第3章 我が国の現状と課題

1.グローバル化への対応の遅れ

 日本の少子化に伴う市場規模の縮小やBRICs諸国などの新興国市場の拡大により、世界経済における日本市場の相対的な位置付けは縮小している。
 一方、新興国を中心にグローバル市場が急速に拡大しているが、新興国市場への日本企業の対応が他の東アジア諸国や欧州の企業に比べ出遅れている傾向が見られる。この結果、携帯電話などのエレクトロニクス分野等では、我が国のシェアが低下する傾向にあり、日本市場の相対的な位置付けが低下する中で、グローバル化への対応が急務となっている。
 このようなグローバル市場への対応の遅れの要因のひとつとして、他の東アジア諸国の企業に比べ、グローバル戦略が欠如していることが挙げられている。
 また、研究開発においても、我が国研究者については、近年、海外における長期滞在を伴う経験が年々減少し、内向き志向が指摘されるなど、グローバル化への対応が遅れており、台湾やインドに見られるような海外との人材ネットワーク(特に世界のイノベーションセンターである米国とのネットワーク)の形成が十分ではなく、このようなネットワークを構築していくことが必要である。
 このように我が国のグローバル化への対応が遅れている背景としては、国際社会で伍してビジネスや研究開発を行うことのできる人材の不足や、グローバルな視野を持って技術経営ができる人材が不足していることが挙げられる。このため、今後、グローバル対応を進めていくためには、国際社会における公用語である英語の力はもちろんのこと、ネットワークを形成し、リーダーシップをとるために必要となる交渉力やコミュニケーション能力を有する人材が必要である。また、研究者等の海外研鑽機会の拡大や海外経験者の活用などが不可欠である。

2.我が国の産業の現状と課題

(1)新たなイノベーションモデルへの対応の遅れ

 現在、我が国は自動車や精密機器など、これまで我が国が得意としてきた「すりあわせ(ブラックボックスでの作り込み)」の強みを活かせるクローズドで垂直統合型の産業や、素材・部品・製造装置などの産業においては依然として大きなシェアを占めている。しかし、従来日本のものづくりの柱であったエレクトロニクス産業のように、近年、国を超えたオープンな水平分業の流れが急速に進んでいる産業で競争力が低下しているなど、我が国の産業が新たなイノベーションモデルに十分対応できていない状況にある。
 また、従来垂直統合型の産業であった精密機械等の産業にも、オープンな水平分業の拡大が予測されるとともに、競争優位を有する素材・部品・製造装置分野の産業においては市場規模が小さく、製品関連市場全体のイニシアティブをとるに至っておらず、必ずしも利益率が高くないといった問題もある。
 このため、我が国の企業としても、中核技術を確立するとともに、水平分業型や垂直統合型などから最適なイノベーションモデルを想定した戦略的な世界標準の獲得や、新興国の企業も取り込んだ製品製造システムの構築など、技術、知的財産、標準、国際連携等を一体的に進める戦略的な取組が必要となっている。
 また、我が国のものづくりの強みは卓越したプロセス・イノベーションに大きく依拠してきた。一方、近年、東アジア諸国等が技術をキャッチアップしプロセス・イノベーションにより追い上げを図っていること等を踏まえ、欧米においてはプロダクト・イノベーションを重視しており、我が国においても、プロダクト・イノベーションを実現するために組織や評価の体制の在り方など、イノベーションマネジメントの在り方を検討する必要がある。
 このほかに、競争力を高めるためには、iPodのように、技術イノベーションとアイデア・コンセプトとの融合、さらにはブランド・イメージの積極的活用等も併せて、グローバルにシェアの獲得を目指すビジネスモデルを確立することも重要である。
 さらに、サービスを含め、最終利用者を指向した製品構想力の強化を図っていくことも課題と考えられる。

(2)新たな産業における不振等

 90年代以降勃興してきたIT、バイオのようなサイエンス型産業において、我が国は強い国際競争力を保持しているとは言えず、例えば米国に対して医薬品やソフトウェアが輸入超過状態であるなど、米国に大きく後れを取っているのが現状である。また、サービス分野においても、ITサービスの成長率が米国のみならず、欧州に比べても低い状況に代表されるように、欧米諸国に比べて生産性が低い点や国際展開に乏しいなどの問題点が存在している。
 今後、成長が期待されるこれらの産業分野における我が国の国際競争力を高めていくことが求められる。また、バイオ等の分野では安全審査等の規制により実用化までの相当の時間を要するという問題が指摘されており、今後の課題となっている。

図:我が国主要産業の国際競争ポジション

図:我が国主要産業の国際競争ポジション
資料:
産業構造審議会 産業技術分科会 第23回研究開発小委員会 資料5(資料:富士キメラ2006年推計、JEITA「電子情報産業の世界生産動向」、(社)日本半導体製造装置協会資料から経済産業省作成)に加筆

