「脳科学と教育」研究に関する検討(中間取りまとめ)

平成14年7月
「脳科学と教育」研究に関する検討会

目次

はじめに

  「脳科学と教育」研究に関する検討の背景
   
  「脳科学と教育」研究の意義
2-1環境の変化と人が本来有する能力の発達、成長等
2-2将来に向けた新たな視点からの教育の改善の可能性
   
  研究に当たっての留意すべき事項
3-1 倫理的配慮
3-2社会の理解と協力
3-3研究の成果の取扱い
   
  研究課題について
4-1研究の基本的な進め方
4- 2当面の研究課題について
 
4- 2-1本検討会における検討と並行して行うべき調査研究等
1教育の課題と脳科学の活用の可能性に関する調査研究
2環境の変化が脳機能に及ぼす影響に関する情報収集
3 「脳科学と教育」研究を進めるための研究方法論に関する研究
4-2-2先駆的研究としての社会技術研究「脳科学と教育」の推進
4-2-3「脳を育む」研究の推進
   
  今後の検討の進め方について

参考資料

(資料1)「脳科学と教育」研究に関する検討会の開催について
(資料2)「脳科学と教育」研究に関する検討会の検討経過
(資料3)OECDにおける「学習科学と脳研究」プロジェクトの概要




はじめに

  「脳科学と教育」研究に関する検討会は、本年3月22日以来、教育学、教育心理学、行動学、生物学、小児神経学、脳科学などの専門家によって、人の生涯に亘る学習のメカニズムを明らかにし、人が本来有している能力の健やかな発達・成長や維持を目指すこと及びその障害を取り除くこと、即ち、人類の安寧とより良き生存(Human Security & Well-Being)を目的とした「脳科学と教育」研究の進め方について検討を行ってきた。

  これまでの検討を踏まえ、「脳科学と教育」研究の意義、留意すべき事項、当面の研究課題、今後の検討の進め方等について、次のとおり取りまとめ、今後、この考え方等に沿って、さらに検討を進めることとする。

  なお、本研究において「教育」とは、人の胎児期を含む生涯を通じた教育、即ち、乳幼児教育、小・中・高等学校教育、高等教育、高齢者教育、また、職業人を対象とした新たなスキル修得等のための能力開発や再教育、さらには、リハビリテーション、語学教育、芸術教育等を包含した広義の概念として取扱うものである。


1  「脳科学と教育」研究に関する検討の背景

1-1  脳科学は、神経生理学を中心とした動物実験や、損傷を受けた人の脳を対象とした研究から発達してきたが、人の精神活動を含む高次脳機能を直接かつ安全に観察することは、長年にわたる脳科学者の夢であった。こうした中で、近年、人を対象とした脳機能の非侵襲計測が可能となり、分子生物学、医学、行動学、心理学、工学等を基盤とした脳に関する研究の進展と相まって、脳科学については、飛躍的な発展を遂げている。
  これらにより、人の生涯に亘る学習のメカニズムを明らかにし、人が本来有している能力の健やかな発達・成長や維持を目指すこと及びその障害を取り除くことを目指した「脳科学と教育」研究の実施に必要となる、人の教育に係わる研究と脳科学の研究をはじめ関連する研究を架橋・融合することが可能な状況となっている。現段階は、既存分野にはない、新たな研究分野として「脳科学と教育」研究を実施し得る、まさに黎明期の段階にあると考えられる。

1-2  幼児期・若年期における脳の発達と学習方法、成人期における能力開発・再教育、老年期における脳機能の維持、人と人とのコミュニケーション等に関する脳科学からの知見の蓄積については、教育関係者が長い経験によって得た暗黙知を、脳科学によって顕在知とすることで、育児や学習指導に関する重要な考え方が得られると期待されている。

