資料2 |
国際教育協力懇談会・第1回及び第2回会合の論点の整理
1.我が国として国際教育協力を行う意義 |
・ | 我が国では人のグローバル化が非常に遅れている(国内総生産が世界の14%、貿易が世界の10%、金融面では世界の5%を占めているのに比べ、人の移動は世界の僅かに2.5%)。教員が途上国での協力に参加することにより、コミュニケーション能力や物事を「概念化」する能力を身に付ければ、帰国後、教育のあるゆる面を通じて、生徒に国際化の素養を備えていくことができる。 |
・ | 途上国で活動した教員が、途上国と我が国の児童生徒の媒介者となって、相互の対話や異文化理解を促進し、「内なる国際化」に大きな役割を果たすことが期待できる。 |
・ | 我が国のセキュリティの観点から協力を考えるべきである。 |
・ | 途上国に対する開発援助においては、貧困問題が最大の課題となっている。これに対して教育は、人間の潜在的な能力の開発を促し、途上国が貧困から脱出・発展していくための基盤づくりに大きな役割を果たす。かかる認識は、ノーベル賞を受賞したセン教授の理論を基調としており、この世界的潮流に則り、我が国としても国際教育協力を通じた貧困削減に貢献することが重要であると考えられる。 |
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2.今後増やしていくべき教育協力の分野 |
・ | 平成13年7月のジェノバ・サミットでは、「万人のための教育」を促進するため、「ダカール行動枠組み」の目標達成について、支援を再確認。そのために、G8のタスクフォースの設置が予定されるなど、我が国としても早急な対応が必要となっている。 |
・ | 同枠組みおいては、初等中等教育が中心課題とされている。我が国からの技術移転の成果を点から線、線から面へと発展させるためにも、初等中等教育に対する協力を強化し、途上国における人材の基盤や裾野を形成していくことが重要である。 |
・ | 我が国のセキュリティの観点から協力を考えるべきである。 |
・ | ダカール行動枠組みの掲げる目標の重要な観点の一つとして、就学率と教育の質の問題がある(目標の(2),(6))。教育の量的拡大は質を伴ってこそ意味があり、また質が伴っていなければ量的な拡大にも限界が生じる。両者は車の両輪であり、我々はこの両者に対して効果的に働きかけるため、教育の制度、学校施設、各教科教育、健康、栄養などの要素を組み合わせて効果の高い協力を検討していく必要がある。 |
・ | また、同目標においては、格差の問題、すなわち、「初等中等教育における男女の格差の解消」や「女子や困難な環境にある子供たち(例えば障害児等)、少数民族出身の子供たち」の義務教育へのアクセスに対して特別な配慮を払うことが明記されている(目標の(2),(5))。教育を通じて途上国に存在する社会的・経済的な格差が再生産されることを防ぐ意味からも、女子はいうまでもなく、その他の困難な環境にある子供たちを教育の中に取り込んでいく協力が必要である。 |
・ | さらに、ダカール行動枠組みでは、初等中等教育分野に加え、これを取り巻く就学前教育、青年・成人教育、女性教育などを含めた幅広い目標が設定されている(目標の(1),(3),(4))。これは、初等中等教育とこれら諸分野の間に密接な相互関係があることによるものである。例えば、就学前のレディネス(学習準備)の獲得は、小学校低学年における留年や中退を減少させる。また、就学を断念したり中退を余儀なくされた青年・成人に対する識字やライフスキル(保健・衛生・栄養、職業教育等)の教育が、本人の社会参加の道を開くばかりか、子供の教育にも大きなプラスの影響を与えることが認められている。我々は、途上国における初等中等教育とこれら分野の相互関係に着目しながら、それぞれの分野に対して協力を行っていくことが必要である。 |
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【別紙2参照】 |
・ | 教育を国づくりの根幹としてきた我が国の教育経験を生かして、得意な分野に対して重点的に協力を進めていくことが重要である。このことは、我が国の主体性の確保に重要であり、また我が国の英知を途上国の発展に効果的に役立てようとするものである。 |
・ | 他方、途上国の抱える教育ニーズは、伝統や文化の影響もあり多様であることから、現地NGOなどからの情報収集も含め、それぞれのニーズをきめ細かく把握した上で、我が国の教育経験とのすり合わせを行い、両者を適合していく新たなプロセスが必要である。 |
・ | そのための第1のステップとして、途上国に共通の教育課題であるダカール行動枠組みの6つの目標と、我が国の教育経験分野を照らし合わせたところ、協力に生かしうる可能性が高い分野として、幼稚園教育、理数科教育、環境教育、家庭科教育、学校保健・学校給食、教員研修制度、学校施設、障害児教育、職業教育、女性教育があることが明らかとなった。 |
・ | 《これら諸分野における我が国の経験と途上国のニーズをすり合わせることは、元来国別に行っていくべきものである。しかしながら、ダカール行動枠組みの流れに沿った形での取り組みは全ての途上国で努力することになっており、またある程度、地域毎に類型化が可能である。したがって、第2ステップとして、地域別に類型化した教育ニーズと我が国の経験をすり合わせ、協力のモデルプランを策定していくことが肝要である。このようなプロセスにおいて、検討しやすい地域等から取り組む方法も考えられる。》 |
