「脳科学と教育」研究に関する検討会(第9回) 議事録

1.日時

平成16年6月29日(火曜日) 10時~12時

2.場所

各省庁共用会議室 1031号(経済産業省別館10階)

3.議題

  1. 「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」研究計画について
  2. その他

4.配付資料

  • 資料1 独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究システムにおける新規研究「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」について
  • 資料2 新規研究「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」ミッション・プログラム3「日本における子供の認知・行動発達に影響を与える要因の解明」研究計画について
  • 資料3 「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」研究に係る独立行政法人科学技術振興機構の倫理規定について
  • 参考資料1 ヘルシンキ宣言 ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則
  • 参考資料2 疫学研究に関する倫理指針
  • 参考資料3 臨床研究に関する倫理指針
  • 参考資料4 ヤール・ベングソン氏国際交流功労者文部科学大臣表彰受賞記念講演会開催のご案内

5.出席者

委員

 伊藤座長、金澤委員、小泉委員、小西委員、多賀委員、長谷川委員、廣川委員、星委員、本田委員、無藤委員、山田委員

文部科学省

 結城文部科学審議官、有本科学技術・学術政策局長、井上科学技術・学術政策局次長、倉持基盤政策課長他

オブザーバー

(関係者)
 角地科学技術振興機構審議役、佐藤科学技術振興機構室長、植田科学技術振興機構次長他

6.議事要旨

  • (1)委員から開会の挨拶があった。
  • (2)事務局より配布資料の確認があった。
  • (3)関係者より資料1を説明後、以下の質疑・応答が行われた。

○ 脳科学と社会研究センターを具体的にはどういう風に作るのか。

○ 大きな特徴として公募型の研究とミッション型の研究の2つをうまくリンクさせるということとミッション型の研究が今までと異なり非常に長期的な視点で行うことである。情報の移管等含めて情報セキュリティも確保されるような、今までのいわゆるミッション型あるいは公募型の研究だけでなくしっかりとした土台となる拠点が必要である。

○ ヴァーチャル的ではなくて今のところ社会技術研究システムの中に小規模ながらセンターを置いて集中管理していく予定である。

○ 従来ミッション型研究というのは5年間で終了しその次は全く新しいものをたてるという傾向であったが、それは多くの研究者サイドにとって実体にそぐわず特に脳研究「心身や言葉の健やかな発達と脳の成長」は長期に亘って研究を進めていかないととても分からないことであり社会に対するフィードバックも有効にできないと考えられる。そういう観点から10年間あるいはもっと長い期間をかけて研究することは画期的なことである。もちろんその過程で評価をしながら進めていくわけだが、ミッション3だけでなく他のミッション研究においてもこういったスタンスで取組んで頂きたい。そういう意味ではこの研究体制のたて方は非常にポジティブだと思う。

○ 非常に特徴的であり、かつ重要な提案である。ミッション型研究グループと公募型研究グループとの関係だが当然ながら綿密に計画を練られて実施されるであろうミッション型研究グループと公募の場合(そういう準備が必ずしも十分ではないかもしれないが)アイデアとして非常に良いグループが出てくる可能性がある。そういうグループに関して出来るだけ早い時期に将来的な育成のために中に取り込んでいくといった工夫をされてはいかがかと思う。

○ 3年間公募研究を進めてきた中で約200カ所以上の日本各地の中心的な研究機関から応募があり、採択されたのはその中の9件のみである。その中でアイデアとして非常に良いものでも他と比較すると研究者の国際的に発表している論文の数が少し足りないという理由で採択されず活躍できないということが起こっている。今回の公募型プログラムの中ではそういう先生方にも入って頂いて協力してもらう予定である。

○ 資料1の3ページ「募集・選考にあたっての考え方」のなかのタイプ1の部分で「恣意的仮説に基づいた推論」というのは少し言い過ぎのような気がする。

○ 現在脳科学を教育に生かそうとする考え方の書籍がたくさん出ている。ただ脳科学の立場からそういったもの見ると実は間違っているものが一般に流布されている。学術的な作業仮説に基づいてそれを検証する形の提案をしていきたいという趣旨で書いた。

  • (4)関係者から資料2について説明後、以下の質疑・応答が行われた。

○ 資料2の4ページ「(1)(3)成人を対象とした社会能力と脳神経基盤の関係の確認」とあるが今までにも成人を対象とした研究はある。この研究では子供を対象とした成長過程における脳機能を見ることを目的としているにも係わらず成人を対象としているのはどの程度の規模で何を目的としているのかご教示頂きたい。

○ 確かに子どもの成長過程における脳機能を見ることがこの研究の中心だが、まだ子どもの脳がどういう機能をもっているのか不明な部分が多いので、その予備調査としてソーシャルスキルあるいはソーシャビリティに関係するような能力に関して成人で取れるものがあればそこを明らかにしてから子どもを対象としたものに生かしていこうといった趣旨である。規模に関しては20人前後でデータが取れるものであればそれぐらいで実施する。この研究には2つの大きな特徴がある。1つはアンケートを主体とした調査ではなく現実に毎年観察をすることである。もう1つは脳機能イメージングであるがまだ実績がそれほど無いので新生児から少しずつ光トポグラフィー等の最新機器を使いながら脳機能イメージングを進めていきたい。

