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資料2−2−2

平成12,13年度BSS免除レベルに関する
委託調査の概要

平成12年度 規制免除に関するコンシューマ・グッズ等の実態調査
平成13年度 国際安全基準に基づく免除レベルに伴う諸問題の対応策調査



平成14年12月
放射線規制室

1  委託調査の経緯
  放射線審議会基本部会に設置された「除外と免除」ワーキンググループ(省庁再編前)の検討において、現行法令に規定された密封線源の定義数量(3.7MBq)とBSSにおいて核種毎に設定された免除レベルを比較した結果、BSSの免除レベルを法令に取り入れた場合、放射性物質を装備した製品(これにはコンシューマグッズ、校正用線源を含む)の中に新たに規制対象となるものが出てくるとされた。
  これらの新たに規制対象となる製品については、
(a) 製造者において、免除レベル以下となるように製品の仕様等を変更すること
(b) 規制当局において、BSSにも規定されている型式承認の制度を導入すること
などの対応を検討することが必要であり、そのためには国内における使用の実態調査を行うとともに、EU加盟国のようにBSSを国内の放射線防護基準に取り入れることになっている海外諸国の免除レベルに関する現状を調査した上で、今後の規制体系のあり方について検討を行うべきであるとされた。
  これらを踏まえ、文部科学省では放射線審議会において規制免除に関する検討の基礎資料とするために、平成12年度から新たに規制対象となる可能性のある製品について、委託調査を実施することとした。

2  「平成12年度 規制免除に関するコンシューマ・グッズ等の実態調査」の概要
1. 電離放射線に対する防護と放射線源の安全のための国際基本安全基準(BSS)の内容
  BSSの定める免除と除外について、免除の概要、我が国の定義数量との比較及び条件付き免除の概要を調査した。BSSの基準は、放射線被ばくを伴うすべての活動において満たされるべき基本要件を記述しているが、放射線防護に関する基本要件に関しては、おもにICRPの勧告に基づいている。このような基本要件の一つとして、行為及び行為に含まれる線源に対する免除の原則が規定されており、BSSでは、それについての数値的な指針も「付則」に示されている。免除の必要性・目的についてBSSは直接言及はしていないが、IAEA Safety Series No.89は、「規制上の諸手続きによって管理を課することが時間と労力を不必要に消費することにしかならないような、小さな害しかもたらさない線源」があることを指摘して、放射線防護の合理性と関連づけて免除の必要性に言及している。
2. 使用の実態調査
  BSSの免除レベルを我が国の法令等に取り入れることになった場合の影響を把握するために、新たに規制対象となる可能性のある製品に関して国内における使用の現状(流通実態・販売個数・廃棄回収の実態等)を調査した。規制された数量以下の放射性同位元素を利用したものとして、
(a) 放射性同位元素を意図的に添加・使用しているもの
(b) 天然の放射性同位元素を利用しているもの
(C) 天然の放射性同位元素を比較的多量に含む原料・材料
がある。(a)に該当するものとしては、夜光塗料、煙感知器、液面レベル計、水分・密度計などがあり、製造業者は放射線障害防止法の規制の対象となっている。
3. 被ばく線量の評価
  液面レベル計、水分密度計、β・γ線検出器校正用線源等に関して、標準的な使用状況における作業者の被ばく線量について計測、評価を行った。評価のための基準線量は、液面レベル計、水分密度計、γ線検出器校正用線源について1mSv/年、β線源は皮膚の吸収線量について50mGy/年とした。
1 液面レベル計(60Co:3.7MBq)
