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資料5−2

原子力損害賠償補償契約に係る業務の一部委託について(案)

1.補償契約事務の実施に保険会社の協力を得ることについて

 万が一原子力損害が発生した際に国が行う主要な業務の一つとして、原子力損害賠償補償契約に基づく補償金の支払い等の事務があり、想定される事務の例を時系列で整理すると、概ね以下のとおりとなる。

  想定される事務の例(時系列) 文科省 保険会社
1 補償金支払請求のスキームの決定 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられない事務
2 事故の報告の受付 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられない事務
3 賠償責任の承認に係る事前承認申請の受理 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
4 申請書類の確認・補正の指示 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
5 被害者別の事案の登録・経過の記録 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
6 事前承認に係る補償額の算定案の作成 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
7 事業者の賠償責任の承認の事前承認(補償額の事前決定) 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられない事務
8 事業者に対する事前承認の内容の通知 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
9 補償金支払請求の受理 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
10 請求書類の確認・補正の指示 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
11 支払に係る補償額の算定案の作成 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられる事務
12 事前承認に係る補償額との照合・調整(補償額の最終決定) 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられない事務
13 補償金の支払い 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられない事務
14 過怠金の徴収 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられない事務
15 事前承認・支払に対する異議申立てへの対応 文部科学省の事務 保険会社に委託することが考えられない事務
  • ○:文部科学省の事務
    ◎:保険会社に委託することが考えられる事務
    ×:保険会社に委託することが考えられない事務

 しかしながら、JCO臨界事故の際は、小規模な加工施設ながら8,000件を超える請求事案が生じたことを踏まえると、これまで補償金の支払いの対象となる事案の実績はなく、経験の蓄積がまったくないこと、国の一般職員に保険金支払に類する実務経験を継続的に有する職員は現実に少ないこと等の状況にあっては、万が一の際に円滑な事務の遂行するための方策を講じておく必要がある。
 例えば、原子力事業者の提出書類の記載内容・被害者から取り付けた添付書類の確認や書類の補正の指示、一定の基準に基づいた補償額の算定等の事務については、保険会社の専門的知見や実務経験を活用することが有効と考えられる。
 また、書類の受理や決定内容の通知といった定型性の強い事務についても、膨大な数の被害者別の適切な経過管理の下に実施する必要があり、保険会社のノウハウを活用することが実際的である。
 これらを踏まえ、補償契約に関する国の事務については、補償額の決定や補償金の支払い、異議申立てへの対応等の国の判断を伴う一定の重要な事務を除き、保険会社に委託できるよう法制上整備することが妥当である。

2.保険業法を踏まえた制度化の必要性

 一定の業務性が認められる事務を保険会社に委託する場合には、保険会社は保険業以外の業務を原則として行ってはならないという「他業の制限」の原則に抵触するおそれがある(保険業法第100条)。

<保険業法第100条で認められる保険会社の業務の範囲>

  • 1第97条業務(固有業務):免許の種類に応じた保険の引受け・資産の運用
  • 2第98条業務(付随業務):1に付随する金融商品取引の仲介
  • 3第99条業務(法定他業):1の遂行を妨げない限度で行う金融商品取引等
  • 4他の法律により行う業務:政府の委託を受けて行う自動車損害賠償保障事業

 保険会社が「他業の制限」の例外として保険業法に定められた業務以外の業務を行う場合には、「他の法律により行う業務」として個別法においてその位置付けを明確に定めることが必要となる。現時点で「他業の制限」の例外として制度化されている業務には、自動車損害賠償保障法に基づき政府の委託を受けて行う自動車損害賠償保障事業に関する業務がある(同法第72条・第77条)。
 これを踏まえ、1.の補償契約に係る国の事務の一部委託を可能とするための根拠規定を創設することが妥当である。具体的には、原子力損害賠償補償契約に関する法律に次のような規定を設け、委託できることとする業務の範囲や手続を政令で定めるとともに、業務委託に係る透明性を確保するため、委託の事実・保険会社の名称等を告示することとする。

(条文イメージ案)

  • 1 政府は、政令で定めるところにより、補償契約に関する業務の一部を保険会社に委託することができる。
  • 2 文部科学大臣は、1の委託をしたときは、委託を受けた保険会社の名称その他文部科学省令で定める事項を告示しなければならない。

 なお、このように位置付けた場合であっても、委託業務の実施は保険業法上、保険会社の固有業務の遂行を妨げない限度で行うことが必要である。

<参照条文>

○保険業法(平成7年法律第105号)

(免許)

第三条  保険業は、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、行うことができない。
2  前項の免許は、生命保険業免許及び損害保険業免許の二種類とする。
3   生命保険業免許と損害保険業免許とは、同一の者が受けることはできない
4〜6 (略)

(業務の範囲等)

