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高エネ研陽子加速器の廃止措置等に伴って発生する廃棄物等について

2004年11月17日
高エネルギー加速器研究機構


1. はじめに
 高エネ研陽子加速器は、40メブ前段加速器、500メブブースターリング、12ジェブシンクロトロン、取り出しビームライン及び実験室からなる複合加速器で、1976年より約30年にわたり安全運転を継続し、現在も素粒子物理学、物性科学等の実験にビームを供給している。各加速器及びビームラインの平面図を図1(PDF:143KB)、取り出しビームラインの断面図の一例を図2(PDF:44KB)、ビームラインと代表的な電磁石等を図3(PDF:46KB)に示す。
 現在本機構と原研が共同で建設を進めている大強度陽子加速器施設(J−PARC)の完成に合わせ、現在運転中の陽子加速器は近い将来運転停止の予定である。ここでは、この加速器施設の廃止に伴い加速器及び加速器建屋を解体する際に発生する廃棄物等について概略を述べる。なお加速器関係の解体は、運転停止後1ヶ月の冷却期間をおいて、冷却水配管、ケーブル等の撤去を始め、電磁石等の廃棄物が発生するのは、運転停止後約1年後、また電磁石等を撤去した後、ビームライン遮蔽体、ビームライントンネル、機械棟等を解体撤去することを想定した。

2. 廃棄物の区分及び発生箇所
 陽子加速器の廃止措置等に伴い発生する低レベル放射性廃棄物、クリアランスレベル以下の廃棄物及び放射性廃棄物でない廃棄物(以下「非放射性廃棄物」と記す)の具体例を以下に示す。
(1) 低レベル放射性廃棄物の例
金属 一次ビームラインに設置された電磁石、標的、コリメータ、鉄ブロック(ビームダンプ)及び標的近傍の冷却水配管、標的近傍の電源ケーブル等
コンクリート 一次ビームライントンネルコンクリート及び遮へい体コンクリートのビームライン内側から0.5メートル以内の部分
(2) クリアランスレベル以下の廃棄物の例
金属 遮蔽用鉄ブロック、冷却水配管、電源ケーブル、排気ダクト等
コンクリート 一次ビームライントンネルコンクリート及び遮へい体コンクリートのビームライン内側0.5メートルから3メートル以内の部分
(3) 非放射性廃棄物の例
金属 鉄ブロック(二次ビームラインダンプ及び遮へい体)
コンクリート 一次ビームライン遮へい体コンクリートのビームライン内側から3メートル以上離れている部分及び二次ビームラインシールド
コンクリート等
機械棟、電源棟等建家

3. 廃棄物の発生量
(1) 解体廃棄物発生量の試算
 陽子加速器施設で発生する放射性廃棄物は、陽子及び二次粒子(主として高速中性子及び熱中性子)と加速器構造体及び遮蔽体の核反応による放射化により発生するものが大部分であり、汚染によるものは、ビームライン外の冷却水配管、排気ダクト等のクリアランスレベル以下の廃棄物であり、その発生量は放射化による放射性廃棄物の推定量の1%以下と見積もられるので、放射化による廃棄物のみ試算する。
 放射化による放射能濃度の評価は、コンクリートについては、現在のビームラインシールドコンクリート中の放射能濃度の実測値から、電磁石、鉄ブロック等の金属については、表面線量率から放射能濃度を評価した。またニュートリノビームラインについては、運転予定年数である5年間の運転の後の放射能濃度を評価した。

(2) 発生する廃棄物等の種類及び量の試算結果
   (1)に基づき試算した陽子加速器施設の廃止措置に伴い発生する廃棄物等の推定発生量を表1に示す。発生するクリアランスレベル以下と予想される廃棄物量は約11万トンであり、大部分がコンクリートであると予想される。
 なお試算した廃棄物には、明らかに非放射性廃棄物である電磁石電源等は含まれていない。

4. 放射化による廃棄物の種類及び生成する放射性核種の組成
 
(1) 放射化する加速器構成機器の材質
 電磁石は、鉄心、架台部分等は鉄、コイル及び冷却水配管は銅からなっており、その構成は、重量比で概ね鉄90%、銅10%である。またビームライントンネル及びコンクリートシールドブロックは大部分は普通コンクリートであるが、約一割は鉄を多量に含む重コンクリート(磁鉄鉱及び黄鉄鉱)が使われている。

