5.防災教育の現状

(1)全国規模での取組

    文部科学省(旧文部省)において、学校教育を対象として「生きる力をはぐくむ防災教育の展開」(平成10年3月31日)や「生きる力をはぐくむ学校での安全教育」(平成13年11月30日)をとりまとめ、防災教育の意義とねらい、機会と指導内容、進め方、展開例、防災管理の進め方等を示している。また、様々な防災教育教材を配付するとともに、独立行政法人教員研修センター等において、教職員を対象とする研修が行われている。

  また、文部科学省においては、地域の防災活動にそれらの知見を反映させることを目指した「防災研究成果普及事業」(平成16年度~18年度)や、地震調査研究等の成果普及を図り、防災意識の高揚や具体的な防災対策に活かすことを目的とする「地震に関するセミナー」(平成8年~)等の防災科学教育も実施している。

 さらに、民間企業等においても、子ども達が自分のまちを歩き、防災や防犯に関する設備や場所を自分の目で確かめながら防災マップを作成する「”ぼうさい探検隊”マップコンクール」(社団法人日本損害保険協会)や、防災活動に取り組む子どもや学生の顕彰を行う「ぼうさい甲子園」(毎日新聞社、現在は兵庫県等も共催)等、様々な取組が行われている。

(2)地域社会での取組

  地域社会での防災教育の取組としては、公民館等の社会教育施設を活用し、防災学習や防災フェスティバル等の取組が行われている。また、商工会議所・青年会議所での防災まちづくりをテーマにした取組や、大学が主体となって、防災講座を開催する等の取組等が行われている。また、例えば、宮城県、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県等の防災教育に熱心な地域を中心に、地域防災力の向上を目的とした地域防災リーダーの育成を通じ、災害時の初動段階における住民の自主的な地域防災活動によって災害の軽減等を図る取組が行われている。

  また、くろしお教育サミット(千葉県、静岡県、和歌山県、高知県)による指導者用資料「防災学習ハンドブック」の作成事例や、三重県教育委員会が中心となり、防災教育推進校を指定するとともに、教材配付及びその活用方法に関する教職員研修事業を行なっている事例、神戸市教育委員会によって阪神・淡路大震災の教訓を活かした防災教育副読本「しあわせはこぼう」の配付等の取組が行なわれている事例、東京都目黒区立五本木小学校において地域行事を学校の教育課程に位置付け、地域住民と連携した防災教育の実践に取り組んでいる事例等もある。

  さらに、大学や学協会等においては、地域と協働で、災害シミュレーションやハザードマップ等を用いた先進的な取組を実施しているが、地域主体で行われる防災教育は防災訓練や避難訓練が中心であり、その参加者の世代構成も、災害時要援護者に該当するような高齢者等の参加が多い。兵庫県神戸市の防災ジュニアチーム等の成功例はあるが、子どもや現役世代の参加が少ないという傾向も指摘されている。

  このような地域社会における防災教育の取組は、地震等の自然災害による被災経験がある地域や、災害の切迫性が高い地域を中心に熱心に行われている一方、ほとんど行われていない地域も見受けられる。また、災害の切迫性が高い地域においても、学校や民間企業、自治会等によって取組に温度差がある。

(3)学校での取組

  学校における防災教育は、現行の学習指導要領の下で、理科、社会、体育・体育保健科等の教科教育や特別活動の一環として行われており、また「総合的な学習の時間」等を活用した取組もなされている。特に、地震や津波等の大規模自然災害の被災経験がある地域や、災害の切迫性が高い地域の学校を中心として、特徴的で、かつ優れた取組事例が見られる。

  学校の教職員の努力により、例えば、あらゆる教科や活動を通じた横断的・体系的な防災教育の実施や、児童生徒による地域への防災知識の普及や住宅の耐震診断の実施、キャリアプランを見据えて進路と防災との関わりについて考えさせる授業、新たな学校選択制を受けて、いくつかの隣接する地域と関わりを持つ取組等、各学校やその地域等の特徴を活かした取組事例が見られる。

  また、防災教育を行おうとする場合、それを学校で取り上げやすい環境づくりと、それを支える学校と地域の連携が重要であり、防災教育に携わる教職員が、外から人的・物的な支援を得るような環境を整える上で、例えば、学校と、他の組織や団体等との連携が必要という指摘がある。このような連携がうまく行っている例として、学校と地域の連携による地域防災力の高度化に向けて等のテーマのもとに定例的にシンポジウムを開いている事例(宮城県)や、災害時に避難所となる中学校での体験キャンプを行なったり、生徒会が防災を考慮した街づくりに関する提案をしたりする事例(東京都)等がある。

お問合せ先

研究開発局地震防災研究課