  液面レベル計は、主に消火設備の消火用ガスボンベの液位測定に使用されている。特に、船舶の炭酸ガスボンベの液位測定は、船舶がドッグ入りの都度実施され検査本数も約200本程度、総作業時間は1日8時間の仕事(ボンベ1本当たりの検査時間約2分)となる。消火設備の点検は有資格者が行わなければならないため、これらの検査は特定個人に偏るものと思われる。したがって、実態調査に基づき検査の頻度を月2回、1回当たり8時間と仮定すると、年間の作業時間は約200時間となる。線源表面の線量率はかなり高いが、表面からわずかな距離をとると著しく線量率は低下するため、作業者の作業位置の線量率は測定により1.5μSv/hであった。
  この値を作業者の線量評価を行なう際の代表値とし被ばく線量を推定すると特定個人の年線量は300μSvとなる。この年線量は、評価のための基準線量1mSv/年の約3分の1である。
2 水分密度計(252Cf:1.1MBq,60Co:2.6MBq)
  水分密度計は、土木工事における埋め立て地等の水分密度の測定に使用される。昭和63年度の調査では、作業現場での使用状態と保管状態での被ばく評価を行った。今回は、当該機器の工事現場間の運搬が一般的に宅配便を利用している実態から、運搬業者の被ばくに主眼を置き、荷造り状態での種々の位置の1cm線量当量率を測定した。その結果、運搬物表面から50cm位置の線量率は中性子線で3.7μSv/h、γ線で1.4μSv/h、計5.1μSv/hであり、運搬時、運転席の線量率は5μSv/h(収納箱表面のから50cm)で代表できると思われる。
  この値を用い宅配便の基点間の最長運転時間を16時間、年2回遭遇すると仮定した場合の線量評価を行った。運搬物の線源部分が運転席の背後に密着して積載されたと仮定すると、運搬物表面と運転者の実効中心との距離は最短で約50cmと想定される。その結果、運搬作業者の線量は約160μSvとなる。この線量は、評価のための基準線量1mSv/年の約6分の1である。
3 β・γ線検出器校正用線源等
  γ線源については、線源を不用意に事務机の引出にしまい込んでいたような状態を想定、β線源は、90Sr線源を使用中に直接素手で握っていた状態及び作業衣等のポケットに入れていた状態を想定して、線源表面の吸収線量を測定する。
・γ線源キット: 241Am:39.9kBq,57Co:34.0kBq,133Ba:40.6 kBq,137Cs:45.7kBq,54Mn:41.4kBq,60Co:42.0kBq,22Na:43.0kBq,88Y:41.2kBq,203Hg:92.0kBqが専用の収納箱に収納されている。)
  キット収納箱表面から30cmにおける線量率は0.4μSv/hであり、この値は保管状態における人への線量評価を行なう際の代表値となると思われる。
β線源:(90Sr-90Y:2.83kBq(測定時))
  β線源で表面吸収線量率が最も高いのは90Srチェッキング線源であり、その値は1.7mGy/hである。この値はβ線源による作業者等の線量評価を行なう際の最大値を示すものと思われる。
  機器の校正用線源は、不用意に作業机または事務机の引出に保管されることも想定される。また測定機器動作点検用のチェッキング線源は、使用中に直接手で握ったり、作業衣のポケットにしまい込んだりすることも想定される。
  γ線源のうちキットで利用している線源の収納箱を机の引出に保管し、一年間放置したと仮定して線量を評価する。一年間の就労時間を2000時間とし、作業者の実効中心と線源表面との距離を30cmとしたとき、キット収納箱の表面から30cmの位置の線量率は0.4μSv/hであり、このときの作業者の年線量は800μSvとなる。この線量は、評価のための線量基準1mSv/年の80%である。
  β線源については、線源を胸のポケット等に8時間しまい込んでいたと仮定して、皮膚の吸収線量を評価する。β線源の表面(検出器の実効中心は表面から2cm)の吸収線量は1.7mGy/hである。したがって、皮膚の吸収線量は、14mGyとなる。この線量は、評価のための線量基準50mGy/年の3分の1以下である。
4. 海外実態調査
  英国、ドイツ、EUにおける規制免除の現状に関して、型式認定を含めた新しい規制システムのあり方と免除レベルの変更によって生じうる問題点について調査するとともに、EUとは異なる規制体系を有している米国の現状について、文献等により調査を実施した。(詳細は、H14年度調査参照)

