国際教育協力懇談会
2002/05/20議事録国際教育協力懇談会(第6回)議事録 |
1 開会
中根座長による開会の挨拶及び今回・次回の会合の進め方の概略についての説明の後、事務局より、資料1の第5回国際教育協力懇談会議事録確認及びその他配付資料の確認を行った。
2 議事
(1)我が国の大学における国際開発協力について
資料2の「我が国の大学における国際開発協力の促進」について、資料に基づき事務局より説明があった。
(2)国立大学の法人化と国際開発協力
政策研究大学院大学 西野文雄教授より「国立大学の法人化と国際開発協力」について以下のとおり説明があった。
西野教授) 文部科学省で用意された資料についてコメントさせていただきたい。資料2の第7項に「国立大学の問題/経理上の問題」という記載があるが、経理上の問題の手続きだけではなく、今は受託研究しか受けられないため、受託教育もできない。従ってアメリカの大学で行っている短期の企業の人を集めたトレーニングをしたくても原則としてできないと理解している。ましてや、研究以外の設計業務等もできない。従って、手続上だけではなく、目的も制限されている、ということを付け加えさせていただきたい。
では、経験を踏まえたいろいろなことを話させていただきたい。
まず、大学が国際開発協力の実務に参加する必要性であるが、大学の教員が多くの分野で実務に従事することは教育、研究にとって有益であるのみならず、必要不可欠であると考えている。これは純粋学問をしている分野以上に、特に工学とか農学とか薬学といった応用分野を持つ学問分野ではいろいろな意味で実務経験が必要である。例えば、アメリカは日本のように大学の設置基準が無いので、アメリカの工学系学部の認定機関である大学課程認定機関(第三者機関)が教育プログラムの認定を行う。そこでは、大学の教員の構成要員として30%以上の教員が実務経験を有していることを要求している。そうしていないと、そこを卒業しても学士号はもらえるが、アメリカではその学士号の社会的な年低が問題となる、認められないということがおこる。
それと全く同じで、途上国開発援助分野でも途上国の状況と援助の実態を知らなければ、国際開発協力に関する教育研究は限定されたものになる可能性が大きい。開発経済学等をやっている分には構わないし、世界銀行・OECD・アジア開発銀行等の統計資料を使って分析していくのは良いが、案件の実務、実施の問題になると架空の議論になりかねないという懸念がある。
大学の教員が個人として国際開発協力に参加することについての私の経験であるが、インドネシアの日米共同の高等教育開発案件に携わった。12年前に始まり、今も続いているが、技術協力の対象となっているスマトラ島とカリマンタン島の11大学を選ぶための調査に1ヶ月間従事した。調査団は、アメリカ側はUSAIDが競争入札にかけてUSAIDに登録しているケンタッキー大学が落札し、3名の教官が参加した。日本側は、JICAの依頼で私と当時JICAの専門員をされていた内海成治現大阪大学教授が参加し、合計5名で1カ月調査した。現役の国立大学の教員が1カ月の調査に参加する許可が取れたのは、奇跡的であり、私に対する工学部の特別な配慮があったと思う。この件の初期段階で私は、2回・合計2カ月途上国に行ったのだが、そういうことは一般的には許可にならないと思っている。
日米の共同案件だったが、組織内部の事務的な処理が異なるために、USAIDとJICAと、案件を二つに分けたうえで、一案件と同じ成果が出るよう、日米が協調して実施するということになった。案件の形成であるが、アメリカ側は外部に発注する形で行われ、競争入札の結果、USAIDのコントラクトはウイスコンシン大学が落札してプロジェクトの形成を行っている。日本側は私と外務省経済協力局政策課長、技術協力課長、インドネシア大使館参事官が中心になって形成した。
案件の実施であるが、アメリカ側は同じく競争入札を行い、フロリダ州立大学が落札して実施している。それに対して、JICAは直接自身で実施している。その中に多くの大学の教員を使っている。
調査、形成実施ともアメリカ側は通常のコンサルタント業務としてあつかっており、費用を大学側に支出している。費用というのは、事務経費、必要経費、間接経費それから一般管理費を含んでいる。
その次に関与したのは、世界銀行の「グローバル・ディスタンス・ラーニング・プロジェクト」という日本の財政、環境、民営化、通商の4分野での途上国に対する開発経験を主としてITのメディアを使って発信する案件である。これは、第一次審査に19社が参加したと理解している。この段階では、世界銀行にコンサルタント登録は不必要であったため、政策研究大学院大学とNTT東日本が提携し、私が代表者となって書類を提出した。第二次審査に残ったのは、このうち5社であった。
本入札では、国立大学である政策研究大学院大学はコンサルタント登録ができないために、政策研究大学院大学の有志が集まって、世界銀行GDLNグループという形をとり、教員個人が世界銀行の仕事を兼業するという前提で入札に参加した。この時に分からなかったのは、国家公務員が国際機関で兼業することが認められているのかどうかということである。分からなかったが、悪いことではないので、怒られてもいいだろうという決心をして、一応参加した。実際にはこのような形でコンサルタント登録すると、関係した先生10人、一人ひとりが兼業することとなり、参加者が多すぎて無責任体制となるためか、不許可になった。具体的にはオンライン登録する必要があり、ジョイントベンチャーで東日本と10人の個人コンサルタントとして登録しようとしたが、そのような様式ではオンラインで登録できなかった。担当者が日本人の職員であったために、国立大学の事情を説明して私の責任で参加者をまとめるという条件で入札に参加する許可を取得した。
5社のうち1社が辞退して、4社が入札した結果、政策研究大学院大学は第2優先交渉権者になった。結果的には第一優先交渉権者の民間コンサルティング会社が落札した。この会社は開発に関係しているが、今の4分野の開発の全分野をカバーする人材がいるような会社ではない。入札に参加した4社のうち、大学が参加したのは政策研究大学院大学のみであった。おそらく落札した企業はいろいろな私立大学や開発コンサルタントにおられる開発の専門家をリクルートしたのだろうと思っている。
