3.我が国が取り組むべき国家基幹技術

 国家として取り組むべき国家基幹技術プロジェクトと、これを達成するために必要不可欠な重要基盤技術は以下のとおり。

3-1.国家基幹技術プロジェクト

(1)次世代の海洋資源開発に向けた技術開発プロジェクト

 我が国は、世界第6位といわれる排他的経済水域(EEZ)等を抱え、その周辺海域には世界でも有望と言われるメタンハイドレートや海底熱水鉱床等の存在が確認されている。また、我が国における海洋資源に期待が高まる中、例えば、海洋資源開発に係る海洋構造物の世界の市場規模は、2010年時点で3.8兆円だったものが、2020年には10兆円超に成長する見通しであるなど、世界的にも海洋資源開発を中心とした関連市場は、大幅に拡大することが見込まれている。新たな海洋基本計画においても、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の海洋資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められているなど海洋の開発・利用を進め、海洋分野のイノベーションを推進するとともに、海洋産業の振興と創出を図ることが期待されている。以上を踏まえ、我が国として、以下のような海洋資源の開発や産業化のために必要な技術基盤を早急に獲得する必要がある。
 海洋資源開発において核となり、かつ必要不可欠である基盤技術として、広大な海域から迅速かつ効率的に有用資源の存在を確認する探査技術、資源を経済的に生産する生産技術、開発と環境の保全を両立していくための環境影響評価・管理技術の3つがあげられる。以下に、これら3つの技術開発プロジェクトについて記すが、中長期的な産業戦略の観点からは、資源の探査・掘削・生産等に係る個別の機器開発のみに注力するのではなく、資源開発の計画策定からシステム設計・建設、生産システムの運営・維持管理のサービス提供までをパッケージ化することにより、将来、我が国の資源開発関連産業が資源開発ビジネスで国際展開を目指すことを目標とする必要がある。

(ア)次世代海洋資源調査システム

 我が国周辺海域には多くの有用資源が存在していることが分かっているが、民間企業が資源開発に参入する上では、資源ポテンシャルを正確かつ効率的に把握するための技術開発が必要である。そのため、海洋資源について、広域を効果的・効率的に探査するシステムの開発が求められる。新たな海洋基本計画において、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められていることを踏まえれば、平成30年度までには現時点では確立していない海底下の鉱物資源を探査する技術を確立するとともに、海底資源調査において、現在行われている詳細な海底地形情報や海底下鉱物資源情報の取得を2倍以上のスピードで行うシステムを開発する必要がある。
 同システムの開発においては、我が国が得意とするロボット技術やセンサー技術をコア技術として用いるとともに、音響通信技術、複数無人探査機運用技術、衛星通信技術等を統合化することが必要である。我が国がこれまでに開発してきた自律型無人探査機(AUV)や遠隔操作型無人探査機(ROV)を有効に活用し、更に我が国が先導する技術を統合し機能を高度化することにより、世界に類をみない非常に有効かつ調査ニーズに適した開発が期待される。また、開発成果を民間に技術移転することにより、民間の手で短期間にEEZの広域資源調査を実施することが可能となるとともに、将来的には国際的に資源調査ビジネスを展開することが期待される。
 なお、太平洋島嶼国や東南アジアは、我が国にとって非常に重要な経済上、外交上のパートナーであるとともに、周辺海域に多くの海洋資源を有していると考えられている。次世代海洋資源調査システムをこれら国々に展開することは、外交上極めて戦略的なツールになり得る。