1-3  ライフサイエンスに関する研究開発の推進の観点から、本年5月に科学技術・学術審議会計画・評価分科会が取りまとめた「ライフサイエンスに関する研究開発の推進方策について」において、脳研究については、従来の「脳を知る」、「脳を守る」、「脳を創る」に次いで「脳を育む」研究の重点課題が提案されており、これは「脳科学と教育」研究を支える重要な課題である。

1-4  国際的な動向としては、経済協力開発機構(OECD)と米国において顕著な動きがある。OECDの教育研究革新センター(CERI)では、「学習科学と脳研究(Learning sciences and brain research)」に関するプロジェクトを、専門家によるブレーンストーミングの形で1999年に開始している(第I期)。本年4月からは第II期の3年計画に移行したところである。第II期のOECDプロジェクトは、幅広い分野の専門家による研究ネットワークにより、1脳の発達と生涯に亘る学習(日本による調整)、2脳の発達と算術能力(英国による調整)、3脳の発達と読み書き能力(米国による調整)に関する調査検討を進めることとなっている。こうしたOECDの動向に対して、中国等はこの分野の研究について強い関心を示している。
  米国は、OECDのプロジェクトへの参加とは別に、学習研究の位置付けを明確にし、独自の取組みを本格化しつつある。さらに米国では、医学・生物系の国立研究所群であるNIH(National Institutes of Health)に初めての工学系の研究所であるNIBIB(National Institute of Biomedical Imaging and Bioengineering、国立生体イメージング・生体工学研究所)を、2001年に設立した。この分野において米国は先行しているが、本分野の研究の重要性に鑑み、「脳科学と教育」研究を可能とした脳機能イメージングをはじめ、さらに積極的に本分野の研究を推進すべく注力している状況である。


2  「脳科学と教育」研究の意義

2-1  環境の変化と人が本来有する能力の発達、成長等

  人は社会経済の発展基盤であり、人が本来有する能力の健やかな発達・成長や維持を目指すこと及びその障害を取り除くことは極めて重要な課題である。
  脳の発達・成長等に関しては、環境の及ぼす影響を考えることが、「脳科学と教育」研究を進める上での重要な視点である。この視点から、現代社会における人を取りまく環境をみると、ITをはじめとする科学技術の加速度的な発展による生活様式の変化やコンピュータ上でのバーチャルな体験の普及等により、急激かつ大幅に変化を遂げつつあると認識される。また、少子化、高齢化等の新たな課題の発生や食生活の変化まで含め人を取りまく環境は大きく変容している。他方、脳自体は、劇的な環境変化に対応して、進展し変化してきてはいない。人の脳の可塑性は高いものの、人を取りまく環境は、過去に経験がない不連続な変化が発生していると考えられる。
  このため、人を取りまく環境の変化が著しい現代社会においても、人の知性と感性が健やかに育まれ、人が本来有する能力を十分に発揮することを支える新たな研究分野が必要となっていると考える。

2-2  将来に向けた新たな視点からの教育の改善の可能性

  教育においては、児童心理学や教育心理学等の知見が活かされてきたところであるが、現在、新たな知識が急速に蓄積されつつある脳に関する研究を認知科学、心理学、医学、行動発達学等の研究とともに、人の教育に係わる研究と架橋・融合し、従来の脳科学や教育学とも異なる新分野の研究を実施することにより、将来に向けて、新たな視点からの教育の改善に繋がる可能性が考えられる。


3  研究に当たっての留意すべき事項

  「脳科学と教育」研究は、人、特に脳に関わる研究であることから、他の分野の研究以上に、倫理的配慮を十分に講じることや研究計画等に関する十分な情報発信等により社会の理解や協力を得て実施していくことが重要である。ライフサイエンス分野においては、従来より、脳研究が進められてきており、「脳科学と教育」研究の実施に当たっても、ライフサイエンス研究開発における倫理に関する取組みを適用する等慎重な対応が重要と考える。