発展途上国からの派遣要請をJICAに受け付けられなかったときに、「お金はだすのでアドバイザーとして来て欲しい」という途上国からの相談を何度か直接受けたことがある。私は日本国政府の国家公務員であるため、相手国政府の国家に奉仕するというのは、日本政府からの(具体的にはJICAからの)依頼が無い限り、国の本来の業務に反するのではないかという気がして、今まで断ってきている。
国立大学が法人化するとし、非公務員になると、大学は組織として、国際開発協力に対応することが可能になるものと考えられる。先程の世界銀行の例では、組織として対応できなかったために、私が全て個人の責任で全部やった。私も知り合いが限られていて、よその大学に声がかけられず、政研大のみで講師のすべてを構成した。それが、残念ながら第一優先交渉権者になれなかった理由かなと思っている。
国際援助機関や国内の援助機関に、国立大学がコンサルタント登録をすることにより、組織間の契約に基づき、プロジェクトを実施できるようになると想像している。また、援助機関からの人件費補填により、協力に携わる教員のサポートや、授業の負担の軽減等のために必要な人員を整備することも可能になるものと考えられる。
先程から出ているが、コンサルタント料金収入については、国立大学が法人化されれば、学長の判断にもよるが、コンサルタントとしての収入がなければ、国際開発協力に携わることは困難になるであろう。学長は「そんなことをやっても役に立たない」と意識すれば、案件に参加の要請があっても出られないということが起こる。非常に学長の権力が強くなり、今までと比べて教員に対する評価が厳しくなるので、学長の判断によっては国際開発協力に従事するのが困難になることもあるのではないかと心配である。
米国の例では、コンサルタントとしての収入は大学の収入になる場合と、個人の収入になる場合の両方が混在する。これは、みなさんもご存じでしょうが、基本的には大学教員の契約は年間9カ月が一般的であり、更に1週5日のうち平均して1日は外部の仕事をすることが許されている契約が一般的である。外国の大学の教員である私の工学系の友人の多くは設計事務所をもっている。我々はもてない。実は、日本に建築の先生だけが見かけ上、設計事務所を持っている例があるが、実質的には奥さんが社長で、自分は名前だけということになっている。
国立大学独立行政法人化の話の中に、JICAやJBICが国立大学教員個人、あるいはグループに対するコンサルタント料、具体的には事務経費・必要経費・間接経費・一般管理費のことを考えているのか、非常に心配している。先週の水曜日から土曜日までJICAの仕事でシンガポールに行ってきたが、赤字になったのか黒字になったのか分からないが、出張の旅費と宿泊、日当しかもらっていない。多くの荷物を持っているく必要のある海外出張の際はタクシーで動かないといけないがタクシー代はでない、というのが現状である。
今後の大学による国際開発協力の在り方として、日本の国際開発協力での優位性のある分野というと、日本の明治維新後、あるいは第二次世界大戦後の復旧、さらに経済、社会、技術の発展は世界に例を見ない、例外的な国であろうと思っている。国民の性格、考え方が近いアジアの諸国にとっては、日本の経験、考え方は国際開発協力の世界では大いに役立つものと確信している。これは、欧米あるいはアメリカよりも強いと考えている。アジア以外の国に対しても日本の開発に対する考え方、あるいは日本の国の政治や経済に対する考え方そのものも近くて役に立つと考えている。
工学分野での日本の技術は世界の中で第一級と考えて良いというのは当然であり、日本の工業製品が世界中を氾濫させている。現在は特許収入も黒字である。技術協力では日本はアジアのみならず、世界の多くの途上国で役立つと考えている。
大学の規模が余程大きくない限り、一大学の教員のみで国際開発協力するには限界がある。先程のGDLNは教員個人個人が中心となるので、かなり例外に近いが、それでも限界があると考えている。何らかの方法を考えないと、「少人数の教員で実施できる案件のみ実施可能」となってしまう。GDLNのような例外的なプロジェクトでも一大学では十分に対応できなかった。GDLN案件を落札した民間企業は専門家をどのように集めたのか不明であるが、多くの私立大学の教員、及び開発コンサルタントの中で先述の4分野を得意としている人材をこの案件に限ってリクルートしたのではないかと想像している。米国では他の大学と提携し必要に応じて短期間1大学のチームに参加している例が見られる。先程申し上げた、ケンタッキー、ウイスコンシン、フロリダ州立大学は、全て他の大学から人を一部入れている。
大学は幅広い分野での、本当の意味での専門家集団である。ただ、一つの専門分野の教員の数は限られていて、ある分野については、一人、多くても数人とか、そういうグループになる。現実問題としては、民間のコンサルタント企業の国際開発グループと大学が連携してプロジェクトに参画するのがもっとも可能性が強い方法とも考えられる。民間のコンサルは非常に業務になれているが、特殊な問題になると、大学の教員で専門を知っている人が参加するとより強いというふうになる。
ただ、例外があり、教育協力を専門とするコンサルタントは日本には育っていないと理解している。欧米諸国でも状況はほぼ同じで、先程の日米共同案件もアメリカ側は全部大学の教員である。教育関係の国際開発協力は教育関係者で実施するのが現実的である気がする。先程の日米共同案件、今現在それを上回る規模のアセアン10カ国を対象とする案件が動いているが、チームリーダーが教育者でないために非常に大きな判断ミスをしているということが起こっている。欧米の大学の教員は自国の開発機関のみならず、世界銀行やアジア開発銀行、他の地域開発銀行、国連機関にコンサルタント登録している。これも、法人化になれば可能になるのかなという気がしている。
しかし、このような登録をするのみでは入札情報を知ることはできても、入札し、落札することは容易ではなく、やはり営業活動が必要であるという気がする。これはアメリカの大学ではきちんとやっている。欧米の大学で、国際開発協力に熱心な大学では、大学内に国際開発協力を目的とする組織を持っている。国際開発協力を行うには、日本の大学も大学が連携して、あるいは大きな大学であれば、一大学でこのような組織作りが必要不可欠かと考えている。
(3)開発コンサルタントと大学の連携の可能性について
続いて、(社)海外コンサルティング企業協会 倉並千秋副会長代理より「開発コンサルタントと大学の連携」について以下のとおり説明があった。