3  「平成13年度 国際安全基準に基づく免除レベルに伴う諸問題の対応策調査」の概要
  本調査にあたり、まず平成12年度調査結果から、BSSの免除レベルを超える製品の選定を行い、主に選定された製品を製造する製造業者にアンケート調査を実施するとともに、現地での聞き取り調査を行った。また、昨年度に引き続き海外における現状を調査した。その結果を踏まえ、BSSの免除レベルを国内法令に取り入れた場合の具体的規制の例及びその問題点等について検討した。
1. 新たに規制対象となる可能性のある製品の整理
  核種毎(数量、濃度)、一般消費財、計測・分析機器、校正用線源について、BSSの免除レベルとの比較を行った。核種毎(数量、濃度)の比較では、例えば、密封線源として利用が多い核種で表1のようになる。また、Ba-133は密度計や厚さ計に使用されておりBSSに記載されていないが、NRPBには、1×106という数値が示されている。
表1  密封線源として利用可能な核種の免除レベルと現行定義数量の比較
  免除レベル/定義数量
270 27 2.7 1/3.7 1/37 1/370
核種 H-3 Ni-63Sm-151 Pm-147Gd-153 Na-22,Fe-55Co-57,Cd-109I-125(Ba-133) Co-60 Kr-85,Sr-90Cs-137,Ir-192Au-198,Tl-204Ra-226,Am-241Cm-244,Cf-252
  また、一般消費財では、Am-241を利用した煙感知器が免除レベルを超えるが、国内での使用量は少ない。しかし、一部船舶やプラントでは、イオン化式煙感知器を多数使用している。
  計測・分析機器では、γ線、中性子、強β線放出核種を装備した機器は免除レベルを超え、しかも社会への供給量も多い。また、弱β線放出核種を用いた機器は、免除レベルを下回るものもあり、放射能の増加により性能や出荷数が伸びる可能性もある。
  校正用線源については、様々な核種が多数供給されており、正確な使用者数と個数を把握するのは困難と思われる。機器に装備されたものと同様、γ線、中性子、強β線放出核種を利用したものは免除レベルを超える。
2. 実態調査アンケート
  校正用線源の使用者及びコンシューマグッズ等製造業者を対象にアンケート調査を行った。集計結果、定義数量以下の校正用線源のみ所持している使用者側の意見として以下が寄せられた。
使用の届出、使用、保管の記録は必要と考える。
使用場所を限定されると定義数量以下というメリットがなくなるが、紛失防止のためには必要か。
放射線安全管理者の資格要件等明確になれば、人材確保等計画的に進める必要がある。
使用者の自主管理を基本とし、使用者の登録については、複数人を簡便な手続きで登録できるようにするべき。
  使用の届出、使用・保管の記録は、簡便な手続きであれば容認する意見が出されている。しかし、今回アンケート調査の対象となった地方自治体は、原子力発電所周辺のモニタリングを実施しており、校正用線源を移動使用している場合が多い。規制対象となった後も、簡便な手続きで現行のとおり使用したい旨の要望が多かった。
  コンシューマグッズ等製造業者には、製造している機器の現状、規制対象となった場合の対応等を中心に調査した。主な意見として以下を得た。
<機器の現状等>
免除レベルまで放射能を減少させるのは非常に困難である。
RIを用いない代替機器は、存在してもコスト、正確性、利便性等において劣っている。
<使用者側の規制>
届出等、手続きの煩わしさが機器を使用しない方向に働くおそれがある。
メーカーから使用者側に届出をさせる拘束力はなく、使用者次第とならざるを得ない。
移動使用を規制すると機器のメリットがなくなる。
使用者に自覚を持たせることは必要と考える。しかし、不特定多数の者が扱う機器もあり、それがメリットとなっている。
<型式承認>
コスト、期間等型式承認の基準にもよるが、現在でも対応できると思われる。
廃棄回収を含め、既に出回っている機器との整合性が問題。
商社を介している一般消費財については、ユーザーの特定は不可能と思われる。
  やはり、製造業者としては、新たな規制による移動使用の規制、販売台数の減少や業務の一時停止などを懸念しているようである。しかし、使用の届出、使用、保管の記録については、半数の製造業者が必要と考えている。型式承認は機器により、消防関係法令や、土木関係法令において導入例があるが、機器の性能を中心とした基準である。また、今回のアンケート調査は(社)日本アイソトープ協会から線源の供給を受けている国内のほぼ全製造業者にあたり、輸入品の国内生産品に対する割合は、ある製品について3%に満たないとのことであった。
3. 現地調査
  BSSの免除レベルを超えるCo-60、Cs-137、Cf-252を利用した機器(液化ガス検量用携帯型レベル計、水分密度計、γ線密度計、厚さ計、レベル計)を製造する製造業者3社を選定し、現地調査を実施した。調査項目は、製作している機器の現状、販売先への対応、使用者側の規制に対する意見、製造業者側に対する意見等である。
  液化ガス検量用携帯型レベル計、水分・密度計は使用時に線源を覆うしゃへい体はなく、検査対象物のみがしゃへい体となる構造であり、BSSで定められる免除基準の一つである機器表面から10cmの距離における線量率が1μSv・h-1 を超えてしまう。
  3社ともに販売先リストが備えられており、線源の追跡は可能であるが、現行法令上、使用者側に廃棄に関する規制はなく、販売業者側で全ての線源を回収することは、販売後の機器の所有権を含め困難な状況にある。しかし、取扱説明書への廃棄(返却)方法の記載、機器のレンタル・リース化や線源・機器の買い取り、下取り等回収方法を工夫することにより紛失等を防いでいる。
