開発途上国への教育協力について (国際教育協力懇談会報告)

平成12年11月29日
国際教育協力懇談会


Ⅰ はじめに
 国土が狭く資源に恵まれない日本人にとって、教育は古くから国造りの基本と考えられ、教育を重んじる国民性が育まれてきた。特に戦後の奇跡的ともいえる社会発展を成し遂げる原動力となったのは、この国民性と、機会均等の実現を基本理念として教育の普及が図られるとともに、社会経済の変化に対応して教育改革の努力が払われてきたことであると考えられる。このような教育を重視した国造りは、広く海外からも認識されているところである。
 他方、開発途上国の中には、負担の大きい教育投資に充てる財源が十分でなく、児童が教育を受ける権利が十分に保障されていない国もある。また、現在、教育の制度、内容、方法等の改善を模索している国も多い。そのため、我が国の教育協力に対する開発途上国からの期待が高まるとともに、要請が増大してきている。
 これまで、我が国の開発途上国に対する協力は、「経済協力」の名が示すように、経済的に重要な社会基盤の整備を重視する傾向が強かった。しかし、昨年8月に公表された「政府開発援助に関する中期政策」において「基礎教育」や「人材育成」を重点事項としたことに続き、内閣総理大臣の諮問機関である対外経済協力審議会が本年9月21日にとりまとめた意見(「『人間を重視した経済協力』の推進について」)では、21世紀の経済協力の在り方を規定する重要な要素として、教育・人づくり分野を含めた「人間中心の開発」の考え方を採り入れている。
 国際社会においても、開発援助に関する考え方は次第に変遷してきている。かつての経済成長を優先する産業基盤整備中心の経済協力だけでは、開発途上国における貧困が解消されず、むしろ貧富の差が拡大するとの指摘も受け、人間の生活の質を改善することが主張されるようになり、近年は基礎教育を含む「人間中心の開発」を重視する考え方が国際的に主流となりつつある。
 このように、基礎教育の重要性に対する認識が高まる中、本年4月にユネスコなどが主催し、世界各国が参加してダカール(セネガル)で開催された「世界教育フォーラム」(注1)では、「万人のための教育」に関する行動の枠組みが合意され、今後、国際機関や先進国が、開発途上国の教育計画の立案、実施を支援することが求められている。
 情報通信技術(IT)の進歩などの要因により、国境を超えたグローバルな関係が形成されてきている今日、開発途上国が持続的に成長を遂げていくことは、国際社会の安定のためにも重要となっている。持続的成長のためには教育を通じた人材育成が不可欠であることを考慮すれば、今後我が国が開発援助に おいて教育・人づくり分野の協力を一層重視し、開発援助関係者と教育関係者が互いに連携・協力してこれに取り組んでいく必要がある。

Ⅱ 今後の教育協力を考える上で重要な視点
1 本懇談会における検討の対象
本懇談会は文部大臣からの要請を受け、国際教育協力について検討を行ったが、その対象となる「教育協力」として、 一.開発途上国の学校教育や学校外の人材育成を含めた教育・人づくり分野に関する援助全般のほか、 二.我が国の教育機関において開発援助に携わる人材を養成することや、 三.我が国の教育関係者を開発援助に貢献する人材として確保することについても視野に入れた。

2 ODAにおける教育・人づくり分野の比率の向上
(1) 我が国の政府開発援助(ODA)実績は、昨年では約 1兆7,500億円となっており、9年連続世界一の水準を維持しているが、教育・人づくり分野の支出比率については、例えば、1998年では約6%(OECD調べ)と、他の先進国の平均(約10%)に比べて低い状態にあり、その大半は外国人留学生の受入れに関する支出であり、その他は青年海外協力隊や専門家派遣、研修員受入れ、学校施設建設等となっている。
(2) 今後政府として「人間を重視した経済協力」を実践し、ODAの「ソフト化」を図っていくことが期待されており、国際協力事業団(JICA)や国際協力銀行(JBIC)などの援助機関とともに、施設整備や機材供与などのハード面での支援のみならず、留学生支援等ソフト面での支援を含んだ教育・人づくり関係プロジェクトの積極的な形成に努めていく中で、教育・人づくり分野の比率を大幅に高めていく努力が必要である。
(3) このうち、有償資金協力(注2)(円借款)は、支援規模が大きく、開発途上国自身による主体的な取組が期待できる制度であり、今後、教育・人づくり分野における有益な手法として重要な役割を果たすことが期待される。また、無償資金協力(注3)や技術協力(注4)による支援との有機的な連携を促進することにより効果的な支援となるよう、検討していくことが望まれる。