倉並副会長代理) 本日の課題である、大学における国際開発協力の促進について、コンサルタントの立場からどういう見方をしているのかという点を中心に述べさせていただきたい。
まず、日本の開発コンサルタントの概要について申し上げたい。資料4をご覧いただきたい。開発コンサルタントというのは、一般に営利企業と非営利企業(団体)というものがあり、営利企業の中には株式会社や有限会社等があり、非営利団体の中には一般に公益法人と呼ばれている財団法人・社団法人・NPO等がある。
日本の二国間援助は、JICA、JBICなどの実施機関にて実施されているわけであるが、現在JICAには626法人、個人でいうと141人のコンサルタントが登録されている。当、海外コンサルティング企業協会ではこのうち、86法人、全体で626法人といっても実際に技術協力の案件に参加しているのは100法人程度であるので、かなりの法人を当協会でカバーしているということになる。ECFAというのは1964年に通商産業省(現:経済産業省)及び建設省(現:国土交通省)の認可により設立された公益法人であり、会員企業を中心に、セミナー・研修の開催、
ODA研究、
プロジェクト発掘・形成支援、
海外業務安全管理支援、等を行っている。
次項の「日本の開発コンサルタントによる開発援助事業への参画状況」について、説明させていただきたい。ECFAの会員企業が受注した2000年度の海外のコンサルタント業務の受注総額は736億円であった。これから推定して、一般に海外コンサルティングの市場規模はだいたい千億円あるいはそれを上回る市場規模と見ている。セクター別の受注実績で見ると、(図1)にあるように、運輸・交通
26%、電力エネルギー 15%、水資源開発 15%、というような順になっており、インフラものというのが依然大きな比重を占めているということになる。その他に、保健・教育・社会開発というものも増えてきてはいるが、一件当たりの金額が少ないために全体に占める割合は小さくなっている。
次項の「対象国・地域別受注実績」であるが、これは圧倒的にアジアが多い。JICA、JBICの対象国がアジアに偏っているということで、実際に日本という立地を考えてみるとアジアと関係が深いわけであり、これは当然の結果であるという気がする。次に多いのがアフリカの12%、中南米11%という順番になっている。「資金別受注実績」であるが、当協会の会員企業では、やはりJICAやJBICが全受注実績の80%近くを占めており、若干JBICの方が大きくなっている。その他政府機関というのは借款によって現地政府が実施する技術協力ということで理解している。外国政府が自前のお金で海外コンサルタントを雇って実施する案件もある。その他国際機関の占める割合は非常に小さく、アジア開発銀行・世界銀行、その他国際機関の「その他」は米州開発銀行、アジア開発銀行、欧州復興開発銀行等を併せて5〜6%を占めている程度である。
次項の「国際開発金融機関への出資比率と受注比率比較」であるが、これは昨今問題になっており、日本から多額のお金が多国間援助ということで国際開発金融機関へ出資されている。しかし、これに見合った受注が実現できていない。世界銀行に限って言うと、全支出金額のうち、日本国の支出金額が19.3%であるにもかかわらず、日本企業が受注した案件は0.8%に止まっている。アジア開発銀行においても、受注はかなり似ているところがある。多少アジア開発銀行の方が、出資比率と比べた受注比率は若干高くなっているが、いずれにしても低いと言うことがいえる。
次項の「開発コンサルタントと大学教官による連携の現状と事例」であるが、まず、コンサルタント企業がどのような機会に大学教員と一緒に仕事をやってきたかという事例を6つ挙げている。留学生支援事業に係る案件形成促進調査、これはJBICの案件であり、大学教員の担当分野は留学生教育と言うことである。
タイ職業教育短大強化事業、これは外国政府から受注した案件で、大学教官の担当分野は研修コーディネーターであり、日本の大学から1名参加していただいている。
カスピ海生息アザラシ等の毒物汚染蓄積と関連病理調査、これは世界銀行から受注しているが、担当分野は環境毒物学であり、これも日本の大学から1名参加していただいている。
中国都市化政策調査、これもクライアントは世界銀行である。この担当分野は多く、全体で7〜8名の大学構成になった。担当分野は、都市経済・地域研究・社会学・都市・地方財政等であり、日本の大学から2名、海外から4〜5名参加していただいている。
国際流通支援プロジェクト、これはメコン地域の流通をいかにして促進していくかという調査であるが、アジア開発銀行から受注しており、日本の担当教育教官の担当分野は水文学である。事例の
は遠隔教育コンテンツ作成、これは先程西野先生から"GDLN"という言葉で照会されたが、それも世界銀行で実施されており、この中にも数多くの日本の大学の先生方に参加していただいている。その教官の団員の担当分野は国際金融・国際経済学・環境経済学・品質管理であり、日本の大学教官は4名と記載しているが、もう少し増える。この中に示されている事例に参加されている教員はほとんどの場合は私学の大学教員であった。先程西野先生から国立大学の場合にはいろいろと制約があるということがあったが、幸い私学の大学教員はほとんどの場合副業届けを提出すれば授業に影響を及ぼさない程度ということで参加できるようだ。
次に、「海外の大学の現状」を見ていきたい。これも西野先生からご説明があったが、20年、30年以上前から国際機関であるとか自国の二国間援助等に大学が組織として業務受託が出来る体制になっている。その場合、そのための
Institute を設立して事務方のバックアップをしているようである。私の知る限りでも、例えば、カナダの国際開発庁であるCIDAが、バンコクにあるアジア工科大学で運輸交通関連の研修、ここでの研修参加者というのは、タイ国のいろいろな政府関係者であるとか、タイ国だけではなく近隣のアジア諸国から関連の政府関係機関の方をお呼びして実施した研修である。これは一般に第3国研修と呼ばれている。このケースでは、カナダの大学が受注してこういう研修業務を行っている。また、オーストラリアの大学では、オーストラリア国際開発庁という機関の依頼で、インドネシアでいろいろな研修を実施していた例があった。こういうものは、キャパシティ・ビルディング(研修業務)と呼ばれるものであり、日本の大学の方からもこういう面での参加機会というものは、システムさえ整えば数多く出てくるのではないかという気がする。
