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資料2

国際教育協力懇談会

中間報告(案)


平成13年12月



目   次


はじめに


1.国際教育協力の意義
(1)開発途上国に対する意義
(2)我が国に対する意義

2.今後強化していくべき国際教育協力の分野(「ダカール行動枠組み」への対応)

3.どのように国際教育協力を進めるべきか
(1)我が国の教育経験を生かした国際教育協力
(2)紛争解決後の国づくりにおける国際教育協力
(3)協力経験の蓄積と伝達を行うための拠点システムの重要性
(4)国際教育協力への国民参加の推進(NGO、教育関係団体等との連携の強化)
(5)現職教員の活用による「日本人の心」が見える協力の促進
(6)学校を拠点としたインパクトのある協力(学校建設とのパッケージ化)

4.そのために何をすべきか(具体的な検討方法)
・    別紙1   我が国の教育経験と途上国のニーズをすり合わせるための新たなプロセス
・    別紙2   「ダカール行動枠組み」の目標と我が国の教育経験
・    「国際教育協力懇談会」協力者名簿
・    会合の開催状況

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国際教育協力懇談会・中間報告(案)

はじめに

   本懇談会は、文部科学大臣の私的懇談会として、平成13年10月に設置されたものである。平成12年6月から11月まで開催された前回の「国際教育協力懇談会」における検討結果を踏まえつつ、その後の新たな課題に対応するため、さらに議論を深めることを目的としている。

   前回の懇談会においては、国際教育協力の重要性についての基本的な視点や考え方とともに、大学関係者等による国際協力の推進、開発援助人材の育成、外国人留学生等の受入体制など、国内における具体的な施策を中心に議論がなされた。
   他方、前回の懇談会の終了後、国際社会における教育協力に関する認識や、我が国におけるODAのあり方については新たな方向が打ち出された。

   第1に、開発途上国に対する教育協力に関しては、OECD/DAC(経済協力開発機構・開発援助委員会)の「新開発戦略(21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献)」(1996年)などにおいてもその重要性が述べられてきたが、2001年のジェノバサミットにおいて、「万人のための教育」(EFA)を推進するための「ダカール行動枠組み」について改めてコミットがなされ、国際社会における教育協力、とりわけ初等中等教育重視の流れが極めて鮮明になったことがある。

   第2に、我が国においてODA(政府開発援助)に対する国民からの厳しい目があるなか、外務大臣の私的懇談会として「第2次ODA改革懇談会」が平成13年5月に設置された。7月に発表された中間報告では、「ODAは、日本という国の在り方、国際社会における日本人の生き方に係わる問題である」とするとともに、「日本の主体性・戦略性・体系性」のある協力の重要性が謳われるなど、我が国とODAの関係のあり方が改めて問われている。

   以上のような内外の状況の変化を踏まえ、我が国の国際教育協力においても改めてその方向性を明らかにする必要が生じている。すなわち、「ダカール行動枠組み」に対してどのように対応すべきか、また国際教育協力を行う国内的な意義や、我が国の主体性のある協力を進めていくためにはどのような方策が必要であるかなどについて、検討することが急務となっている。

   国際教育協力は、高等教育・社会教育などを含む極めて幅広い領域を持つものであるが、本懇談会においては、以上のような新たな状況に対する基本的な方針と具体的な取り組み方について議論することを、最初にとりあげるべき重要課題と位置づけ、まずは初等中等教育を中心に、10月から12月まで集中的な議論を行ってきた。本報告書は、その結果を取りまとめたものである。

   なお、本報告においては、前回懇談会の提言事項のうち、内容をさらに発展させて議論がなされているものがあるが、その他の提言事項にかかる必要なフォローアップや、国内におけるさらなる体制整備等も含め、今後さらに議論を深めていく予定である。