○ 4ページの「(3)(2)症例調査」において非侵襲脳機能計測を含めた詳細な発達心理学的検査を行うことは理解したがこれは何らかの基準でケース登録するという意味なのかまた規模はどのくらいを考えているのかご教示頂きたい。

○ この規模の集団を観察するという事になると何%かは脳機能障害を持ったもしくは持っていると疑われるケースが出てくる。そういったケースの場合御協力頂けるなら協力頂きたいと考えている。そういう意味でも規模について決まった数はないので最初から何名ということは考えていない。

○ ソーシャビリティについて社会能力という言葉はポピュラーなのか。社会の中で生きていくのに必要な力という意味で社会力と理解していたが。

○ 訳に関しては色々議論があったわけだがその訳がふさわしいのかどうかは必ずしも意思統一できているわけではない。

○ 社会能力という言葉は使われているのか。

○ ソーシャビリティという言葉がなかなか日本語に訳せない意味のものなのでこれは最終的に先生方にご教示いただいて最もふさわしいものがあればそうしたいがとりあえず意図的に直訳をここに入れた。ソーシャビリティは脳科学の立場から見ても脳科学の最先端の部分に非常に関係している概念がたくさんあり、更に社会的には最近の社会問題の最も深いところに関係している。そういう意味でも色々ご教示頂き出来るだけ正しい、本来やるべき研究の方向を定めたいと思う。

○ 文部科学省内で他にも脳の研究を推進しているところがあるがそういうところと情報交換をしたり協力したりすることは考えておられるのか。

○ 出来るだけ同時進行で少し視点は違うが本質的な目的は共通している研究を行っているところと連携を持たせて進めていきたいと考えている。日本国内だけでなく世界でこれから設立しようとしているところとも連携して進めていきたい。

○ 全員に対して同じ質問項目や発達のビデオを取り続けるベースラインがあるのか。もしくはその中でサブグループがあり、各々でデータを取るのか。長い期間実施するので1番最初にどういった項目をどういう風に統一的に取るのかを正確に考えておくべきである。2ページの(2)(1)行動発達検査による心理的過程の調査を見ているとどうしても認知に偏っているような気がする。それも重要だが他方で心のエンパシーというか情動といったものも非常に重要だと思うのでよく検討頂きたい。

○ 基本的には1万人同じ調査をさせてもらう。40分の観察とアンケート調査は全員に行う。更にイメージングや細かい行動観察については同意を得られた方に協力頂こうと考えている。また情動的な問題も出来る限り入れていこうと考えている。

○ 情動というところは非常に本質的なところで脳科学としてもこれからの最先端だと考えられるし社会問題という視点でも非常に重要な部分である。しかし今回のミッション研究の枠では十分にフォローできないので公募型研究においてぜひ行ってもらいたいということで準備は進めている。

○ ソーシャビリティとは文化・社会によってそれぞれ大きく違うと思うのだが人間として考えたとき果たしてそれで良いのかというところは疑問である。

○ 海外でもこういった動きがあり色々なところで準備されている。そういう所と既に情報交換を始めているのでその部分の連携を大事にしたいと考えている。米国では脳科学的な視点は現状では薄くなっているが2006年から10万人規模のこの種のコホート研究を始め20年間フォローする。金額も今まず2000億円を用意している。文化的な違いもお互いに連携すれば重要なところであるし、またアメリカと違い日本文化は均質的な性格が強いので小規模で行っても意味を持つ。少ない資金・規模でもかなり精度の高いものが得られるかもしれない。そういうことも含めて国々には特徴があるのでそういった所とも連携していきたい。

○ JSTが扱う場合、知的所有権の整理はどうなっているのか。

○ ミッション研究については大学、医療機関に協力してもらうのだが基本的には共同研究の形で進めたいと考えており、各研究機関とJSTとの間に共同研究契約を結び研究成果は委託ではないので共有する。特にデータについては各グループで共有したいと考えている。いずれは公開していきたいと考えている。

○ 研究計画の中で社会力のファクターとして親子の関係は出てくるのだが、子供同士の関係が見当たらないのだがそこはどうお考えか。

○ 0歳から始めるグループと5歳から始めるグループの2つがあり、5歳のグループに関しては教育委員会に理解を得た上で学校での状態あるいは幼稚園での状態の聞き取り調査をお願いする。その中で子ども同士の関係も出てくると思われる。基本的には聞き取り調査になる。

○ 調査についてはまだまだ詰めないといけない部分は残っているのだが、複数人が同時に同じ行動している時の脳機能の計測はほとんど行われていない。最近そういうことが可能になってきたのでそういった新しい切り口で行うことも考えている。