3 教育協力への理解及び国際協力に関する教育の推進
(1) これまで、我が国の開発援助関係者や教育関係者の間で、教育協力の重要性についての理解が十分に進んでいるとは言い難い状況にあり、このことは、ODAの中で教育・人づくり分野の占めるウエートが他の先進国等に比べて小さいことの一つの原因にもなっていると考えられる。したがって、援助関係者及び教育関係者の双方が、まず教育協力の重要性について理解を深めていくことが、教育協力推進への第一歩である。
 特に、日頃国際協力に関する情報に触れる機会の少ない教育関係者が適切な情報を入手できるよう、文部省、都道府県教育委員会、大学等の会議や研修の機会を通じて、国際協力に関する情報の提供や交換が行われることが必要である。
(2) 他方、開発援助に関して、国民一般、特に青少年が、その意義や背景を理解することも重要である。近年、初等中等教育レベルで、国際理解教育への取組が盛んになってきており、社会や公民等の教科や「総合的な学習の時間」(注5)等を通じ、教育関係者が開発途上国の課題や地球的規模の課題等を含めた国際協力に関する教育に取り組むことや、これに対する援助関係者の協力が期待される。
(3) また、開発援助人材の養成においてはもとより、学校教育一般についても、語学教育は極めて重要であることから、その一層の改善、向上が望まれる。
(4) なお、広く国民一般や海外を対象に国際教育協力に関する広報を実施することは、我が国の教育協力への理解と関心を高めるとともに、円滑な協力活動の実施にも資することが期待されるので、そのための媒体の一つとして、専用のホームページを開設し、インターネットによる各種の情報提供を行うとともに、援助機関等の情報も入手しやすくしておく必要がある。

4 IT革命とIT技術の活用
(1) 本懇談会が取り急ぎ、本年7月17日に提言したように、IT革命は国際的な情報格差を深刻なものとしている一方で、大学レベルの遠隔教育をはじめとして、教育の在り方にも大きな変化をもたらしており、ITの適切な利用によって教育を大いに広め、向上させることも可能となっている。
 また、同じく本年7月に開催された九州・沖縄サミットにおいて採択されたG8共同宣言において、開発途上国へのITを活用した教育支援が盛り込まれたところである。
(2) このような状況の下、開発途上国におけるIT利用の条件整備を支援することは、先進国の課題となっており、我が国としても、開発途上国の実情やニーズを把握しながら、効果的な支援の実施について考慮しつつ、今後の教育協力を進めていくことが重要である。国際遠隔教育プログラムの実施をはじめ、別紙(「IT革命に対応した教育協力について」平成12年7月17日)の提言について、引き続き関係省庁・機関による実施に向けての取組が望まれる。

5 教育協力に関する政策評価等の確立
 一般に、国の政策や事業に評価を導入することは、国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)を徹底し、評価結果を活用して効率的な質の高い行政を確保する上で重要であり、教育・人づくり支援事業に関しても、中長期的な視野に立って、十分な評価を実施していくことが必要である。
 今後「人づくり」に関するODA政策の評価等の実施に当たり、人づくり関係施策を行う省庁・機関が連携し、評価のための指針の策定や評価及び評価結果の活用に関する手法を確立していくことが期待される。教育・人づくり支援施策を実施している文部省においても、自らの施策等の評価の在り方について、積極的に検討を進める必要がある。


Ⅲ 具体的提言
1 教育協力ニーズの把握、計画の策定及び必要な体制整備
(1) ニーズの把握と計画策定の必要性
一. 開発途上国の教育事情は当該国の社会・経済的要因により多様であるが、効果的な支援を行うには様々な手段を通じ、各国の教育事情とニーズを把握し、計画を策定することが重要である。
二.今後の教育支援が見込まれる開発途上国に対し、きめ細かい支援策を講じるためには、小学校から大学までの学校や地方の教育の実態を含め、教員養成、校舎等建物、情報通信環境、教科書、教具・文具、学校保健・給食などの各事項にわたる実情の総合的な把握が必要である。
三.さらに、政府として、援助機関と協議しつつ、国別援助方針等を踏まえ、各国の実情に即した教育協力計画を策定すべきである。その際、地域研究の成果を十分活用する必要がある。
四.また、国際教育協力を行っているNGOや民間企業と連携し、より協力の効果が上がるよう、協力体制の構築を図っていくことも重要であるので、計画の策定に当たってこれを考慮する必要がある。
(2) 調査の実施及び教育政策アドバイザーの派遣
一.各国の教育事情を総合的に把握するには、大学、援助機関などの持つ既存資料の収集、整理及び分析を行うとともに、必要に応じて調査団を派遣する必要がある。
二.また、これまでも、我が国から開発途上国の中央政府に教育政策アドバイザーを派遣し、各国の教育事情の把握や協力案件の発掘等に寄与し、大いに有効であったので、今後とも必要に応じ、その方式の活用を図るように努める必要がある。