3-1  倫理的配慮

  本研究の対象は、人である。研究の実施に当たっては、常に人間の尊厳や個人のプライバシーを守ることを大前提とし、被験者に対するインフォームド・コンセントを得ることは必須である。また、科学的に妥当で正当な考え方に基づき慎重に研究を進めることが極めて重要である。
  具体的には、被験者に対しては、研究の意義や方法、研究に伴うリスクがある場合にはそのリスクについて十分に説明をして理解を求めることを原則とするべきである。説明の内容としては、その他、個人情報の保護の方法、研究の参加・不参加が被験者に対して利益・不利益をもたらさないこと、同意はいつでも撤回できること、研究の成果が学会等で公開されること等が含まれるべきである。また、被験者が新生児や幼児である等、同意の能力がないような場合には、保護者等の代諾者からのインフォームド・コンセントを得る等、研究毎に適切な方法を検討する必要がある。また、研究の実施に当たっては、被験者の情報の保護が必要であり、そのための方策を検討しておく必要がある。
  さらに、人を対象とする場合又はヒト由来の試料を利用する場合には、研究機関内に倫理委員会を設置し、研究の科学的正当性及び倫理的妥当性について検討を行うことが必要である。その構成は、研究機関外の者、専門以外の者などが含まれるべきである。

3-2  社会の理解と協力

  本研究の実施に当たっては、他の分野にも増して、研究の意義や内容等について十分な理解と支持を得ることが重要である。
  特に脳は、身体器官の中で特別なものとして取扱われ、強力な力を持って人の言動を支配する源泉であると考えられていることから、新生児研究等において実績を有するフランス、イギリス、オランダ等の欧米諸国の先例を参考にしつつ、研究計画や成果のみならず研究の進捗状況に関することを含め、正確かつ解りやすく情報発信することに、研究実施と同等に重要なこととして、取組むことが必要である。なお、情報発信に当たっては、特に、科学的根拠に裏打ちされない単なる類推や思い込みが一人歩きすることのないよう、明らかになったことと、解っていないことを明確に示すことが重要である。
  また、研究に必要な情報の収集や研究実施体制の構築に当たっても、社会の理解や協力が得られるよう十分に配慮すべきである。

3-3  研究の成果の取扱い

  本研究の成果については、将来の教育の改善に繋がる可能性を有するものであるが、人の生涯に亘る教育のための新たな視点とするためには、これから着手する基礎研究及びその後のさらなる研究や審議検討が必要であり、長期的な取組みとなるものと考えられる。従って、研究成果の取扱いについては、今後の研究と並行して検討を進めることとなるが、その際には、十分な科学的な根拠に加え、社会的な妥当性等を含めた総合的かつ慎重な検討が必要と考える。


4  研究課題について

4-1  研究の基本的な進め方

  「脳科学と教育」研究の実施については、教育における課題を踏まえつつ、研究を進めることを基本とし、脳科学、教育学、保育学、心理学、社会学、行動学、医学、生理学等の研究を架橋・融合した取組みにより、研究を進めることが適当である。具体的には、教育サイドからの課題の提示に対して、脳科学をはじめ関係する科学が如何なる貢献ができるかとの観点からの対話・交流を進めつつ、これに基づき、架橋・融合した研究活動を行うことを基本的な進め方とする。