1.国際教育協力の意義

   開発途上国においては、貧困、環境の劣化、人口爆発、食糧、エイズ、紛争などさまざまな問題が一層深刻となっている。グローバル化が進むなか、社会経済のあらゆる側面において、先進国とのギャップが一層拡大している傾向があり、人道上の観点から、また世界全体の平和にとっても看過できない問題となっている。
   他方、我が国が自らの生存と繁栄を維持していくためには、国際社会との相互依存、国際秩序の形成・強化への貢献、アジアなど開発途上国との共生が必要不可欠であり、途上国のこのような深刻な状況は、我が国自身の安全保障にも繋がる問題でもある。
   我が国は、かかる認識から保健・医療、農業、工業など幅広い分野においてODAを実施しているが、国際教育協力は、これらの諸課題に対する我が国の取り組みの一環として、以下に示すとおり、開発途上国及び我が国自身に対して大きな意義を有していると考えられる。


(1)開発途上国に対する意義

   教育は、家庭教育、学校教育、社会教育などのさまざまな形において、人間の一生を通じて実現されるべきものであり、人格形成と、人権、環境、経済産業等のあらゆる領域の基盤を形成するものである。世界のあらゆる国や地域の人々に、ひとしく教育の機会が開かれなければならない。さらに教育は、人々に自ら考える力を与え、対話を通じて他者や他文化を理解する力、国際協調の精神を重んじる態度を育むことができる。

   特に、開発途上国が、現在対峙するあらゆる課題を乗り越え、持続的な発展に向けた一歩を踏み出すために教育が果たす役割は極めて大きい。とりわけ、最大の課題である貧困に対して教育は、人間の潜在的な能力の開発を促し、貧困から脱出し発展していくための基盤づくりに大きな役割を果たすことができる。かかる認識は、「万人のための教育」が国際社会において大きな支持を得て、2000年に「ダカール行動枠組み」が形成された背景にもなっている。この世界的潮流に則り、我が国としても国際教育協力を通じた貧困削減に貢献することが重要であると考えられる。

   更に我が国は、戦後、教育を国づくりの基本とする「米百俵」の精神をもって復興してきた。即ち、国民生活、経済活動のあらゆる領域の基盤となる教育に人的・物的資源を傾注し、復興を成し遂げてきた。かかる経験は世界各地でみられる紛争地域での紛争解決後の国づくりにとっても大変参考になると考えられる。我が国がこれまでの教育経験を十分生かし、これらの地域を含めた開発途上国に「米百俵の精神」を進んで伝達することが我が国に求められていることである。


(2)我が国に対する意義

   教育に関しては、我が国の国民一人一人が自らの体験を有しており、身近な問題として開発途上国に対して心を向けやすい分野であると言うことができる。このため現実に、我が国の学校やさまざまな草の根レベルにおいて、学校建設、里親(就学支援)、文具等の支援などを通じて、途上国との間で、さまざまな交流が活発に行われているところである。教育分野に関しては、このような経験を生かしながら、我が国のコミュニティが国際協力を更に発展させていく俎上が既に存在している。
   外務省の「第2次ODA改革懇談会」の中間報告では、ODAが日本という国のあり方、国際社会における日本人の生き方に係わる問題であり、政府のみならず国民各層によるODA活動への参画が不可欠であると謳われている。上記のように、教育分野においては、学校やコミュニティレベルで既に進められている交流が土台となって、より深いODA協力へと発展していく大きな可能性がある。また、これとは逆に、政府のODAで実施されている国際教育協力を、我が国のコミュニティレベルが参画した交流へと結びつけ、裾野の広い関係へと発展させていくことも考えられる。
   このように、国際教育協力は、あらゆるレベルで我が国の国民が、開発途上国の国民と繋がりを緊密化することを促し、日本とアジアなど開発途上国との共生をより深いレベルで実現していく可能性を有しているものと考えられる。

   国際教育協力のもう一つの特徴は、以下のとおり、開発途上国において教育協力に携った教員を媒介としながら、国際化のための素養を児童・生徒に波及的に広め、相互理解と相互依存の必要性がますます高まる国際社会に対応できる日本人の形成に資するという点にある。

