の取り組み
- 当面は、ダカール行動枠組みの中心である初等中等教育段階にあり、途上国からのニーズも引き続き高い「理数科教育」を中心とすることが適当。
- また、「理数科教育」に関するこれまでの協力は、途上国における教員研修制度の構築に対する協力を組み合わせた形で多く実施されてきたところ、「教員研修制度」についても、並行して対応する。
- なお、「理数科教育」や「教員研修制度」に関する協力においては、教科内容に加え、これらと深く関係する学校の人的、物的、財政的条件等やその組織運営など、「学校運営(経営)」に関する事柄を含め支援が実施されてきている。したがって、「学校運営(経営)」についても、分野横断の課題として「共有化と伝達」を進めることが重要である。
- このための具体的な作業を行なうためには、関係機関との協力のもと、教科の専門家を含む新たな検討体制が必要。中間報告で提示された「拠点システム」のあり方とも併せて検討することが考えられる。
3.応用的な取り組み(ニーズに応じて分野を組み合わせた協力)
- 教育に関する重要な課題(就学率や教育の質の向上など)は、さまざまな分野にまたがる要因が複雑に作用しあって生じていることが多く、個別分野毎の取り組みのみならず、分野の要素を組み合わせた効果の高い協力を検討していくことが重要である。
- 具体的には、我が国の協力経験が豊富であり、効果の高い協力が期待できる「理数科教育」「教員研修制度」「学校運営(経営)」を中心としながら、これらと組み合わせて初等中等段階の多様なニーズに寄与することができると考えられる分野(例えば、環境教育、健康教育、障害児教育等)に関し、途上国からの要請に応じた協力が可能となるよう準備することが考えられる。
- また、その際、親を初めとするコミュニティの成人層が、学校の計画作りやその実施に参画することを促すことにより、教育や学校に対する地域コミュニティの理解と関心を高めていくことが、さまざまな教育課題の解決にとって極めて重要である。
- 複数の分野を組み合わせつつ、親等を学校の教育活動に取り込んでいく応用的な取り組みは、「学校を地域教育の拠点」とする効果的な協力へも結び付いていくものである。
援助機関・NGOとの連携等 |
- 1.NGOとの連携強化
- NGOは、草の根レベルにおける教育協力に経験とノウハウを有する一方、これらの協力をさらに発展させていく際、専門性が求められる内容については、対応が困難(例えば、個々の幼稚園に対する協力を発展させて、幼稚園教諭の養成に対して協力しようとする場合)。
- したがって、NGOの培った協力をベースとして、我が国の教育分野に関する専門的な知見やノウハウを大学等を通じて提供することができれば、我が国全体として、教育協力の効果をさらに高めていくことが可能。
- NGOには、識字教育など、我が国の教育界にはノウハウのない分野について独自の経験を持つ団体がある。学校を地域の拠点として、子どものみならず親などを含む教育活動を展開するためには、NGOとの連携が極めて重要。
- 教育協力に関し、政府及びその関係機関等とNGOが情報を常に共有できる仕組みが必要であり、「拠点システム」のあり方などにも反映させることが重要。
2.有償資金協力との連携強化
- 我が国の有償資金協力による初等中等教育分野への協力は、施設・機材の整備が大きなコンポーネントとなっているが、借入国からの要請により、我が国の教育経験に関連するソフトの協力が組み込まれている例がある(*)。
- 有償資金協力による初等中等教育分野への協力において借入国のニーズに応じ我が国の教育経験の活用を有機的に組み込むような提案を行なうことも検討する。
- (*)ウズベキスタン「職業高等学校拡充事業」では、農業教育用機器の購入、校舎建設に加え、ソフト面強化プログラム(校長及び教員の研修)が組み込まれている。
- 3.国際理解教育とのリンケージ
- 我が国の教育経験を途上国に活用するのみならず、途上国での協力で得られた現地に関する知見等を我が国の教育現場にフィードバックし、国際理解教育の促進に役立たせていくことが重要。
別紙:分野別の今後の取り組み
分野別の今後の取り組み
1.理数科教育