新分野の創発

【図の説明】
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b_1     「脳科学と教育」研究は、従来の脳科学でも、教育学でもない、新たな研究分野であり、脳科学、教育学、保育学、心理学、社会学、行動学、医学、生理学、言語学等の研究分野を架橋・融合した取組みである。異なる研究領域を有する研究者が研究目標や研究規範を共有しつつ、統合的目標である「脳科学と教育」研究に取組むことになる。図中の分野1からNまでの研究は、単なる広範な分担研究を意味しない。社会からの要請を駆動力にして、分野の架橋・融合を実現する新たな取組み方を図示したものである。
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  また、「脳科学と教育」研究の実施体制については、本分野の研究が、広範な分野に亘る研究を架橋・融合するものであり、産・学・官の多数の研究機関がそれぞれ特色を活かしつつ研究を進めることができる、総合的な研究体制を構築することが重要である。特に人文・社会科学と自然科学の架橋・融合領域研究として、広範かつ多様な研究を展開し得る体制を構築することが必要である。また、研究者や研究機関と学校、保育所、病院、療養所等の教育実践機関との緊密な連携協力が重要である。
  次に、OECD/CERIによる「学習科学と脳研究(Learning sciences and brain research)」プロジェクトについては、本年から始まる3ヶ年計画の第2期の活動において、我が国はこれを構成する3つの活動のうちの1つである「脳の発達と生涯に亘る学習」を担当する。(その内容は計10件の国際的ネットワークによる研究を推進するための全体調整と、内2件に関する研究実施である。)このプロジェクトについては、本検討会における検討を踏まえつつ、並行して実施する国内における研究と相乗的な効果が得られるよう、各国の研究者との連携協力の下、適切に推進することが重要である。なお、OECD/CERI「学習科学と脳研究」プロジェクトについては、第I期に国際ワークショップを開催する等の対応を行ってきた理化学研究所が、国内関係者の協力を得つつ、引き続き我が国の中心として対応していくことが適当である。

4-2  当面の研究課題について

  本検討会は、「脳科学と教育」研究に関する研究計画について、本年度内を目途に策定することを目指し、さらに検討を進めることとするが、本検討会の今後の検討に資するとともに本分野の研究を的確に進めるため、研究計画の策定に先立って、以下に示す調査研究等に早急に着手することが必要と考える。なお、これらの調査研究等は、本検討会の検討後もその実施体制等を再構築した上で、引き続き継続することが適当と考える。

4-2-1  本検討会における検討と並行して行うべき調査研究等

1  教育の課題と脳科学の活用の可能性に関する調査研究

  本研究は、人の教育に係わる研究と脳に関する研究とを架橋・融合することにより取組みが可能となった、従来の脳科学や教育学とも異なる新たな研究分野である。  これを適切に進めるためには、先ず、教育に関わる研究者や教育関係者と脳に関わる研究者とが対話交流を通じて、教育における課題や、脳科学の現状を踏まえた今後の研究の進め方及びその成果の活用の可能性等について共通理解を図ることが極めて重要である。
  このため、こうした対話交流を本格的に開始し、社会的な視点も統合した新たな視点から研究課題の明確化を図るとともに、そのための研究手順・方法、さらには被験者の協力を得るための体制をはじめとする研究に必要な情報収集体制や研究実施体制等について調査検討を行うことが必要である。

2  環境の変化が脳機能に及ぼす影響に関する情報収集

  人を取りまく環境が脳の発達・成長に及ぼす影響に関しては、本研究を進める上での重要な視点であり、ITやコンピュータのような新たな環境因子や、さらには食生活の変化、自然・社会体験の減少、少子高齢化社会への移行等を含めた環境の変化と脳機能との関係についての研究を進めるため、これらの研究活動に必要となる情報の収集を早期に開始することが必要である。

3  「脳科学と教育」研究を進めるための研究方法論に関する研究

  新たな研究分野である「脳科学と教育」研究を効果的に進めるためには、本研究に適した方法論に関する研究、例えば、社会学、心理学、統計学等を活用した調査手法、あるいは脳機能観察のための手法の開発等に早急に着手することが重要である。
  また、非侵襲脳機能計測技術の発展が、脳科学の急速な発展に大きく貢献している事実を踏まえ、脳機能計測技術の一層の進展を図るとともに、実験心理学や行動学等の手法も取り入れつつ、得られた情報を理解するための情報処理・解析の手法を開発することも重要な課題である。
  なお、「脳科学と教育」研究に関連する研究の国際的動向、特に、発達認知神経科学、神経言語学、行動学研究のように諸外国の取組みが先行している分野の研究については、その動向について十分に把握することが肝要である。

