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資料第4-6号

2004年12月7日
原研 笹本 宣雄

“Overview of Atmospheric Ionizing Radiation (AIR)”
by J.W.Wilson et al.
(2003)
の紹介

 本論文は、1998年3月にNASA(ナサ)が主催して、NASA(ナサ)研究所であるラングレー研究センターで開催された、“Atmospheric Ionizing Radiation (AIR): Analysis, Results, and Lessons Learned From the June1997 ER-2Campaign” (NASA(ナサ)/CP-2003-212155;Feb. 2003)に関するワークショップ報告書の第2章として掲載された論文である。本論分はatmospheric Ionization Radiation (AIR) に関する知見の現状を概観したものであり、その中から特に航空機乗務員等の宇宙線被ばく評価に直接関連する測定値、評価値を紹介する。

地球外宇宙線源
Galactic cosmic rays
図.3は近年の太陽黒点数とカナダのDeep Riverで測定した中性子計数率の相関関係を表しており、両者は完全な逆相関を示している。すなわち、黒点数が多い太陽活動が活発な時期は、太陽起源の放射線が増加する反面、太陽系外からの宇宙線が減少し、トータルで見て宇宙線強度は減少する。
図

図.5には、太陽活動極大期と極小期の場合の、宇宙線粒子のエネルギースペクトルが示されている。この図から、スペクトルは100〜1000メブ/核子の領域のピークを形成し、太陽活動極小期と極大期でフラックスに1桁近い差異が見られる。
グラフ

Atmospheric radiation
図.15には高緯度及び中緯度での大気圏宇宙線強度を、太陽活動極小期及び極大期に分けて表示してある。大気中を透過するにつれ生成する2次荷電粒子が増加し、線束は増大しピークを形成するが、地表面近く(10の3乗グラム毎平方センチメートル)では緯度および太陽活動の依存性は消滅する。ピーク位置は上空17キロメートルから22キロメートルの高度である。
グラフ

図.22は気球測定により得られた、宇宙線極大期での大気圏深さの関数としての線量率及び中性子束を示す。中性子線束(1 to 10メブ)は19キロメートル高さに広いピークを形成し、線量率は21キロメートル以上の高度では横ばいの傾向を示す。WilsonらのAIRモデルとの一致は良好である。
グラフ

図.27はGCRの線量当量率における、宇宙線の電離箱線量、スター、高エネルギー中性子の寄与割合を高度の関数として示したものである。この図からおおよそ線量当量の半分が中性子の寄与であることがわかる。
グラフ


Background exposure level
図.31は1965年の太陽活動極小期における、高度12キロメートル及び15キロメートルでの1000時間搭乗に相当する積算線量の等高線図を示したものである。線量の緯度依存性は大きく、北極近傍では高線量のフラット領域が存在し、この図からカナダ上空ルートは被ばくが最も多いルートと考えられる。また、赤道をはさんだ広大な領域に低線量領域が存在する。
図

Atmospheric SPE (solar particle events)
図.38は太陽活動極小期における線量当量の時間変化を、1956、1960、1969年次のイベントについて示したものである。地上では其の変化の度合いは緩やかであっても、SSTの高度ではその変化は極めて大きいことがわかる。1956年2月23日のイベントはここ50年間の宇宙線観測史上極めてまれで例外的な事例である。2番目に大きいイベントは1989年9月29日に発生し、そのときの線量当量率は1956年時の1桁以上低い値であった。このイベントでも、平均すると10年に1度の発生頻度である。
グラフ

External exposures
 フランスの6機の超音速旅客機を使って、巡航高度15〜17キロメートルにて1987年7月から太陽活動の1サイクル分の期間、線量測定を実施し、平均線量当量12マイクロシーベルト/毎時を得た。月単位の平均値で見ると最大18マイクロシーベルト/毎時の値も観測された。1990年のフランス航空機での平均値が11マイクロシーベルト/毎時、年間線量は3ミリシーベルトであった。イギリス航空機の例では、2000回の飛行での平均値が9マイクロシーベルト/毎時となり、最高値は44マイクロシーベルト/毎時を記録した。コンコルドを用いた線量当量評価は古い線質係数を使用しているため、改訂した値は30%増となる。