   第1に、グローバル化が進むなか、我が国においては、人の国際化が大きな課題となっている。国内総生産では、世界の14%、貿易量が世界の10%、金融面では世界の5%を占めているのに比べ、人の移動に関しては、世界の僅か2.5%を占めるに過ぎない。教員が開発途上国で教育協力に従事する過程を通じて、コミュニケーション能力や、物事を論理的に整理し、誰からも分かるように言語化・数値化する「概念化」の能力を身に付けることができれば、帰国後、教育のあらゆる面において、自らの異文化体験を通して児童・生徒に国際化の素養を備えていくことが可能となる。
   第2に、これらの教員が、多様性の尊重や異文化の理解を教育現場において促進することにより、外に向けた所謂国際化のみならず、我が国の「内なる国際化」と平和な国際社会の構築に向けた基盤づくりに大きな役割を果たすことが期待できる。また、現在、開発協力に携わっている人材のほとんどが中高生時代に国際協力に携わった人に触発されていることから、開発途上国で活躍した教員が増えることにより、将来の開発協力人材の裾野が広がることが期待される。

   教員が開発途上国において上記のような、さまざまな経験や能力を身に付けることは、我が国の教育の質を直接的に高めるものとも考えられる。
例えば、開発途上国と我が国との間では、教育を成立させている歴史や社会文化が大きく異なることから、我が国から派遣された教員が、両国の教育経験を比較することにより、我が国の教育の良い点を再認識したり、国内の教育に生かせる点を発見し、帰国後にフィードバックすることができるようになるのである。

   教育と我が国の国民一人一人との関係の深さは上述の通りであるが、このため、国際教育協力に関しては、我が国の教育経験を活用することにより、「日本の顔」だけでなく、「日本人の心」が見える協力となるため、多くの日本人が協力の有効性に対して大きな実感と効力感を持つことができる。この点から、国際教育協力は国民によるODA理解を増進していくためにも大きな意義を持つ分野であると考えることができる。




2.今後強化していくべき国際教育協力の分野(「ダカール行動枠組み」への対応)

   平成13年7月のジェノバ・サミット(G8コミュニケ)では、「万人のための教育」を促進するため、「ダカール行動枠組み」の目標(普遍的な初等教育の普及、及び、あらゆるレベルにおける女子への平等な教育機会の付与を重視)の達成を支援することが再確認されるとともに、同目標の達成を追求する最善の方法について検討するため、G8のタスクフォース(作業部会)を設置し、次回サミットまでに提言を提出することとされた。「ダカール行動枠組み」の数値目標達成のための進捗が遅れ気味である中、G8の一員として、我が国も目標達成に向けての重い責任を有している。

   世界人権宣言にも謳われるように、教育は全ての男女の基本的人権である。しかも、ダカール行動枠組みの目標の中心である初等中等教育は、あらゆる教育の入り口であり、これなくして途上国の国づくりを進めることはできない。高等教育やその他あらゆる分野での人づくり協力を効果的に行うためにも、初等中等教育の基盤があることが重要な鍵となる。基礎的な人材の土台があってこそ初めて、協力の成果が点から線、線から面へと発展していくのである。このことは、我が国による開発協力の経験から導き出された教訓でもある。

   この意味において、初等中等教育分野に対する協力は、我が国のODA協力全体の効果を底上げし、発展させていくためにも重要な役割を持ちうるものである。したがって、我が国は今後、初等中等教育分野に対する協力を重点的に強化し、ダカール行動枠組みの目標達成に向けて協力していくことが重要である。

(「ダカール行動枠組み」の目標)

(1) 最も恵まれない子供達に特に配慮を行った総合的な就学前保育・教育の拡大及び改善を図ること。
(2) 女子や困難な環境下にある子供達,少数民族出身の子供達に対し特別な配慮を払いつつ,2015年までに全ての子供達が,無償で質の高い義務教育へのアクセスを持ち,修学を完了できるようにすること。
(3)   全ての青年及び成人の学習ニーズが,適切な学習プログラム及び生活技能プログラムへの公平なアクセスを通じて満たされるようにすること。
(4)   2015年までに成人(特に女性の)識字率の50%改善を達成すること。また,全ての成人が基礎教育及び継続教育に対する公正なアクセスを達成すること。
(5)   2005年までに初等及び中等教育における男女格差を解消すること。2015年までに教育における男女の平等を達成すること。この過程において,女子の質の良い基礎教育への充分かつ平等なアクセス及び修学の達成について特段の配慮を払うこと。
(6)   特に読み書き能力,計算能力,及び基本となるライフスキルの面で,確認ができかつ測定可能な成果の達成が可能となるよう,教育の全ての局面における質の改善並びに卓越性を確保すること。