4-2-2   先駆的研究としての社会技術研究「脳科学と教育」の推進

  平成13年度より開始した社会技術研究の一環である科学技術振興事業団の公募研究「脳科学と教育」については、学習という概念を、脳が環境からの外部刺激に適応し、自ら情報処理神経回路網を構築する過程として捉え、従来からの教育学や心理学等に加え、生物学的視点から学習機序の本質にアプローチすることを目指したものである。この社会技術研究では、「脳科学と教育」研究において主要領域に含まれると考えられる課題を対象として、世界に先駆けて研究を開始しており、また、今年度においても、引き続き新たな研究を開始する予定である。昨年の公募では、異分野連携の融合型プロジェクト計40件(関係機関数:162)の応募があり、文理融合領域研究の先駆的役割を担うとともに、既に一部の研究成果が出始めているところである。

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b_1   平成13年度に社会技術研究「脳科学と教育」により開始した研究課題

○前頭前野機能発達・改善システムの開発研究

○人間のコミュニケーション機能発達過程の研究

○神経回路の発達からみた育児と教育の臨界齢の研究
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  これらの研究については、本検討会における「脳科学と教育」研究の研究計画の策定に先立って実施されているが、今後の本格的研究プログラムに繋がる先駆的な研究と考えられる課題であり、その研究成果については、本検討会における検討に反映できる意義あるものと考える。この観点から、今年度において新たに着手する公募研究の選考に当たっては、本検討会の検討が反映されることが重要と考える。
  なお、以上の先駆的研究が対象とする領域については、本検討会の検討により策定される研究計画において、重点研究領域として重要性が位置付けられた場合、順次、本格的研究プログラムとして研究計画や実施体制を再構築の上、研究を推進していくことが重要である。

4-2-3  「脳を育む」研究の推進

  科学技術・学術審議会計画・評価分科会が本年5月29日に取りまとめた「ライフサイエンスに関する研究開発の推進方策について」においては、脳科学と教育に関して、「脳を育む」分野の創設を提言しており、その重要研究課題については、
  「非侵襲的脳機能イメージング法を活用して、ヒトの感覚・運動機能、ヒトに特徴的な言語機能の発達などの臨界期の明確化、生後環境が高次脳機能発達に及ぼす影響の解明、発達脳可塑性の臨界期及びその終止メカニズムの解明が重要である。また、乳幼児の認知・行動発達を理解するため、ロボット工学、発達心理学及び理論神経科学を融合した行動発達の研究、成人や高齢者における学習・記憶メカニズムの理解を基にした、脳科学と教育工学の融合的研究、神経科学分野の研究者のみならず、小児科医、教育学研究者、現場の教育者等による子供の精神機能発達障害に関する融合的研究、成人・高齢者脳の可塑性と学習能力の解明が重要である。」

  と示されており、これらの具体化を確実に進めることが本研究分野の研究を進める上で不可欠である。


5  今後の検討の進め方について
  本検討会においては、2に示す意義を踏まえ、
 “人の脳は、乳児期、幼児期を通じて発達し、その間、心も成長し自己を確立する。人の脳は、青年期を通じて成長し、成人期や老年期においても大きな可塑性を保持している”
  ので、我々は生涯に亘り学習を続けるとの考え方に立って、

1 胎児期、乳児期、幼児期における運動機能の発達、五感の発達、言語機能の発達、社会性の発達等の脳の発達及び臨界期・感受期並びに環境の関係
2 児童期、青年期における教育の改善、学習方法(外国語、芸術、スポーツ等)、学習の動機付け、創造性の涵養等と脳の発達
3 職業人における新たなスキルの修得等のための能力開発や再教育、ストレスと精神衛生
4 高齢者における健やかな脳の保持、脳機能のリハビリテーション(高次脳機能の回復)