続いて、「開発コンサルタントからみた大学教官との連携に関わる課題」について述べさせていただきたい。大学教員は一般に契約に縛られたくないという意識があるのではないかという気がしている。個人参加ということもあり、いろいろ履行期限厳守等に一般に経験が乏しいという気がする。
学術的研究テーマというのがかなり大きな優先順位を占めているのではないかとうかがえる時がある。コンサルタント業務の場合、クライアントの要求第一というところで取り組む必要があるが、そこに、研究成果の論文として発表するとか、そういう保証がないプロジェクトへの参加意欲が一般的に低いのではないかと言う気がする。これには3番目の点も一緒に説明させていただいた。とはいっても、学術研究や研究成果というものと全く切り離さないとコンサルタント業務は出来ないのかというと、そういうことではなく、私どもがやってきたコンサルタント業務の中でも、数多く研究をメインのテーマにすれば業務もある。例えば、世界銀行のプロジェクトで見ると、コンサルタントが業務を論文化することをむしろ奨励している。これは、一応契約上において、成果は発注主である世界銀行に属するということが契約書に明記されている訳だが、担当者の采配で許可が得られれば、論文発表して良いということになっており、私もいくつか書いた経験がある。ところが、JICAの方は、守秘義務というものがかなり大きく唱われており、プロジェクトが終わって何年かたたないと発表できないという制限があるように思える。当然、クライアントによって事情は異なるが。
スケジュールの面で多少制約があった。出張というのは一般に1〜2週間というのが限度であるが、コンサルタント業務をやると、2〜3カ月というのは結構ある。長いもので6カ月というものもある。そのような状況で、大学教員がそういうコンサルタント業務に従事することが物理的に可能なのかという疑問が出てくる。不可能であれば、1〜2週間の現地出張で間に合うようなプロジェクトを中心に受注をしていくというふうにならざるを得ない。
チームワーク、これはどのプロジェクトでもそうだが、一般にコンサルタント業務というのは、プロジェクト毎に複数の団員から構成されており、一つのチームの中に通常は5〜6名というのが一般的であるが、少ないのは2〜3名、多いものは15名くらい参加する。この中に、自社の社員だけで構成できるのかというと、そういうわけではなく、他社の社員であるとか、大学の教員であるとか、いろいろなバックグラウンドの方がチームに参加してプロジェクトをやっていくので、チームワークが非常にキーポイントになる。団長と団員の役割というものが問われるわけで、今後本格的にプロジェクトリーダーの要請とかいう形で取り組んでいく必要があるのではないかと思う。大学が法人化され、コンサルタント業務に参加していくということであれば、そういう、団長の養成というものが一つの課題になるとう気がする。
英語能力については、全般的に能力の高い方が増えてきているが、ばらつきはある。
大学の先生方も途上国での諸問題というものに興味を持たれている方が増えてきている。実際にそういうプロジェクトに参加される先生も増えてきているので、好ましいことであると思う。
次項の「開発コンサルタントからみた大学教官との連携に関わるメリット」であるが、一番目に専門性を補完できるということが大きい。理論面では、コンサルタントはどちらかとプロジェクトで忙殺されるケースがあり、なかなか専門性を高めるという意味で充電期間をとれないということがある。その点を大学の先生方と補完しあいながら進めていくことはありがたい。3点目に関しては、リサーチ案件というものが増えてきてくれると、コンサルタントにとっても望ましいということになると思われる。4点目として、コンサルタントと大学の先生との交流を促進することにより、双方がメリットを得られる可能性がかなり大きいということである。大学の方としても、先生方だけではなく、大学院生等を動員して業務を実施することにより、将来の開発コンサルタントの予備軍となることも考えられる。5点目として、価格競争力の点であるが、これは法人となった場合にどうなるのか、私も分からない。今の時点では大学は一般にオーバーヘッドが民間に比べて小さいということであり、先生が参加していただくことによって、多少価格競争力を高めることが出来るというメリットがある。ただ、逆に大学が法人化されて、本格的に民間コンサルティング企業と競合するということになると、組織の在り方から公平な競争になるような配慮が必要であろう。
最後に、「大学との連携に必要な具体策」であるが、4点とも共通したテーマとして交流というものがある。一つは、大学関係者との懇談会を設けてはどうかということである。コンサルタント企業と大学の教員が海外のコンサルティングを実施する上での、いろいろな問題点をお互いに率直な意見を述べて理解し合うということで、参加機会を増やしていくことが考えられる。それから、データベースの整理ということで、どこにどういった先生方がいらっしゃるのかということをデータベース化する比較的連絡もとりやすくなるというメリットもある。また、企業コンサルティング協会としては、大学関係者向けの研修を実施できるのではないかと考えている。これは事務方のバックアップ、契約書の作成、契約の交渉等に関してコンサルタント企業の中にノウハウが蓄積されているので、こういうものも活用していただきたいということである。4点目として、大学とコンサルティング業界の交流というものを、人事交流の面からも促進できる可能性があるのではないかと思う。一応、マネージメントということでコンサルティング民間企業を経営されてきた方々が、そういう法人関係の組織でお手伝いするとか、あるいは逆の場合もあるのではないかと思う。こういった面での人事交流や様々な交流を通して大学とコンサルティング企業との連携が高まっていくのではないかと思う。
(4)意見交換
座長より、本日の発表を踏まえて、各委員等の自由な意見が求められた。
川上委員) 興味深い説明を拝聴した。この前の会議でも申し上げたが、大学(アカデミア)に援助の世界で活躍していただきたいというニーズが昔からあったにも関わらず、制度的な問題があってなかなかうまくいかなかった。今度大学自体が、JICAもそうだが、法人化され活動の余地が広がるということは、一般論として望ましいと思う。いろいろな問題点や課題が他の国と比べてご指摘があった。いろいろな側面があると思うが、アカデミア自身が援助要員として、即ち、コンサルタントとして入ってくるということについての今後の意図は、積極的な方向で考えていかなければならない。同時に、問題点も色々ある。しかし、一般論として援助要員の幅を拡大し、強化するという観点からは、言うまでもなく、大変望ましいということを意見として述べさせていただきたい。