第九十七条  保険会社は、第三条第二項の免許の種類に従い、保険の引受けを行うことができる。
2  保険会社は、保険料として収受した金銭その他の資産の運用を行うには、有価証券の取得その他の内閣府令で定める方法によらなければならない。
第九十八条  保険会社は、第九十七条の規定により行う業務のほか、当該業務に付随する次に掲げる業務その他の業務を行うことができる。
  • 一 他の保険会社(外国保険業者を含む。)、少額短期保険業者、船主相互保険組合(船主相互保険組合法(昭和二十五年法律第百七十七号)第二条第一項(定義)に規定する船主相互保険組合をいう。)その他金融業を行う者の業務の代理又は事務の代行(内閣府令で定めるものに限る。)
  • 二 債務の保証
  • 三 国債、地方債若しくは政府保証債(以下この号において「国債等」という。)の引受け(売出しの目的をもってするものを除く。)又は当該引受けに係る国債等の募集の取扱い
  • 四 金銭債権(譲渡性預金証書その他の内閣府令で定める証書をもって表示されるものを含む。)の取得又は譲渡(資産の運用のために行うものを除く。)
  • 四の二 特定目的会社が発行する特定社債(特定短期社債を除き、資産流動化計画において当該特定社債の発行により得られる金銭をもって指名金銭債権又は指名金銭債権を信託する信託の受益権のみを取得するものに限る。)その他これに準ずる有価証券として内閣府令で定めるもの(以下この号において「特定社債等」という。)の引受け(売出しの目的をもってするものを除く。)又は当該引受けに係る特定社債等の募集の取扱い
  • 四の三 短期社債等の取得又は譲渡(資産の運用のために行うものを除く。)
  • 五 有価証券(第四号に規定する証書をもって表示される金銭債権に該当するもの及び短期社債等を除く。)の私募の取扱い
  • 六 デリバティブ取引(資産の運用のために行うもの及び有価証券関連デリバティブ取引に該当するものを除く。次号において同じ。)であって内閣府令で定めるもの(第四号に掲げる業務に該当するものを除く。)
  • 七 デリバティブ取引(内閣府令で定めるものに限る。)の媒介、取次ぎ又は代理
  • 八 金利、通貨の価格、商品の価格その他の指標の数値としてあらかじめ当事者間で約定された数値と将来の一定の時期における現実の当該指標の数値の差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引又はこれに類似する取引であって、内閣府令で定めるもの(次号において「金融等デリバティブ取引」という。)(資産の運用のために行うもの並びに第四号及び第六号に掲げる業務に該当するものを除く。)
  • 九 金融等デリバティブ取引の媒介、取次ぎ又は代理(第七号に掲げる業務に該当するもの及び内閣府令で定めるものを除く。)
  • 十 有価証券関連店頭デリバティブ取引(当該有価証券関連店頭デリバティブ取引に係る有価証券が第四号に規定する証書をもって表示される金銭債権に該当するもの及び短期社債等以外のものである場合には、差金の授受によって決済されるものに限る。次号において同じ。)(資産の運用のために行うものを除く。)
  • 十一 有価証券関連店頭デリバティブ取引の媒介、取次ぎ又は代理
2〜9 (略)
第九十九条  保険会社は、第九十七条及び前条の規定により行う業務のほか、第九十七条の業務の遂行を妨げない限度において、金融商品取引法第三十三条第二項各号(金融機関の有価証券関連業の禁止等)に掲げる有価証券又は取引について、同項各号に定める行為を行う業務(前条第一項の規定により行う業務を除く。)及び当該業務に付随する業務として内閣府令で定めるものを行うことができる。
2  保険会社は、第九十七条及び前条の規定により行う業務のほか、第九十七条の業務の遂行を妨げない限度において、次に掲げる業務を行うことができる。
  • 一 地方債又は社債その他の債券の募集又は管理の受託
  • 二 担保付社債信託法により行う担保付社債に関する信託業務
3  生命保険会社は、第九十七条及び前条の規定により行う業務のほか、第九十七条の業務の遂行を妨げない限度において、信託業法の規定にかかわらず、その支払う保険金について、信託の引受けを行う業務(以下「保険金信託業務」という。)を行うことができる。
4〜10 (略)

(他業の制限)

第百条  保険会社は、第九十七条及び前二条の規定により行う業務及び他の法律により行う業務のほか、他の業務を行うことができない。

○自動車損害賠償保障法(昭和30年法律第97号)

(業務)

第七十二条  政府は、自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合(その責任が第十条に規定する自動車の運行によつて生ずる場合を除く。)も、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。
2・3 (略)

(業務の委託)

第七十七条   政府は、政令で定めるところにより、第七十二条第一項の規定による業務の一部を保険会社又は組合に委託することができる
2  組合は、次の各号に掲げる規定にかかわらず、前項の規定により委託された業務を行うことができる。
  • 一 農業協同組合法第十条
  • 二 消費生活協同組合法第十条
  • 三 中小企業等協同組合法第九条の二又は第九条の九
3  国土交通大臣は、第一項の規定による委託をしたときは、委託を受けた保険会社又は組合の名称その他国土交通省令で定める事項を告示しなければならない。