資料2-1-3. JCO 臨界事故の総括

日本原子力保険プール

  JCO事故発生の際の日本原子力保険プールの対応についてご報告します。
  その前に先ず、簡単に原子力保険プールの仕組および原子力施設賠償責任保険の概要を説明し、後に、事故時の対応および今後の課題をご説明致します。

1.日本原子力保険プールについて(以下「保険プール」とする)

  日本プールは、1960年に損害保険会社20社により設立され、現在の会員保険会社は24社で、保険業法に基づき金融庁から独禁法の適用除外の認可を得て、原子力保険事業に関する共同行為を行なっております。
  このようなプール組織に基づき、原子力保険を引受けることは各国に共通しており、日本プールでは、さらに世界21プールと再保険取引を行い、巨額の原子力保険の引受を可能としております。尚、この様なプール間の再保険取引は、世界各国のプール間で相互に行われ、世界各地で必要な保険金額が確保されております。

2.原子力施設賠償責任保険について

  一方、この保険は原子力施設の運転等に伴って生じた事故に起因して第三者に与えた原子力損害または一般損害について、事業者が負う法律上の損害賠償責任を補償する保険です。原賠法が適用される施設については、同法により定められる損害賠償措置の手段の一つとなっております。
  尚、自動車保険とは異なり、「示談代行」を保険会社が行うものではないため、まず契約者である事業者(被保険者)が被害者から損害賠償請求を受け、その後、保険プールが請求内容を精査、支払保険金額を認定し、事業者(被保険者)に保険金をお支払いすることになります。

3.JCO 事故発生後の保険プールの時系列的対応

  1999年9月30日午前10時35分頃、株式会社ジェーシーオー(JCO)東海事業所の核燃料加工施設転換試験棟にて臨界事故発生。県および東海村に11時30分頃通報が入る。

  • 保険プールは、同日昼頃に本事故の発生をテレビ等で認知し、直ちにJCOとの連絡を取った。次いで、保険プール商品業務委員会委員(注1)に事故報告を送付した。以後、JCO及び親会社(住友金属鉱山)との頻繁な連絡、打合せを継続した。
      (注1)商品業務委員会とは、会員保険会社代表の6社で構成される保険プール業務の審議機関。
  • 10月1日午前、商品業務委員会を緊急開催し、JCOの保険契約内容、事故状況、契約者との打合せ状況を報告、責任保険の支払対象事故かどうかの判断等の審議を行った。
  • 同日午後、運営委員会(注2)を緊急開催し、責任保険の支払対象事故であることの認定及びマスコミ等への保険プールによる集中対応態勢を審議・決定し、会員会社へ通知。
      (注2)運営委員会とは、商品業務委員会の上部委員会で、会員代表6社の担当役員で構成。
  • 10月2日、3日は週末で、事務所待機の上様々な電話対応を行った。
  • 10月4日 保険プール内に事故対応本部を設置。保険プール会長を本部長とし、関係する委員会の委員長他を構成員する横断的な組織とし、契約者・会員会社・再保険者・関係省庁・マスコミ等への対応・事故状況の把握・支払方法の検討等を迅速、円滑に行うための機能を重視した。
  • 10月5日 第一回損害査定委員会(注3)を開催。損害査定態勢の編成及び専任弁護士の起用を決定。以降、損害査定要員のプール事務局での交替勤務、損害査定委員会及び作業部会の週1回開催を実施。
      (注3)損害査定委員会とは、会員保険会社代表の6社からなる損害業務全般を審議する機関。
  • 10月7日以降JCOから事故被害申出書の提出を受け、損害形態分類表、損害計算書、損害額シミュレーション等の基礎データの整備を開始し、損害項目毎の損害認定基準案を作成。
  • 10月22日 科技庁の要請により、第一回の原子力損害調査研究会に出席し、その後最終17回まで参加。
  • 11月初旬 データベース(注4)の入力開始。損害認定基準およびとりまとめたデータはJCO及び損害調査研究会に提供、損害賠償基準の検討に供された。
      (注4)データベース件数は、最終的に5,000件強。1日当り150件を目標に損害項目の分類および入力作業を実施(要員2名)。
  • 11月中旬以降 JCOに損害賠償認定基準、損害賠償対応の促進、保険金支払の手続等を説明、損害賠償請求者との交渉サポートを図る。
  • その後、JCOと被害者との示談済案件から保険金の認定作業を進め、支払要件の整った事案より、順次保険金の支払を実施。
  • 5月末までに、原賠法上の損害賠償措置額である保険金額10億円全額の支払いを完了。

4.保険プールの果たした役割

  • 10月5日の段階で、各会員会社の損害調査担当社員を組織化し、損害査定態勢を構築。契約者へのバックアップを行うとともに、賠償事故処理の豊富な知識と経験、専門性を活かして損害認定基準案を作成した。
  • 保険金支払の基礎データとなる損害形態分類表、損害計算書、損害額シミュレーション等の資料は、JCOおよび原子力損害調査研究会にも提示され、その後、同研究会が損害賠償基準を作成する際の検討資料とされた。又、原子力損害に対するプール損害認定基準については、同研究会に概ね許容されるものとなった。
  • 事故後8ヶ月内に保険金額(損害賠償措置額)10億円の支払を完了。

5.今後の課題・検討項目

  • JCO事故は被害届約7,000件、損害賠償額は凡そ150億円と言う規模であり、措置額600億円の事業者の場合は、事業規模からも賠償請求の件数・金額は相当な規模となると推測されるので、そうした大量かつ広域にわたる災害対応につき具体的な準備をしておく必要がございます。保険プールとしても今後改定される損害賠償措置額をも踏まえた事故を想定し、対応策の見直し作業を鋭意行っております。
  • 一方、より広い視野で見れば、事業者、政府(文科省、他省庁)、自治体(県、市町村)、保険プールなどの関係者による対応態勢及び各種マニュアル等を事前に準備すると共に、日頃より、万万が一の場合の避難行動の方法や関係者を挙げて被害者救済への適切な対応を取ることを周知することが、肝要と思われます。
  • 事故発生時には、この対応態勢に基づき、迅速、円滑、適正な損害賠償の実施を期するために、実効性のある態勢の構築と運営を継続させる仕組みが必要と考えます。

以上

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