   ダカール行動枠組みの掲げる目標の重要な観点の一つとして、就学率と教育の質の問題がある(目標の(2),(6))。教育の量的拡大は質を伴ってこそ意味があり、また質が伴っていなければ量的な拡大にも限界が生じる。両者は車の両輪であり、我々はこの両者に対して効果的に働きかけるため、教育の制度、学校施設、各教科教育、健康教育(学校保健・学校給食を含む)などの要素を組み合わせて効果の高い協力を検討していく必要がある。

   また、同目標においては、格差の問題、すなわち、「初等中等教育における男女の格差の解消」や「困難な環境にある子供たち(民族的マイノリティ、障害児等)」の義務教育へのアクセスに対して特別な配慮を払うこと」が明記されている(目標の(2)、(5))。教育を通じて途上国に存在する社会的・経済的な格差が再生産されることを防ぐ意味からも、女子はいうまでもなく、その他の困難な環境にある子供たちを教育の中に取り込んでいく協力が必要である。

   さらに、ダカール行動枠組みでは、初等中等教育分野に加え、これを取り巻く就学前教育、青年・成人教育、女性教育などを含めた幅広い目標が設定されている(目標の(1),(3),(4))。これは、初等中等教育とこれら諸分野の間に密接な相互関係があることによるものである。例えば、就学前のレディネス(学習準備)の獲得は、小学校低学年における留年や中退を減少させる。また、就学を断念したり中退を余儀なくされた青年・成人に対する識字やライフスキルに関する教育(例えば、健康教育(学校保健・学校給食)や職業教育等)が、本人の社会参加の道を開くばかりか、子供の教育にも大きなプラスの影響を与えることが認められている。我々は、途上国における初等中等教育とこれら関連分野の相互関係に着目しながら、それぞれの分野に対して協力を行っていくことが必要である。



3.どのように国際教育協力を進めるべきか

   我が国による国際教育協力は、これまで高等教育分野を中心に実施されてきた(1999年度実績額で教育協力の約60%)。学校建設や青年海外協力隊のような草の根レベルの協力を除き、初等中等教育分野におけるソフト面での本格的な協力が開始されたのは、1990年以降のことである。その取り組みの主要な特徴は以下のとおりである。

国の事情に係わらず普遍性が高いと考えられる理数科教育が協力内容の中心(初等中等教育におけるその他分野での協力へは未だ発展していない)。
専門家や国内支援者については大学教官が中心(現職教員の参加が限られている)。
我が国の協力で建設された小中学校を利用した協力が少ない。

   初等中等教育分野に対する協力の初期的段階においては、このような取り組み方は、我が国の実施能力の観点からも妥当であったと言うことができる。しかし、今後、ダカール行動枠組みの目標設定に対応して、内容的にもまた量的な面からも、我が国の教育協力を拡充していくためには、上記の方法をさらに発展させた以下のような取り組みが必要になるものと考えられる。


(1)我が国の教育経験を生かした国際教育協力

1    我が国における教育経験や英知を生かした主体的な協力
       教育を国づくりの根幹としてきた我が国の教育経験を活用し、得意な分野に対して重点的に協力を進めていくことが重要である。このことは、我が国による主体的な協力を確保する上で重要であるとともに、我が国が培ってきた具体的な英知を途上国と共有化し、それぞれの国の教育発展に効果的に役立てようとするものである。

2

   途上国のニーズと我が国の経験をすり合わせるための新たなプロセス(別紙1)
   

