資料5-4 独立行政法人日本学生支援機構の第3期中期目標期間の見込業務実績及び平成29年度業務実績に関する評価意見

 (平成30年6月15日 独立行政法人日本学生支援機構評価委員会)    


本委員会では、独立行政法人日本学生支援機構(以下「機構」という。)が取りまとめた「第3期中期目標期間の見込業務実績」及び「平成29年度の業務実績」に関する自己評価案に関し、外部の視点から検証を行った。
その結果について、全般的に見れば、中期目標の達成に向け、着実に業務が実施されているものと認められる。以下、個別の項目について、さらなる改善の方向性を含めて本委員会としての意見を述べるので、今後の学生支援の推進に活用されたい。


1.奨学金事業に関する意見

(1)奨学金の的確な貸与
○貸与奨学金について「真に支援を必要とする者に貸与が行われるよう」「修学を行う上で真に必要な額の貸与となるよう」、貸与月額を細分化し、適正な真に必要な額を貸与するなど、制度の見直しと適正化が行われたことは評価できる。
○収入基準の見直し及び貸与額の適正化に向けた取り組みは、いずれも中期計画を着実に進めたものとして評価できる。
収入基準の見直しによって従来よりも貸与を受けやすくなる。このことは教育の機会均等に資する一方で、卒業後の延滞発生の可能性をもはらむため、貸与額の適正化に向けた取り組みが欠かせない。
この点を意識した改革だといえる。表裏一体といえるこれらの課題に対して、積極的に取り組んだことの意義は大きい。
特に、第一種奨学金の学力基準を実質的に撤廃したことと、さらに、第一種及び第二種奨学金の貸与月額について見直し(選択可能な月額を細やかに設定)を行ったことは、評価できる。
○よりきめ細かくなってきている制度の効果検証については、評価負担の観点も十分踏まえ、合理的なやり方を考えていく必要がある。

(2)給付型奨学金事業の実施
○平成29年度から先行実施・平成30年度から本格導入された給付型奨学金事業を適切かつ確実に実施できたことは評価できる。
○平成29年度においては、先行実施(在学採用)という形をとりながらも、給付型奨学金制度をスタートさせたことの意義は大きい。とりわけ、申込機会を十分確保するため推薦期間の延長等の対応を行ったことは適切な対応であった。
初年度ということもあり、課題も見られたが、これらについても高校や大学、機構、大学団体等に共有されているため、今後の運用に活かすことができる。
平成30年度本格実施分についても、各種媒体により生徒等及び学校担当者への情報提供を行い、採用候補者の決定を行ったことは評価できる。
○OECD加盟34カ国中、これまで公的な給付型奨学金制度が存在しなかったのは日本とアイスランドの2カ国だけであった。今般の導入に向けて準備を行い、先行実施(平成29年度)を行ったことは大いに評価できる。
給付金額や推薦基準のあり方に議論の余地は残るが、いずれも今後の課題として前向きに捉えることができるものである。
実質的に給付型奨学金と同じ機能を果たす国の施策としては、授業料等減免制度や、大学院生対象の「特に優れた業績による返還免除制度」が存在しているが、高等教育を望む人々の進学を後押しするといった点においても、その意義は大きい。
さらに、給付型奨学金創設は、長年の懸案事項である国私間格差解消の一助にもなり得るため、今後の制度拡大が期待される。
○給付の奨学金制度が創設されたことは非常に重要である。一方で、この金額設定が、経済的理由により進学を断念している層に対してどれだけ効果をもたらしているか、今後の効果検証が必要と考える。

