資料2-1-4. 原子力損害調査研究会及び原子力損害賠償紛争審査会について

(1)概要

  JCO臨界事故後の賠償の確保という観点において科学技術庁(当時)が果たした役割には、以下のような特徴が見られた。

1.賠償責任の考え方の整理

  科学技術庁の委託により原子力産業会議(当時)に「原子力損害調査研究会」を設置し、賠償責任の範囲(損害費目・相当因果関係・額の算定等)に関する基本的な考え方を整理・公表した。
  なお、JCOから「JCOの補償等の考えと基準」を示したところ、加害者による提示そのものに反発が大きく、事実上受け入れられなかった。

2.審査会の設置

  JCO臨界事故に関する紛争の円滑な処理を進められるよう審査会を設置する政令を制定。賠償対象となった約7,000件のうち、審査会による和解の仲介の申し立てが2件あったが、いずれも仲介案は受け入れられなかった。
  なお、平成12年から現在までの間に裁判上の請求に至ったものは11件(少額訴訟等を除く。)。
  被害者からJCOに対する賠償の請求 7件(現在係争中のもの 2件)
  JCOから被害者に対する過払いの精算の請求 4件(現在係争中のもの 1件)

3.その他

  賠償の実施時期や方法、JCOの親会社による協力等を適宜要請した。

(2)原子力損害調査研究会

1.主体

  科学技術庁の委託により、平成11年10月27日に原子力産業会議に設置された。法学者・弁護士等から構成。日本原子力保険プールもオブザーバーとして参加。

2.目的

  被害者とJCOとの間で解釈に隔たりが大きかった相当因果関係が認められる範囲等について一定の整理をすることにより、当事者間の交渉の迅速化・円滑化を図ろうとした。

3.活動

  • 平成11年10月27日から平成12年3月29日までの間、計17回開催
  • 平成11年12月 「中間的な確認事項ー営業損害に対する考え方ー」を公表
    (賠償請求の約7割を営業損害(いわゆる風評被害も含む。)が占めていたため。)
  • 平成12年3月 「報告書」を公表
    身体の障害・検査費用・避難費用・検査(財物の安全確認)費用・財物汚損・休業損害・営業損害・精神的損害の費目を特定・分類し、それぞれについて相当因果関係の範囲や額の算定等に関する基本的な考え方をまとめた。

4.評価

  原子力損害調査研究会が果たした役割に対する評価としては、以下のようなものが考えられる。

  • 加害者であるJCOに代わって損害費目・相当因果関係の範囲に一定の線引きを行い、大量の請求案件の公平な処理の促進につながった。
  • 報告書で認められた範囲では、被害者は証拠書類等を用意する以外に特段の因果関係の証明をすることが不要となり、その立証負担が軽減された。
  • 請求の多くの営業損害を早期に議論し、年末の仮払いの際の参考資料となった。
  • 調査に時間を要したため、仮払いやその後の精算の際に報告書を参照できなかったものも多かった。

(3)原子力損害賠償紛争審査会による和解の仲介

1.設置根拠

  原賠法第第18条第1項及び原子力損害賠償紛争審査会の設置に関する政令に基づき、平成11年10月22日に設置

2.所掌事務

  平成11年9月30日及び同年10月1日にJCOにおいて発生した加工施設の事故に関し、原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介及びそのために必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。

3.活動

  • 2件の和解の仲介の申し立てがあり、平成12年8月28日から平成15年3月12日までの間、計5回開催
  • 具体的な事案ごとに小委員会を開催し、詳細な調査・評価
    • 第一小委員会 平成12年9月5日~平成13年7月12日 計18回開催
    • 第二小委員会 平成13年8月9日~平成14年12月9日 計10回開催
  • 仲介事案は2件とも、納豆製造販売会社が自社の納豆等の製品の販売が落ち込んだ損害の賠償を請求。いずれも賠償額の算定の主張に隔たりがあり、打ち切り。

4.評価

  審査会の評価としては、以下のようなものが考えられる。

  • 紛争の解決手段として、和解の仲介には限界があり、解決まで導くことは難しかった。
  • 当事者間の交渉が行き詰まったときに、国に和解の仲介の場があるという安心としての機能もあった。

(4)その他

  政府は原子力事業者に対して必ずしも具体的な指導権限を有するわけではないが、JCOと親会社(住友金属鉱山株式会社)に対しては、適宜以下のような指導・助言を行った。

平成11年

  • 10月4日 科学技術庁長官よりJCOに対し、賠償の相談窓口の設置を要請
  • 10月15日 科学技術庁長官より親会社に対し、被害者救済に最大限の支援を要請
  • 11月19日 科学技術庁長官よりJCOに対し、被害全体の把握と公平・公正な対応を要請

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研究開発局原子力計画課