○ 分析を進めていくと社会力がしっかり身に付いた子どもとそうでない子どもが出てきてその部分の違いが脳に現れているのか、あるいはチェックリストでの違いを分析されるのだと思うがキーになる社会力には構成要素がたくさんあり、それらをピックアップしてみて統合した形で具体的な指標を作り上げていき行動観察であれば社会力が付いているかどうかの判断基準を作らないといけない。今の時点で社会力が付いているかどうかの判断基準は作っているのかご教示頂きたい。

○ 今具体的にそういった基準は作っていない。今後の研究の中できちんとしたものを作り上げていく。

  • (5)関係者から資料3について説明後、以下の質疑・応答が行われた。

○ 二重に匿名化するのはやめたほうが良い。理由は二つあり、1つは1個のデータが混乱すると全部駄目になるケースがあるということ。二つめは完全な匿名化は無理であるということ。むしろマナーのほうが大事であって、14ページの29条に規定することが出来ないとおっしゃったがこの研究に係わった関係者は知り得た情報を絶対に外に漏らさない事を文書で約束してもらい理事長が管理するとか、そういった方法で個人の良心を最大限に出すしかないのではないか。

○ マナーは非常に大事な部分なので今回の研究においても研修を必ず受けて頂き、場合によってはその研修の結果をチェックしそれにクリアした者だけが研究に携わるといった体制で進めようと考えている。ゲノム分野の研究では連結可能な匿名化といったテクニカルな面が進んでいるが、先生がおっしゃった部分についても気をつけないと貴重なデータを失う事になりかねないのでそこは十分に検討していく。

○ 参加研究者への統一的研修についてだが携わる研究者は育った分野によって性格が違う。違う分野の研究者が同じ研究に参加し同じルールに則りマナーもきちっとするとなると今日のようなシリアスな議論をそういった方々も全部が共有する機会を持つといったことが非常に大事である。メソトロジ研修だけでないと思うが統一的な研修とはどういったどういったものをお考えか。

○ 当然テクニカルな研修のみを考えているわけでないが、具体的な部分はまだ検討中である。

○ ソーシャビリティとはどうしても価値観を含む能力である。社会の大多数の方はその能力の向上は必要かもしれないが、そうでない方(独創性の強い方等)の排除に繋がる事にならないか。それに対する配慮をどうするのか。

○ 特異な能力を持っている方だけでなく当然障害を持っている方もおられる。これは研究の成果をどう返していくかという事だと思う。そこは外部の方も含めた委員会において十分に議論した上で返していく。

○ 価値観を含む多次元的に構成されるソーシャビリティはかなりレベルの高いところの話であって、その部分は文化によっても違うだろうしそこまで行くとかなり複雑であることは確かである。この研究が目的としているところはそういった高次の部分のソーシャビリティまで含むものではなくて、人間が基本的に生物として相手をどう認識しコミュニケーションを図るかといったところの脳機能の基礎だと思うので、それを一つ一つ見つけていくということが必ずしも価値基準的な何かを提供する事には結びつかないと思う。

○ 今の脳科学からアプローチできて社会の役に立てるような研究はどういうことが出来るかというところから積み上げた結果、全体を包括した概念として最終的にソーシャビリティということで括っていこうということで、この中では個別の具体的なものを調査の中で明確にしていこうということがベースである。価値観については例えば教育を議論するときに教育学の先生と話をするといつも感じる事があるが、常に教育ということに価値観を伴って議論をされるということである。今回は一度価値観というものを抜き去って学習と教育というものを純粋に生物学的な視点からもう一度見直してみる。そこからどういう客観的な研究が可能か、そしてエビデンスベースの研究があるいはエビデンスベースのご提案が出来ないかという視点で実施しており、今回のものも抽象的なものを提案するのではなく実証的なデータ、つまりエビデンスベースの議論が出来るような1番もとになるようなものを準備できれば良いといった考え方で進めている。情動的なものとの関係もしっかりと見ていきたい。

○ こういったチャレンジングな単なる知識のプロダクションではなくて社会の抱えている問題に対してどうサイエンスナレッジが貢献していくかという重い課題を抱えながら人間の一番大事な脳で研究を行う。そういう意味で今日の議論は非常にシリアスな議論で社会一般の方々が単なる理解をするのではなく共感してエンゲージし参加してもらい支持して頂く。これは10年、20年というロングレンジでの社会の一般の方々の共感、エンゲージメント、支持というところで今から非常にチャレンジングなことが始まろうとしており事務局としてもJST共々プロジェクトには従来のプロジェクトの推進という立場だけではなく、常に問題意識を持ちながら色々検討、推進をしていきたいと思っている。そういう意味で検討の過程からあるいは研究が進捗している事をきちっと世の中に分かるように発信していくことが大事である。それもナショナルレベルだけではなく今からはローカルレベルでもそうなるとは思うが逐次公開の場で研究発表、意見の交換、議論をしていくといった事も企画しながら進めていくことが大事である。

(了)

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科学技術・学術政策局基盤政策課

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