1 |
はじめに:本校の紹介 |
|
(1) |
松山南高校:創立114年の伝統(戦前の県立高等女学校が前身)、県庁所在市にある公立高校(「坊っちゃん」で有名な松山中学=松山東高校と並ぶ大規模伝統校)。 |
(2) |
全日制は各学年普通科10学級(昨年度から9学級) 理数科1学級で、分校(デザイン科)や定時制もある大規模校。普通科・理数科はほとんどの生徒が大学に進学。
|
2 |
平成14年度スーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定 |
|
(1) |
平成14年度理数科入学生が主対象(3年間の事業として継続)。科学系部活動に所属する普通科生徒も含む。平成15年度以降の理数科入学生は従対象。 |
(2) |
入学後の指定だったため、従来通りの生徒がSSHを知らずに理数科に入学。 |
(3) |
指定直後の4月に、愛媛大学との合同SSH委員会を立ち上げ、高大連携を開始。 |
(4) |
翌5月からSSHに対応した授業・特別活動を開始(とりあえず県費で)。 |
(5) |
SSHの予算を利用できるようになったのは7月から。(県によっては12月から) |
(6) |
目的は、理数科のカリキュラム開発、高大連携、科学系部活動の活性化の3点。
|
3 |
SSHとしての学校設定科目:授業としての取組 |
|
(1) |
各教科の必履修単位を削減し(特例措置)、3年間で10単位を確保。(平成15年度以降の理数科入学生は特例がなく、普及のための従対象として2年間で2単位。) |
(2) |
サイエンスX:理数系への興味付けを目的とした、理数系教員による独自の実験・実習中心授業の開発。1年次に3単位(週1回3時間連続で設定)。 |
(3) |
理数セミナー:高大連携授業だが、事前・事後指導は高校教員が行う。愛媛大学の研究室体験(選んだ研究室に3日間入る)も実施。1年次2単位、2年次1単位。 |
(4) |
チャレンジX:従来から2年次に1単位で実施していた班別課題研究を、2年次2単位、3年次2単位に拡大。指導は全て本校の理数系教員による。発表会も実施。 |
(5) |
スーパーサイエンス:平成15年度以降の理数科入学生に、主対象の生徒に実施した内容を学年1単位に精選して実施。(時間不足のため、土曜日にも実施。)
|
4 |
SSHとしての特別行事:授業以外の活動 |
|
(1) |
体験活動:校外での研修活動。2年次に実施する「日本科学未来館研修」は事前・事後研修も指導するが、1学級の1回の訪問で約400万円を要するのでSSHがなくては実施できなかった(今年度SSH予算の4割)。生徒への効果が大きく、外部評価にもつながった。そのほか、理数科体験研修、理科学習合宿、企業訪問等も実施。 |
(2) |
講演会:本校理数科OB(研究者・技術者)による講演。そのほか、文化祭での文化講演会、大学教授の希望による記念講演会も実施。積極的に質問することを指導。 |
(3) |
中学生学校見学会(体験入学):教員による理数科説明、在校生による研究発表・体験報告を行った後、4分野のSSH実験から2分野を選んで体験。実験アシスタントには理数科や科学系部活動の生徒があたる。(普通科の見学会は学校の説明のみ。)
|
5 |
科学系部活動の活性化:体制の立て直し |
|
(1) |
平成14年当時の状況:物理部2名、生物部0、地学部0、まともに活動できているのは化学部のみ。(当時、全国的に理科系の部活動は絶滅の危機に瀕していた。) |
(2) |
SSH対象生徒の入部状況:95パーセントの生徒が何らかの部に入ったが、男子の大部分は運動部、女子は運動部と芸術系の部が主。運動部は兼部禁止で科学系部活動は低迷。 |
(3) |
理科教員の大部分は運動部の顧問であり、科学系部活動は各分野1人ずつしかいなかったが、SSHの開始とともに全員が専門分野の科学系部活動の副顧問に入った。 |
(4) |
サイエンスクラブ・数学クラブの設定:SSH対象生徒は、週2回、放課後の理科 的な活動をサイエンスクラブとして義務付け。土曜日午前中に数学クラブを設定。 |
(5) |
その後の変化:サイエンスクラブの活動を通して実験の面白さに目覚め、生物部や地学部に入る生徒が現れた。毎日の活動を続けていると、普通科の生徒も入部した。
平成 |
物理部 |
化学部 |
生物部 |
地学部 |
14年度 |
2 |
20 |
0 |
0 |
16年度 |
2 |
24 |
13 |
6 |
|
(単位:人) |
|
(6) |
科学系コンテスト・学会ポスターセッションへの参加:全国のさまざまなコンテストに積極的に参加。地元・近県での学会ポスター発表にもできるだけ参加。
|
6 |
生徒の変容:モチベーションの高い生徒が育った |