・ | さらに第3のステップとして、このような協力のモデルプランを土台としながら、他ドナー・国際機関とも協調のもと、相手国との対話を通じ、日本の経験がどこに適用できるのか議論することが重要である。以上の過程を通じて、我が国の経験と国別のニーズの両者を効果的・効率的に結び付けた協力プログラムを制度的に形成していくことが可能になる。また、このようにして実施される協力プログラムの評価をモデルプラン策定にフィードバックすることにより、さらに充実した協力プログラムの形成が可能となる。 |
・ | なお、上記のバイの協力のプロセスとは別に、我が国の教育経験のある分野については、ユネスコ等の国際機関を通じたマルチの協力においても生かしうるので、国際機関の比較優位を加味しつつ、これら機関との連携を図ることも考えられる。 |
4.協力経験の蓄積と伝達を行うための拠点システムの重要性 |
・ | 我が国の協力経験を途上国へ直接的に移転することは不可能であり、協力に必要なさまざまな経験や工夫を、関係機関が大同団結して蓄積していくための拠点システムを構築することが重要である。このシステムを活用して、過去の経験を、新たな協力の計画作りや協力プロセスのチェックにフィードバックすることができるようになる。 |
・ | また、同システムは、国際教育協力を担う我が国の人材の開拓と育成を進め、国際教育協力の裾野を広げていくためにも極めて重要である。 |
・ | 《拠点的機能に関しては、前回の懇談会においても、国立大学に「国際教育協力研究センター」を分野ごとに整備していくことが提言されている。したがって、同提言をさらに発展させながら、上記の拠点システムのあり方について検討を行う必要がある。具体的には、分野毎の拠点となるところがどのようにどのような関係機関と連携するのか、開発大学院とどのように連携していくのか等、今後議論していくこととする。》 |
5.国際教育への国民参加の推進(NGO、教育関係団体等との連携の強化) |
・ | NGOは途上国における草の根レベルでのニーズの把握やコミュニティ活動に優位がある。ODAによる国や地方の教育行政を対象とした協力とNGOによる協力が連携することにより、行政から草の根レベルまでをカバーした裨益効果の高い協力が可能となる。 |
・ | また、これらのNGOや教育委員会等を含む教育関係機関との連携を図ることにより、国内における国際教育協力の理解促進や、国際理解教育・開発教育の推進が可能となる。 |
・ | 《関係機関との幅広い連携を確保するため、定期的な会合の設置が重要であり、具体的な設置方法について検討する必要がある。》 |
6.現職教員の活用の促進 |
・ | 全国約90万人の現職教員(小中学校)は、児童生徒に密着した実践的な教育経験を有しており、国際教育協力の重要なリソースとなりうる。現地の教育関係者やNGOなどとも連携しながら、現地教員の支援者として大きな役割を担うことが期待される。 |
・ | また、上記1.のとおり、現職教員は我が国の教育現場と途上国の媒介として「内なる国際化」を進めていくことが期待されており、彼らを生かしうるシステムが必要である。 |
・ | 現職教員の活用については、昨年度の国際教育協力懇談会の提言を受けて、青年海外協力隊に「現職教員特別参加制度」が新設されたことは評価される。しかし、現職教員の参加をさらに進めるには、派遣元である自治体の主体性を高め、より長期的な計画をもって派遣を可能とする工夫や、より生産的でインパクトのある派遣方法が必要である。 |
・ | 《このような認識のもと、現行の制度を用いながら、自治体が中長期的に現職教員の派遣をコミットし、そこから推薦を受けた複数の現職教員からなるチームを途上国の学校等へ派遣する「教育協力隊」について、制度設計及び自治体と連携したパイロットケースの具体化に取り組むべきである。その際、各自治体が既に途上国との間で結んでいる姉妹都市協定、姉妹校、学校間交流などに着眼し、交流事業をさらに協力のレベルへ発展させていくことも有意義であると考えられる。》 |
・ | 《また、青年海外協力隊の対象とならない40才以上の現職教員の参加方法についても併せて検討が必要である。 |
・ | 《なお、現職教員の派遣を拡大していくためには、派遣前に過去の経験等を十分に伝えることにより、援助人材としての適格性を確保するための体制を整備する必要がある。》 |
7.学校を地域の教育拠点としたインパクトのある協力(学校建設とのパッケージ化) |
・ | 我が国では、これまでも小中学校の建設に対する協力を多く実施してきているが、このようなハード面での協力とソフト面の協力をパッケージ化することができれば、より効果的な協力が期待できる。 |
・ | 特に、途上国における初等中等教育の問題は、学校内部だけではなく、家庭や地域を含むコミュニティ全体の問題であることを考え合わせると、建設された学校において、子供たちばかりではなく、親や基礎学力を身に付けないまま学校教育の外に置かれている青年などへの対応も一体化して行うことが重要であると考えられる。 |
・ | 《そのための具体案として、ハードとソフトをパッケージ化し、学校を地域の拠点としながら、学校教育とノンフォーマル教育を包括した相乗効果の高い協力を組み立てることが考えられる。このような方向性は、ダカールの目標を視野に入れたインパクトのある協力を進めていくためにも重要であり、具体的な協力モデルを形成することが必要である。》 |
注:《 》は、タスクフォース以降に具体的な検討を行うことを予定している事柄。