2 小、中、高等学校関係者による国際協力活動の推進
(1) 青年海外協力隊への現職教員の参加促進
一.現在、小学校、中学校及び高等学校の教員は合わせて90万人を超えるが、教育関連分野における開発途上国からの青年海外協力隊員派遣要請数(平成11年度は483名)に比べても、現職教員の参加者数は少なく(同年度で57名)、この分野で活動を行っている青年海外協力隊員の多くは教職未経験者である。
  今後、できるだけ多くの現職教員に、青年海外協力隊員として教育・人づくり分野の協力活動に参加するよう求めることにより、教職未経験者が参加する場合に比べて、途上国の教育現場で、より効果的な支援が期待できる。さらに、帰国後も、開発途上国の体験を日本の児童生徒への国際理解教育等に生かすことができる。
二. これまで、現職教員の参加については、校長等に事前の相談をせずに出願するケースや、派遣期間に事前研修等の期間を合わせると約2年3か月となるため、年度途中に職務を離れるか、又は復帰することとなり、学校現場のスケジュールと合わないなど、出願・選考手続及び派遣スケジュールに関する問題があった。加えて、都道府県によっては派遣中の公立学校教員給与の一部を負担(注6)することとしているため、予算事情から派遣人数の限界が生じることなどもあり、教員身分を有したまま新たに参加する公立学校教員は、開発途上国からの要請件数に比べ、前述のように低い水準にとどまっている。
三.青年海外協力隊への参加を希望する現職教員については、できるだけ多くの者が教員身分を有したまま参加できることが望まれる。したがって、これまで文部省及びJICAにおいて教員の現職参加推進のための措置を講じてきたが、今後はJICA、文部省及び都道府県教育委員会等が連携し、対象を現職教員に絞った特別な制度を設け、現職参加希望者の募集・選考作業を行うとともに、支障がより少なくなるようスケジュールの改善を図るほか、教員への広報活動、相談体制の充実及び参加経験を積極的に評価することなどにより、今後早急に現職参加者の大幅な増加がみられるように努めることが必要である。
四.また、帰国した青年海外協力隊員が教員に採用されることによっても、開発途上国での多様な経験を我が国の教育に役立てることが期待できるので、引き続き文部省から教育委員会に対し、協力隊への参加経験を教員採用選考において積極的に評価するよう働きかけることが必要である。また、NGOの事業における、開発途上国での協力活動の経験についても、採用選考において積極的に評価するよう働きかけるべきである。
(2) シニア海外ボランティア(注7)への現職・退職教員の参加促進
一.退職教員については、活動可能な年齢が高くなっており、十分な体力、能力、意欲及び豊富な経験を持った者が多く、かつ、海外派遣に関する制度的な制約が少ない。また、現在、初等中等教育教員については、シニア海外ボランティアの対象年齢である40歳以上の教員が多いことから、現職・退職教員を活用することにより、教育協力のニーズにこたえていくことが可能と考えられる。
二.このことからも、シニア海外ボランティアについて、現職及び退職教員の参加が促進されるよう、中堅以上の教員を対象に広報活動等の充実に努める必要がある。なお、現職教員の参加については、青年海外協力隊と同様、派遣期間中の身分や帰国後の処遇等の問題についても検討の上、促進のための環境整備を図る必要がある。
(3) 教育委員会による専門家派遣等への協力
一.JICAが文部省を通じて都道府県等教育委員会に要請を行い、「所属先人件費補てん制度」(注8)を活用しながら、公立学校教員等を専門家として一定期間職務として、現地に派遣することは、開発途上国の初等中等教育支援において重要な役割を担っているが、その件数は少なく(平成11年度は17件)、今後一層の推進が必要である。
二.また、開発途上国の初等中等教育支援に関する技術協力プロジェクト(例えばトルコ共和国の工業教育改善への群馬県教育委員会による支援など)については、特定の都道府県等の教育委員会が組織的、継続的に対応することにより、援助の実効性を高めるとともに、援助先との交流を継続的に深めている例もあるので、自治体間の国際交流が活発に行われていることを踏まえ、このような、いわば「一県一国支援」といった形により、教育委員会の主体的な取組を行うことも有効な方策の一つであると考えられる。