|
(1) |
学習と部活動の両立を実現:理系だけでなく文系科目でもクラス平均が学年でトップクラス(例年は平均)。部活動の実績で表彰される生徒数も学年で一番多いクラス。 |
(2) |
皆勤者が学年で最高:3か年皆勤者が40名中18名(昨年度10名)。3年次の1か年皆勤は30名。あらゆる集合で遅刻者が出ず、清掃に熱心に取り組むクラス。 |
(3) |
学校行事への積極的な参加:2・3年次の生徒会活動の中心。学年の生徒会役員が11クラスで8名いたが、うち6名が理数科1クラスから。生徒会長・議長も出た。 |
(4) |
進路志望が明確:例年1〜2割出る文系への進路変更がなく、全員が理系学科へ進学。偏差値ではなく研究内容で大学を選択。研究者希望が大幅に増加。<例>ある女生徒は入学時の将来像「中学校の先生」が3年次には「大学の教授」に変わった。 |
(5) |
全員が卒業:不登校傾向の生徒も例年と同じようにいたが、SSHの授業には出たくて登校を続けられた。(久しぶりに入学した40人が全員卒業できたクラス。)
|
7 |
高大連携の充実:地元・愛媛大学と、本校理科教員の出身大学の先生に依頼 |
|
(1) |
愛媛大学の全面協力:愛媛大学にもSSH委員会を立ち上げ、本校のSSH委員会との合同委員会で推進。研究室体験での実習費用も大学が負担。大学の事業として取り組むので謝金も不要。(電車賃300円だけを渡すが「今日は自転車で来たのでいりません」ということも。)SSH終了後も予算なく連携を続けられる下地ができた。 |
(2) |
愛媛大学スーパーサイエンス特別コース(SSC)の開設:研究者育成のための特別なAO入試で、博士課程までの一貫教育を行う。入試は、講義を聴講してレポート作成、計画を立て実験を実施、面接で行う。SSHに対応しているがSSH以外からの受験も可能。全国に先駆けて導入したが、近県の複数の国立大学でも追随の動き。 |
(3) |
大学教員と高校教員の距離が近くなった。顔を合わせる機会が多いので、相談することが従来よりも容易に。夜、合同で懇親会をすることがあり、本音で意見を交換できるようになった。SSHで大学院生がいい刺激を受けているという意見もあった。
|
8 |
科学系コンテストに多数の入賞:科目「チャレンジX」と科学系部活動の成果 |
|
(1) |
科学系コンテストに多数の挑戦をし、年を追う毎に数多くの入賞を果たした。
平成 |
出品コンテスト数 |
出品論文数 |
入賞数合計 |
全国レベル入賞内数 |
14年度 |
1 |
2 |
2 |
0 |
15年度 |
4 |
10 |
5 |
0 |
16年度 |
10 |
22 |
16 |
10 |
|
(単位:人) |
|
(2) |
生徒が自信を得た。全国レベル優勝のような「一点豪華主義」ではなく、努力賞・入選レベルとはいえ大部分の生徒が何らかの入賞に接する「平均レベルの底上げ」であった。このことが大学の推薦入試の面接で有利に働き、好成績につながった。 |
(3) |
教師が自信を得た。SSHにより、理科教員全員が副顧問として科学系部活動に入り(主顧問は運動部)、研究を指導した。ほとんどの理科教員にとって初めての研究指導であったが、ほぼ全員の教員が入賞に到達し、やりがいを感じることができた。 |
(4) |
学会のポスターセッションにも参加し、専門家に鍛えていただいた。<例>昨年9月に愛媛大学で開催された日本海洋学会では、担当者から高校生対象の講演会をしたいという問い合わせがあり、高校生もポスター発表に参加させていただくようにした。結果は大成功で、次年度からの海洋学会でも高校生発表の場が続くことになった。
|
9 |
理数科らしい進路実現:大学の内容を知る機会が多かったことが原因 |
|
(1) |
本校生徒の進路希望はほとんどが国公立大学への進学のため、学校での進路指導の基本は「現役での国公立大学合格」。理数科40名中、早稲田・慶応などの私立大学推薦入試に合格した以外の36名が国公立大学を受験し、35名が合格した(延べ合格数は38)。これらの大学は、北は北海道大学から南は熊本大学までの全国各地の大学に及ぶ。希望がかなわなかった唯一の生徒は「大学院入試で国立大学に合格します」と言って私立大学理学部に進学していった。
理数科における国公立大学の現役合格数(延べ) |
平成 |
11年 |
12年 |
13年 |
14年 |
15年 |
16年 |
17年3月 |
人数 |
16 |
19 |
25 |
22 |
22 |
28 |
38 |
|
40名中 |
|
(2) |
AO入試・推薦入試で絶大な効果:理数科40名中19名がAO入試・推薦入試で国立大学に合格した。これは、昨年度(5名)の4倍近い成果であった。
