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資料第6-5号

2005年2月10日

航空機乗務員等の宇宙線被ばくに関する論点整理に対する意見(メモ)

日本乗員組合連絡会議
客室乗務員連絡会

前略
 放射線安全規制検討会航空機乗務員等の宇宙線被ばくに関する検討ワーキンググループ(以下「ワーキンググループ」)の昨年来の活動には敬意を表します。2005年1月25日に開催された第5回ワーキンググループで配布された資料5-4号「航空機乗務員等の宇宙線被ばくに関する論点整理」(以下「論点整理」)について、意見を2月10日までに提出してほしい旨の連絡を受けました。締切時間の制約もあることから、私達に関連する部分についてのみ、以下に意見を簡単に記します。なお、私達は航空機乗務員であり、ワーキンググループの方々のように宇宙線被曝に関する専門家や放射線医学の専門家ではありません。専門用語の使い方その他で不充分な点は多々あるかと思いますが、その点はどうぞご容赦ください。

1. 既に1996年3月28日、日本乗員組合連絡会議(以下「日乗連」)、日本航空客室乗務員組合など四者は共同で、当時の科学技術庁長官宛に「航空機乗務員の宇宙線被曝防護に関する要請」(以下「要請」)を提出しております。又、2004年2月6日、日乗連と客室乗務員連絡会(以下「客乗連」)二者は共同で、文部科学大臣宛に「航空機乗務員の宇宙線被曝防護に関する再度の要請」(以下「再度の要請」)を提出しております。これら2つの要請に対する回答は、現在にいたるもありません。文部科学大臣に提出した「再度の要請」のおよそ3カ月後に文部科学省はワーキンググループを立ち上げ、その後9月14日に行なわれたワーキンググループ第二回会合においては、日乗連および客乗連が意見表明の機会をいただいたのですから、論点整理には私達の意見として、要請や意見表明の内容を網羅して記していただきたいと考えます。

2. 論点整理の1ページ目の「論点1.1.イ」の「科学的知見・事実関係等」欄にある、「太陽活動が活発な時期は・・・、地球で観測される宇宙線量の総和は必ずしも増加するとは限らず・・・」については、私達も承知しています。しかし、一方で、太陽活動が活発な時期に発生するいわゆる巨大フレアなどにおいては、短時間ではあるものの、宇宙線が飛躍的に増加するSolar Radiation Stormが発生することも事実です。米国のNational Oceanic and Atmospheric Administration(以下「NOAA」)が公表しているSpace Weather Scale for Solar Radiation Stormsには、「高緯度を航行中の航空機が、Scale S5(日乗連注:NOAAの分類による最強度のSolar Radiation Stormのこと)に遭遇した場合、乗員乗客は胸部レントゲン約100回分の宇宙線を浴びる可能性がある」旨記載されています。私達はこの問題を「胎児被曝」という観点でも大変重要な問題と捉え、強い関心を持っており、ワーキンググループでの意見表明でも指摘させていただきました。しかし、今回の論点整理ではまったく触れられていません。この「論点1.1.イ」における「科学的知見・事実関係等」には重要な部分が欠落していると私達は考えており、私達の疑問や不安はいっこうに解消されていません。