(イ)次世代海洋エネルギー・鉱物資源生産システム

 我が国の周辺海域においては、世界でも有望と言われるメタンハイドレートや海底熱水鉱床等の存在が確認されているが、天然ガスや金属鉱物として経済的、技術的に生産することができなければ、真に「資源」とはなり得ない。このため、世界に先駆けてメタンハイドレート、海底熱水鉱床等を開発するための「次世代海洋エネルギー・鉱物資源生産システム」を確立し、将来の国際産業展開や安全技術基準作り、環境対策等を主導する。新たな海洋基本計画において、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められていることを踏まえ、海洋エネルギー・鉱物資源開発計画に沿って、平成30年度までに生産手法の実証等を実施する。
 具体的には、メタンハイドレート開発においては、まずは、既に確立している石油・天然ガスの開発技術をベースとして、メタンハイドレートの特性を踏まえた商業化に必要な技術開発を行うことが必要である。
 また、海底熱水鉱床等の開発については、深海底で鉱石を掘削する浚渫機や採掘機を始め、視界不良の深海で無人作業を可能にする各種センサー、強い海流と波浪が併存する厳しい環境で採鉱・揚鉱を支える浮体、生産物積み出しに係る舶用機器等、陸域用、海域用を問わず幅広い既存技術、新規技術が求められる。こうした前例のない生産技術を確立するためには、基礎・基盤的研究の積み重ねに加えて、実海域での実証試験が不可欠である。

(ウ)次世代環境影響管理システム

 海底資源開発においては、これに伴う環境影響を評価するとともに、開発時における環境への影響を適切に監視・管理することが必要不可欠である。長期にわたる資源開発期間を通じて、深海において物理的・化学的データを計測するとともに、生態系への影響を評価するために必要な生物データを取得することが必要であるが、その手法はまだ確立されていない。海底資源の商業開発に向けた取組が進められている現状にあっては、環境への影響監視や現場管理のため、海底をモニタリングするシステムの構築が早急に求められる。新たな海洋基本計画において、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められていることを踏まえれば、長期的な海底モニタリングが可能で、実用にも耐えうるシステムの構築に向けた開発に着手する必要があり、例えば、平成30年代前半までに長期にわたり継続的に環境影響の監視と管理を行い得るシステムを構築することが重要である。より具体的には、一定程度の範囲(数km×数km程度)の海域において、様々な環境要素を継続的・長期的に観測するため、電力の供給やリアルタイムでのデータ伝送が可能な海底ケーブル式の観測プラットフォームを中心に、長時間稼働するセンサーやグライダーなどの技術を組み合わせたシステムを構築する。また、水中で位置情報を把握するための音響用灯台及び給電・データ読み取りステーション技術等の確立により、海中ロボットによる観測も統合した高精度な観測システムを目指す。さらに、海底資源開発の環境影響評価については、国際的な基準がまだ確立されていないが、本システムによって得られる高精度の現場データを活かした現状把握、我が国が蓄積している深海に関する科学的知見を活用した開発による影響予測とその検証、科学に基づく評価というスキームを構築できれば国際的な基準として確立することが期待できる。日本が発信する環境影響評価手法が国際的に確立されれば、本分野において我が国がリーダーシップを発揮することも可能である。一方、本システムを構成する技術は、今後の海洋開発において非常に汎用性が高い重要技術でもあることから、広範な波及効果が期待できるだけでなく、我が国において大きな課題である遠隔離島や国境離島の保全や管理においても大きな役割を果たすものである。

(2)次世代広域海洋環境観測システム

 地球温暖化をはじめとした様々な気候変動の予測と適応策の検討は世界的に喫緊の政策的課題であり、新たな海洋基本計画においても、我が国として国際的に貢献していくことを目指すとされている。このため、二酸化炭素吸収量の変動予測など大きな不確実性が残されている部分を中心に定量化を行うなど、気候変動予測の精度を高めていくことが求められることから、季節海氷域を含む北極海、南大洋や沿岸域を含めた広域の重要海域において、海表面から海中深部までの様々な物理・化学・生物データを充実させる必要がある。このためには、各種センサー技術、自動観測システム、海中情報伝達システムなどの開発、地球観測衛星との連携、得られる情報の集約・分析など、重要技術を高度に統合したシステムが必要であり、新たな海洋観測システムの展開とそのデータを用いた高精度季節予測手法の確立や気候変動リスク監視を達成するシステム開発を平成30年度までに構築する。より具体的には、スーパーサイト観測システムや自走式環境変動観測システム、超小型プロファイリングフロート観測網など、得られる海洋情報の質を飛躍的に高めるための技術開発を行うとともに、得られた情報を統融合するシステムを構築する。
 このシステムにより、気象・気候分野だけでなく水産や沿岸管理等への活用や、海洋再生可能エネルギーの資源量調査への利用も期待される。また、我が国周辺の環境を我が国の技術で観測することは、安全保障上の観点や海洋開発を進める上でも重要である。