   我が国の教育経験を途上国への協力に活用していくことは上記1のとおり極めて重要なことであるが、一方において、途上国の抱える教育ニーズは、伝統や文化の影響もあり多様であることから、我が国の経験をそのまま現地に適用することは困難である。
   したがって、途上国におけるニーズを現地の政府や草の根などの様々な視点から分析し、真のニーズを把握した上で、我が国の教育経験とのすり合わせを行い、両者を適合させていくための新たなプロセスが必要になる。

   このプロセスの第1ステップとして、まず途上国における共通の教育課題であるダカール行動枠組みの6つの目標と、我が国の教育経験分野を照らし合わせ、活用の可能性の高い分野を見極めることが必要である。別紙2はその検討の結果を示したものであり、幼稚園教育、理数科教育、環境教育、家庭科教育、健康教育(学校保健・学校給食を含む)、教員研修制度、学校施設、障害児教育、職業教育、女性教育の諸分野が、途上国への教育協力に活用できる可能性が高いと判断されるものである。

   これら諸分野における我が国の経験と途上国のニーズのすり合わせは、元来国別に行っていくべきものである。しかしながら、ダカールの流れに沿った形での取り組みは全ての途上国で努力することになっており、またある程度、地域毎に類型化が可能である。したがって、第2ステップとして地域別に類型化した教育ニーズと我が国の経験をすり合わせ、大まかな協力の内容を記した程度のモデルプランを策定していくことが肝要である。

   さらに第3のステップとして、このような協力のモデルプランを土台としながら、他ドナー・国際機関とも協調のもと、相手国との対話を通じ、日本の経験がどこに適用できるのか議論することが重要である。以上の過程を通じて、我が国の経験と国別のニーズの両者を効果的・効率的に結び付けた協力プログラムを制度的に形成していくことが可能になる。また、このようにして実施される協力プログラムの評価をモデルプラン形成にフィードバックすることにより、さらに充実した協力プログラムの形成が可能となる。

   なお、上記の二国間の協力のプロセスとは別に、我が国の教育経験のある分野については、ユネスコ等の国際機関を通じたマルチの協力においても生かしうるので、国際機関の比較優位を加味しつつ、これら機関との連携を図ることも考えられる。


(2)紛争解決後の国づくりにおける国際教育協力

   冷戦の終焉後、頻発する紛争は人間の生命や生活のみならず、それを支える経済・社会基盤など開発成果を損なうとともに、その後の復興・開発を困難とする様々な問題を引き起こしている。紛争地域での紛争解決後の国づくりにおいて、教育が果たすべき役割はとりわけ重要であると考えられる。すなわち、教育は国民生活や経済活動など、復興に関するあらゆる分野の基盤となるばかりでなく、歴史や宗教、民族について相互理解を促進し、平和構築と長期的な発展のために大きな役割を持つと考えられるからである。

   したがって、紛争解決後の復興期において、地域に次の世代を担う子供が現存することに鑑みても、教育は一日たりとも休むことができない営みであり、平和国家である我が国が、教育分野において積極的な支援を行なうことは大きな意義とインパクトがある。

   地域の行政機構の安定が図られつつある段階にあっても上記のとおり教育は一日たりとも休むことができないことから、平時とは異なる緊急対応的な教育協力が必要となることがある。かかる対応としては、国際機関及びNGOに多くの活動経験があるところ、これら諸機関との連携も含め、我が国としてどのような役割を果たしうるのか検討することが必要である。しかし、緊急暫定的対応もやがて平時の教育協力に移行していくため、かかる連携に際して、我が国の二国間教育協力を視野に入れた検討が必要である。その際、上記(1)のプロセスによって検討された平時のモデルプランを応用しつつ、段階的かつ長期的なアプローチを検討することが肝要である。
   また、紛争解決後の国々においては、宗教上の問題など、社会的文化的な要素が教育に大きな影響を与えている場合が多いので、我が国がこれまでに同様の背景を有する国々で行ってきた協力の成功例などを分析し、その経験を援用することが有益である。