を主な事項とし、4-2-1の13に示す調査研究等やOECD/CERIのプロジェクト等の成果を取り入れつつ、「脳科学と教育」研究に関する研究の進め方について、さらに検討を進めることとする。



資料1

「脳科学と教育」研究に関する検討会の開催について

平成14年3月13日
初等中等教育局
科学技術・学術政策局
研究振興局

1. 開催目的

    我が国が直面している諸課題を克服し持続的に発展していくためには、幅広い知識の創出と蓄積、それを有効利用するための英知が必要であるとの認識の下、科学技術の振興が積極的に図られている。こうした中で、目覚しい進歩を遂げている分野の一つに脳科学がある。未踏領域である脳機能解明等により得られる新知識については、医療や産業だけでなく教育の分野において、既存の科学との統合・融合による新たな視点からの展開(パラダイムシフト)を生むことが期待されている。

  国際的にも、21世紀の新たなテーマとして、脳科学の進展を踏まえて学習のメカニズムを研究する機運が高まっている。

  学習メカニズムに関する研究については、学習を脳の動き、さらに脳自体を育むことと捉えることにより、従来の脳科学や教育学にもない、人間の基本的能力向上に資する新領域の科学が創生されることが考えられている。

  昨年4月の日本学術会議の声明により指摘されているとおり、新しい科学技術の領域を拓いていく上で文理統合研究は重要であり、自然科学と人文・社会科学の複数領域の知見を統合して、社会における新たなシステムを構築するための社会技術研究を本年度より着手したところであるが、本領域に関する研究は、その典型的な研究である。また、本研究は、知識や技能の獲得のみならず創造性、洞察力、理解力等の育成、さらには、加齢と能力維持等の生活や社会システムに直結する重要な意義を有する。

  以上により、最新の脳神経科学や発達認知科学等の成果を活用し、人文・社会科学を含めた新たな視点から、人間の誕生から生涯に亘る全ての学習のメカニズムに関する研究を推進するための計画等について検討することとする。
   
2. 検討事項

 
(1) 脳科学と教育に関する研究計画
1脳科学の研究成果の教育における活用に関する考え方
2研究課題
3研究体制、推進方策等
(2) その他
   
3. 検討体制及びスケジュール

    脳科学と教育に関する研究計画については、当面(5年程度)の計画と概ね10年を見通した長期計画を策定する。当面の計画については、本年6月頃を目途に、また、長期計画については、1年以内を目途に検討の取りまとめを行う。
  また、必要に応じて、科学技術学術審議会研究計画・評価分科会ライフサイエンス委員会との十分な連携により検討を行う。
   
4. 検討会の構成

    検討会の構成は別紙の通りとする。必要に応じ、別紙以外の者にも協力を求める他、関係者の意見を聞くものとする。

  なお、検討会の庶務は、初等中等教育局教育課程課、科学技術・学術政策局基盤政策課、及び研究振興局ライフサイエンス課が協力して行う。


検討会メンバー

(座長)   伊藤  正男 理化学研究所脳科学総合研究センター所長
     
  金澤  一郎 国立精神・神経センター神経研究所長
     
  小泉  英明 (株)日立製作所基礎研究所・中央研究所主管研究長
     
  小西  行郎 東京女子医科大学教授
     
  佐伯    胖 青山学院大学文学部教育学科教授
     
  多賀  厳太郎 東京大学大学院教育研究科講師
     
  野村    新 前大分大学長
     
  長谷川  眞理子   早稲田大学政治経済学部教授
     
  廣川  信隆 東京大学大学院医学系研究科教授
     
  星    元紀 慶応義塾大学理工学部教授
     
  本田  和子 お茶の水女子大学長
     
  無藤    隆 お茶の水女子大学生活科学部教授
     
  山田  兼尚 国立教育政策研究所生涯学習研究部長



資料2

「脳科学と教育」研究に関する検討会の検討経過

【第1回会合】平成14年3月22日
  (1) OECD/CERI「学習科学と脳研究」プロジェクトについて(事務局)
  (2) 脳科学研究計画について(事務局)
  (3) 脳を育む-脳科学から教育へのインパクト(理化学研究所脳科学総合研究センター所長  伊藤座長)
  (4) 社会技術研究「脳科学と教育」の経緯と現況について((株)日立製作所基礎研究所・中央研究所主管研究長  小泉委員)


