3 試験免除のあり方

1.総論

  筆記試験は、受験者の原子炉の運転に関する専門的知識の有無を判定することが目的であり、カリキュラムの内容が筆記試験の出題範囲を満たしていることや運営システムの質が確保されていることなど、原子力専門職大学院が原子炉主任技術者に求められる専門的な知識を十分に教授し得るものであることが担保されれば、基本的に筆記試験の一部の科目を免除することは可能である。

2.試験免除制度の枠組み

(1)免除対象の科目

  筆記試験の法令以外の科目については、原子力工学を総合的に学習することによりカバーされると考えられることから、免除の対象となり得る。原子力専門職大学院等の教育内容を詳細に審査し、原子炉主任技術者試験の筆記試験合格相当の専門的知識が習得されると認められる場合には、所要の単位を取得して修了した者(以下、「所要単位取得修了者」という。)に対し、試験を免除することが可能である。ただし、これらの科目が求める原子炉に関する基礎知識には共通部分が多いこと、また原子力専門職大学院等では実務的原子力エンジニアに必要な専門的知識が総合的に習得されると考えられることから、科目ごとの試験免除ではなく、これら法令以外の科目の一括での試験免除制度とすることが適当である。

  法令科目については、法令遵守の重要性を鑑みると、法令科目が免除されない他の多くの国家試験と同様に、国が筆記試験を行い、その知識の有無を確認すべきであり、試験免除の対象とすべきではない。

(2)免除指定の仕組み

  その所要単位取得修了者に対する筆記試験(「原子炉に関する法令」を除く)の免除を受けようとする原子力専門職大学院等からの申請を受け、国がそのカリキュラム、教育体制等を審査して、筆記試験合格者相当の専門的知識を教授できる十分な能力があると認めた場合に指定する制度とする。このため、国は所要の手続きを定めるほか、審査の基準を定める必要がある。また、一の大学院に複数の課程が設置されることが多いため、指定の単位は大学院ではなく課程単位とすることが適当である。

3. 免除指定を受けようとする原子力専門職大学院等に対する措置

  原子力専門職大学院等は専門職大学院、あるいは大学院として文部科学大臣の認可を受けたものであるため、教育機関としての一定の水準は確保されているはずである。(参考4)しかしながら、原子炉主任技術者試験合格者の質の低下につながらないような制度としなければならない観点から、免除指定の審査等について、制度に以下の措置を盛り込むべきである。

(1) 審査の方法及び原子力専門職大学院等に要求すべき事項

  免除指定を受けようとする課程の審査は、十分な教育の実施を担保するため、カリキュラムの範囲のみならず、その質や量についても踏み込んだ評価をする必要がある。これを行政庁のみで行うことは困難であり、公表された基本的な審査基準の下、専門家の意見を聴いて判断するのが妥当である。

  原子力専門職大学院等が学生に十分な知識を習得させる教育を実施することの担保として、国は、原子力専門職大学院等にカリキュラムの内容が筆記試験の出題範囲をカバーしていること、必要な時間数が確保されていること、教員団を含め運営システムの質が確保されていること、単位認定の判定方法や判定基準が明確であり、単位取得者が筆記試験合格者のレベルに相当することを保証するものであることを要求するべきであり、指定の審査にあたっては、この審査基準である要求事項を満たしているか確認するべきである。

  原子力専門職大学院に要求すべき事項として、まず、カリキュラムの内容が学生に対して原子炉主任技術者に必要な専門的知識を与えるに十分な内容であることが挙げられる。このため、カリキュラムの範囲が出題範囲をカバーしているかどうかに加え、原子炉主任技術者としての専門的知識の定着やその専門的知識を応用する力量の習得、原子炉に関する物理的・化学的現象や原子炉施設における安全管理を中心とした実務の本質についての理解を深めるための効果的な演習や事例研究、実験・実習も必要である。この要求事項に従って審査した場合、必ずしも原子力専門職大学院等を修了するために必要な単位数と筆記試験合格者相当の専門的知識を身につけるために必要な単位数は一致しないことに留意する必要がある。