   アフガニスタン復興を初め、個別の紛争終結地域に対応した具体的な教育協力に関し、文部科学省は上記を十分に踏まえ、関係機関と連携しつつ施策を検討することが望まれる。


(3)協力経験の蓄積と伝達を行うための拠点システムの重要性

   我が国における協力経験を直接的に途上国へ移転できないことは、上記(1)の通りであり、そのためにさまざまな工夫が求められている。とりわけ、初等中等教育分野においては、文化や社会的な背景の影響への配慮が不可欠である。
   このような認識のもと、これまで実施されてきた協力においても、現場レベルにおいては既に大きな努力がなされている。したがって、援助に関係してきた大学、民間企業等の専門家、援助機関やNGOなどが大同団結し、省別又は官民といった枠に縛られることなく、これらの貴重な経験を共有して蓄積することにより、次の協力の計画づくりや協力プロセスのチェック等にフィードバックする拠点システムを構築すべきである。
   また、このようなシステムの存在は、国際教育協力を担う我が国の人材の開拓と育成を進め、国際教育協力の裾野を広げていくためにも極めて重要である。
   とりわけ、上記(2)の紛争解決後の復興支援という特別な環境下に派遣される人材(教員を含む)の適格性を確保するためにも、拠点システムの重要性は大きいものと考えられる。


(4)国際教育協力への国民参画の推進(NGO、教育関係団体等との連携の強化)

   NGOは途上国の草の根レベルでのニーズの把握やコミュニティ活動に特徴と優位を持っている。他方、政府ベースのODA協力においては、教育政策、教育行政に関する中央・地方政府への働き掛けが可能であり、両者の連携ができれば、行政から草の根までをカバーした裨益効果の高い協力を実現することができる。
   また、我が国の地方自治体(教育委員会)や教育関係団体では、それぞれ独自に途上国の学校等との交流を行っている例も多い。したがって、NGOやこれら関係機関との連携を図ることにより、国内における国際教育協力の理解促進や、国際理解教育・開発教育による「内なる国際化」の推進を図ることができるものと考えられる。
   このように、国際教育協力を関係機関との密接な連携のもとに実施していくことが極めて重要であり、そのために様々な協議や会合の場を設けていくことが必要である。


(5)現職教員の活用による「日本人の心」が見える協力の促進

   全国約90万人の現職教員(小中高校)は、指導案の作成、教材開発、各種の指導技術など、児童生徒に密着した実践的な教育経験や能力を有しており、「日本人の心」が見える国際教育協力を進めていくための、重要なリソースと考えられる。我が国での経験を踏まえながら、現地の教育関係者やNGOなどとも連携して、現地の教員支援に大きな力を発揮できる可能性がある。
   また、途上国における協力経験のある教員が、児童・生徒の国際的な素養を伸ばたり、我が国における「内なる国際化」を促進する原動力となりうることは、「1.国際教育協力の意義」の通りであり、今後、途上国への現職教員派遣を積極的に進めていくことが重要である。
   ところが、これら現職教員のODA事業への参画は極めて限られている現状にある(平成12年度実績:JICA専門家及び青年海外協力隊員として68名を派遣)。前回(平成12年度)の国際教育協力懇談会の提言に基づき、青年海外協力隊に「現職教員特別参加制度」が創設されたことは大きな前進である。ただし、現職教員の参加をさらに促進していくためには、派遣元である地方自治体の主体性を高め、より長期的な計画をもって派遣を可能とするさらなる工夫や、より生産的でインパクトのある派遣方法などの検討が必要である。
   また、これらの検討に当たっては、青年海外協力隊の対象とならない40才以上の現職教員の参加方法についても併せて考えることが必要である。
   なお、途上国での経験が少ない現職教員の派遣を拡大していくためには、派遣前に過去の経験等を十分に伝達し、国際教育協力の担い手としての適格性を備えていくことが重要である。かかる点に対し、3.(3)の拠点システムが果たすべき役割を援助機関と協調しつつ十分検討するべきである。


(6)学校を地域の教育拠点としたインパクトのある協力(学校建設とのパッケージ化)