【第2回会合】平成14年4月16日
  (1) 「脳科学と教育」に期待すること、研究を進めていく上での留意点について
1 東京大学大学院教育研究科講師  多賀委員
2 早稲田大学政治経済学部教授  長谷川委員
3 お茶の水女子大学生活科学部教授  無藤委員


【第3回会合】平成14年5月9日
  (1) OECD/CERI「学習科学と脳研究」プロジェクト立ち上げ会合の結果について(理化学研究所脳科学総合研究センター所長  伊藤座長)
  (2) 「脳科学と教育」に期待すること、研究を進めていく上での留意点について
1 東京女子医科大学教授  小西委員
2 青山学院大学文学部教育学科教授  佐伯委員
3 前大分大学長  野村委員
4 慶応義塾大学理工学部教授  星委員


【第4回会合】平成14年6月24日
  (1) 「脳科学と教育」に期待すること、研究を進めていく上での留意点について
・お茶の水女子大学学長  本田  和子  氏
  (2) 「突発性攻撃的行動及び衝動」を示す子どもの発達過程に関する研究について(国立教育政策研究所生涯学習政策研究部長  山田委員)
  (3) OECDフォーラム2002の開催結果について((株)日立製作所基礎研究所・中央研究所主管研究長  小泉委員)
  (4) 「脳科学と教育」研究に関する意義、当面の調査研究課題、今後の検討の進め方等について


【第5回会合】平成14年7月19日
  (1) 「脳科学と教育」研究に関する意義、当面の調査研究課題、今後の検討の進め方等について



資料3

OECDにおける「学習科学と脳研究」プロジェクトの概要

平成14年3月

1. プロジェクトの目的・趣旨
  近年の脳科学研究の進展により、その成果の教育政策や現場への応用の可能性についての関心が高まっている中、OECD教育研究革新センター(CERI;Centre for Educational Research and Innovation)において、学習科学と脳研究、研究者と政策策定者の対話と協力を確立することを目的とした「学習科学と脳研究-教育政策・実践への応用の可能性-」プロジェクトを立ち上げ。
   
2. これまでの状況
1999年11月:CERI運営理事会においてプロジェクトの開始を決定
2000年~2001年:第1フェーズとして3つのフォーラムを開催
2001年5月:CERI運営理事会において第2フェーズの開始を承認
   
3. 第1フェーズの概要
  脳研究を学習に応用する可能性を検討することを目的として、以下の3つのフォーラムを開催。第1フェーズにおいては、教育の実践に関連する脳研究の研究領域が議論された。
  第1回  幼児期における学習科学と脳研究(2000年6月、米ニューヨーク)
  第2回  青年期における学習科学と脳研究(2001年2月、西グラナダ)
  第3回  成人期における学習科学と脳研究(2001年4月、和光)
   
4. 第2フェーズの予定
  第2フェーズ(2002年~)においては、脳研究と特にカリキュラムの策定、指導方法、個人の学習スタイルなどの教育分野への応用に焦点を当て、議論する予定。脳科学研究者、教育専門家、ジャーナリスト等の参加を得て次の3つのネットワークを構築。
1 脳の発達と読み書き能力(調整機関:米国サックラー研究所)
2 脳の発達と数学的思考(調整機関:英国オックスフォード大学)
3 脳の発達と生涯に亘る学習(調整機関:理研脳科学総合研究センター)

(科学技術・学術政策局基盤政策課)