資料2 海洋国家基幹技術の推進~海洋立国日本を目指して(案)

1.はじめに

 世界的な人口増加によるエネルギー・資源のひっ迫化、地球温暖化による世界的な地域環境や海洋環境の変化、グローバル化の進展による産業構造の変化等、我が国をとりまく情勢が大きく変化している。このような中、新たな海洋基本計画(本年4月閣議決定)が策定され、今後5年間の我が国が取り組むべき方針が示された。
 我が国が海洋立国として発展していくためには、新たな海洋基本計画を具現化していく必要があるが、このための技術的基盤は必ずしも確立していない。必要な技術的基盤を確立・獲得することは、我が国が直面している取り組むべき課題の達成のみならず、技術の産業展開や国際展開をも視野に入れると、国内の海洋産業の振興と創出や世界の中でのプレゼンスの向上にもつながることから、極めて重要である。このため、海洋分野における国家基幹技術検討委員会(以下、「当委員会」と言う。)において、中長期的な展開を視野に入れた上で、新たな海洋基本計画の具現化のため国を挙げて取り組むべき、国家存立の基盤となる海洋分野の国家基幹技術の在り方について検討を行った。
 この検討を通じ、当委員会は我が国が取り組むべき国家基幹技術プロジェクトを選定するとともに、プロジェクトを支える重要基盤技術、国家基幹技術プロジェクト遂行に当たっての体制、及び必要な人材育成について提案をとりまとめた。これらはいずれも、海洋資源の積極的な開発・利用に対する期待や、深海底及び海底下に存在する生物圏など新たな発見や理解に向けた挑戦に応え、海洋立国として発展していくために必要な取組であると考えており、国を挙げての取組を期待したい。

2.国家基幹技術の検討の視点

 当委員会において国家基幹技術について検討するに当たっては、我が国が海洋立国として目指す目標を達成するためには何が必要であるかという観点から検討を行った。より具体的には、個別技術からボトムアップ的に検討するのではなく、目標達成を念頭に置いたトップダウン的なアプローチで必要な技術の検討を行った。検討の過程では、様々なとらえ方で技術が議論された。まず、目標達成のために直接的に貢献する技術を考えると、これは個別重要技術をシステム化・統合化した比較的巨大な総合技術であり、例えば、海洋資源開発に係る技術といったものが挙げられる。当委員会では、このような考え方に基づく総合技術を「国家基幹技術プロジェクト」と位置づけた。また、このような総合技術を支える、例えばサブシー技術などの共通基盤的な技術について焦点が当てられ、中でも特に重要なものを「重要基盤技術」と位置づけた。当委員会においては、「国家基幹技術プロジェクト」及び「重要基盤技術」を併せて、「国家基幹技術」と位置づけることとした。これらの技術を支える個別要素技術は、競争力の源泉として他の産業への展開を図っていくべきものであり、当委員会においては、この点も議論された。
 今次検討においては、以上のような考え方を基に我が国として取り組むべき国家基幹技術プロジェクトを選定した。この検討の考え方は以下のとおりである。

(1)検討の前提

  • 国家基幹技術は、新たな海洋基本計画における海洋国家日本の目指すべき姿※を実現するために必要であり、国が取り組むべき重要技術とする。
  • 国家基幹技術は、目標達成に直接的に資する個別技術をシステム化・統合化した総合技術と、これを共通的に支える重要な基盤技術とし、前者を「国家基幹技術プロジェクト」、後者を「重要基盤技術」と位置づける。

※海洋国家日本の目指すべき姿

○国際協調と国際社会への貢献
 -アジア太平洋を始めとする諸国との国際的な連携を強化。
 -法の支配に基づく国際海洋法秩序の確立を主導し、世界の発展・平和に貢献。
○海洋の開発・利用による富と繁栄
 -海洋資源等、海洋の持つ潜在力を最大限に引き出し、富と繁栄をもたらす。
○「海に守られた国」から「海を守る国」へ
 -津波等の災害に備えるとともに、安定的な交通ルートを確保。
 -海洋をグローバルコモンズ(国際公共財)として保ち続けるよう積極的に努める。
○未踏のフロンティアへの挑戦
 -海洋の未知なる領域の研究の推進による人類の知的資産の創造への貢献。
 -海洋環境・気候変動等の全地球的課題の解決に取り組む。