   我が国では、これまでも小中学校の建設に対する協力を多く実施してきているが、これらとソフトの協力をパッケージ化することができれば、より効果的な協力が期待できる。
   その際、途上国における初等中等教育の問題を、学校内部だけではなく、家庭や地域を含むコミュニティ全体の問題として考えることが重要である。すなわち、学校教育を十分に受けられなかった者がそのまま親となり、子供の教育に十分な関心を払わないために、また学校をドロップアウトさせてしまうなどの悪循環が存在する。
   このような負の連鎖を断ち切るためには、子供たちばかりでなく、その親や基礎学力を身に付けないまま学校教育の外に置かれている青年や成人に対する識字や健康教育(学校保健・学校給食を含む)、職業教育などのライフスキルに関する幅広い意味での教育活動を併せて考えていかなければならない。
   したがって、我が国の協力で建設された学校において、子供を対象とした学校教育のみならず、学校を地域の教育拠点としながら、親などの成人層を対象としたノンフォーマルな部分での協力をパッケージとして実施していくことができれば、大きなインパクトを期待することができる。この際、現地や我が国のNGOとの密接な連携を図ることが重要である。
   また、ここを相手国に対する我が国の協力モデルと位置付け、他の地域への普及活動を展開するシステムを形作ることができれば、さらに大きな効果を期待することができる。



4.そのために何をなすべきか(具体的な検討方法)

   上記3.の(1)2、(5)、及び(6)で提言された事項に関しては、国際教育協力に携わる各機関の連携がなければ詳細な検討や具体化が困難であると考えられる。したがって、文部科学省は、援助機関と協力し、NGO、地方自治体等の関係団体と連携したタスクフォース(作業部会)にて、これら事項に関する詳細な検討を行うべきである。

   なお、3.(3)で提言された協力経験の蓄積と伝達を担う拠点システムのあり方については、前回の懇談会においても、国立大学に「国際教育協力研究センター」を分野ごとに整備していくことが提言されている。したがって、同提言をさらに発展させながら、上記の拠点システムのあり方について検討を行う必要がある。具体的には、1協力に関係した者のネットワーク化、2知見の蓄積、33.(2)(5)の現職教員等の国際協力適格性の確保、4国際協力人材の開拓・育成、5開発大学院との連携、6分野ごとの拠点のサイズなど、文部科学省としても関係機関と連携しつつ、かかる議論の準備に着手すべきである。


別紙1
我が国の教育経験と途上国のニーズをすり合わせるための新たなプロセス


別紙2


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【国際教育協力懇談会協力者名簿】
                (敬称略、五十音順)


荒   木   光   彌       (株)国際開発ジャーナル社代表取締役・編集長
川   上   隆   朗       国際協力事業団総裁
佐   藤   禎   一       日本学術振興会理事長
篠   沢   恭   助       国際協力銀行総裁
團   野   廣   一       (株)三菱総合研究所常勤顧問
千   野   境   子       産経新聞社論説委員
中   根   千   枝       東京大学名誉教授( 座 長 )         
西   尾   珪   子       (社)国際日本語普及協会理事長
平   野   次   郎       日本放送協会解説委員         
宮   田   清   蔵       東京農工大学長
矢   崎   義   雄       国立国際医療センター総長


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会合の開催状況


○    第1回会合:平成13年10月4日(木)   15:30〜17:30

(議題)

・    我が国の国際教育協力の現状について

・    我が国で培われた教育経験と今後の協力可能性について

・    前回懇談会のフォローアップ状況について



○    第2回会合:平成13年11月7日(水)   15:00〜17:00

(議題)

・    国際教育協力におけるNGOとの連携について

・    途上国のニーズを踏まえた我が国の教育経験の適用可能性について

・    インパクトのある協力方法のあり方について



○    第3回会合:平成13年11月28日(水)   10:00〜12:00

(議題)

・    第1回及び第2回会合の論点の整理

・    国際教育協力の意義について



○    第4回会合:平成13年12月18日(火)   15:00〜17:00

(議題)

・    中間報告(案)について

・    「国際教育協力懇談会」の今後の進め方について


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