我が国に多くの知見や経験があることが途上国にも広く知られている分野であり、我が国による協力例も多い。初等中等教育分野における我が国の主要な協力分野として、引き続き協力のニーズが高いと予想されるところ、これに対応するための効果的・効率的な取り組み方法(協力経験の共有化と伝達)について検討を進めていくことが重要。
2.教員研修制度
理数科教育プロジェクト等のなかで、教員研修制度の構築に協力してきた経験あり。理数科教育と併せ、効果的・効率的な取り組み方法(協力経験の共有化と伝達:研修の設定方法、内容、期間、教員の参加を促すインセンティブのあり方などを含む)を検討していくことが重要。
3.環境教育
環境教育に対する取り組みは途上国ごとでまちまちの状況。まずは、自然科学的な側面からの取り組みを中心に途上国のニーズに応じて協力経験を蓄積していくことが大切。
4.幼稚園教育
途上国においては、適切な就学前教育が重要であるが、具体的に幼稚園に期待されている内容は、保育から就学準備まで一様ではない。ただし、発達段階が異なる就学前の幼児に対し、個々の状態に応じて指導する我が国の教育実践は広く途上国にも応用が可能。国際協力活動で活動できるような幼稚園教員の派遣要請に対応できるよう、今までの実績や事例をもとに協力について検討を進めることが重要。
5.健康教育(学校保健・学校給食を含む)
保健機関の整備が遅れている途上国では、子どもの健康管理に学校が果たしうる役割は大きい。県・郡の教育管区を対象に、各学校で健康教育を担当する教員の研修や、学校に対する巡回指導などの協力が考えられる。
健康教育に関するこれまでの協力経験は少ないものの、潜在的なニーズが高い分野と考えられるところ、現地における短期間の研修など、対応可能な範囲から協力のあり方について検討を開始することが大切である。
なお、中間報告において、「我が国の教育経験のある分野については、ユネスコ等の国際機関を通じた多国間の協力にも生かしうる」と指摘されていることも踏まえ、健康教育に関しては、世界食糧計画(WFP)及びユネスコとの連携を進めていく。
6.家庭科教育
我が国では家庭科が男女必修となっているが、かつては女子の就学のインセンティブの一つとなっていた時代もある。途上国の現状に照らせば、家庭科教育を女子の就学率向上のための工夫の一つとして位置付けることも可能。ただし、途上国においては、家庭科の設置状況もまちまちであるところ、現地の事情を踏まえつつ、将来的には、途上国の学校教育における総合的なニーズへの対応の一分野として検討していくことも考えられる。
7.学校施設
学校の実態調査に基づく中長期的な施設計画の策定手法について、我が国としての経験の蓄積あり。また、学校施設と地域の社会施設を一体化した効果的な教育方法についても多くの事例とノウハウがある。我が国における学校建設に関連する協力において、計画策定手法も含め、幅広くその経験と知見の活用を進めていくことが重要。
8.女性教育
我が国では、長年に亘り、女性団体等が実施する各種の研修、交流、情報提供などに対する支援を通じて、女性のエンパワーメントの向上を進めてきた経験がある。
また、独立行政法人国立女性教育会館では、関係団体と協力し、途上国の女性を対象とした研修コースを実施している。ただし、途上国では女性団体の状況や性格などが多様であるため、当面は、このような国内研修を中心に協力を実施することが考えられる。
9.障害児教育
我が国は、障害児教育に特化した国立の研究所を有するなど、障害の種類に応じた教育について長年の蓄積がある。障害児は、「万人のための教育」の重要なターゲットであり、途上国からの様々な要請に備えるとともに、途上国の障害児教育関係者(大学、研究者、行政等)とのネットワークや、途上国の学会などを通じた技術アドバイスの提供なども考えられる。
10.職業教育
我が国の職業教育は、専門高校、高等専門学校、大学、専修学校等において行なわれており、開発に携わることができるエンジニアや技術革新に自ら対応可能な人材を排出してきている。我が国の工業高校の関係者を中心とする協力が現在も進行中であり、今後も途上国のニーズに合わせて協力を検討。また、農業高校についても大きな協力ポテンシャルがある。
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