(4) 教育援助人材データベースの充実
一.現在、教育・人づくり分野においては、開発途上国や援助機関からの専門家等の派遣要請に必ずしも応じ切れていない状況にあるが、この原因としては、絶対的な人材不足のほか、活動内容等に応じて適切な人材を推薦し、派遣するシステムが整備されていないことが挙げられる。
二.このため、小、中、高等学校教員のうち、開発途上国での教育協力活動を希望する者を体系的に登録するための制度を創設するとともに、開発援助に関する研修の受講等を促進することが重要である。大学関係者の人材データベースを合わせ、常時1万人程度を目途に、総合的な教育援助人材データベースの構築と維持を図ることが望ましい。
三.その構築に当たっては、個人情報を保護しつつITを活用することにより、援助機関が予定する援助案件や協力活動の内容等に応じ、開発援助人材が「適材適所」で活用されるよう、既存のデータベースとも緊密に連携しつつ、システムの充実を図ることが望まれる。

3 大学関係者等による国際協力活動の推進
(1) 国際教育協力研究センターの整備充実及び機能強化
一.最近、教育・人づくり分野以外のODA事業においてもソフト面を重視することの必要性が強調され、それに伴い学識経験者の役割が高まり、大学教員の開発途上国への短期派遣のニーズが増大している。
 また、教育政策アドバイザーや教育・人づくり分野の技術協力については、長期派遣の必要性も高まっているが、他方で派遣すべき人材の不足や適切な人材を派遣するシステムの欠如が指摘されており、人材の確保と派遣の円滑化が急務となっている。
二.このため、教育協力に関する人材データベースの整備や援助事例に関するノウハウの蓄積を図りつつ、教育協力に関する大学間の連携・協力を促進するための拠点的機能を果たす機関として、近年、国際教育協力研究センターが、教育、農学及び医学の各分野ごとに一つずつ、国立大学に設置されてきている。
三.今後、教育協力に関するニーズの高い分野の国際教育協力研究センターの整備に努めるとともに、各センターにおいて、JICAの国内センター等とも連携を図りつつ、機能の充実を図ることが望まれる。
(2) 援助機関等からの経費の受入れによる人材の確保
  一般に大学は、担当する分野の援助事業に自ら参画する能力を有していても、定員に余裕がないため、人材を現地に派遣することなどについて、ニーズに十分こたえることが困難になっている。したがって、大学が開発援助事業に一層積極的に協力していくためには、援助機関等から経費を受け入れるなどして講座等を設置し、人材を確保して具体の援助事業にも活用できるようにすることが望まれる。
(3) 退職教員の活用
一.退職教員については、活動可能な年齢が高くなっており、十分な体力、能力、意欲及び豊富な経験を持った者が多く、かつ、海外派遣に関する制度的な制約も少ないことから退職して間もない教員を長期派遣専門家又はシニア海外ボランティアとして活用することは、派遣すべき人材の充実を図る上で有効である。
二.このため、退職後の長期派遣をスムーズに行えるよう、教育協力に関するニーズの高い分野の教員や退職後の派遣を希望する教員を対象に、前述の教育援助人材データベースに国際教育協力研究センター等から登録する制度を設けるとともに、現職教員である間に専門家等の短期派遣による途上国支援の経験を持たせることが望ましい。
(4) 開発途上国における教育協力活動の評価等に関する検討
 各大学等が、教育協力に進んで参画することにより、大学の国際化に資するとともに、その経験を通して教員の視野を広げ、教育能力等を高めていくことができると考えられる。このため、教育協力に関する教員、研究者の取組や学内の組織的な取組を学内で積極的に評価する姿勢が望まれる。