次に、若干質問にもなるが、日本のコンサルタントの育成というか、どうも国際競争力が十分付いていないというのは20年くらい前からかなりいろいろと指摘されて、私が携わっていたころもそうだし、直接携わらなくなってからもそうだろうが、先程のECFAさんからのご説明の中に、例えば、国際機関における日本のコンサルタントの調達比率が相変わらず極めて微々たるものであると言うことを数字として挙げられた訳だが、アジア開発銀行一つをとっても2%程度であり、今後大学が入ってコンサルとして援助要員となった場合、コンサル界全体がどういう形で充実していくのか。今まで長年にわたっていろいろと言われていたにもかかわらず、なぜ日本のコンサルタントの実績が、国際機関等で調達であまり伸びていないのか。その点について、コンサルタント業界としてはどのように見ておられるのか、教えていただきたい。
倉並副会長代理) いくつか要因はあると思うが、コンサルタント企業の方もいろいろな会議を持ち、また、国際協力機関からもいろいろな問い合わせがあり、それに対応してきた。いくつかの要因のうちの一つは、ビリングレートというものがある。報酬のレートというものであるが、通常コンサルタント業界では「一人月いくら」という形で定める。これが、国内のマーケットが非常に活況で、国内で稼ぐ金額だけの業務報酬を(国際業務では)得られないということがあった。一般に国際機関となると、全世界の国際機関と同じ土俵で競争するので、特に価格が決めてとなる案件については、かなり人月の単価を落とさないと受注できない。なかなか日本国内のコンサルティング企業が諸手をあげて海外へ出ていく状況に無かったというのがある。
また、言語の壁が大きいことにも変わりはない。実際に国際機関の受注に結びつけるために、プロポーザルを出さなくてはならないが、どう書いたらいいのか分からない。欧米のコンサルティング企業であれば日常茶飯事にやってきたことをそのまま延長すれば国際開発にもつながるが、日本のコンサルタント企業についてはそうはいかないというところがある。手続き的な点であるとか、プロポーザルの構成なども、一からやらなければならない。それだけ対応できる人材を各企業が抱えているのか。そこまで行っていないであろう。そのような点から受注実績があまり伸びていないのが現状である。
ただ、国際機関の方にも、「これらの点を配慮してくれないと日本からの出資も思うように伸ばせない」というプレッシャーもある程度かけてもらっている。タイド案件というのが出てきている。それは、例えば世界銀行を取り上げてみると、JCTF(Japan
Consultant Trust Fund)というファンドがあるが、今までで約10億円弱くらいあり、今年度からはもう少し大きくなると聞いている。そういった案件の発注先は日本企業に限るという条件をつけさせていただいて、昨今、国際機関の経験を持つコンサルタントが増えてきている状況である。
川上委員) 世界の開発途上国側のニーズが最近インフラ等からソフトの分野に、セクターワイドの話であるとか、民主化とかガバナンスとか、プロジェクト一つをとっても変わってきた。そういう面から見て、日本のコンサルティング業界の能力との間に若干のミスマッチが生じているという面があるのかないのか。もし、そういうことがあるとすれば、アカデミアの参入によって補われる面があるのかないのか。その点については、どう思っておられるのか。
倉並副会長代理) 確かに一般的にソフト案件と呼ばれている案件については、日本のコンサルタントの層は薄いというのが実感である。昨今、例えば世界的に、貧困を中心として社会・医療・環境等の案件が増えてきている中で、そういった層が薄いという問題は当然ある。確かに大学の法人化が進んで、積極的に参加してもらえるということになると、場合によっては連携して開拓していくことが出来るのではないかと思う。
西野教授) 今の意見は、NGOにもあり、明確な司令塔がないという意味でソフトに強くないというのが現状であると思う。大学ではそういうことを研究している教員がいるので、そういう教員がコンサルタントと一緒になるとよい。先述したが、教育案件については教育者が良いと思うが、それ以外の案件については、大学の教員が一人とか二人、コンサルタントに入って知恵をつけるというのが一番良くて、そうすれば、今までのインフラに対しての強さは、完全にソフトサイドに切り替えられると思う。補足であるが、大蔵省の外郭団体であると思うが、私は、国際金融情報センターで2年間にわたって、有償資金協力の在り方に関する懇談会の座長を努めたことがある。その時も一番大きな話題は、日本のコンサルタントがどうして案件を落札できないのかということであった。その時のOECF(海外経済協力機関)案件だけについて調べてみると、完全な国際競争にかけたものについては、日本の企業が半分を落札している。しかし途上国タイドもあるので、OECF案件全体で見ると、日本の企業の落札率はそんなに多くない。しかし、国際入札に関わるものについては、半分は取っているので、国際機関についてはどうして取れないのかということが問題になった。その時の一つの結論は情報量が違うのではないか、つまり、OECF案件については、十分な情報があるが、アジア開発銀行については、それだけの情報量がない、あるいは、とっていない。それが大きな理由の一つであろうということだった。もちろん、人件費が高いということが一番大きな理由なのであるが、二番目は情報の不足であろうという結論だった。他の国のコンサルタントは現地の案件については、現地のコンサルタントを使っている。それをしないとただでさえ高い人件費が、そのままストレートに費用に加わる。現地人をいかに有効に使うのかが大事な問題かなと思う。