  次に、カリキュラム修了者が筆記試験合格水準の質を有するためには、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験などの教員団の質についても求めるべきである。このため、原子炉主任技術者免状の保有者を教員に含むことが望ましく、このような教員が教育計画に参画するか若しくは意見を述べる機会を設けることが望まれる。なお、教育組織の質的向上を図るファカルティデベロップメント等については、通常の大学院であれば導入、整備されているが、制度を適切に運用していくために、筆記試験免除の担保として、改めて要求すべきである。

  単位取得の判定方法については、客観性を担保するため、教科ごとに複数の教員が判定に当たるとともに、筆記試験合格相当であることを、最終的に判定会議等により専門職大学院等として保証することを求めるべきである(保証された単位取得者を、以下「免除対象者」という。)。

  また、1年間の講義等の実施結果をもとに次年度の運営にフィードバックするなど、カリキュラムや運営方法の改善の方法、評価体制を明確にすることを求めるべきである。また、第三者による客観的な評価を積極的に実施するよう求めるべきである。

  このような要求事項については、日本技術者教育認定機構(JABEE)の日本技術者教育認定基準のような広く普及している一般的な基準を参照するべきである。

  なお、専門職大学院にあっては、すでに文部科学省における設置審査において「高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識と卓越した能力を培う」ことができることが審査・確認されているため、要求すべき事項について、筆記試験の実効性確保のための措置を除き、専門職大学院設置基準と重複する部分は設けなくてよい。

(2)免除指定後の原子力専門職大学院等に関する措置

  原子力専門職大学院は、専門職大学院として5年ごとの教育、組織及び運営等に関する第三者評価を受けることとされている。しかし、原子炉主任技術者試験との関係においてカリキュラムや教員団等の質の維持を図る観点から、免除指定を恒久的なものとせず、原子炉主任技術者試験の実施主体である国が合理的な期間を設定して定期的に見直す仕組みとすべきである。

  カリキュラムを変更しようとする場合には、変更内容と変更後のものが原子炉主任技術者試験の筆記試験の出題範囲相当であるか否かをあらかじめ国に届出させ、国側でそれを審査する仕組みとすればよい。

(3)免除指定の取消し

  免除指定後、免除指定の際の申請内容を満たしていない、又は、カリキュラムの質が維持されていない場合や、法令遵守の観点から手続き等に重大な違反があった場合は、免除指定を取り消す必要がある。

  定期的に評価することにより、必ずしも不適合状態が長く放置されることはないと考えられることから、取消しに際しては、適合していないと国が判断したその年以降とすればよい。

4.免除対象者に関する措置

(1)免除の有効期間

(第4回検討結果を踏まえて修正)

  筆記試験において求められる専門的知識については、基本的に時間経過による変化は少ないと考えられるが、専門職大学院等修了後に早期に実務家としての活躍を期待する観点から、速やかに筆記試験を受験させるべく、筆記試験の一部科目が免除される有効期限を設けるべきである

(2)受験申込み時の措置

(第4回検討結果を踏まえて修正)

  筆記試験の受験申込み時において、筆記試験合格者相当として原子力専門職大学院等が判定し認定した者に発行する特別の単位取得証明書を添付させ、国がその内容を確認した上で受験票を発行するのは当然であるが、原子力専門職大学院等の修了と前後して原子炉主任技術者試験の筆記試験を受験する者は、必ずしも受験申込み時に単位証明書を提出することができない可能性がある。そこで、このような者に対しては、原子力専門職大学院等が免除対象者となる見込みであるとして受験申込を行い、修了後に単位取得証明書を提出させることとすればよい。

(3)筆記試験合否判定に関する措置

  免除対象者は、筆記試験において法令の1科目のみを受験することとなる。現行の総合評価方式の合否判定では、平均点60点以上であれば、試験科目に関係なく、1科目のみは平均点を下回る40点でも認められている。一方、原子力専門職大学院等には、その学生の単位判定を単位ごとに厳格に実施することを求めることに加え、近年、法令遵守が原子力に限らず様々な分野で厳格に求められていることを考えれば、この場合の合否判定の基準点は60点として厳格に運用すべきである。

  なお、免除指定には関係ないが、従来からの全科目受験者に対する合否判定についても、法令の知識は技術的な力量とは異なるものであるので、法令遵守の観点からの評価も重要であり、他の科目とは独立して評価すべきと考える。

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科学技術・学術政策局原子力安全課原子力規制室

(科学技術・学術政策局原子力安全課原子力規制室)

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