  アンケート調査の結果同様、使用者側の規制は必要最低限とし、製造者側の管理を中心とした方が実効性が高い旨意見を得た。型式承認では、期間、費用等明確になれば対応する用意があるが、使用者毎にカスタマイズしているような機器については、自由度の高い型式承認基準が必要と考える。また使用する核種の半減期等を考慮し、型式承認された機器の有効期間を定めることにより機器の健全性、線源の紛失防止等を確保することができるという意見もあった。
4. 海外における検討状況の現地調査
  IAEA、米国、カナダ、ドイツの規制免除レベル等の検討状況及び法令について、現地調査、文献調査を行った。
  1996年に発刊されたBSS No.115には、「免除」について、数値的な基準を示したが、「除外・クリアランス」には、詳細な基準が定められていない。IAEAは、「除外・免除・クリアランス」を規制の省略という概念でくくり、安全指針文書として整理することを試んだ。しかし、NORMや免除レベル値とクリアランスレベル値の整合性等を巡り意見が一致せず、最終的な放射線防護に関する規制の適用範囲を定義する核種依存のレベル値による首尾一貫した体系の構築は現在検討段階である。2002年以降の検討状況に注意し、今後我が国の法令取り入れに際し参考とする必要があると思われる。
  米国は、原子力規制委員会(NRC)の規定である10CFRの中で、核種ごとの規制免除数量を定め、また規制免除されるコンシューマグッズの具体名を挙げている。免除数量は、米国独自のものであり、いまだ単位はCiを基本としている。規制免除されているものは、主に時計の文字盤や鍵穴照明具、自動車のシフトレバー等の消費財であり、放射線測定器に内蔵された校正用線源は免除数量以下のものを規制免除するとしている。規制免除数量は、現行我が国の定義数量より、1000分の1から10分の1のものが多く、厳しい規制が課されている。規制免除数量を超える「副産物(Byproduct Material:原子炉で生成された放射性物質)」については、一般認可(general license)と特定認可(specific license)と呼ばれる認可がある。一般認可は、主に計測・分析機器を使用する者に対する認可であり、特定認可を得た製造者が規制当局に型式承認を受けたもの(一般認可機器)を使用する場合に該当する。使用者には、譲渡譲受の制限や機器に関する試験検査及びその記録などが課される。
  カナダは、2000年5月31日に「核物質と放射線機器の規制」を改訂した。改訂された規制には、約110核種についてそれぞれ数量に関する免除レベル値が設定されている。値はカナダ独自に計算されたもので、103〜1011にわたっており、放射能濃度に関する規定はない。規制要件からの免除は、免除レベルを超えないもの、密封線源の場合は1年間10個、放射線機器に内蔵されたものは免除レベルの10倍といった規制のクラス分けは参考となると思われる。煙感知器、トリチウム安全標識、ラジウム発光物については、別に条件を定め規制免除としている。また、法令中に「放射線機器」を定義し、原則として、すべて型式承認を受ける必要がある。免除レベル値はγ線、強β線放出核種についてかなり低いため、このような規制になったと思われる。
  ドイツは、BSSの免除条件を取り入れたユーラトム指針96/29に従い、放射線防護令を2000年8月に改訂した。つまり、免除レベルは、BSSの数値を用いている。カナダと同様に、規制を免除される1つの機器中の放射能は免除レベルの10倍を超えてはならない。また、型式承認、コンシューマグッズに関することが放射線防護令中に詳しく記載されており、この点は、我が国にとって参考になると思われる。
  カナダ、ドイツともに放射線機器に内蔵される放射能について、免除レベルの10倍を超えないものは、型式承認等を条件に規制免除される。10倍の明確な根拠は見あたらないが、放射線防護を確実に保証し、それぞれの国の現状を考慮した結果と思われる。
5. 新たな規制の具体例
  BSSの免除レベルを我が国の法令に取り入れた場合に考えられる新たな規制の具体例を検討した。検討方針として、「BSS付則1  免除」に準拠し、
(1) 特徴的な量の規制を用いているドイツ放射線防護令、米国の一般認可
(2) 我が国のRI装備機器の利用形態(固定・移動使用)
(3) 我が国のRI装備機器の機器表面から10cmにおける1cm線量当量と使用者の年間の被ばく線量
  等を参考・考慮することとした。具体的には、BSSの免除レベルの10倍、100倍、1000倍毎に製品をクラス分けし、規制のレベルを変えることにより、製造業者や使用者にあまり負担をかけず、実効的な規制の例となるように心がけた。
  規制の例として、
1 1個の数量がBSSの免除量を超えない製品(一部のイオン化式煙感知器、グロースタータ、ネオンランプ等)は、規制を免除する。
2 規制当局が型式承認した機器であり、1個の数量がBSSの免除量の1倍〜1000倍及び機器表面から10cmにおける1cm線量当量が1μSv・h-1を超えない製品は、規制を条件付き免除とする。
3 規制当局が型式承認した機器であり、1個の数量がBSSの免除量の1000倍以下及び機器表面から10cmにおける1cm線量当量が1μSv・h-1を超えるが、年間の被ばく線量が1mSv・y-1を超えない製品は、米国の一般認可のような規制とする。
  を挙げた。型式承認について、ドイツ放射線防護令では書面による承認に加え、第3者機関による検査・検定の受検を定めている。我が国にもガスクロマトグラフ用ECDにおいて前例があるが、検査・検定制度の採用については、今後慎重な検討を要すると思われる。

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