4 コンサルタント業務における大学の機能の活用
(1) 教育協力に関するコンサルタント業務への参画
一.ODAにおいて、コンサルタントは、援助機関からの委託を受けて、各種の調査や実施に関する業務に従事し、協力案件全体の円滑な実施に重要な役割を果たすものであり、我が国でも建設分野などで多数の企業コンサルタントが活躍している。
二.近年、教育の分野においても、協力のニーズが高まってきていることから、コンサルタント業務に従事する人材で、教育に関する知見を有する者を確保するか、又はコンサルタント業務に教育関係者が参画することが求められている。
三.しかしながら、教育・人づくり分野については、コンサルタント業務を行う能力を十分に備えた組織が我が国では十分に育っていない現状にあり、教育関係のコンサルタント業務を担う組織をなるべく早期に育成していくことが期待されるとともに、これに大学教員等が協力していくことが望まれる。
(2) 開発援助に関する受託研究(注9)の推進
一.前述のように、教育に関するコンサルタント業務を行う組織が我が国では十分に育っていないが、特定分野で複数の専門的人材が組織的に対応できるといった大学の特性を活用することが可能である。また、大学と援助機関又はコンサルタントとの間で、開発援助に関する受託研究契約を締結することにより、大学が開発援助に関する調査、実施、評価等の各般の業務に対して組織的に対応することが容易となるので、委託者の意向を十分踏まえた契約内容となるように配慮しつつ、今後、受託研究を推進する必要がある。
二.今後、我が国の大学が国内の援助機関だけでなく、国際援助機関の事業や調査研究についても積極的に受託するよう、開発援助に関する受託研究に取り組んでいくことが期待される。
(3) コンサルタント業務に関する兼業許可
一.専門的知識の豊富な大学教員は、開発援助に関するコンサルタント業務について、助言を行うことなどにより協力することが可能である。国立大学教員は、国家公務員法(第104条)に基づく兼業の許可を受けることにより、関係者の要請にこたえ報酬を受けてコンサルタント業務に個人的に協力することが可能である。
二.今後、各国立大学は、国立大学教員が開発援助に関する各種の調査、実施に参画する際には、ODAにおけるコンサルタントの役割の重要性を考慮し、兼業許可制度の積極的な活用を図っていくことが必要である。

5 開発援助人材の育成体制の充実
(1) 開発大学院における実践的人材の育成体制の充実
一.近年、各分野の開発援助に関する研究科、専攻又はコースが、国立及び私立大学の大学院に開設されてきている(開発大学院)。これらの研究科等では、開発途上国から多数の留学生を受け入れる一方、学生の国際的な業務分野への就職についても一定の成果を上げている。しかし、国際機関等で活躍する高度に実践的な援助人材を多数輩出するには至っておらず、国際協力以外の分野に就職する卒業生も少なくない現状となっている。
二.教育内容としては、国際機関等への就職にも生かすことのできる専門性の育成を重視しつつ、開発途上国における現地実習、国内の援助関係機関における実務実習などを行うとともに、実務家や外国人客員の活用等により講師陣の多様化を図り、より実践的なものとすることが望まれる。また、大学院によっては、社会人のための夜間開講を行うことも期待される。
三.また、学位取得後の進路として、国際機関等への就職などを目指した、高度に実践的な人材育成を行っていくことが望まれるほか、今後教育協力を含め、政府開発援助に関する評価事業が活発化、多様化することが予想されることから、政策等の評価を行い、又は研究する人材を開発大学院で育成することも期待される。
(2) 短期の現職研修プログラム等の充実
第一線で実務に携わる専門家に対しては、短期間で効率的にその能力を向上させるような研修機会の充実に取り組むことが重要である。このため、大学等による、現職教員等に適した開発援助に関する知識や語学の修得のための研修プログラムの提供が期待される。また、JICAの専門家養成研修として、開発援助や教育協力に関する研修が行われているが、これらの研修機会が、より効果の高いものとなるよう、文部省から大学等を通じて適切に受講者を募る必要がある。

6 国際的な遠隔教育プログラムの開発等
 今後の各種のIT関連技術の進歩により、いずれは従来型のインフラが未整備な地域においても遠隔学習が可能となり、開発途上国にいながらにして世界中の遠隔教育プログラムにアクセスし、単位や学位の取得が可能になるものと予想される。
 既に諸外国の一部の大学では、インターネットなどにより、国際的な遠隔教育を始めており、今後、各国の大学により、国際的な自由競争が展開されていくものと考えられる。我が国の大学がITを活用した国際的な遠隔教育に参入することは、開発途上国への知的支援となるだけでなく、日本の大学教育が、国際的な魅力と競争力を備えたものに発展していく契機にもなると考えられる。
 既に本懇談会では、当面の方策として、既存のインフラを活用しつつ、ODAとしての遠隔教育・研修にITを活用するための調査研究を行うことや、その中で、放送大学をはじめ関係省庁・機関等との連携により、日本語教育を含む遠隔教育・研修プログラムの研究開発を行うことなどを提言した。
 今後とも、我が国における国際的な遠隔教育プログラムの開発や実施に向けての取組が加速されることが期待される。