(3)未踏領域探索システム

 海洋には多くの未踏のフロンティアが存在しているが、地球や生命の誕生メカニズムや変遷を示す現象、さらには未知の生命圏の存在などの多くは、海外においても研究が進んでいない。これらを解明・発見することは、人類共通の知的財産を創造・蓄積するだけでなく、海溝型巨大地震への対応、水産資源の管理、海洋の生物多様性の確保、海洋生物の有用資源としての活用など社会的課題の解決や産業への応用展開などが期待される。
 このため、これまで我が国が世界を先導してきた深海探査技術や深海掘削技術をより高度化し、海洋の世界最深部である11,000mでの調査活動を行う次世代有人潜水調査船や、前人未到のマントル掘削を実現する超深海掘削技術など超深海へのアクセスを可能にし、新たな科学的知見を獲得するためのシステムを構築する。次世代有人潜水調査船については、より高圧環境でも繰り返し使用可能な耐圧殻の開発や潜航時間の長時間化に対応可能な蓄電池等が必要となることから、早急に必要となる要素技術の検討を開始し、平成30年代中頃までに有人潜水調査船全体システムを開発する。超深海掘削技術については、超深海という極限環境下での掘削に必要となる新たな素材等を用いた高強度掘削資材、掘削制御技術、超高精度の船位保持技術等の開発、さらにはこれらの技術を組み合わせた運用システムが必要となる。特に超大水深・超大深度の海底へのアクセスに必要となる新素材を使用した高強度掘削資材によるシステムを平成30年度までの実用化を目指す。

(4)次世代海洋再生可能エネルギー発電システム

 四方を海に囲まれた我が国においては、再生可能エネルギーのうち、洋上風力、波力、潮流、海流、海洋温度差等、海域において利用可能な再生可能エネルギー(以下「海洋再生可能エネルギー」という。)の潜在力があることが期待されている。例えば洋上風力の理論的潜在量としては、我が国領海及び排他的経済水域に約1,500GWに相当する発電設備の設置が可能との試算もある。海洋再生可能エネルギーを利用した発電システムを我が国におけるエネルギー供給源の一つとして活用する環境を整備することは、我が国にとって重要な課題であり、温室効果ガスの排出削減による持続可能な低炭素社会の構築の観点からも、積極的に推進していく必要がある。
 海洋再生可能エネルギーを利用した発電システムの実用化に向けては、海洋という厳しい気象・海象条件の中で安全かつ効率的に発電することが必要である。このため、装置の発電効率や耐久性の向上、監視・制御システムの高度化、安全性の担保、設置・メンテナンス技術の確立等に取り組むことが必要である。

3-2.重要基盤技術

 上記の国家基幹技術プロジェクトを達成するに当たり、深海底における海洋資源開発に必要なサブシー技術をはじめとして、共通基盤となる主な重要基盤技術は以下のとおりである。

  • 有人潜水調査船・無人探査機技術
  • 水中音響・通信技術
  • 海洋エネルギー・鉱物資源開発・生産技術(採鉱・揚鉱技術等)
  • 浮体位置保持・係留技術
  • 環境影響評価技術
  • ケーブル式海底観測プラットフォーム技術
  • 海象・気象予測・計測技術
  • 衛星観測技術
  • 深海底~洋上~衛星~陸上リアルタイムデータ通信技術
  • 超大深水・超大深度掘削技術

 また、上記の重要基盤技術を支えるためには、計測技術、機械工学、材料・素材技術、プラント技術、情報通信技術などの要素技術が必要である。これらの要素技術は、海洋分野のみならず、あらゆる分野の産業や研究に大きな波及効果を及ぼすものであり、我が国の競争力の源泉とも言えることから、我が国として常に先端的な研究開発を継続していくことが必要である。

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