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資料第3−3号

航空機における宇宙線防護に関する諸外国の取組みについて

放射線医学総合研究所
放射線安全研究センター
米原 英典



1. 国際放射線防護委員会(ICRP)の方針
(1) 基本勧告Publication60 1)(1990年)
ジェット機の運航を職業被ばくの一部として含める必要性があるべきと勧告する。
主に航空機搭乗員、添乗員にも注意を払うべきである。
被ばく線量限度
実効線量
  100ミリシーベルト毎5年 50ミリシーベルト毎
補助的な等価線量限度
  妊娠が申告された女性の腹部表面 2ミリシーベルト毎残りの妊娠期間
(2) 労働者の放射線防護のための一般原則 Publication75 2)(1997年)
搭乗員の被ばくを職業被ばくとして扱うべきであると勧告している。
飛行時間の制限で十分な被ばく管理ができるであろう。妊娠した女性の通常乗務から外されるので、法規制によるさらなる防護手段の必要性はない。

2. 欧州連合(EU)
(1) 欧州放射線防護指令(Council Directive 96/29/EURATOM,13 May,1996 3)) 第42条
EU加盟国に対し、2000年までに、企業が搭乗員の被ばく線量が1ミリシーベルト毎年(高度8キロメートル)を超えそうな宇宙線被ばくについて検討するように体制を整えるように求めている。
企業に特に以下のような処置をするように要求している。
- 関係する搭乗員の被ばく線量を評価する
- 高レベル被ばくの搭乗員の線量を低減する観点から、勤務スケジュールを作成する際に、評価した線量を考慮する
- 勤務に関連するリスクについて、当該労働者に通知する
- 女性搭乗員については、以下の条項を適用する
妊娠を申告し、胎児の線量を、申告後の妊娠の残りの期間における被ばく線量が1ミリシーベルトを超えないように、できる限り低く保つ
6ミリシーベルト毎年を超える被ばく線量を受ける個人に対しては、より詳細な医療監視を行うとともに、警告と個人被ばく線量測定を含む追加のより厳しい要件が加える。

(2) 加盟国の取り入れ状況
 欧州委員会(EC)の担当者によると、現時点で、旧加盟国15ヶ国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、独、ギリシャ、フィンランド、仏、アイルランド、伊、ルクセンブルク、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、オランダ、英)は既に適合していることを確認済みで、新加盟国10ヶ国(キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニア)については、改訂の通知は既に受け取っているが現在内容をチェックしている。

3. 各国における規制の状況
(1) 英国
2000年に、輸送省管轄の航空規則(Air Navigation Order)に欧州放射線防護指令を取り入れて改正した。ただし、電離放射線規則は適用していない。
基本的に欧州放射線防護指令に適合している。
被ばく線量が1ミリシーベルト毎年を超えない場合は、個人管理は不要であるが、超える場合(高度8km以上に相当)はコンピュータによる線量評価を行い、記録する。6ミリシーベルト毎年を超えそうであれば、被ばく線量の測定、勤務管理と線量低減の措置を行わなければならない。線量限度は10ミリシーベルトを超える期間の搭乗はないので定めていない。
高々度(15キロメートル以上)の航行については、短期間の変化を検出する放射線モニターを搭載しなければならない。
   
(2) ドイツ
2000年7月に電離放射線による障害の防護に関する法令(Verordnung ueber den Schutz vor Schaden durch ionisierende Strahlen)が欧州放射線防護指令を取り入れて改正され、4章 宇宙線103節(航行する個人の宇宙線被ばくからの防護)で規定されている。
基本的に欧州放射線防護指令に適合している。
全ての航空機を運行している者は、年間1ミリシーベルトを超えるかもしれない限りにおいて、宇宙線の測定しなければならない。
個人の実効線量の線量限度は、年間20ミリシーベルトで、職業被ばくの全ての期間の総実効線量の限度を400ミリシーベルトとしている。
雇用者等は1年に少なくとも1回、宇宙線の健康への影響、線量限度とモニタリング、女性は妊娠をできる限り早く申告すること等を個人に指示すること。
線量の記録は本人が75歳になるまで保存すること、また実効線量の限度を超えた場合は、遅延なく当局に報告すること。
   
(3) デンマーク
関連法令は、基本的に欧州放射線防護指令に適合している。
パイロット、客室乗務員、頻繁に飛行機に乗る人を対象として、被ばく線量が6ミリシーベルト毎年を超える者について、線量評価、飛行時間変更、搭乗員に被ばく線量を通知することを含む防護処置を要件としている。
記録は30年間または搭乗員が75歳まで保存すること。
   
(4) アイルランド
放射線防護法令(Radiological Protection Act,1991)の規則(Order,2000)に欧州放射線防護指令を取り入れた。
基本的に欧州放射線防護指令に適合している。
搭乗員の被ばく評価がいかなる12ヶ月において1ミリシーベルトを超えそうな場合に事業者は、搭乗員にリスクの通知、個人線量評価とその記録、記録の本人への開示、線量記録の規制当局への報告、妊娠を申告した女性搭乗員の特別な規則、線量が6ミリシーベルト/12ヶ月の搭乗員については追加的な防護の措置を講じるなどの要件が課せられる。
   
(5) スペイン
2001年7月に欧州放射線防護指令を取り入れて、関連法令を改正した。
基本的に欧州放射線防護指令に適合している。
1ミリシーベルト毎年を超える場合は、線量評価、勤務スケジュール作成、妊娠中の女性と胎児の防護を要求している。
   
(6) 米国
現行の原子力規制委員会(NRC)の規則(10CFR)において宇宙線は対象外とされ、現在は統一された規制はない。
連邦航空局(FAA)は、1990年3月に、航行中の宇宙線と放射性物質輸送物に関する情報、放射線被ばくのガイドライン、宇宙線による職業被ばくのリスクなどを内容とする航空搭乗員の放射線被ばくに関する助言(Advisory Circular120-52)を発行した。また1994年5月には、環境保護庁(EPA)の職業被ばくに関する勧告に適合させて、航行中の放射線被ばくに関する航空搭乗員の教育訓練についての助言(Advisory Circular120-61)を発行した。また2000年に線量推定値を計算するコンピュータプログラム(CARI-6)を開発した。

(7) オーストラリア(2004年現在)
各州には、法令による統一された規制の規定はない。
電離放射線の被ばくの制限のための勧告[産業衛生と安全委員会 NOHSC:3022(1995)]において、航空搭乗員については、被ばく線量が予想の範囲であるので、毎回の個人被ばく線量測定は必要がないとしている。
現在放射線規制当局であるARPANSA (Australian Radiation Protection and Nuclear Safety Agency)において、航空産業に対する指針が、作成中である。


参考文献
1)  International Commission on Radiological Protection, ICRP Publication 60, 1990 Recommendation of the International Commission on Radiological Protection, 1991
2)  International Commission on Radiological Protection, ICRP Publication 75, General Principles for the Radiation Protection of Workers, 1997
3)  European Commission, Council Directive 96/29/EURATOM of 13 May, 1996



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