7 外国人留学生及び研修員の受入れ体制の充実
(1) 留学生の受入れ体制の充実
一.我が国の教育協力において、留学生受入れ事業は重要な役割を担っており、その中でも、文部省の国費留学生制度等が大きなウエートを占めている。高等教育において、我が国が今後一層教育協力を推進していくためには、この国費留学生制度等の施策を継続的に充実していくことが必要である。
二.我が国への留学が、開発途上国の学生にとって、より魅力的なものとなるよう、渡日前入学許可の推進等による留学生の入学選考システムの改善、入学時期の多様化、英語による講義の拡充などを含む各大学等における留学生受入れ体制の一層の充実が望まれる。
三.また、留学生のための低廉で良質な宿舎の確保は、留学生受入れの重要な環境整備であるので、特に宿舎の不足が深刻な地域では、国、大学、地方公共団体、公益法人、民間企業の関係機関等が連携しつつ、多様な方法で宿舎確保を図る必要がある。
(2) 学位授与プログラム等の拡充
一.近年、関係省庁・機関の連携により、円借款(留学生借款)の供与や、無償資金協力(留学生支援無償)等による新たな事業が実施され、開発援助の一環としての留学生受入れの方途が広がりつつある。これらの制度がさらに広く活用されるようにしていくためにも、学位取得への要望なども踏まえた、開発途上国のニーズに合った多様なコースなどがより多くの大学に置かれることが重要である。また、留学生借款については資金が有償であることから、開発途上国による借款活用を促進するためには、留学生及び母国の双方にとって魅力あるプログラムの整備が期待される。
二.このような観点から、最近積極的に検討が進められている「ツイニング・プ ログラム」(日本留学の前に大学教育の一部を外国の高等教育機関で実施し、 残りの教育を日本の大学で行い、学位を授与するもの)などは特に高く評価で きるものである。このような我が国の新たなプログラムや制度については、各 大学において導入を検討していくとともに、開発途上諸国での周知を図り教育 機関・学生の積極的な参加が得られるよう、情報提供を行う必要がある。
三.JICAでは、開発途上国の人づくり協力の一環として「研修員」を我が国に招き、数週間から1年程度我が国の大学の各種のコースに受け入れている(平成11年度は561名)。その際、教育内容や研修員の在留資格等によっては、科目等履修生の制度を活用することにより、単位を認定する課程とするなど、コースの一層の多様化が望まれる。
(3) 外国人留学生による実務実習(インターンシップ)の推進
一.我が国への外国人留学生の多くは、日本の企業や産業技術に関心を持っている。日本で受けた教育や研修の効果を高めるとともに、日本の社会や産業への理解を深めるためにも、在学中に、大学の指導・管理の下で、企業や官公庁において行う実務実習(インターンシップ)の機会を拡大することが重要である。
二.このため、一部の民間企業等では既に我が国や外国の大学に在学する学生のインターンシップを受け入れているが、文部省などの官公庁においても留学生を対象とするインターンシップを試行的に開始し、その結果や留学生等の要望を踏まえつつ、順次拡充を図っていくことが期待される。また、大学等においても、留学生がこの制度を活用しうるよう積極的に取り組むことが期待される。
(4) 派遣中の大学教員による留学生や研修員等の推薦
 技術協力の機会を生かし、開発途上国の優秀な人材に対し、我が国での高度な研修等の機会を与えるため、我が国から開発途上国の高等教育機関等に長期専門家として派遣されている教員が、日本に派遣する留学生や研修員の募集・選考において在外公館と連携することも有益である。このことから、教員が優秀な人材を見出し、日本に派遣する留学生や研修員として推薦した場合には、これに配慮することが望ましい。
(5) 開発途上国における日本留学・研修経験者の活用
 開発途上国に、優れた専門性を有する帰国留学生や日本での企業研修等の経験者がいれば、これを雇用して我が国による現地の援助事業に従事することができるので、援助機関において、帰国留学生や日本での企業研修等の経験者のその後の状況の把握と活用に努めることが期待される。


