2.検討の背景

  我が国は自然災害が多発する地域に位置しており、近年の主なものだけでも、阪神・淡路大震災(平成7年)、新潟県中越地震(平成16年)、能登半島地震(平成19年)、新潟県中越沖地震(同)、雲仙岳火山噴火(平成4年)、有珠山火山噴火(平成12年)、三宅島火山噴火(同)、宮崎県延岡市や北海道佐呂間町での竜巻災害(平成18年)、平成16年の新潟・福島豪雨災害(平成16年)、平成18年豪雪等、人的・物的に多大な被害を被っている。

   自然災害は、自然外力が地域での防災力を上回った際に発生するのであり、自然科学的な要因(外力などの素因)のみならず、社会科学的な要因(脆弱性等)に関連して引き起こされる。例えば、地震による被害を防ぐ上で、地盤による揺れの違いや建物・室内の耐震化対策等の物理的な要因は最も重要な役割を果たすが、被害をできるだけ軽減するためには、物理的対策だけでは不十分であり、災害予防としての事前準備を含め、住民の意識や具体的な行動等、社会的な要因の果たす役割が極めて大きい。このような中にあって、自然災害に対する理解不足や、被害想定の甘さ、「自分は災害には遭わない」という「仮想的安心感」等は、自然災害による被害の一層の拡大、生かされない教訓の再生産を引き起こしかねない。

  自然災害から住民の生命・財産を守り、安全で安心な社会を実現することは、国の基本的かつ重要な責務である。このため、国として、国民が自然災害に対して正しい理解を持ち、自らの的確な判断の下で防災・減災対応ができるよう、学校や地域等における防災教育の取組を積極的に推進していく意義や、それに対する期待は極めて大きい。また、今後も科学技術の発展は我が国にとって不可欠であり、将来に研究や技術開発を担う防災科学教育の視点からの人材の育成も重要である。

  現在、防災教育に関しては、政府の中央防災会議が決定した「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する基本方針」(平成18年4月)や文部科学省(旧文部省)の「「生きる力」をはぐくむ防災教育の展開」(平成10年3月)、等の方針や、ユネスコや国連国際防災戦略の中で持続可能な開発のための教育として位置付けられていること等に基づき、地震や津波等の甚大な災害を経験した地域、多発する地域、あるいは、今後の切迫性が高い地域等を中心に、積極的かつ先進的な取組が行われている。一方で、防災教育の取組は地域等によって大きな差異があり、必ずしも熱心な取組が行われていない地域等では、防災教育に携わる人材の不足や、活用できる教材等がないといった課題も指摘されている。

  このため、国として、関係行政機関や地方公共団体、大学、研究機関、さらには民間企業・経済団体等との密接な連携・協力の下、防災教育の指導教育を担う人材である「担い手」・防災教育の現場となる学校と地域や現場と担い手との連携・調整を図ってつなぐ人材である「つなぎ手」の育成、防災への「気づき」のきっかけづくり、素材・コンテンツの提供等、防災科学技術の研究成果等を積極的に活用し、学校や地域等における防災教育を支援するための具体的方策について充実を図っていくことが重要である。

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