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資料第2−3号

国際放射線防護委員会(ICRP)の放射線防護の考え方


東京大学原子力研究総合センター

杉浦 紳之

目次
  放射線の人体に対する影響

  等価線量と実効線量

  ICRPの放射線防護の基本的考え方

-  目的
-  行為と介入
-  放射線防護体系
-  線量限度の意味合いと根拠



放射線の人体に対する影響

 〔放射線防護の観点からの放射線影響の分類と特徴〕
種類 影響の例 しきい線量 線量の増加に伴う変化
確率的影響 発がん
遺伝的影響
存在しない(と仮定) 発生確率
確定的影響 白内障
脱毛
不妊 など
存在する 症状の重篤度

グラフ


図1 確率的影響と確定的影響の分類と特徴

〔急性の放射線影響〕

急性の放射線影響の図


〔確率的影響(名目確率係数) ICRP60・全集団〕
組織・臓器 かける10マイナス2シーベルトあたり 食道 0.30
膀胱 0.30 卵巣 0.10
0.50 皮膚 0.02
骨表面 0.05 1.10
乳房 0.20 甲状腺 0.08
結腸 0.85 残りの臓器 0.50
肝臓 0.15 合計 5.00
0.85 生殖腺 1.00

等価線量と実効線量

〔放射線の影響を表す単位―等価線量・実効線量〕
  1)吸収線量(グレイ
 
↓ 放射線荷重係数
  2)等価線量(シーベルト
 
↓ 組織荷重係数
  3)実効線量(シーベルト


1) 吸収線量:グレイ(Gy)
キログラムあたり1ジュールのエネルギーを吸収したときの線量

2) 等価線量:シーベルト(Sv)
放射線の種類・エネルギーによって異なる放射線の人体に対する影響を表すための線量
臓器・組織の平均吸収線量にもとづく

等価線量イコール吸収線量かける放射線荷重係数(W

放射線荷重係数
放射線の種類とエネルギー
光子(γ、X線) 1
電子(β線) 1
中性子Eは10キロエレクトロンボルト未満 5
Eは10キロエレクトロンボルトより大きく100エレクトロンボルトより小さい 10
Eは100キロエレクトロンボルトより大きく2メガエレクトロンボルトより小さい 20
Eは2メガエレクトロンボルトより大きく20メガエレクトロンボルトより小さい 10
Eは20メガエレクトロンボルトより大きい 5
陽子(Eは2メガエレクトロンボルトより大きい 5
α粒子、核分裂片、重原子核 20

3) 実効線量:シーベルト(Sv)
全身にわたる確率的影響のリスクを評価する線量

実効線量イコール等価線量 かける 組織荷重係数(ダブリューティー
組織荷重係数:臓器・組織の確率的影響に対する感受性の相対的割合

組織荷重係数
組織・臓器 ダブリューティー
生殖腺 0.20
赤色骨髄、結腸、肺、胃 0.12
膀胱、乳房、肝臓、食道、甲状腺 0.05
皮膚、骨表面 0.01
その他 0.05

ICRP1990年勧告における放射線防護の基本的考え方

a) 放射線防護の目的
放射線被ばくの原因となる有益な行為を不当に制限することなく、人を防護するための適切な標準を与えること

より具体的には、
 
確定的影響の発生を防止
確率的影響の誘発を制限
 →合理的な手段を確実に取ることを目指す

b) 行為と介入
1 行為(practice)
実行することにより放射線被ばくを増加させるような人間活動
2 介入(intervention)
放射線被ばくを全体として低減させるような人間活動

放射線防護体系(行為)
  (1) 行為の正当化:正味の利益があることを確認すること
  (2) 防護の最適化:合理的に達成できる限り低く保つ
as low as reasonable achievable”,ALARA
  (3) 線量限度:
  実効線量限度
  等価線量限度

放射線防護体系(介入)
  1 介入の正当化
  2 防護の最適化
行為と介入では、正当化や最適化において比較すべき指標が異なる。
線量限度は、介入については定義されていない

線量限度:値、根拠および意味合い

  職業人:100ミリシーベルト毎5年
(年10のマイナス3乗の死亡リスク)
←生涯線量1シーベルト
 (50年間の就労期間)
 5年は管理期間から


  公衆:1ミリシーベルト毎
(年10のマイナス4乗の死亡リスク)


  容認不可の最低値(安全と危険の境界値ではない)
0歳から一生涯にわたる被ばく
18歳から65歳までの被ばく

〔健康影響とリスク・マネッジメント〕
確率的影響
健康影響:  100〜200ミリシーベルト以上
LNT仮説:  リスク・マネッジメントの指標
(例) 数ミリシーベルトで発ガンが認められるということはない。
広島・長崎:数万人、60年間

確定的影響
 健康影響と限度との関係が明白

〔ICRP Publ.82:長期被曝状況における公衆の防護〕
行為(線源利用)   介入(NORM,ラドン等)
    100ミリシーベルト
 介入の強制
    10ミリシーベルト
 介入の開始
ミリシーベルト
 線量制限
  ミリシーベルト
 介入免除レベル
0.1ミリシーベルト
 小さなリスク
 
0.01ミリシーベルト
 免除レベル
 



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