(参考1)
2004年2月6日
文部科学大臣
河村 建夫 殿
日本乗員組合連絡会議
議長 林田 幹男
客室乗務員連絡会
事務局長 野中 恵子
航空機乗務員の宇宙線被曝防護に関する再度の要請
航空旅客の増加および高高度・長距離飛行の増加などにより、乗客および乗務員の宇宙線総被曝量は近年飛躍的に増大していると考えられます。
特に地理的要因から、日本発着の国際線には宇宙線が多い高緯度を飛行する長距離路線(米東海岸や欧州線など)が多く、それらが国際線に占める割合は、他国のそれと比較してかなり高いという特徴があります。このことは、日本の航空機乗務員(以下、乗務員)が他国に比較して宇宙線の影響を大きく受けることを意味しています。
また、ソーラーフレアの時には宇宙線が増加することが知られており、その時期に高緯度地域を長時間飛行した場合、一回のフライトで一般公衆の年間被曝限度(1ミリシーベルト)を超えてしまう可能性も指摘されています。この問題は、我が国の電離放射線障害防止規則(以下、規則)が定める妊婦の職業被曝限度(妊娠中の女子腹部表面で2ミリシーベルト/妊娠期間)やドイツにおける乗務員に関する被曝防護法に定める妊娠期間中の被曝限度(1ミリシーベルト)を踏まえると、特に女性にとっては極めて深刻な問題を提起していると言えます。
更に、日本は唯一の被爆国として、放射線被曝について敏感な世論があります。また、世界に類を見ない原爆被爆者の放射線障害に関する膨大なデータの蓄積があり、被曝防護について世界を先導して取り組みを進めることができる立場にあると言えます。
以上の状況を考え合わせると、日本は世界をリードして、この宇宙線被曝問題に積極的に取り組むべき環境にあると言えます。
近年、航空機の高高度飛行にともなう宇宙線被曝が次第に知られるようになり、国民の間にも関心が高まりつつあるなか、航空機が職場である私たちは、私たち自身の健康を守る立場からこの問題に強い関心を持っており、取り組みを進めています。
私たちが1991年以来専門家の協力を得て独自に調査した結果からも、乗務中の宇宙線被曝線量の大きさは一般公衆の年間被曝限度をはるかに上回り、被曝防護対策の必要性を十分に証明するものとなっています。そして、この調査結果は、その後国内外の他の機関が実施した調査結果などとも整合しています。
また、日本乗員組合連絡会議(以下、日乗連)が加盟する国際定期航空操縦士協会連合会も取り組みを進めており、昨年の年次総会では、宇宙線被曝について、その規制を求めるポリシーを採択しています。
一方、各国の放射線防護に関する政策に決定的な影響を与えている国際放射線防護委員会は、それまでの姿勢を転換し、1990年勧告(以下、90年勧告)で初めて自然放射線による被曝のなかのいくつかを規制の対象とし、その上で航空機乗務員の宇宙線被曝を職業被曝と位置付けることを盛り込みました。
この90年勧告を契機に、他国では法整備が進み、乗務員についての被曝線量の管理が実施されつつあります。
日本において90年勧告の国内法への取り入れが検討されている中、1996年3月、日乗連と日本航空客室乗務員組合は、その後日乗連に加盟した他2団体と共に、科学技術庁、運輸省、労働省(いずれも当時)に対し、「90年勧告に沿い、乗務員の宇宙線被曝を職業被曝として位置付けること」を柱とする要請を行いました。しかし、こうした私たちの取り組みや諸外国の法制化の動きにもかかわらず、90年勧告の国内法への取り入れのための規則改定(2001年4月施行)では、その実施は見送られてしまいました。
この規則改定について審議した文部科学省の諮問機関である放射線審議会は、その答申のなかで、「乗務員の宇宙線被曝が一般公衆の被曝限度である1ミリシーベルトを超える可能性がある」とした上で、「被曝が一定の線量レベルを超えることがある場合には、適切な管理を行うことが必要」と述べ、乗務員についての被曝管理の必要性を認めています。しかし、何故かその結論では、「国際的動向も考慮しつつ対応することが適当である」と、その実施については明言を避けました。
結局、90年勧告から14年が経った今も、航空機乗務員の宇宙線に関する規制は、被曝防護政策を一元的に審議している国の機関(放射線審議会)がその必要性を認めながらも、実現されないまま放置され続けているのです。
私たちは、こうした状況を踏まえ、宇宙線被曝を必要最小限度に止め、そして、宇宙線による健康被害を防ぐために、下記について、ここに改めて強く要請いたします。