(2)選定における評価軸

  • 将来、高い競争優位性を有するか
  • 国際展開の可能性と国際貢献への効果が高いか
  • 産業展開の可能性が高いか
  • 期待される効果・効用が大きいか
  • 波及効果が高い基盤的・根源的なものであり先導性があるか
  • 日本ならではの視点があるか、他国では成り立たない技術戦略かどうか、他国との差別化がなされているか
  • 今着手しなければならない必然性があるかどうか

(3)選定の際の留意事項

  • 技術の検討に当たっては海洋分野のみならず全分野を視野に入れる
  • 産業展開、国際展開につなげることを考慮する・技術のソフト面やオペレーション面にも考慮する
  • 国家基幹技術を開発していくための体制も検討する
  • 中長期的な視点で技術の蓄積や人材の育成を行っていくことを念頭に置く
  • 我が国が、優位性を有する技術と、技術が確立しておらず中長期的な開発を要する技術があることを考慮する
  • 優位性を有する技術については、国際標準化を目指すことも考慮する
  • 我が国が優位性を持っていない技術については、時間的観点や波及効果などを考慮し、国家基幹技術として時間をかけても新たに開発を行うのか、海外から安く調達することにより措置するのか検討する

3.我が国が取り組むべき国家基幹技術

 国家として取り組むべき国家基幹技術プロジェクトと、これを達成するために必要不可欠な重要基盤技術は以下のとおり。

3-1.国家基幹技術プロジェクト

(1)次世代の海洋資源開発に向けた技術開発プロジェクト

 我が国は、世界第6位といわれる排他的経済水域等を抱え、その周辺海域には世界でも有望と言われるメタンハイドレートや海底熱水鉱床等の存在が確認されている。また、我が国における海洋資源に期待が高まる中、例えば、海洋資源開発に係る海洋構造物の世界の市場規模は、2010年時点で3.8兆円だったものが、2020年には10兆円超に成長する見通しであるなど、世界的にも海洋資源開発を中心とした関連市場は、大幅に拡大することが見込まれている。新たな海洋基本計画においても、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の海洋資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められているなど海洋の開発・利用を進め、海洋分野のイノベーションを推進するとともに、海洋産業の振興と創出を図ることが期待されている。以上を踏まえ、我が国として、以下のような海洋資源の開発や産業化のために必要な技術基盤を早急に獲得する必要がある。
 海洋資源開発において核となり、かつ必要不可欠である基盤技術として、広大な海域から迅速かつ効率的に有用資源の存在を確認する探査技術、資源を経済的に生産する生産技術、開発と環境の保全を両立していくための環境影響評価・管理技術の3つがあげられる。以下に、これら3つの技術開発プロジェクトについて記すが、中長期的な産業戦略の観点からは、資源の探査・掘削・生産等に係る個別の機器開発のみに注力するのではなく、資源開発の計画策定からシステム設計・建設、生産システムの運営・維持管理のサービス提供までをパッケージ化することにより、将来、我が国の資源開発関連産業が資源開発ビジネスで国際展開を目指すことを目標とする必要がある。

(ア)次世代海洋資源調査システム

 我が国周辺海域には多くの有用資源が存在していることが分かっているが、民間企業が資源開発に参入する上では、資源ポテンシャルを正確かつ効率的に把握するための技術開発が必要である。そのため、海洋資源について、広域を効果的・効率的に探査するシステムの開発が求められる。新たな海洋基本計画において、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められていることを踏まえれば、平成30年度までには現時点では確立していない海底下の鉱物資源を探査する技術を確立するとともに、海底資源調査において、現在行われている詳細な海底地形情報の取得を約2倍のスピードで行うシステムを開発する必要がある。
 同システムの開発においては、我が国が得意とするロボット技術やセンサー技術をコア技術として用いるとともに、音響通信技術、複数無人探査機運用技術、衛星通信技術等を統合化することが必要である。我が国がこれまでに開発してきた自律型無人探査機(AUV)や遠隔操作型無人探査機(ROV)を有効に活用し、更に我が国が先導する技術を統合し機能を高度化することにより、世界に類をみない非常に有効かつ調査ニーズに適した開発が期待される。
 なお、太平洋島嶼国や東南アジアは、我が国にとって非常に重要な経済上、外交上のパートナーであるとともに、周辺海域に多くの海洋資源を有していると考えられている。次世代海洋資源調査システムをこれら国々に展開することは、外交上極めて戦略的なツールになり得る。