3. 論点整理の2ページ目の「論点1.2.ア」にある、日乗連の意見「日乗連の試算では・・・不安を感じている。」に対する「科学的知見・事実関係等」欄に、「広島・長崎原爆被爆者17万人の60年にわたる調査から、100〜200ミリシーベルト以下の低線量域では長期的な健康影響の発生の有意の差が認められていない」とあります。私達の不安が根拠のないものであるならば、それを率直に指摘し払拭してくださることには感謝いたします。ただ、『原爆放射線の人体影響1992』(放射線被曝者医療国際協力推進協議会編、文光堂、1992年発行)によれば、「原爆傷害調査委員会は1950年10月(昭和25年)および1955年11月(昭和30年)の国政調査付帯調査で把握された被爆者に基づいて約12万人(広島8.2万人、長崎3.8万人、それぞれ2万人、6千人の非被爆者を含む)の固定人口集団を設定し、予測される放射線後障害の調査、すなわち被爆者の白血病、白内障、被爆小児の成長発育、胎内被爆者と被爆二世への影響などに関する調査を開始した」とあります。被爆したのは60年前のことであるにしても、「60年にわたる調査」なる記載は「科学的知見・事実関係等」の名には値しないと考えます。又、病理学者である故飯島宗一名古屋大学学長は、「ABCC(日乗連注:原爆傷害調査委員会のこと)が設定した集団と非被爆者集団とをよく調べてみますと、非被爆者集団の中に、実は低線量の被爆者が含まれている」と、遠距離被爆グループを非被爆グループに加えて、被爆グループと対照するという原爆傷害調査委員会の疫学調査の問題点を指摘しています。又、飯島宗一先生は、「数値や性質の上ではっきりした病気や症状は、客観的にとらえやすく、定量化しやすいので、統計上で比べることが容易でありますが、およそ限られた検診項目の網にかかりにくく、あるいは客観的にとらえにくい症状や悩みは、比較の対象にならないという問題点があります」と、上記疫学調査の問題点を率直に述べております(飯島宗一著、社団法人日本被団協被爆者中央相談所報No.14、1986年発行)。更に、上記疫学調査が開始される以前に亡くなってしまった被爆者が当然のごとく被爆グループから排除されていること、被爆者の被曝線量が基本的に初期放射線に起因する被曝のみで推定され内部被曝に起因する被曝が十分に考慮されていないこと、初期放射線の被曝線量評価方式DS86が遠距離における放射能実測値を合理的に説明できない、DS86のソースタームの信頼性が確認できないことなど、いろいろと問題点が指摘されていると私達は聞いております。そのことが現在行われている原爆症の認定を求める訴訟において、非常に問題になっていると聞いております。いずれにせよ、現在の論点整理の「科学的知見・事実関係等」の上記記載は、私達の不安を払拭するものにまったくなっていないことを意見として表明しておきます。

4. 論点整理の2ページ目の「論点1.2.ア」にある、日乗連の意見「LNT仮説に基づいた日乗連の試算では・・・疑問を抱いている。」に対する「科学的知見・事実関係等」の後段の文章、「このことは、モナザイト産地など世界の中で自然放射線量が比較的高い地域において、致死的な癌になる割合が他の地域と比べても特に高くなるということがないことからも明らかである」とあります。1996年に米ハーバード大学の研究チームがまとめた報告書によると、米国における発癌の原因を寄与の大きい順番に並べると喫煙(30%)、食事(30%)、運動不足(5%)、職業(5%)、遺伝(5%)、ウィルス・細菌(5%)、周産期・生育(5%)、生殖(3%)、アルコール(3%)、社会経済要因(3%)、環境汚染(2%)、紫外線など(2%)、医薬品・医療行為(1%)、食品添加物・汚染物質(1%)とあります。自然放射線は「紫外線など(2%)」に入るのでしょうが、発癌の原因としては非常に小さい寄与です。ブラジルやインドなどのモナザイト産地でどうなるのか知りませんが、いずれにせよ交絡因子の検討などを十分に踏まえなければ、きちんとした科学的な結論は下せないはずです。上記後段の文章はその点で十分に科学的な研究にもとづく結論といってよいものなのでしょうか。さしつかえなければ、上記後段文章の根拠となる文献・資料を私達にご教示いただければ感謝します。

5. 論点整理の3ページ目の「論点1.2.イ」についてですが、私達が「再度の要請」でも指摘したように、日本発着の国際線は、地理的要因や旅客動向などから、宇宙線が多い高緯度を飛行する長距離路線(米東海岸、欧州、一部の米西海岸など)が多く、それらが国際線に占める割合は、他国のそれと比較してかなり高いという特徴があります。この特徴は、我が国において宇宙線被曝問題を考える上では当然考慮されるべき事実関係と考えます。

6. 論点整理の13ページ目の「論点4.1.ア」についてですが、私達は「要請」および「再度の要請」において「国際放射線防護委員会の1990年勧告に沿い、関係法規において航空機乗務員の宇宙線被曝を職業被曝と位置付けること」を明確に求めています。また、同時に、被曝低減化の措置や被曝が特定個人に集中しない対策なども求めています。是非、私達の意見として記していただきたいと考えます。更に、「論点4.1.ウ」および同「エ」についても私達は要請等において、その実現を求め続けております。

7. 論点整理の13ページ目の「論点4.1.オ」にある、日乗連の意見「航空機乗務員等の宇宙線被ばくに関する疫学調査等の調査研究をして欲しい」に対する「科学的知見・事実関係等」が記載されておりません。日乗連の意見に限らず、論点4は「科学的知見・事実関係等」の不記載が目立ちます。今後ワーキンググループで十分検討・議論していただけるのか疑問や不安が残ります。私達にとって最も重要な部分であり、早急に検討・議論をして論点整理に反映していただくことを希望します。

 以上、日乗連・客乗連として論点整理に対する意見を述べさせていただきました。ワーキンググループのご活躍を今後とも見守り期待しております。

草々



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