中性子被ばく
図.43は1965年の太陽活動極小期における全線量当量に占める中性子線量の割合を示している。通常の飛行の場合、経度、緯度によって異なるが、ほぼ40〜65%の値が同図から読取ることができる。緯度が高くなるほど中性子の割合が大きくなることもわかる。これらのデータは高度依存性を示すが、ほとんどの空路の高度ではその差は小さいといえる。ほとんどの商用航空機は高高度を飛行することから、中性子線量の割合は60%と考えられる。
図

図.44は1997年以前のジェット機の高度における大気中の中性子スペクトルの測定値である。使用した中性子測定器は、Hessが減速型BF3カウンターとBi核分裂カウンターを、Korffが液体シンチ中性子スペクトロメータを、Hewittはボナボールスペクトロメータ、そしてNakamuraはボナボールスペクトロメータである。この図に示したいずれのスペクトルからも100メブ近傍のスペクトルのピークは観測されていないが、DOEのF.Hajnalは新たなアンフォルディング手法を開発し、Hessの測定値を解析しなおした結果、中性子線量評価上重要な100メブ近傍のスペクトルピークを発見した。
グラフ

図.46はGSFのShraubeが中心となって行った大気中性子スペクトルの研究の結果を示したものである(1998)。測定は高さ三千数百メートルの山頂で、3Heカウンター付きボナボールスペクトロメータを用いて行われた。解析はLUINコードとFLUKAコードを使用して行われた。特筆すべき点は、測定値とFLUKA計算が100メブピークを再現している点である。
 次に、商用航空機を使って実際の航路を飛行した時の年間線量測定値を示す。
グラフ


1)中性子線量測定例
Bagshaw等:ロンドン‐東京の飛行で中性子とそれ以外の要素を分離して測定し、3マイクロシーベルト/毎時が中性子、それ以外の寄与分3マイクロシーベルト/毎時が加わって全部で6マイクロシーベルト/毎時という測定結果を得た。
Schalch:反跳陽子スペクトロメータを用いて測定した。フランクフルト‐ニューヨーク間では、全線量で11.5マイクロシーベルト/毎時、そのうち中性子が8マイクロシーベルト/毎時であった。ジュッセルドルフ‐サンフランシスコ間の飛行では、全線量で11.8マイクロシーベルト/毎時、そのうち中性子は9.5マイクロシーベルト/毎時であった。
Akatov:太陽活動極小期に高圧電離箱と球形レムメータを用いて測定した、高度、緯度をパラメータとした線量率を示す(Table19)。これらのデータから中性子の占める割合は半分かそれ以上であることがわかる。

2)年間線量評価で想定した飛行時間例
Hughes and O’Riordan(1993)
長い飛行時間で600時間毎年、短い飛行時間で400時間毎年とし、平均値の500時間毎年を解析に使用
Bagshaw et al.(1996)
長時間と超長時間をミックスして600時間毎年を引用。例外的な長時間として900時間毎年の例も。
Oksanen(1998)
操縦室乗務員は平均して578時間毎年、客室乗務員は平均で673時間毎注釈
個々の飛行時間は293時間から906時間に分布
注釈 通常の搭乗による照射線量に、帰国等に使用する非番の搭乗分20%の飛行時間が付け加わる。

3)実機による年間線量測定例
Hughes and O’Riordan(1993)
UK airlines
3ミリシーベルト/毎年(イコール1.8ミリシーベルト/毎年neutron)
北極近傍の飛行ルートでは 6ミリシーベルト/毎年(イコール3.6ミリシーベルト/毎年neutron)
Montagne et al.: (1993)
Air France
長時間飛行の場合、2〜3ミリシーベルト/毎年(イコール1.2〜1.8ミリシーベルト/毎年neutron)
Wilson(1982-1983)
オーストラリア
国内線→1〜1.8ミリシーベルト/毎年(イコール0.6〜1.1ミリシーベルト/毎年neutron)
国際線→3.8ミリシーベルト/毎年(イコール2.3ミリシーベルト/毎年neutron)
Preston(1985)
British Airways of Concorde(1979)
Max. 38.1マイクロシーベルト/毎時(イコール22マイクロシーベルト/毎時neutron)
技術乗務員2.8ミリシーベルト/毎年(イコール1.7ミリシーベルト/毎年neutron)、客室乗務員2.2ミリシーベルト/毎年(イコール1.3ミリシーベルト/毎年neutron)注釈
注釈 同様の照射線量の違い(操縦室と客室で20〜30%)が報告されている(Wilson et al. ; 1994)


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