宮田委員) 私が大学からただ一人委員として来ているので、現状における国立大学がどういうことかを東京農工大学を例にしてお話ししたい。農工大学は農学部と工学部と2つの学部と、あと、大学院の独立研究科があるが、基本的には産業に資する人材育成をしている関係上、留学生は他大学と比べると割合が多い。また、JICAやその他国際機関を通しての国際協力も多くやっている。私自身も思い出しているが、1980年から81年にかけて、中国に対してJICAから分析機械を送って科学技術のレベルをあげるということで、外務省のアドバイザーとして行ったことがある。現実に大勢行っているが、いつでもどなたかにお願いされて小人数がいくので、大学全体としての顔は見えないということは確かにあると思う。この瞬間でも、4名の専門家がアフガニスタンに行っており、アフガニスタンの教育及び産業にどういう風に貢献できるのか調べている。これはコンサルティングという形は取っていないが、結果的には報告書が出れば、コンサルティングをしたということになる。それから文部科学省には科学研究費というものがあり、それで私自身もタイの大学との国際共同研究等にアプライして採択され、タイの大学の学生さんを含めた共同研究を行っている。その他の先生では、中国に於ける乾燥地農業、中国では塩害が激しいので、塩を吸い取ってそれを作物の中にいれてしまう、それを何度か繰り返すと、そこは塩がなくなる。そのようなことを2、3回繰り返すと非常に濃度が低くなり普通の植物が育つようになる。私どもの大学は塩害がひどくて作物ができないところへ出ていって、実験をやっている。これもただ、コンサルティング企業を通してやっているわけではないので、外部には全く分からないかもしれない。ベトナムにも行っているし、世界各国でかなりやっているが、大学全体としては、確かに組織がない。どちらかというと、教官は強いが、事務局が国際化に弱いという事実があり、そういう形の事務的サポートがなされていない。
また、もう一つ強調したいことは、JICAその他の場合には、既にコンサルティングを行う会社はシステマティックにきちんと出来ているので、そういうところに大学が参入できない。ある種のシステマティックな構造があるのではないのか。そういう部分が今はどうなっているのか分からないが、そういう構造自身も考えないと「大学はちっともやらない」と見えるかもしれないが、やろうとしても出来ない構造もあるというである。
荒木委員) 今の話と関係があるが、専門用語で「一本釣り」というやり方があるが、これは十数年前、東大の医学部の先生方と話したことがある。十数年前は、医学部の医療協力で出かける先生方は時間が非常に制約されており、一週間単位でしかだめだとか、腰を据えて協力することが非常に難しいため、一本釣りも難しかった。システマティックに人材を医学部から出していくためには、JICAと大学との協定・契約によって人材を育成しながら、つまり、次の需要を予測しながら人材を育てていく必要があるという議論だった。場合によっては、医学部の何人かは事前に海外に留学させる必要もあるだろう。大学の医学部の中でも人材を育成する、改めてJICAが育成するわけではないので、大学の中でそういう仕組みを、技術協力の一環としてパッケージで医学部とJICAが協定を結んで安定的に人材を供給すると言うことを議論したことがあるが、これは議論であって、実際は難しかった。その背景には、やはり、ソフト・ハードという基本的な問題がある。例えば、ODAの中で非常にソフト系に属する開発調査という予算項目があって、三百数十億円という大きな予算がついている。これはほとんど、ハードが前提になっており、経済・社会インフラ等の案件発掘と形成に大きく寄与している。従って、教育協力であるとか保健医療協力とかでそのお金を使うという前提ではない。もともと、ODA予算にはソフト系が少ないので、ソフト系の人材が育たないということがあるし、また、日本の国際開発関係の受注が約千億円というが、他方、日本国内の公共投資に係るコンサルティングフィーは一兆円とも二兆円ともいわれている。仮に政府の公共投資事業に民間のコンサルタントが参入できることがあれば、その予算のなかで相当人材が育ったはずであるが、国内官庁は技官がたくさんいて、自ら企画立案まで行ってきたので、なかなか民間の出る幕がなかった。せいぜい、設計の図面書き等であり計画全体を立案する立場にはなかった。それが、ソフトを育成するという人材の育成につながらなかった。最近、イギリスのコンサルタントが国際的に出てきている。これは、国内の都市開発計画が一段落ついて余力が海外に出ているということになっており、イギリスとかアメリカは、ご存じの通り、民間が公共投資の計画立案までやるので、当然欧米のソフト系コンサルタントが強いというのは当たり前といえば、当たり前である。日本は、不幸にしてそういう過去の歴史を背負ってきて、実際は努力の問題もあろうが、構造的に弱い。これからの問題であるが、教育協力・医療協力・保健医療・ジェンダー等さまざまなソフト系の要請が増えてきているので、そのコンサルタントを育てるためには、ODAの開発調査予算においても、かなりの部分、ソフト化をしていかないとソフト系人材は育たない。極端に言うと、世界銀行による教育分野の需要というのは、アメリカの大手の教育コンサルタントだと三社あればできるというくらいであり、私がよく知っている、教育開発アカデミーというところがあるが、それも三社のうちのひとつである。ただしアメリカでも、世界銀行等の受注というよりも国内の受注が圧倒的に多い。国内の需要が70%で海外の需要が30%くらいというのが普通であり、国内に根拠をおき、そこに腰を据えてコンサルタント業務を展開するので自然に人材も育っている。
話を元に戻すと、やはり、日本は出遅れているので、この際、ODAも大学の法人化に同情して活用の道を拓くべきであろう。大学の先生方にも非常に優秀な方がたくさんいらっしゃるので、大学との協定というか、契約によって、特に研究所が中心になって受注を受けるような体制が必要だと思う。その場合、受注・発注の仕方も大学と民間コンサルトの共同受注の方向をとれば、レベルも一層高くなるし、関連する民間のコンサルタントの質も上がってくると想像する。