Ⅳ おわりに
 本懇談会は、短い期間で精力的に議論を行い、開発援助人材の養成・確保に 関する提言を中心に本報告をまとめたものであり、今後、本報告における各種 の提言が具体的に実施されることを期待する。教育・人づくり分野の援助方策 や、本報告で提言した施策の一部に関しては、引き続き専門家レベルでの検討 が必要と考える。
 さらに、本懇談会において、一定期間のフォローアップを行うこととしたい。



(注1) 「世界教育フォーラム」
 1990年の「万人のための教育(EFA: Education for All)」会合(1990年にタイのジョムティエンで開催)に引き続き本年4月に同趣旨の世界教育フォーラムがダカール(セネガル)で開催された。
 180か国の政府代表、31の国際機関、関連NGO等が出席し、2015年までにすべての児童に無償初等教育へのアクセスを確保するなどの内容を含む「行動の枠組み(Dakar Framework for Action)」をとりまとめ、今後ユネスコを中心にフォローアップを行うこととした。
 今後、すべての国が国内計画を立案・実施することとなっており、アジア太平洋などの各地域ごとに各国の国内計画について協議を行うとともに、各国際機関や先進国が必要な協力を行うことを期待されている。
(注2) 「有償資金協力」
 開発途上国に対し長期低利の緩やかな条件により資金を貸し付けるものをいう。「円借款」とも呼ばれる。
(注3) 「無償資金協力」
 被援助国である開発途上国に返済義務を課さないで資金を供与する形態の援助をいう。
(注4) 「技術協力」
 開発途上国の国造りを担う人材の育成等に協力するため専門家の派遣、研修員の受入れ及び機材の供与等を行う協力。
(注5) 「総合的な学習の時間」
 各学校が創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開し、国際理解、情報、環境、福祉、健康など横断的・総合的な学習などを行う時間。
 新学習指導要領(平成10年度改訂)により創設され、小学校3学年以上から週当たり3時間程度、中学校では週当たり2~4時間程度、高等学校では卒業までに3~6単位配当される。
 新学習指導要領の実施は平成14年度からであるが、平成12年度からの移行措置により多くの学校が「総合的な学習の時間」を適切な授業時数で実施している。
 なお、小学校においては、国際理解に関する学習の一環として、外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなどの活動を行うことができるようになっている。

(注6) 「派遣中の公立学校教員給与の一部を負担」
 現在、青年海外協力隊に参加する現職教員については、派遣される教員の給与の8割がJICAから都道府県に人件費として補てん(所属先人件費補てん制度)されているが、都道府県によっては、青年海外協力隊に参加する場合、派遣中も給与の10割を支給することとしており、JICAからの補てん分を除く2割を都道府県が負担していることから、予算事情により一定人数以上の参加が困難となっている。
 他方、一部の都道府県においては、派遣される教員の給与をJICAから補てんされる上限額である8割のみを支給し、残り2割を支給しないが、JICAの選考に合格した教員の派遣を基本的に認めるよう取り扱っている。
(注7) 「シニア海外ボランティア」
 開発途上国からの技術援助の要請にこたえることと、中高年の開発途上国への貢献希望を実現させることを目的として、派遣先国の公的機関に所属し、指導、助言、調査等を通じて開発途上国の人材に技術移転を図ることにより、人づくりひいては国造りに協力するもの。派遣期間は1年ないし2年で、年齢は40歳から69歳(派遣時)となっている。
(注8) 「所属先人件費補てん制度」
 海外に派遣される専門家の派遣期間中も所属先が給与等を支払う場合には、所属先からの申請に基づき、所属先が支払った給与等をJICAが規定限度額内で補てんする。また、自家営業主や所属先のない専門家についてもJICAの算定により本人に直接支給される。
 なお、国家公務員の場合には、「派遣法」(「国際機関等に派遣される一般職の国家公務員の処遇等に関する法律」)の適用により国が措置することから、JICAによる補てんは行われない。
(注9) 「受託研究制度」
 国立大学等において外部からの委託を受けて委託者の負担する経費を使用して公務として研究し、その成果を委託者へ報告する制度である。受託研究は、当該研究が国立大学等の教育研究上有意義であり、かつ、本来の教育研究に支障を生じるおそれがないと認められる場合に行うことができる。
 

-- 登録:平成21年以前 --