(3)返還金の回収促進
○各年度において、当年度回収率が目標値を上回ったこと、返還金を中期目標期間中の回収率目標値の96%を超えて確実に回収できる見込みであることは評価できる。一方で、長期滞留債権については、適切な貸倒償却処理が必要と思われる。
○当年度回収率は年々改善し、いずれも目標値を上回っている。その背景には、大学と連携した指導及び金融教育(受給者の金融リテラシーの向上)や延滞初期における督促、回収委託等、複数の取り組みがある。このような総合的な対応は大いに評価できる。
○総回収率は毎年改善し、平成29年度が最も高い。中期目標期間中の目標値である83%も上回っており、評価できる。これも、大学と連携した指導及び金融教育、延滞初期における督促、回収委託といった総合的な対応の成果だといえる。
○要返還債権数に占める3ヶ月以上延滞債権全体(新規以外を含む)の割合は、改善方向に向かっている。返還金の回収状況は、全体として健全な方向に推移している。
○新たに延滞3ヶ月以上となった債権の要返還債権全体に占める構成比は0.8~0.9%と小さいにもかかわらず、抑制するための様々な手立てがとられている点は評価すべきである。
○債権回収は初期対応が重要である。初期延滞債権について、サービサーを活用したシステム的な対応をしていることは評価できる。
○法的処理を実施計画に従って行っていることは評価できる。
○個人信用情報機関の活用により多重債務の防止をしていること、またその活用にあたっては、危機管理対策が適切に行われ、平成27年度に発生した事案の再発防止策が徹底されたことは、評価できる。
○個人信用情報機関への登録に同意している初期延滞者について、個人信用情報機関への登録状況は年々増加しており、延滞の抑止や多重債務化の防止に寄与している。
平成27年度に発生した個人信用情報機関への誤登録については、再発防止に努めていることから、B評価が妥当である。
○硬直した画一的な回収だけでなく、減額返還制度や返還期限猶予制度を適切に運用したことは評価できる。
○実質的に給付型奨学金と同じ機能を果たす「特に優れた業績を挙げた大学院生に対する奨学金の返還免除制度」が果たす意義は大きい。同制度が適切に運用され、さらに制度の充実が図られたことは評価できる。
「大学院博士課程の採用時返還免除候補推薦制度」は徐々に浸透してきてはいるが、採用者は少なく、まだ充分に活用されているとはいえない。この点については大学の意見も参考にしながら、制度設計を含め検討すべきである。
○平成29年度より導入された所得連動返還方式を、マイナンバーの活用を含めて適切に実施した点は評価することができる。選択者はまだ15%ほどであるが、今後、マイナンバー制度に対する理解が深まれば、利用者は増えると予想される。
さらに、所得連動返還方式にとどまらず、奨学金事業全体においてマイナンバーの活用を一層促進していくべき。

(4)情報提供等の充実
○ホームページアクセス件数、シミュレーション利用状況、スカラネット・パーソナル利用率は、いずれも平成26年度に比較して、29年度は2倍以上の件数になっており、利便性の向上を裏付けるものとして評価できる。
また、スカラネット・パーソナルの機能追加等は、現場の声を反映したものでもあり、評価できる。
○奨学金制度や手続等の情報提供にあたっては、ホームページ等の充実が図られ、その効果を実績として確認することができることは評価できる。
○給付型奨学金創設の際に謳われていたスカラシップ・アドバイザー派遣事業を実施したことは評価できる。奨学金受給者の金融リテラシーの低さは、後の延滞につながる見逃せない要因である。
最近、大学においても奨学金受給者への金融教育の必要性が指摘されているが、それに先立ち、派遣を実施したことの意義は大きい。平成29年度の派遣数は181件ほどであったが、今後、金融教育が浸透していくことを期待したい。


2.留学生支援事業に関する意見

(1)日本への留学前の学生に対する支援
○国内外における広報の取組等を通して、日本留学試験の応募者数が年々増加し、29年度は前年度実績及び当年度計画値を大きく上回るとともに、中期目標を達成する見込みであることは高く評価できる。
○日本語教育センターが、テキスト開発など、他の日本語教育機関のモデルとなる取り組みを行ってきたことは高く評価できる。機構が日本語教育センターを有することの意義として、今後も先進的な取り組みが行われることが期待される。
○日本語教育センター修了予定者に対するアンケート調査において極めて肯定的な評価を得ていることは、学生等のニーズにきめ細かに応じた質の高い教育及び生活支援を提供してきたことの反映として評価することができる。
ただし、アンケートの回答の選択肢が現行の4段階でよいかどうかは検討の余地が残る。
そもそも満足度という指標は対象者の主観によって左右されるものであり、次期においては、達成すべき客観的指標を、生活支援と日本語能力に分けて設定することも検討すべき。