(3)国際競争力の低下

 これまで述べてきたこと等を背景として、我が国の国際競争力は、製造業の世界シェアの低下や全要素生産性の伸びの低下、IMDランキングの低下に代表されるように全体に低下傾向にあると指摘されている。
 国際競争力とは、国民に高水準の生活を可能とする所得をもたし得る生産性により表されるものであり、競争力の目的が国民の繁栄にあることにかんがみると、国全体としての経済の大きさではなく、1人当たりの生産性(例えば1人当たりGDP)と考えられる。
 国全体の生産性(競争力)を向上させる要素としては、主として労働力寄与、資本寄与、技術革新を含むイノベーション等が挙げられる。しかし、少子化や自国市場の縮小などが進むと見込まれる我が国において、今後、労働力や資本の寄与を期待することは難しい。我が国が生産性を向上させるためには、技術革新を含むイノベーション等を図っていく他に道がなく、国を挙げて科学技術・イノベーションを推進することが不可欠である。

図:主要国の経済成長率

図:主要国の経済成長率
資料:EU、KLEMS

3.我が国の研究開発システムの現状と課題

(1)研究開発のオープン化等への対応の遅れ

 これまで、我が国の企業は、「自前型」、「垂直統合型」の研究開発システムの下、多くのイノベーションを成し遂げてきた。しかし、近年は、研究開発投資の増大等から、「自前主義」など垂直統合型の限界も見え始めている。このような中、我が国においても90年代まで成功してきた「自前型」、「垂直統合型」のみに拘らず、研究開発のオープン化に対応することが必要となってきている。
 我が国においても、企業の社外支出研究費割合が増加するなど、アウトソーシング型を中心に研究開発のオープン化が進んでいるものの、過去の官民による共同・連携型のオープン・イノベーションの試みにおいては、一部のプロジェクトで成果が見られるものの、成功例が少ないとの指摘がある。
 我が国において共同・連携型のオープンな研究開発がうまく進まない要因としては、「共同・連携型」研究開発の対象となるべき「非競争領域」(営利活動から遠く外部機関との情報共有や共同が障害とならない基礎研究等の領域)が明確でなかったために、企業等が「お付き合い」として参画する傾向があったとの指摘がある。
 このため、今後は、基礎研究等の非競争領域を明確にした上で、大学等を中心とした企業が本腰を入れたオープンな「共同・連携型」研究開発と、競争領域におけるクローズドな研究開発の使い分け、各々の研究開発の性格に応じた研究システムの構築が課題である。

(2)研究成果と実用化(イノベーション)をつなぐ仕組みづくりの遅れ

 我が国においては、大学等の研究の成果を基に製品を開発するなどして実用化に至るまでの過程において、大企業の研究開発のリスクを分担するベンチャー企業の不全や産官学をまたぐ人材流動性の欠如等により、いわゆる「死の谷」部分の取組が弱いとの指摘がある。
 このため、今後、基礎研究からイノベーションへの一貫した支援、特に開発段階の施策の弱さ(公共調達、公的機関によるバックアップの弱さ等)や円滑な技術移転等を可能とする大学、研究開発法人、民間企業間の人材交流の少なさなどの課題に対応していく必要がある。また、公的研究機関等の基礎研究の成果を事業化するベンチャーの少なさ、企業における新陳代謝の少なさ、機関を越えて人が移動する人材流動性の少なさなど、社会システムの硬直性の問題があるとともに、異業種・異分野の人材の交流が少ないといった課題もある。
 さらに、我が国においても、米国がベンチャー制度に人材サポートシステムを取り込んだように、何からの形でイノベーション型人材をサポートし、その能力を最大限発揮させるシステムを構築する必要がある。

(3)サイエンス型産業や新興・融合分野におけるイノベーションの遅れ

 我が国においては、諸外国と比べサイエンス・リンケージが少なく、製品開発における最先端の科学の応用が遅れている可能性がある。また、サイエンス(科学)への依存が強い産業である「サイエンス型産業」では、国際競争力は強くないことなどの課題がある。
 さらに、地球環境問題のような極めて複雑な問題等に対応していくためには、分野融合などの全く新しい視点からの取組が不可欠であるが、これまでの我が国のシステムが新興・融合分野の研究を十分に促すことができなかった反省に立ち、これらの分野の活性化を阻害しないような研究費配分における工夫や、新たな研究分野の活動の強化への支援と人材育成など、施策を多角的に展開していくことが必要である。その際には、将来の規制や知財・標準化、社会インフラや、その技術が進展した際に社会に与える影響やリスクへの対応などの社会受容性にも留意することが重要である。

図:技術分野別のサイエンス依存度(米国特許中の非特許文献引用の割合、2000-2005、米国出願人)

図:技術分野別のサイエンス依存度(米国特許中の非特許文献引用の割合、2000-2005、米国出願人)
資料:長野委員

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