團野委員) ECFAの倉並さんが来られているのでお伺いしたい。日本のエンジニアリング・コンサルタントは本当に国際競争力があるのかという非常に悩ましい問題があると思う。エンジニアは、アメリカ人の2倍、欧州人の3倍の給料をもらっており、レートが高い。その他の社会コストも高い。また、差別化できるようなオリジナルなノウハウが必ずしもない。従って、経験分野に極めて偏りがある。全体としては、日本のエンジニアリング・コンサルタントがもう一つ華々しく活躍が出来ないという背景には競争力の問題があると思う。一方、もう一つの事情として、最近、外国の製造メーカーはコンサルティングとかソリューション・ビジネスに進出してきている。これが極めて力が強い。それは、本当の基礎の技術があり、実地の経験もあり、ユーザーといつも接触しているという強みがあるからである。実際には、しかし、開発コンサルタントの仕事をメーカーが引き受けると、中立性堅持の立場から、あとのハードウェアーの仕事には参画出来ないという制約がある。従って、日本のメーカーは進出しないのであるが、外国のメーカーはハードウェアーに関心が無くなってきている。自分が製造することにあまりこだわらなくなってきている。こういう状況も含めて、一体日本のエンジニアリング・コンサルタントはどうやって国際競争力を持つのかということが、大学の力を借りる、あるいは活用するという問題以前の問題として考えなければならないと思う。多分、現地のコンサルタントと組むとか、製造メーカーやユーザーを入れたチームを作って挑戦をするとかをやっていらっしゃると思うが、ECFAさんではどのような研究をされているのか。2点目は、西野先生にお伺いしたい。西野先生の大学は奮闘しておられ、大変な状況の中でいろいろ努力をされていることには敬意を表したいし、今日のお話についても、全て賛同する次第であるが、ご紹介があった制度面の改善があれば協力できると考えて良いのか。国際開発協力の面に現在の大学のスタッフをどのくらい割く余力があるのか。
松下専務理事) 倉並氏はむしろソフトの方と行った方がいい企業に属されており、エンジニアリングではない分野の代表であるので、私の方から補足させていただくと、エンジニアリングの中で特に、多分国内のいろいろな問題だと思うが、専門家は各分野にいるが、従来開発コンサルタントとしての需要が必ずしも無かったので、ECFAの会員のエンジニアリング関係の企業にも必ずしもそういう専門家がいない。要するに、先程も出ていたが、日本のソフトが弱いのではないかというお話だが、これは、日本に従来マーケットが無かったので、人はいろいろな分野にいるが、コンサルタントとしてはいなかったということだと思う。いろいろな分野で日本は優位性を持っていると思う。相当優秀な技術をもっているが、それがコンサルタントとして集まっていないといった方がいい。
西野教授) 余力という話がでたが、これは、外部資金に人件費が入っているか、一般管理費が入っているか、これで決まると考える。大学は法人化されても教育と研究のための教員の費用しか配分されないと考える。私が留学していたアメリカの大学の例をお話ししたい。私が留学していたのは、世界第2位の鉄鋼メーカーがあったベツレヘムという町にあり、百年前からベツレヘムはこの大学に大変な外部資金を入れている。USスチールもピッツバーグにあったために、同じペンシルバニア州の大学ということもあって外部資金を入れている。私は土木工学科へ進学したが、大学の本部から配当される土木工学を教える先生は全体で十人しかいない。ところが、外部資金が入ってくるのは、全部鋼構造であり、鋼構造を教える先生がその他に20人近くいた。十人は本部の授業料等から上がるお金でやとっている教員で、後の20人は外部資金で雇っている。私自身の奨学金も外部資金に含まれる人件費から支供された奨学金であった。
余力であるが、政策研究大学院大学にはないと考えて頂いた方が良い。コントラクトがきて、教授や助教授を雇う費用が入ってこないとだめである。アメリカの大学へ行って何度聞いても、返事はあまり返ってこないのだが、中央のいわゆる授業料等、あるいは、州立大学だと、州から来るお金で雇える定員の平均2倍くらいは、学科長あるいは、工学部長の判断で雇って良い、と聞いている。今のは、直接の答えであり、荒木委員の言われたことに私からも多少コメントさせていただきたい。
まさに、日本の国内のコンサルタントが育っていない大きな理由は、委員会制度というのを作って、本州四国連絡橋公団でいうと50名くらいの大学の教員と大学教員以外の有識者を使っていた。ほとんど無料で委員会制度を作って、諸外国ではコンサルタントが決める問題のほとんど全部決めさせる。そこで決まったものをコンサルタントに発注するため、コンサルタントは設計しかやっていない。逆に私が海外に行って、技術アドバイスが出来るのはそういう委員会で大学の教員であるにも関わらず、ノウハウを持っているからである。コンサルタントにきっちりお金を出す形にしないと、日本のコンサルタント業は育たないと先程言ったつもりである。
矢崎委員) 私も大学に長くいたことがあり、その経験からも、今までは組織としてはJICAくらいしかなかったが、国際開発協力、特に教育の国際協力として今後は大学が組織として対応出来るようになれば、大変すばらしい。そうなれば、従来個人の興味とか努力で決まっていたものが、人材の安定供給とかノウハウの蓄積ということで、実績の向上が望めると思うが、これを実現するには大変な仕事量で、おそらく法人化した大学がすべてこういうことをやる余裕があるわけではなくて、大学の特色として教育協力を一つ活用するような仕組みがあっても良いと思う。というのは、私の施設は、初期臨床研修(医学部卒業生の教育)を行う施設であり、通常は、東大病院や慶応大学病院が行うが、私どものところは、全くの全国区であり、東大よりも優秀な学生が集まってくる。理由は、国際医療協力をやりたいということである。前向きな学生をとれるような雰囲気があれば、組織として成り立つと思うが、我が国の現状と外国のお話を聞く限り、例えば、ソフトの案件でも案件の調査と案件の形成、案件の実施で、受注した大学が全部違うわけであり、そういうことは日本ではあり得ない。通常日本ではハードの面では調査と実施は別々のコンサルト会社を通してということはあるだろうが、ソフトの案件で、全部違った大学でというのは、裏を返せば、大学の幅が広くて層が厚いということで、本当の競争入札がきっちり出来る環境が整っている証拠だと思う。我が国では、組織を作ることから始めなければならない。大学の対応としては、そういう一つの旗印として、国際化ということを大学として活用していくということが一つあるが、もう一つは、評価というポイントがあったと思う。一つはアウトカムの評価で、実績がどうなのかということであり、もう一つは、教育協力にどう関わって、どういう成果を上げたのかということが、個人のキャリアとしてどう反映するのかということもきっちりできていないと、個人の努力でそのまま没してしまう可能性がある。組織としての活用の方法と、活躍した人を今後どのように大学の中で位置づけ、評価するのか、システムを作っていかないと、活用できないかなという気がする。欧米は契約の世界なので、大学が変わってもコントラクトがそのまま生きるのであろうが、こういう高等教育開発案件が、案件の「調査」、「形成」、「実施」を違う大学や違うコンサルタントを通してやると、私自身としては、少しだぶったり、無駄があったりするのではないかという気がする。西野先生には実際のご経験でお話いただいたが、何か問題点等はあるのか。