(2)外国人留学生に対する在学中の支援
○札幌、金沢、福岡、大分の国際交流会館の売却について、中期目標を達成したことはもちろんだが、売却を進める間も、入居者へのサービスや配慮を適切に行い、毎年、高い満足度を維持した点は評価できる。
○平成29年度において、東京国際交流館の入居率が27年度に比べ、大幅に改善していることは評価できる。
○各種国際交流事業について、今後とも交流の質を検証しつつ改善を図っていただきたい。
例えば、交流の質を高めていく方策の一つとして、海外留学から帰国した日本人学生と、来日している外国人留学生との交流を促進していくことが考えられる。

(3)外国人留学生に対する卒業・修了後の支援
○留学生を対象とするインターンシップを提供する側に対する働きかけ等を、一層充実させていくべき。
○例えば、ブリティッシュ・カウンシルでは、SNSを活用して元留学生との関係を繋ぎ止めている。機構においても、奨学金の支給を終えた元留学生とのつながりを維持するため、SNSの一層の活用を図るべき。

(4)日本人留学生に対する学資金の支給
○平成29年度に学部での学位取得を目指す海外留学支援制度を創設したことは評価できる。制度は徐々に浸透していることが窺われる。利用者の増加を期待したい。
○官民協働海外留学支援制度については実績が上がっており、生徒・学生間でも認知度が高まり、定着してきている。このような状況を踏まえ、今後の方向性を決めていくべき。

(5)日本人留学生に対する留学前後の支援
○官民協働海外留学支援制度の事前研修においては、1 目標設定の明確化をあまり強調しすぎないこと、2 留学先の環境について事前に想像していることにとらわれず、現地文化・社会を素直に受け止め、自分の目標設定の合理性を考え、
常に考えを柔軟にもっておくこと、3 失敗から学ぶ視点を盛り込むこと、等について今後とも留意いただきたい。


3.学生生活支援事業に関する意見

(1)障害のある学生等に対する支援の充実
○昨今、心身に障害のある学生が急増しており、そうした学生への支援は喫緊の課題になっている。こうした課題に取り組むべく、大学等の体制整備の実態を詳細に把握したことは、障害学生支援の充実に資するものであり、評価できる。
○平成29年度において、障害のある学生の修学支援に関する実態調査・分析等の充実のための取組における成果物として、「障害学生に関する紛争の防止・解決事例集」、「合理的配慮ハンドブック」を発行したことは評価できる。

(2)キャリア・就職支援の実施状況
○インターンシップ機会の提供側に対する働きかけ等を、一層充実させていくべき。


4.その他業務運営等に関する意見

(1)広報・広聴の充実
○誤解を招きかねないネガティブな報道への事後的な迅速な対応のみならず、動画等を作成して積極的に広報に努めたことは評価できる。
○ホームページがリニューアルされ、利便性が大幅に向上した。また、更新頻度も高く、最新の情報を発信している点は評価できる。
○最近の学生にとっては、SNSの影響が非常に大きい。ユーザーのニーズに基づいてアカウントを分けることを含め、SNSの活用策をさらに検討すべき。

(2)寄附金事業の実施
○寄附金に基づき、学生支援に資する事業を展開できたことは評価できる。

(3)内部統制・ガバナンスの強化
○平成29年度は、個人情報漏えい事案の件数が前年よりも大きく減少した。これは、個人情報漏えいの再発防止に向け組織が一丸となって取り組んだ証左であり、評価できる。



  以上

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