貴職におかれましては、航空機の高高度飛行にともなって私たちが職業的に日々宇宙線に被曝している現状、この問題についての国際的動向等をご勘案いただき、早急に適切な措置を講じていただきますようお願いいたします。
記
1. |
国際放射線防護委員会の1990年勧告に沿い、関係法規において航空機乗務員(以下、乗務員)の宇宙線被曝を職業被曝と位置付けること。
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2. |
航空会社に対して、宇宙線被曝に関する乗務員への適切な教育(宇宙線被曝の実態、被曝が健康に与える影響、被曝防護策など)を義務付けること。
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3. |
長期被曝による健康被害を考慮し、各乗務員の被曝線量の測定または算定およびその記録、被曝低減化のための措置、被曝が特定個人に集中しない対策、被曝に関する特別な健康管理など、放射線審議会もその必要性を認める「適切な管理」を航空会社に義務付けるよう関係法規に盛り込むこと。
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4. |
数十年に渡る宇宙線の長期被曝が人体に与える影響の解明、宇宙線の実相の解明に向けての更なる調査研究(放射線審議会も「意見具申」のなかで調査研究の必要性に触れている)、航空機の乗客や乗務員の健康に与える影響が懸念されるソーラーフレア時の宇宙線被曝の調査研究とその対策などを、国際機関や他国とも連携しながら国が責任を持って実施すること。 |
以上
【参考】
本要請に関する問い合わせ先
日本乗員組合連絡会議(日乗連)/Air Line Pilots’Association of Japan(ALPAJapan)
〒144−0043 東京都大田区羽田5−11−4 フェニックスビル
電話番号 |
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03−5705−2770 |
ファックス |
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03−5705−3274 |
担当 |
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鎌倉 俊広 谷田 邦彦 |
申し入れ団体の紹介
日本乗員組合連絡会議・ALPAJapan(Air Line Pilots' Association of Japan)
日本国内のいわゆる大手航空会社(日本航空、全日空、日本エアシステム)並びにそれらの系列会社である航空会社(日本トランスオーシャン航空、エアーニッポン、日本エアコミューター、ジャルエクスプレス、琉球エアコミューター、オリエンタルエアブリッジ、エアー北海道、北海道エアシステム、エアーニッポンネットワーク、ジェイエア)の、機長、副操縦士、航空機関士などで構成する17の乗員組合・団体で組織される連絡会議です。
また、93カ国10万人の定期航空操縦士で構成されるIFALPA(国際定期航空操縦士協会連合会:本部ロンドン)に加盟しております。2003年時点で、会員数は約5,400名(日本の全乗員の95%)、IFALPAでは世界第4位の構成員数です。
活動目的は「航空機運航の安全性向上と民間航空輸送産業の健全で安定した発達、並びに航空機乗務員を中心とする民間航空労働者の雇用、労働条件、権利の安定と向上」です。
これらの活動目的を達するために、専門委員会を設置し、独自に事故・異常運航の調査を行い、国内や海外の安全技術的な問題の検討や労働条件の問題などについて取り組みを行うとともに、日本の乗員の代表として日本の行政や海外の機関に対し政策的提言を行っております。
客室乗務員連絡会
航空労組連絡会(=民間航空で働く、パイロット、客室乗務員、整備士、地上職など54組合1万3千名で構成する団体)に所属する客室乗務員で組織する団体です。
航空労組連絡会の活動目的は「民間航空の安全と公共性の向上と民間航空労働者の雇用、労働条件の安定と向上」で、客室乗務員連絡会はその専門部として活動しています。
別添資料
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