西野教授) 今ここで引用した日米共同案件に関しては、調査は別だと考えた方がいいが、USAIDはほとんど何もしないので、案件の形成がまさに大事である。案件の形成をするということは、日本でいうと、案件の積算・見積りもするということであって、案件の形成をやったところは案件実施の入札に参加資格はない。最初にケンタッキー大学がとって、2番目の段階(形成の段階)ではケンタッキーは応札していない。彼らは案件の実施を落札しようとした。案件の形成をすると言うことは、実施案を作ると言うことであって、こういうものが良いというものを作ることである。USAIDは根幹となる案は考えるが実施の詳細案は外部に任せている。民間の一番出来るところを競争入札で選ぶ。総合評価一般入札という形で決めている。
極端にいうと、開発協力援助というのは、アメリカの大学の場合には二つ異なった目的があると思う。今の案件についていうと、どちらかというといらなくなった教員を海外の教育に張り付ける形になっていると思われる。彼らは全員英語が出来るので、ある程度のトレーニングを受けると国際開発協力に参加することが可能である。ある程度教員のはけ口となっている。若いときには、研究能力の高い教員も、年と共に研究能力の衰えない教員とそうでない教員に、だんだん分かれてくる。研究能力が衰え、教育に重点を置いた方が良い人を処理するために、大学はそういう組織を作っている気がする。
もう一つ本格的に違うのは、開発協力をやっている大学、例えばハーバードは、現実の案件をやっているが、何でも案件に食らいつくというのではなくて、自分たちにとってプラスになり、しかも自分たちにとって得意な分野をとってきている。また、昔中根先生もやっておられた、外務省の国際大学構想で調査にいったことがある。ロンドン大学だったと思うが、そこに"International
Development Unit"というのがあり、ここは案件を実施するのが中心であったが非常に選択的に案件を落札しており、国際開発協力の研究の推進に役に立ち、自分たちにとってプラスになり、しかも自分たちがその分野に強いという案件に絞ってとっていた。その意味で、一般のコンサルタントとは少し分野の仕訳ができていたのではないかと思う。大学が関与するときにも専門性を持って関与する場合と、人が余ってきたときにどうするかということをやっているのが実態かなという気がする。
荒木委員) 私もアメリカのコンサルタントの調査にいったとき、USAIDの方々から紹介された先を回って、そこに、コンサルティング企業協会のようなちゃんとした組織もあった。そこでいろいろと話を聞いたり、現実に見せていただいたりしたが、人材のデータベースがかなり進んでいて、先生方の名前も、いろいろな大学から入っている。それがきちんと人材のデータを見ながら、この先生は今何の調査で、どこに出かけていて、向こう1年間だめだという情報が提供されていた。登録している先生方は、世界銀行にも登録しているし、世界銀行とUSAIDとリンケージしてアメリカの企業ともリンケージしている。つまり、アメリカ中の大学の先生方が、今いわれたように、外向けの先生方がみんな登録されているのかどうかは分からないが、何千名という先生が登録されており、コンサルタントは、そのデータベースを見ながら追っかけていって、この人をリクルートしようとかやっている。そういう基礎が出来ている。また、大学の方でも、ハーバードがプライムをとったら、コロンビアの先生方とジョイントしていく、契約主はハーバードだが、目的・項目にあった先生方を他の大学から集めて一つの調査団(受注団)を形成しているということを聞いた。先生がおっしゃった話と関連するが、ベースが出来ている気がする。大学の場合でも、どの先生がどの国に強いということも記載されている。言語についての記載もある。
西野教授) 国立大学が法人化されれば、私もJICAに個人コンサルタントとして登録し、営業するつもりである。現在は国家公務員としての立場から登録はしていない。
川上委員) 私も細かい手続き的な面について熟知していないので発言を慎んできたが、先程もご紹介があったように、JICAに登録している法人企業ではすでに600社以上、個人でも百何十人となっていると承知。その中に国立大学の先生がおられるのかどうかは存じ上げないが、いずれにしても、こういうコンサルタント登録が今後法人化した大学に対して、もちろん一定の登録の手続きはあるが、門戸がとざされているということはないのであり、当然コンサルタントとして一定の要件を備えていれば登録することが出来る。また、個人として、おそらくJICA自身も独立行政法人化するので、そういうJICAに対しての登録というのはおそらく可能なのであろう。いずれにしてもそういう形で門戸が広がり、登録したコンサルの間でのジョイントの話だとかは可能になるわけだし、コンサル自体がプライムで向かっていくときに大学側からの援助をいただいて、サブで大学がそれに入っていくということも当然可能になるであろう。いずれにしても、そういう面での活動の幅が大幅にひろがるのではないだろうか。アカデミアが入りうるということだけはいえるのであろう。先程からいろいろと大変面白い議論であったと思うが、出てきているいろいろな問題点、日本のコンサル業界が抱える問題点、もちろんアカデミア自身が抱える問題点というのもあるだろうが、今日のような議論を踏まえて、積極的な方向で検討していけば良いのではないか、勿論、受け皿としてのJICA、JBICについても同様に問題はあるのであろう。そういうものを、開きつつある門戸を前提にして、日本の援助要員の抜本的な拡充という方向で、日本の景気により日本のコンサル業界がどうなっていくのかということもあるが、方向性としては、膨大な開発需要はこれからも続くわけで、21世紀に向かってニーズが変化しつつある援助の世界での我々の日本のビジネスということも当然考えなくてはならないので、一致協力して検討していくというのが正しい方向であると思う。
3 閉会
事務局より、次回は5月30日(木)14:30から16:30を予定しており、詳細については追ってお知らせする旨発言があった。
(大臣官房国際課国際協力政策室)