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資料 3

国際教育協力の意義について

   我が国が自らの生存と繁栄を維持していくためには、国際社会との相互依存、国際秩序の形成・強化への貢献、アジアなど開発途上国との共生が必要不可欠である。
   国際教育協力は、これらの諸課題に対する我が国の取り組みとして、以下に示すとおり、我が国及び開発途上国の双方に対する観点から大きな意義を有していると考えられる。
1.我が国に対する意義
(アジアなど開発途上国との共生の深化)
   教育に関しては、我が国の国民一人一人が自らの体験を有しており、身近な問題として開発途上国に対して心を向けやすい分野であると言うことができる。このため現実に、我が国の学校やさまざまな草の根レベルにおいて、学校建設里親(就学支援)文具等の支援などを通じて、途上国との間で、さまざまな交流が活発に行われているところである。教育分野に関しては、このような経験を生かしながら、我が国のコミュニティが国際協力を更に発展させていく俎上が既に存在している。
   外務省の第2次ODA改革懇談会の中間報告では、ODAが日本という国のあり方国際社会における日本人の生き方に係わる問題であり、政府のみならず国民各層によるODA活動への参画が不可欠であると謳われている。上記のように、教育分野においては、学校やコミュニティレベルで既に進められている交流が土台となって、より深いODA協力へと発展していく大きな可能性がある。また、これとは逆に、政府のODAで実施されている国際教育協力を、我が国のコミュニティレベルが参画した交流へと結びつけ、裾野の広い関係へと発展させていくことも考えられる。
   このように、国際教育協力は、あらゆるレベルで我が国の国民が、開発途上国の民と繋がりを緊密化することを促し、日本とアジアなど開発途上国との共生をより深いレベルで実現していく可能性を有しているものと考えられる。
 
(国際化のための基盤づくり)
   国際教育協力のもう一つの特徴は、以下のとおり、開発途上国において教育協力に携った教員を媒介としながら国際化のための素養を児童・生徒に波及的に広め相互依存がますます高まる国際社会に対応できる日本人の形成に資するという点にある。
 
   第1に、グローバル化が進むなか、我が国においては、人の国際化が大きな課題となっている。国内総生産では、世界の14%、貿易量が世界の10%、金融面では世界の5%を占めているのに比べ、人の移動に関しては、世界の僅か2.5%を占めるに過ぎない。教員が開発途上国で教育協力に従事する過程を通じて、コミュニケーション能力や、物事を論理的に整理し、誰からも分かるように言語化・数値化する「概念化」の能力を身に付けることができれば、帰国後、教育のあらゆる面を通じて、児童・生徒に国際化の素養を備えていくことが可能となる。
   第2に、これらの教員が、多様性の尊重異文化の理解を教育現場において促進することにより、外に向けた所謂国際化のみならず、我が国の「内なる国際化」と平和な国際社会の構築に向けた基盤づくりに大きな役割を果たすことが期待できる。また、現在、開発協力に携わっている人材のほとんどが中高生時代に国際協力に携わった人に触発されていることから、開発途上国で活躍した教員が増えることにより、将来の開発協力人材の裾野が広がることが期待される。
 
(我が国における教育の質向上への貢献)
   教員が開発途上国において上記のような、さまざまな経験や能力を身に付けることは、我が国の教育の質を直接的に高めるものとも考えられる。
   例えば、開発途上国における教育協力においては、我が国との間で、教育を成立させている歴史や社会文化が大きく異なることから、両国の教育経験を比較し、それぞれの教育の再評価を行なうプロセスが必要になる。このような作業を通じて、我が国から派遣された教員が我が国の教育の良い点を再認識したり、国内の教育に生かせる点を開発途上国のなかで発見し、帰国後にフィードバックすることができるようになるのである。
   
(国民のODAに対する理解の促進)
   教育と我が国の国民一人一人との関係の深さは上述の通りであるが、このため、国際教育協力に関しては、我が国の教育経験をフルに活用することにより、「日本の顔」だけでなく、「日本人の心」が見える協力になるため、多くの日本人が協力の有効性に対して大きな実感と効力感を持つことができる。この点から、国際教育協力は国民によるODA理解を増進していくためにも大きな意義を持つ分野であると考えることができる。
 
2.開発途上国に対する意義
   2001年9月11日に米国で発生した悲劇的なテロは、我が国の国際教育協力に何ができるのかという重大な問いを提起している。テロの温床として異なる文明に対する無知・非寛容及び貧困が挙げられる中、これらに対して我が国の国際教育協力が効果を上げることが出来れば、国際平和の構築の視点からも意義が深い
   
   第1に、異なる文化や文明に対する無知や非寛容である。これに対し、教育は、人々に自ら考える力を与え、更には対話を通じて他者や他文化を理解する力、国際協調の精神を重んじる態度を育むことができる。他方、テロリストが幼少期から受けてきた教育の内容を鑑みるに、教育が歪められることにより異なる文化に対する無知や非寛容を増長することにもなりかねない。従って、教育が平和構築に果たす役割が極めて大きいことは明らかであり、それ故に国際教育協力が重要であると考えられる。
第2に貧困の問題である。貧困は開発協力の最大の課題であり、途上国の人々の不公平感を惹起する温床となっていることは事実である。これに対して教育は、人間の潜在的な能力の開発を促し、貧困から脱出し発展していくための基盤づくりに大きな役割を果たすことができる。かかる認識はノーベル賞を受賞したセン教授の理論を基調としており、「万人のための教育」が国際社会において大きな支持を得て、2000年に「ダカール行動枠組み」が形成された背景にもなっている。この世界的潮流に則り、我が国としても国際教育協力を通じた貧困削減に貢献することが重要であると考えられる。
   
   更に我が国は、戦後、教育を国づくりの基本とする「米百俵」の精神をもって復興してきた。即ち、国民生活、経済活動のあらゆる領域の基盤となる教育にリソースを傾注し、復興を成し遂げてきた。かかる経験は世界各地でみられる紛争地域での紛争後の国づくりにとっても大変参考になると考えられる。我が国がこれまでの教育経験を十分生かし、これらの地域を含めた開発途上国に「米百俵の精神」を進んで伝達することが我が国に求められていることである。

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