ITERの安全確保について(中間とりまとめ)

平成15年3月3日
文部科学省 ITER安全規制検討会



中間とりまとめ
目次


1.趣旨

2.ITERの安全性の特徴
  2−1.ITERの概要
  2−2.ITERの安全確保において考慮すべき潜在的危険性

3.ITERの安全確保の基本方針
  3−1.安全確保の目的
  3−2.主要な安全要件

4.ITERの安全性の確認の基本的手続き
  4−1.基本的考え方
  4−2.基本設計についての安全性の確認の手続き
  4−3.機器・設備の詳細設計段階及びその建設段階における安全性の確認の手続き
  4−4.運転段階における安全性の確認の手続き
  4−5.廃止段階における安全性の確認の手続き

5.安全性確認のための法的な枠組みの整備

6.今後の進め方


(別添)
・ITER安全規制検討会構成員



1. 趣旨
  本中間とりまとめは、我が国に国際熱核融合実験炉(以下、「ITER」という。)が立地される場合のITERの安全確保に関し、ITERの安全性の特徴を踏まえた安全確保の基本方針と安全性の確認の基本的な手続きについて我が国としてITER計画の関係各極に対して提示していくものをとりまとめたものである。本検討は、「ITER施設の安全確保の基本的考え方について(平成12年7月科学技術庁)」「ITERの安全確保について(平成13年8月原子力安全委員会)」及び「ITERの安全規制のあり方について(平成14年6月原子力安全委員会)」を踏まえつつ行った。
  なお、今後、ITER計画の「共同実施協定(JIA)※1」が締結され、ITERの建設・運転を推進する国際機関(以下、「ILE」※2という。)が設立されることになるが、それまでの間においても、本中間とりまとめに基づいて、所要のITERの安全性の確認の作業を行っていくことが適当であると考えられる。

  ※1 JIA:Joint Implementation Agreement
  ※2 ILE:ITER Legal Entity

2. ITERの安全性の特徴
−1.ITERの概要
  ITERは、平和利用を目的とした核融合エネルギーの科学的・技術的実現性を国際協力により実証するトカマク型熱核融合実験装置であり、重水素とトリチウムのプラズマによる高出力長時間燃焼の実現を目指すものである。具体化には、約500MWの核融合出力を約400秒間持続する運転を標準として、種々の試験が計画されている。
  ITERは、実験装置本体のトカマク施設の他、燃料処理貯蔵施設、放射性気体、固体及び液体の廃棄物処理施設、冷却系統施設、放射線管理施設、建物・構築物等で構成される。

−2.ITERの安全確保において考慮すべき潜在的危険性
  核融合反応は、反応のための一定の範囲の温度等の条件を外的に整えたときにのみ起こり得るものであり、核分裂のような連鎖反応ではなく、原理的に核的暴走の危険性はない。
  このため、ITERの安全確保においては、核融合反応の暴走を考慮する必要はなく、考慮すべき潜在的危険性は、トリチウム等の相当量の放射性物質を内蔵することと、それらの放射性物質を内蔵する機器に核融合反応等に伴う熱及び磁気エネルギー等により相当量の荷重が作用することである。

3. ITERの安全確保の基本方針
  上述のITERの安全性の特徴を踏まえ、設計段階における安全確保の基本方針は、以下の通りとすることが適当である。

  3 −1.安全確保の目的
  ITERは、トリチウム等の放射性物質を内蔵すること、核融合反応において中性子が発生することなどから、「公衆及び従事者に放射線障害を及ぼすおそれがないように措置を講ずること」を安全確保の目的とする。

  3 −2.主要な安全要件
  上述の安全確保の目的を達成するためのITERに求められる主要な安全要件は、次の通りである。
(1)   平常時において環境中に放出される放射性物質及び施設から直接放出される放射線に対して、公衆及び従事者に対する放射線防護が適切になされること。
(2)   ITERの安全性の特徴を考慮して、放射性物質を内蔵する機器等の構造強度を確保することなどにより、事故の発生防止が適切に図られること。
(3)   排気設備等により、事故の影響緩和が適切になされること。