(2) 生成する放射性核種の組成
 遮蔽体として大量に使用されている普通コンクリート中に生成する核種は、熱中性子により生成するものは、軽水炉等と同じであるが、その他高速中性子によりH−3、Na−22、Mn−54等が生成する。最も放射能濃度が高いのはH−3である。放射化生成核種の代表的な組成比を表2に示す。
 重コンクリートでは、組成比は普通コンクリートと大きく異なり、Mn−54の放射能濃度が最も高いが、放射化生成核種は普通コンクリートとほぼ同じである。放射化生成核種の代表的な組成比を表2に示す。
 電磁石のコイル、冷却水配管等銅中に生成する放射性核種は、主として高速中性子との反応で生成するCo−60、Ni−63である。また鉄心等鉄部分に生成する放射性核種は、高速中性子との反応で生成するCr−51及びMn−54、熱中性子との反応で生成するFe−55等である。放射化生成核種の代表的な組成比を表3に示す。

(3) 放射化による廃棄物の特徴について
 加速器施設の廃止措置に伴い発生する放射性廃棄物は、いわゆる固体廃棄物であり、大部分が原子炉解体廃棄物と同様に金属(鉄、銅、アルミニウム、ステンレス等)及びコンクリート(主として普通コンクリート)であり、電源ケーブルの被膜等のプラスチック類が少量含まれる。また加速器施設から発生するクリアランスレベル以下の廃棄物の放射化は、二次中性子により起こるものであり、生成する核種は、高エネルギー中性子によるNa−22等の生成など若干の違いはあるものの、原子炉解体廃棄物に含まれる中性子による放射化で生成する核種とほぼ同じである。
 加速器施設で発生する放射性廃棄物については表面汚染が問題となることはない。

表−1
高エネルギー加速器研究機構陽子加速器廃止措置に伴い発生する
廃棄物等の推定発生量(暫定推定値)
(単位:万トン)
区分 金属 コンクリート 合計
低レベル
放射性廃棄物
低レベル 0.03 0.07 0.1
極低レベル 0.7 3.2 3.9
放射性物質と
して扱う必要
のないもの
クリアランスレベル以下 0.5 6.4 6.9
非放射性廃棄物 0.1 4.0 4.1
合計 1.4 13.6 15.0

  端数処理のため合計は合わない
  「現行の政令濃度上限値を超えるもの」は、金属標的のみで数キロ以下である。
  上記の値に運転廃棄物は含まれていない
  上記以外に極少量(0.01トン以下)のケーブル被膜等の不燃廃棄物がある。
  「クリアランスレベル以下」のものについては、原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会報告書「主な原子炉施設のクリアランスレベルについて」(平成13年11月)の試算値等を参考にして推定した。
  「非放射性廃棄物」については、原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会が平成4年2月に示した「放射性廃棄物でない廃棄物の範囲に関する考え方」を参考にして 推定した。

表−2 コンクリートの放射化量の比較(固体標的近傍)
(運転停止直後)
核種 (半減期) Co−60に対する相対値
普通コンクリート 重コンクリート
H−3 (12.3年) 3.3E+1 7.5E+0
Na−22 (2.6年) 1.8E+0 1.8E−1
Sc−46 (83.8日) 8.5E−2 8.3E−2
Mn−54 (312日) 9.2E−1 1.3E+1
Co−60 (5.3年) 1.0E+0 1.0E+0
Zn−65 (244日)   5.9E−2
Cs−134 (2.06年) 4.5E−1  
Eu−152 (13.5年) 1.8E+0 5.4E−2
Eu−154 (8.6年) 1.8E−1  
(※Eエネルギー)

表−3 金属の放射化量の比較
(運転停止直後)
核種 (半減期) 鉄部分
(Mn−54に対する相対値)
銅部分
(Co−60に対する相対値)
H−3 (12.3年) 0.02 0.1
Cr−51 (27.7日) 0.4  
Mn−54 (312日) 1.0  
Fe−55 (2.7年) 20  
Co−60 (5.3年)   1.0
Ni−63 (100年)   10



矢印   図1   高エネルギー加速器研究機構 陽子加速器施設全体図(PDF:143KB)
矢印   図2   EP2−Cターゲット(K0)を含む断面図(PDF:44KB)
矢印   図3   ニュートリノビームラインと代表的な電磁石(PDF:46KB)
矢印   参考資料   高エネルギー加速器研究機構陽子加速器廃止措置に伴い発生する廃棄物等の推定発生量(暫定推定値)

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