(イ)次世代海洋エネルギー・鉱物資源生産システム

 我が国の周辺海域においては、世界でも有望と言われるメタンハイドレートや海底熱水鉱床等の存在が確認されているが、天然ガスや金属鉱物として経済的、技術的に生産することができなければ、真に「資源」とはなり得ない。このため、世界に先駆けてメタンハイドレート、海底熱水鉱床等を開発するための「次世代海洋エネルギー・鉱物資源生産システム」を確立し、将来の国際産業展開や安全技術基準作り、環境対策等を主導する。新たな海洋基本計画において、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められていることを踏まえ、海洋エネルギー・鉱物資源開発計画に沿って、平成30年度までに生産手法の実証等を実施する。
 具体的には、メタンハイドレート開発においては、まずは、既に確立している石油・天然ガスの開発技術をベースとして、メタンハイドレートの特性を踏まえた商業化に必要な技術開発を行うことが必要である。
 また、海底熱水鉱床等の開発については、深海底で鉱石を掘削する浚渫機や採掘機を始め、視界不良の深海で無人作業を可能にする各種センサー、強い海流と波浪が併存する厳しい環境で採鉱・揚鉱を支える浮体、生産物積み出しに係る舶用機器等、陸域用、海域用を問わず幅広い既存技術、新規技術が求められる。こうした前例のない生産技術を確立するためには、基礎・基盤的研究の積み重ねに加えて、実海域での実証試験が不可欠である。

(ウ)次世代海洋監視・管理システム

 海底資源開発においては、これに伴う環境影響を評価するとともに、開発時における環境への影響を適切に監視・管理することが必要不可欠である。長期にわたる資源開発期間を通じて、深海において物理的・化学的データを計測するとともに、生態系への影響を評価するために必要な生物データを取得することが必要であるが、その手法はまだ確立されていない。海底資源の商業開発に向けた取組が進められている現状にあっては、環境への影響監視や現場管理のため、海底をモニタリングするシステムの構築が早急に求められる。新たな海洋基本計画において、メタンハイドレートや海底熱水鉱床の資源開発について、平成30年代後半以降の商業化を見据えた取組が求められていることを踏まえれば、長期的な海底モニタリングが可能で、実用にも耐えうるシステムの構築に向けた開発に着手する必要があり、例えば、平成30年代前半までには数年間にわたり環境監視・管理を行うシステムを構築することが考えられる。より具体的には、一定程度の範囲(数km×数km程度)の海域において、様々な環境要素を継続的・長期的に観測するため、電力の供給やリアルタイムでのデータ伝送が可能な海底ケーブル式の観測プラットフォームを中心に、長時間稼働するセンサーやグライダーなどの技術を組み合わせたシステムを構築する。また、水中で位置情報を把握するための音響用灯台及び給電・データ読み取りステーション技術等の確立により、海中ロボットによる観測も統合した高精度な観測システムを目指す。さらに、海底資源開発の環境影響評価については、国際的な基準がまだ確立されていないが、本システムによって得られる高精度の現場データを活かした現状把握、我が国が蓄積している深海に関する科学的知見を活用した開発による影響予測とその検証、科学に基づく評価というスキームを構築できれば国際的な基準として確立することが期待できる。日本が発信する環境影響評価手法が国際的に確立されれば、本分野において我が国がリーダーシップを発揮することも可能である。一方、本システムを構成する技術は、今後の海洋開発において非常に汎用性が高い重要技術でもあることから、広範な波及効果が期待できるだけでなく、我が国において大きな課題である遠隔離島や国境離島の保全や管理においても大きな役割を果たすものと考えられる。

(2)次世代広域海洋環境観測システム

 地球温暖化をはじめとした様々な気候変動の予測と適応策の検討は世界的に喫緊の政策的課題であり、新たな海洋基本計画においても、我が国として国際的に貢献していくことを目指すとされている。このため、二酸化炭素吸収量の変動予測など大きな不確実性が残されている部分を中心に定量化を行うなど、気候変動予測の精度を高めていくことが求められることから、季節海氷域を含む北極海、南大洋や沿岸域を含めた広域の重要海域において、海表面から海中深部までの様々な物理・化学・生物データを充実させる必要がある。このためには、各種センサー技術、自動観測システム、海中情報伝達システムなどの開発、地球観測衛星との連携、得られる情報の集約・分析など、重要技術を高度に統合したシステムが必要であり、新たな海洋観測システムの展開とそのデータを用いた高精度季節予測手法の確立や気候変動リスク監視を達成するシステム開発を平成30年度までに構築する。より具体的には、スーパーサイト観測システムや自走式環境変動観測システム、超小型プロファイリングフロート観測網など、得られる海洋情報の質を飛躍的に高めるための技術開発を行うとともに、得られた情報を統融合するシステムの構築を検討する。
 このシステムにより、気象・気候分野だけでなく水産や沿岸管理等への活用や、海洋再生可能エネルギーの資源量調査への利用も期待される。また、我が国周辺の環境を我が国の技術で観測することは、安全保障上の観点や海洋開発を進める上でも重要である。

