資料1-7 JCO臨界事故時の原子力損害賠償対応について

1.JCO臨界事故の概要

  平成11年9月30日午前10時35分株式会社ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所の核燃料加工施設である転換試験棟において、ウラン粉末から硝酸ウラニル溶液製造中に、この作業に使用すべきでない沈殿槽と呼ばれる設備に、制限量を大幅に上回るウラン溶液を投入した結果、我が国初の臨界事故が発生した。
  この事故では、瞬間的に大量の核分裂反応が起こり、その後臨界状態停止のための作業が功を奏するまで約20時間にわたって緩やかな臨界状態が続くことになった。
  この事故で3名の従業員が重篤な被ばくを受け、2名の方が亡くなったほか、この従業員を搬送した消防署員、臨界状態の停止作業に従事した社員及び事業所周辺の住民等が被ばくした。
  事故現場から半径350メートル圏内の住民に対して午後3時に避難要請が出され、半径10キロメートル圏内の住民に対しては午後10時30分に屋内避難勧告が出された。
  政府は、事故対策本部を設置し、事故の終息と防災対策を実施し、臨界反応を助長している冷却水の抜き取りにより、事故発生の翌日10月1日午前8時50分頃に臨界状態の終息が確認された。
  この事故では、人的被害に加え、経済活動等へ与えた影響も大きく、これは事故施設周辺にとどまらず、県内全域におよんだ。事業所の休業等の直接的影響のみならず、農水産業や観光業では深刻な風評被害が発生した。

2.原子力損害賠償対応の概要(総論)

  • 本件事故は、「原子力損害の賠償に関する法律(以下、原賠法という。)」が昭和36年の制定されて以来、最初の適用ケースとなった。
  • JCOへの最終的な賠償請求件数:約8,000件(うち、営業損害が約7~8割)
  • JCOが支払った賠償金総額:約150億円(当時の燃料加工業者の賠償措置額は10億円)
  • 支払状況の推移:
    • 年内に請求額の1/2を基準とする仮払いを実施
    • 年明け後に賠償金の確定交渉(正式な示談の取り交わし)
      ※ 約半年後の年度末(3月末)までに、約6,000件の示談が成立
    • 裁判に至った請求案件は10件(現在3件について係争中)
    • 原子力損害賠償紛争審査会に持ち込まれた案件は2件(いずれも合意に至らず)
    • 原子力保険プールからの支払いは平成12年5月末までに完了
  • その他:
    • 賠償交渉は当事者であるJCOでは困難であり、県や村が窓口。
    • 科学技術庁(当時)の委託により原子力損害調査研究会が設置され、損害認定の考え方を提示。

3.原子力損害賠償対応の概要(各論)

(1)JCOの対応について

  • 事故の混乱や加害者という立場もあり賠償対応に困難な局面も多く、村や県の支援が有効であった。
  • 事故終息後の10月4日に相談窓口を設置。相談窓口では被害等申出書の受付のみを行った。
  • 12月11日「JCOの補償等の考えと基準」を示したが、加害者側が提示した賠償基準が受け入れられることは難しく、県及び村から反発された。
  • 年末を控え被害者の不満が高まったことに対応し、12月15日、国及び県とも協議の上、「健康被害に係る経費は年内に全額、その他の損害については、原則として請求額の2分の1を年内に仮払いし、年明けに確定支払いを行う」ことを決定した。
      (年内に請求額の2分の1を仮払いすることにより示談交渉が迅速化し、補償問題に見通しをつけることができたとの評価が多い)

(2)東海村の対応について

  • 被災者に最も近い立場である村は、被害の拡大防止や賠償交渉の仲介役として重要な役割を果たした。
  • 10月2日、農産物等の出荷拒否を受け、東海村長から県知事に対して安全宣言を依頼した。(同日18時30分県知事より農産物等の安全宣言がされた)
  • 賠償金の仮払い(東海村)において、東海村職員が交渉窓口を担当した。またその後の確定払いについても陪席した。
       (県及び村の職員が交渉窓口となることにより、感情論にならず妥当な請求を促すことができたとの評価が多い)

(3)茨城県の対応について

  • 当初は補償問題は当事者間の問題としていたが、損害範囲の拡大を受け、被害者救済に向けた支援体制を構築した。
  • 「JCO臨界事故補償対策室」を設置し、部局横断による応援態勢を整えるとともに応対マニュアル等の準備を行った。
  • 賠償金の仮払い(東海村以外)では県が窓口となって被害者に説明を行った。また、確定払いについては、一定額(20万円)以上の請求について、県職員での対応や陪席を行った。

(4)原子力保険プールの対応について

  • プールは、JCOから回送された賠償請求書類をデータベース化し、事故の類型毎に内容を分析した。
  • 請求内容を審査し、賠償責任が確定したものから順次、保険金の支払いを行った。
  • 保険金額10億円(当時の加工事業者の賠償措置額)の全額について平成12年5月末までに支払いを完了した。
  • 原子力損害調査研究会にオブザーバーとして参加し、損害認定基準の作成を支援した。

(5)「原子力損害調査研究会」について

  • 10月22日、原子力損害認定の円滑化を図るための検討を行い、賠償に関する基本的な考え方を整理するため、科学技術庁(当時)の委託により、日本原子力産業会議に原子力損害調査研究会(下山会長、弁護士など11名の委員で構成)を設置した。
       (平成11年12月:中間報告書取りまとめ、平成12年3月:最終報告書取りまとめ)
  • 報告書は、「身体の傷害」「検査費用(人)」「避難費用」「検査費用(物)」「財物汚損」「休業損害」「営業損害」「精神的損害の」の計8項目について、事故と損害の相当因果関係が認められる基本的範囲を整理した。報告書の基準に満たない損害の賠償を否定する趣旨のものではなく、相当因果関係が個別に立証された場合には賠償されうるとしている。
       (損害認定の考え方を示すことは、損害賠償のの妥当な相場を示すことにより、当事者間の紛争処理の合理化に資するものであったとの評価が多い)

(6)原子力損害賠償紛争審査会について

  • 国は原賠法第18条に基づき、10月22日に原子力損害賠償紛争審査会(谷川会長、学識経験者や弁護士など10名の委員で構成)を設置し、賠償に関する紛争が生じた場合に和解の仲介を行うための準備をした。
  • 紛争審査会に持ち込まれた案件は2件で、いずれも合意には至らなかった。なお、当該2件の処理のため、紛争審査会2回、紛争審査会のもとに設けられた小委員会が28回開催された。

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