理数科における国公立大学のAO入試・推薦入試合格数 |
平成 |
15年 |
16年 |
17年3月 |
AO |
0 |
2 |
6 |
推薦 |
2 |
3 |
13 |
|
<SSHの3年間で年々向上した> |
|
(3) |
理数科らしい進路選択:全員が理系の学部・学科に進学した。教育学部も理数系、総合学部も自然系。SSHにより、理系の幅広い学部に進学するようになった。
理数科における大学進学者の学部別人数(国公私立大:40名中) |
学部 |
教育 |
理学 |
工学 |
医歯 |
薬学 |
農水 |
総合 |
文系 |
合計 |
15年 |
2 |
6 |
11 |
2 |
1 |
1 |
0 |
8 |
32 |
16年 |
0 |
6 |
21 |
1 |
1 |
1 |
0 |
4 |
34 |
17年 |
1 |
10 |
14 |
2 |
2 |
6 |
3 |
0 |
38 |
|
|
(4) |
普通科理系クラスにも波及効果:理数科の高い進路意識が普通科理系クラスにも伝染し、例年にない好成績に。(理系各クラスとも8割以上が国公立大学に合格。)
|
10 |
その他の成果:国際的な評価や生徒の成長 |
|
(1) |
内閣総理大臣オーストラリア科学奨学生:平成15年、本校のSSH対象生徒が2年ごとに開催される国際物理学校の日本代表10名に選ばれ、シドニー大学で「非英語圏で最優秀学生(アジア 1)」として表彰された。SSHで鍛えられた質疑応答能力が役立ったという。(アジア各国の参加者は国のトップ大学に入学指定とか。) |
(2) |
国際生物学オリンピック国内一次予選:今年から始まった大会で、一次予選で選抜された全国10名の中に、本校のSSH対象生徒が3名入っている。3名もの合格は本校だけであり、西日本で合格者が出たのも本校だけであった。5月の2次選考で日本代表4名が選ばれ、7月の北京大会に派遣される。(その中に入ってほしい。) |
(3) |
質疑応答能力:本校SSH対象生徒の質疑能力は大きく伸び、日本科学未来館研修での熱心な取組は解説員から感心された。また、ある講演会では聴講後の質問が40分以上も続き、昨年夏のSSH指定校研究発表会では司会者に途中から「松山南高校以外で質問はありませんか」と言われた。この質疑応答能力が入試の面接で役立った。 |
(4) |
理数系だけでなく文系教科も成績が向上した。まさに生徒のモチベーションの向上と言える。地歴科教員「興味関心の高さが他のクラスと全然違う」、保体科教員「生徒一人一人がすごく魅力的な人に育っている。人間性を育てていると強く感じる。」
|
11 |
今後希望する支援策 |
|
(1) |
指導教員へのバックアップ:学校の従来の仕事はあまり減らず、SSHの仕事が加算されているのが現状である。ある県のSSH担当者は残業時間と休日出勤時間が年間で2500 時間を超えたという。したがって、SSH指定校には理数系教員の加配が必要。(愛媛県教委には本校に人事的配慮をしていただき、とても助かっている。) |
(2) |
指導教員のスキルアップ支援:生徒の課題研究を指導するにも、教員自身が能力を高めなければならない。高大連携が本当に必要なのは生徒ではなく教員の方かも。 |
(3) |
学校設定科目の自由度:必履修単位の縛りがあり、進学のための学力向上を目指すため、ほとんどの教科は単位数を削減されるのを嫌がる。理数科の教育を普通科よりも魅力的にするためには、学校設定科目の自由度が必要。 |
(4) |
理数科にこそ理科総合を:理数科には理科3科目履修という縛りがあるために、逆に理科4科目を実施できない。科目「理科総合A・B」は理数科では履修できないが、理数科の1年生にこそ学習させたい内容である。科目選択の自由度が必要。 |
(5) |
評価基準の例示:平成14年度からのSSH事業は前例がないだけに迷走することも多かった。そろそろ評価の観点を明確にして、具体的な成功例を公表してほしい。 |
(6) |
大学入試改革:高校時代の実績と意欲の評価基準を明示した入試制度の推進。 |
(7) |
国際化の方策:新規SSHでは国際化が大きく掲げられているが、高校にはテレビ会議システムはなく、海外交流校への教員派遣予算も認められないので困っている。
|
12 |
おわりに |
|
(1) |
新規SSH5か年計画:SSHが教員にとって「すごくしんどいハイスクール」になっている現状から、やめたいという声も強かった。が、生徒のためになっていることを教師の都合でやめるわけにはいかなかった。生徒のためになら頑張れる。 |
(2) |
変化の相乗効果:SSHで生徒が変化し、変化する生徒を前に教師も変化せざるを得なかった。そしてさらに生徒も変化し、相乗効果で互いに高め合うことができた。 |