(3)未踏領域探索システム

 海洋には多くの未踏のフロンティアが存在しているが、地球や生命の誕生メカニズムや変遷を示す現象、さらには未知の生命圏の存在などの多くは、海外においても研究が進んでいない。これらを解明・発見することは、人類共通の知的財産を創造・蓄積するだけでなく、海溝型巨大地震への対応、水産資源の管理、海洋の生物多様性の確保、海洋生物の有用資源としての活用など社会的課題の解決や産業への応用展開などが期待される。
 このため、これまで我が国が世界を先導してきた深海探査技術や深海掘削技術をより高度化し、海洋の世界最深部である11,000mでの調査活動を行う次世代有人潜水調査船や、前人未到のマントル掘削を実現する超深海掘削技術など超深海へのアクセスを可能にし、新たな科学的知見を獲得するためのシステムを構築する。次世代有人潜水調査船については、より高圧環境でも繰り返し使用可能な耐圧殻の開発や潜航時間の長時間化に対応可能な蓄電池等が必要となることから、早急に必要となる要素技術の検討を開始し、平成30年代中頃までに有人潜水船全体システムを開発する。超深海掘削技術については、超深海という極限環境下での掘削に必要となる新たな素材等を用いた高強度掘削資材、掘削制御技術、超高精度の船位保持技術等の開発、さらにはこれらの技術を組み合わせた運用システムが必要となる。特に超大水深・超大深度の海底へのアクセスに必要となる新素材を使用した高強度掘削資材によるシステムを平成30年度までに実用化し、これにより次世代の海洋生物資源の活用への新たな扉を開く。

(4)海洋再生可能エネルギーを利用した発電システム

 四方を海に囲まれた我が国においては、再生可能エネルギーのうち、洋上風力、波力、潮流、海流、海洋温度差等、海域において利用可能な再生可能エネルギー(以下、「海洋再生可能エネルギー」という。)の賦存量がかなり大きく、発電に利用する場合には陸上以上のポテンシャルがあると言われており、技術的ブレークスルーによって次世代のエネルギー源となる可能性のある分野である。海洋再生可能エネルギーを利用した発電システムを早期に実用化し、我が国におけるエネルギー供給元の一つとして活用していける環境を整備することは、我が国のエネルギー政策上重要な課題であり、温室効果ガスの排出削減による持続可能な低炭素社会の構築の観点からも、政府一丸となって取り組んでいく必要がある。
 海洋再生可能エネルギーを利用した発電システムの実用化に向けては、海洋という厳しい気象・海象条件の中で安全かつ効率的に発電することが必要である。このため、装置の発電効率や耐久性の向上、監視・制御システムの高度化、安全性の担保、設置・メンテナンス技術の確立等に取り組むことが必要である。

3-2.重要基盤技術

 上記の国家基幹技術プロジェクトを達成するに当たり、深海底における海洋資源開発に必要なサブシー技術をはじめとして、共通基盤となる主な重要基盤技術は以下のとおりである。

  • 有人潜水船・無人探査機技術
  • 海洋エネルギー・鉱物資源開発・生産技術(採鉱・揚鉱技術等)
  • 浮体位置保持・係留技術
  • 環境影響評価技術
  • ケーブル式海底観測プラットフォーム技術
  • 海象・気象予測・計測技術
  • 衛星観測技術
  • 深海底~洋上~衛星~陸上リアルタイムデータ通信技術
  • 超大深度・超大水深掘削技術

 また、上記の重要基盤技術を支えるためには、計測技術、機械工学、材料・素材技術、プラント技術、情報通信技術などの要素技術が必要である。これらの要素技術は、海洋分野のみならず、あらゆる分野の産業や研究に大きな波及効果を及ぼすものであり、我が国の競争力の源泉とも言えることから、我が国として常に先端的な研究開発を継続していくことが必要である。