4. ITERの安全性の確認の基本的手続き
  4 −1.基本的考え方
  ITERの安全性の確認は、基本設計段階、詳細設計・建設段階、運転段階及び廃止段階の各段階に応じて、予め示した基準等に基づき科学的・合理的方法により行うことを基本とする。
  また、その手続きは、ILEと我が国の国民にとって、予め把握できるものであること、かつ透明性をもって進められることが必要である。
  なお、ITERが国際協力計画で進められること及び初めての大型のトカマク型熱核融合実験装置であることを考慮し、基本設計と詳細設計の適用範囲については、ILEからの意見を聴取しつつ、柔軟に対応することとする。
(注) ここでいう基本設計とは、ITERの全体構想が明確となるITER施設の一般構造、ITER本体や放射性廃棄物の廃棄施設の構造及び施設などの情報を含むITERの安全確保に係る基本的設計をまとめたものであって、後述する「安全設計・安全評価の基本方針」との適合性が判断できるものをいう。

  安全性の確認の手続きにおいては、次のことに留意することが必要である。
  a) 施設の建設に係る詳細設計及び工事に長期間かかること
  b) 参加各極から機器設備の物納品がILEに提供されること
  c) 運転が、水素−水素(H−H)反応から始まり、重水素−重水素(D−D)反応、重水素−トリチウム(D−T)反応へと段階的に進んでいくこと
  d) ITERの特性に鑑みて、原子力災害対策特別措置法により原子力発電所等の原子力施設に求められているような原子力災害対策は必要ないとされること

  4 −2.基本設計についての安全性の確認の手続き
  基本設計に係るITERの安全性の確認の手続きについては、次の3つの段階で進めていくことが適当である。

(1)   第1段階(現段階からサイト共同評価終了(2003年初頃)まで)
  これまでのITER計画の「工学設計活動(EDA:Engineering Design Activities)」において最終設計報告書がとりまとめられており、これに基づいて、安全規制当局としての安全性の確認に係る次の3つの文書を整備し、ITER国際チームに対して、サイト共同評価終了(2003年初頃)までのできるだけ早い段階で提示するものとする。
  1安全設計・安全評価の基本方針
  2技術基準
  3詳細設計の確認の範囲・項目及び検査の範囲・項目

(2)   第2段階(ILEが設立されるまで)
  安全規制当局は、「安全設計・安全評価の基本方針」等を基に、ITER国際チームに対しITERの基本設計についての疑問点や補足的内容を質問し、国際チームに対しその回答を求める。
  この過程を通じて、安全規制当局は、ILEが設立後提示することになる設計の確認に備えた予備検討作業を進めていくものとする。同時に、詳細設計の内容についても、ITER国際チームの現在までの設計活動の情報に基づき、「技術基準」等に照らした検討を開始する。

(3)   第3段階(ILEが設立されて以降)
  2004年にILEが設立され、ITERの安全性の確保に係る法的な枠組みがILEと日本国政府との間の国際約束も含めて整った後、安全規制当局は、ILEに対し速やかに最終的な基本設計の提出を求める。
  ILEからの最終的な基本設計の提出を受け、安全規制当局は法的な枠組みに基づく確認に入り、第2段階で行った検討内容を踏まえつつ、公衆及び従事者の放射線障害防止の観点から、「安全設計・安全評価の基本方針」等の基準に照らして、最終的に妥当性を確認する。

