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資料1−2
2002年4月24日

アフガニスタン調査報告―教育を中心として―
内海成治(大阪大学大学院人間科学研究科)

  平成14年4月6日より19日まで外務省JICAアフガニスタン技術協力調査団に参団して現地の教育状況を中心に現地調査を行った。政府が十分に機能しているとはいいかねる状況ではあるが、学校は再開され復興への歩みが感じられた。

1、  教育の一般的状況
1−1、学校の状況

  今回はカブール市内のみの調査であるが、市内の学校は校舎が荒廃しているところが多いが、3月末に再開された。ユニセフのBack to School キャンペーンでは170万人の新規入学を想定しているが、全国でどの程度の就学が行われたかは定かではない。カブール市内では現在でも入学者は増え続けている。特に、女子の入学者が非常に多い。多くの学校は1年から9年あるいは12年生までのクラスがあるが、高学年は一クラスでも1年生の数が非常に多く、5学級から20学級に及んでいる。女子学校では特にその傾向が顕著である。
  校長・教師は長い内戦およびタリバン時代に国外あるいは北部地域に避難していた人が多い。教師の資格認定等のためもあって教育省は終日混雑している。
  学校施設に関しては、カブール市の南西部は廃墟と化しているため学校も例外ではない。この地区ではほとんどの学校が屋根や壁がなくなっている。瓦礫が十分に整理されていないために、瓦礫の陰で授業が行われているケースや木陰で行うケースもある。
  しかし、子どもたちの学習意欲は高く、学習の姿勢も真摯であると感じられた。
教科書は不十分であるが、ユニセフやUSAIDの教科書がある程度行き渡っている。黒板は小さい黒板がユニセフなどから供与されている場合を除いて、ほとんどない。
  こうした状況では教師は言葉による教育に頼らざるを得ないが、子どもに教科書を読ませたリ、いっせいに声をあげて読ませたりして、伝統的ではあるがしっかりした授業を展開しているように見受けられた。

1−2、教育省

  教育省は22の局に198課があり、職員数は2481人(うち女性は563名)である。現在ユニセフが教育省各局の所掌分担や人事録のデータベースを作成中である。地方教育局長の任命は終わっているが、地方の教育局の詳細は不明である。
  教育省内にはユニセフとユネスコの事務所がある。ユニセフはBack to Schoolキャンペーンと学校データベースの作成、ユネスコはコンピュータ訓練室の整備とワークショップの開催を主な仕事としている。

1−3、学校のデータについて

  学校の状況についてISAF・CIMICはカブール市内をカバーした163校のデータベースを完成させており、公開している。こうしたデータベースの全国への拡大をユニセフとマーシーファンデーションが行うとのことであるが、具体的な作業には入っていない。

1−4、大学の状況

  今回の調査期間中、高等教育省大臣、カブール大学学長等の高等教育関係者と面談し、カブール大学薬学部、理学部を訪問した。大学のある地域はカブール市の南西部の最も荒廃の激しい地域であり、実験室の施設機材等は完全に破壊されている。しかし、建物は残っており、復旧が始まり、授業も再開されている。
  しかし、2ヶ月前に行われた入試の結果はまだ発表されていない。カブール大学学長によると2万人が受験し7000人が合格するだろうとのこと。採点集計を手作業で行うために時間がかかっている。
  教官の意欲は高く、また国際的な学問動向にも目を配っている。日本に対してはカリキュラム改革、施設、教材の整備等に大きな期待を寄せている。

1−5、教員養成校
  カブール教員養成校は全国の14の教員養成校の中心的な学校である。1919年に創立された最も古い高等教育機関である。カブール大学の近くに10ヘクタールのキャンパスに講義棟、寄宿舎、実験室、付属学校(小学校から高校)を備えた学校であった。92年以来荒廃し、現在は教育省の近くの高校の2棟を借りて学校を再開した。現在の学生は教員養成課程200人と現職教員コース600人の合計800人であり、90パーセントは女性である。午前午後の2シフトで講義を行っている。
  教室は狭く、実験設備は皆無である。電気は来ていない。黒板は小さなもので、教科書、教材はほとんどない。授業料は無料で、教育省からは教員の給料と最低限の資機材が3ヶ月ごとに支給されるとのこと。校長は、現在必要なものとしては、チョークと黒板、教科書とのこと。

2、  わが国技術協力の方向性
2−1、基礎教育分野

  (1)専門家派遣
  第1次ミッションが教育相から受けた「教育計画・教育手法」の専門家派遣要請に関しては、教育省が大きな組織であることから、専門家の活動内容、スケジュール、ユニセフ・ユネスコ専門家との関係等を明確にするために5月に専門家を派遣してさらに派遣専門家の活動内容、派遣時期等を精査し、教育省内に事務所を開設することが必要である。
  (2)女性教員研修員受入
  お茶の水女子大を中心とした5女子大コンソシアムで検討されたアフガニスタン女性
教員研修プログラムに関しては、本調査中に教育相に簡易GIを提示した。アミン教育相は4月18日にお茶の水女子大を訪問し、5大学関係者と会見した。
  (3)教員養成校への支援
  アフガニスタンの教育は女性が担っているため教員への支援は女性支援として重要である。現在の状況は非常に悪く、当面カブール教員養成校のキャンパスの再建が最重要課題である。または応急に校舎を整備し最低限の機材の整備を行いつつ専門家を派遣することも考えられる。早い時期に地方の教員養成校への支援も考える必要がある。

2−2、高等教育分野

  高等教育相によれば、カブール大学はアメリカおよびヨーロッパの複数の大学から支援のオファーを受けている。一方ポリテクニック大学はカブール大学が工学部と合併してカブール工科大学を形成する予定であるが、ここには是非日本の支援をお願いしたいということであった。
  一方、カブール大学学長は、14学部のうち支援を得ることが決まったのはドイツの大学による理学部、経済学部、アメリカのパデュー大学からの農学部、工学部への支援だけであり、まったく支援がない学部が多いとのこと。特にその中でも支援の必要な重要な学部として薬学部を挙げた。薬学部は全国でカブール大学が唯一の学部であり、重要性が高いとのこと。薬学部の学生は女性が半数以上である。
  日本への留学生に関して、高等教育省、カブール大学において説明したところ、ともに大きな関心を示し、是非早期に受け入れてほしいとのことであった。カブール大学では博士を取得している教授は極めて少ないとのことであった。カブール大学には大学院がないため、大学院開設のためにも留学による学位取得が必要である。
  今回の調査では大学のカリキュラム、卒業に必要な単位数等についての詳細な調査は出来なかったが、学長、学部長は海外への留学の経験もあり、学識は非常に高いと感じられた。早急に国費留学生を中心とした留学生を受け入れを検討することが必要であろう。
  また、大学間協定や日本で行われる国際学会等への参加に関しては非常に前向きであった。学長、学部長等の中核的な教育研究者の招聘も検討する必要があろう。

以上


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