4.国家基幹技術プロジェクト推進の在り方

 国家基幹技術プロジェクトを推進するに当たっては、プロジェクトを支える重要基盤技術の開発はもとより、これら重要基盤技術等をシステム化・統合化するための総合エンジニアリング、さらには、プロジェクト全体を統合的に制御・機能させるためのソフトウェアが重要となる。
 重要基盤技術については、各国家基幹技術プロジェクトにとって共通の基盤となるものであり、国として、絶えざる技術の蓄積と発展が求められる。現時点において、このような基盤技術は独立行政法人、民間、大学等に分散して個別の取組が行われているが、蓄積されている技術やノウハウを今後とも継続的に蓄積・発展させる体制は必ずしも十分とは言えない。このため、これら技術やノウハウを産業展開、国際展開に結び付けていくためには、国内外の実プロジェクトで活用していくことが非常に重要であり、官民一体となって、海洋開発プロジェクトに我が国の企業が参画するための政策支援や環境整備に取り組むことが求められる。特に、今後、世界の海洋開発マーケットは急成長する見通しの中、我が国海洋産業の国際競争力強化及び世界でのシェア拡大のためには、グローバルなマーケットへの一刻も早い進出が重要であり、そのための体制整備を早期に行うことが求められる。
 総合エンジニアリングは、国家基幹技術プロジェクトの鍵となる。特に海洋における技術開発は、海況の影響や深海といった特殊環境への対応が求められるため、真に現場で有用な技術やエンジニアリング能力の獲得や蓄積のためには、実海域(フィールド)におけるプロジェクトの展開が必要である。このような、実践の場における技術開発を通じて初めて、国内企業等に技術力や経験が蓄積され、海に強い総合エンジニアリング会社の育成にもつながると考えられる。また、実践の場における取組は、これに参画する国内企業にとっては一つの海洋開発実績となるということも考慮すべきである。技術を国際展開していく上で実績は必要不可欠のものであり、国家基幹技術プロジェクトを進めるに当たっては、国内企業に実績を積む機会を与えることを常に検討すべきである。
 また、国家基幹技術プロジェクトの推進においては、人材育成の観点を忘れてはならない。重要基盤技術や要素技術の開発を支える、基礎的・先端的な研究開発を担う人材、重要基盤技術を理解し、これらをシステム化・統合化するための総合エンジニアリング能力を持つ人材、機器やインフラを運用するオペレーターなど、多様な人材が求められており、これら人材を育成する取組を、国家基幹技術プロジェクトの推進体制の中、あるいは企業、大学等との連携を通じて進めていくことが求められる。また、将来を見据え、国家基幹技術プロジェクトに大学等の若手研究者や学生を参画させることも検討すべきである。
 さらに、将来の産業展開や国際展開を考えれば、これを担うことになる民間の役割を最大化するという視点が重要である。将来のビジネスの主体となる企業や技術移転を受けることが期待される企業が当初からプロジェクトに参画することはもちろん、当該企業がより主体的に参画するよう、企業からの資金や人材がプロジェクト遂行に積極的に導入されるような仕組みの構築も検討すべきである。
 以上を踏まえ、以下に国家基幹技術プロジェクトを推進するための体制について提示する。

○各国家基幹技術プロジェクトの推進体制

  • 中核となる組織のもとに産学官の人材を結集することを基本とする。
  • 国家基幹技術プロジェクトの内容に応じ、関係企業による技術研究組合の設立、独立行政法人を通じた取組、国からの補助金等を適切に組み合わせて実施する。
  • 技術とノウハウの蓄積と産業界への移転を念頭に置き、技術移転が期待される企業は国家基幹技術プロジェクトに当初から参画する。
  • 期待される産業展開の主体となる企業あるいは者は当初から参画する。
  • 技術の獲得など期待される便益を考慮し、民間資金の導入を検討する。
  • 国家基幹技術プロジェクトの達成目標と達成時期を明確にする。

○重要基盤技術の開発体制

  • 各国家基幹技術プロジェクトにとって共通的な基盤となる重要基盤技術の開発を継続的に行い、技術やノウハウの蓄積を行う拠点を国に整備する。
  • 同拠点は各国家基幹技術プロジェクトと一体的に研究開発活動を実施する。
  • ノルウェーなど海外の事例も参考に、基礎的・先端的な研究開発を担う人材の育成の場とし、企業、大学等からの人材を積極的に受け入れる。
  • 技術の産業展開・国際展開を行うための組織を整備する。

 さらに、以上のプロジェクトごとの推進と重要基盤技術の開発の推進を一体的に行うことが極めて重要であり、これらを一体的にマネジメントする仕組みの導入や、プロジェクトの立案や進捗について適切にフォローアップを行う仕組みの導入を検討すべきである。今後のいち早い国家基幹技術プロジェクトの実行を期待するとともに、実行の際に適切なフォローアップ体制を構築することを求める。

お問合せ先

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