  4 −3.機器・設備の詳細設計段階及びその建設段階における安全性の確認の手続き
(1)   基本設計に係る安全性の確認が終了した後、法的な枠組みに基づき、ILEに対し、「詳細設計の確認の範囲・項目」に該当する詳細設計の提出を求め、安全性を確認する。公衆及び従事者の放射線障害の防止の観点から問題がないことが確認できれば、ILEに対し建設の開始を了解する。
  詳細設計の確認においては、基本設計において約束・確認されたこととの整合性や「技術基準」との適合性を確認する。なお、詳細設計の確認において、必要な詳細な技術規格等については、学協会等で検討されてきたものについてその妥当性を検討した上で活用していくこととする。
  なお、詳細設計の確認は、ITERの詳細設計には長期間を要することから、適切な単位で分割して行うことになると考えられる。

(2)   建設段階においては、「検査の範囲・項目」に基づき、該当する機器・設備に関して設計段階で確認された内容に合致するように製作され、かつ、所要の機能及び性能が確保されていることを確認するための検査を行う。
  また、ITERの機器・設備の相当部分は、国際約束に基づき各極に製作が割り当てられ、ILEに対して物納されることになるため、検査ではその物納品に対する適切な品質保証がなされることを前提に、機器・設備の工事状況に応じ、必要な検査を行うこととする。
  なお、検査は、ITERの建設には長期間を要することから、適切な単位で分割して行うことになると考えられる。

  4 −4.運転段階における安全性の確認の手続き
  運転段階においては、ITERの安全性の特徴を踏まえた安全性の確認のための適切な検査を行うこととする。
  運転段階における検査の方法については、設計・建設段階での確認事項及び留意事項を踏まえて、適切な時期に整備することとする。

  4 −5.廃止段階における安全性の確認の手続き
  ILEに対しては、運転終了後の適切な除染がなされていることを確認する。

5. 安全性確認のための法的な枠組みの整備
  上述のようなITER施設の設計、建設、運転及び廃止の各段階における安全性確認のための法的な枠組みについては、今後、我が国とILEとの間の取決めに関する協議・検討状況等を踏まえつつ、必要な制度整備の具体化を検討していくこととする。なお、その際には、ITERの建設・運転を行う主体が国際機関であることを前提とすることが必要となる。

6. 今後の進め方
  今後、以上の方針に沿って、必要となる「安全設計・安全評価の基本方針」等の3つの文書を早急に策定し、ITER計画の関係各極や国際チームに対して提示することとする。その上で、EDAの最終設計報告書等を基に、ITER国際チームとの間の質問・回答のやりとりを通して、所要の安全性の確認の作業を進めていくものとする。このような技術的検討作業と合わせて法的な枠組みの整備に必要な諸事項の検討を進めていくものとする。
  なお、ここに示しているITERの安全確保に係る進め方については、今後、ITER計画の進捗等に合わせ必要に応じ見直していくものとする。



(別添)

ITER安全規制検討会構成員

飯塚  悦功(いいづかよしのり)    東京大学大学院工学系研究科教授
岩渕  正紀(いわぶちまさのり)    弁護士
及川  哲邦(おいかわてつくに)    原子力安全委員会安全調査管理官
岡    芳明(おかよしあき)    東京大学大学院工学系研究科教授
小幡  純子(おばたじゅんこ)    上智大学法学部教授
小寺  彰(こてらあきら)     東京大学大学院総合文化研究科教授
斉藤  正樹(さいとうまさき)    東京工業大学原子炉工学研究所助教授
田中  知(たなかさとる)    東京大学大学院工学系研究科教授
東井  和夫(とういかずお)    核融合科学研究所教授
永田  敬(ながたたかし)    核燃料サイクル開発機構敦賀本部国際技術センター長
中村  尚司(なかむらたかし)    東北大学大学院工学研究科教授
橋爪  秀利(はしづめひでとし)    東北大学大学院工学研究科教授
座長代理    班目  春樹(まだらめはるき)    東京大学大学院工学系研究科教授
藤田  聡(ふじたさとし)    東京電機大学工学部機械工学科教授
座長 宮    健三(みやけんぞう)     慶応大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻教授


ITER施設の安全性確認のための当面のスケジュール

(科学技術・学術政策原子力安全課)

-- 登録:平成21年以前 --