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資料3−2
2001.11.7
基礎教育協力   課題体系図の解説

基礎教育に対する協力の考え方

 

1.基礎教育の課題
   2000年の「世界教育フォーラム」にて合意された「ダカール行動の枠組み」に示される6つの「目標」は、現在の国際社会における具体的な基礎教育の課題を踏まえて立てられたものものである。以下がその目標である。

<ダカール行動の枠組みの目標>

   就学前教育の拡大と改善
   2015年までの初等教育の完全就学と修了の達成
   青年と成人の学習ニーズの充足
   2015年までの識字水準(特に女性)の50%改善
   2005年までの初中等教育における男女格差解消と2015年までの教育における男女平等の達成
   基礎教育の質の向上

 

   このダカール行動の枠組みを踏まえ、基礎教育の課題を、初中等教育の拡充、教育格差の是正、青年及び成人の学習ニーズの充足、乳幼児のケアと就学前教育の拡充、教育マネジメントの改善、の5つの観点から概観する。

(1)初中等教育の拡充

   初中等教育は近代学校教育制度の中心であり、人格的に調和のとれた人間形成を行うとともに、国民が共通の言語や価値観や行動様式などを共有することで国家の主権維持と統一を図るという意味からも基礎教育の核になる教育である。したがって、「初中等教育の拡充」は開発途上国の基礎教育協力開発の中心とみなされ、これまで多くの支援が集中的に投入されてきた。
   初中等教育の課題は大きく「初等教育への就学促進(=量的拡大)」「初中等教育の質の向上」に分けられるが、「初等教育への就学促進」の観点から開発途上国の現状を見ると、近くに通学可能な学校がない場合はもちろん、たとえ学校があったとしても家計を支えるために働かなくてはいけなかったり、授業料が払えない、教科書、副教材、文房具、通学に必要な服や靴が買えない、といった理由で就学を断念せざるを得ない場合も少なくない。また、時間割が子どもたちの生活に合っていないために通学できなかったり、両親の仕事の関係でたびたび移転をするために学校に行けない場合もある。この他、自然災害や戦争などの不測の事態によって就学を断念しなければならなくなるといった事態も生じている。このように、未就学の問題は、貧困、差別、紛争などの政治的、経済的、社会的、文化的状況による教育機会の制限から発生していると考えられるのである。
   「初中等教育の質の向上」の問題は多岐にわたっているが、大きくは教育のインプット、プロセス、アウトプット、アウトカムといった4つのカテゴリーに分類される。
   インプットの問題としては、地域社会の教育ニーズが不明なためにカリキュラムや教科書の内容が児童の生活と乖離していること、無資格あるいは十分な教育・訓練を受けていない教員が教鞭を取っている事例、教室がなかったり、あっても児童が身動きできないほど過密に押し込まれている状況などが典型的なものである。
   プロセスの問題としては、授業が時間通りに始まらず、時間割も守られていないために実質的な授業時間が少なかったり、科目によって授業時間数が大きく異なる例、教員が教科書の内容を黒板に写し、児童がそれをノートに写すだけの授業やひたすら内容の暗記だけをくり返し、児童の思考能力を発達させないような授業を行っている状況、児童の母語と学校で使用されている言語が異なるために児童が学習内容を理解できない事例などがある。
   また、アウトプットの問題は、インプットやプロセスの質の問題に非常に関連が深いが、児童のテストの成績が満足できるレベルに到達しなかったり、価値観や態度に期待された変化が見られないなどがある。
   アウトカムの問題としては、基礎教育を修了して数年後に期待される所得や生産性の向上、市場経済化への移行、民主化の促進、人口の抑制、生活の向上などの変化がほとんど見られないことがある。

 

(2)教育格差の是正

   多くの途上国では、教育における男女格差、地域格差、経済格差、民族格差などがみられ、一般に男子に比べて女子が、都市住民に比べて農村部の居住者が、富裕層に比べて貧困層が、一般の国民に比べて先住民や少数民族が、教育において著しく不利益を被っている。この傾向は教育開発が遅れた国ほど、学年や教育段階が進むほどに顕著であり、社会的経済的格差が基礎教育のアクセスに関する格差を生み、それは更に社会的経済的な格差を再生産するという構図を示している。基礎教育に求められている役割は、このような格差の再生産サイクルを自ら断ち切るため、最低限必要な知識や技能を身につけさせることであるといっても過言ではない。
   中でも「男女格差の解消とジェンダー平等の達成」が緊急課題となっている。兄弟姉妹が多い場合には、一般に親がいずれ嫁いでいく女子よりも将来一家を構える男子を優先的に就学させる傾向が強い。また、女性の教育の価値が認められていなかったり、幼い頃から家事や育児の手伝いをさせられたりと、女子の就学を疎外する要因は数多く存在している。

 

(3)青年及び成人の学習ニーズの充足

   途上国においては様々な事情により就学断念や中退を余儀なくされる場合も多く、それらの人々に対して教育の機会を提供することも非常に重要な基礎教育の課題となっている。成人の場合には識字能力がないと行政サービスへのアクセスが限られたり、就労機会が限られ、低収入の状態から抜け出せないということがある。また、非識字は社会への参加を阻む一因でもある。そのため、識字能力の向上は非常に重要な課題となっている。
   更に、識字能力のみならず、実生活に根ざしたより実践的かつ有益な「生活に必要な技能(Life skills:ライフ・スキル)」の習得も生活改善のためには必要不可欠である。例えば、保健や衛生の知識が不足しているために健康が保てないといったことや、環境保全のためには環境教育が欠かせないといったことがあり、このような生活に必要な様々な知識や技術(ライフ・スキル)の習得が開発を効果的に実施するための重要な鍵となっている。

 

(4)乳幼児のケアと就学前教育の拡充

   昨今、これまで基礎教育の中であまり顧みられなかった0〜6歳児のケアや教育が重視され、国際的な到達目標に組み入れられるまでになった。この背景には、子どもの権利に対する認識の広まりがあるものの、その他にも生後3年間の成長が、身体的にも精神的にも、その後の人生にきわめて大きな影響を与えることが科学的に証明されたこと、何らかの問題を持つ子どもに対する早期の治療や対処が、子どもがある程度成長してから実施するよりも有効であり、社会的・経済的なコストも低く抑えることができること、子どもの生活への早期介入が、文化的・社会的・経済的な不平等の緩和に役立つという認識が広まってきたこと、初中等教育の低学年における留年や中退を減少させるためには入学前のレディネス(学習準備)の獲得が有効であり、これをもって教育の非効率をある程度解消することができること、といった理由が考えられる。

 

(5)教育マネジメントの改善

   近年、多くの開発途上国においてはグッド・ガバナンスの観点から行政の地方分権化が推進されており、教育行政も例外ではない。意思決定の迅速化、組織体制の効率化、適正な教育予算の確保と効果的な支出、教育統計の整備、地域的な特色を加味した教育計画やカリキュラムの策定、などを目指して教育行政の強化を図ろうとしているが、現実には関連法整備の遅れ、権限委譲の空洞化、教育行政官の不足、必要な施設や資機材の未整備などの問題によって遅々として進んでいない。
   また、教育の質の向上の観点から、学校長による学校運営・管理の強化も図られるようになってきたが、学校長の資質や技能の不足、必要な研修機会の未提供、インセンティブの欠如、学校予算の不足、コミュニティとの希薄な関係といった問題から、これも大きな問題を抱えている。

 

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