審議会情報へ

国際文化交流懇談会

2002/07/17 議事録
第6回国際文化交流懇談会:議事要旨

第6回国際文化交流懇談会:議事要旨

1.日  時 平成14年7月17(水)  10:00〜12:00
2.場  所 文部科学省分館特別会議室201・202
3.出席者
(委員) 三善晃(座長代理)、青木保、佐藤卓己、里中満智子、新藤次郎、高橋平、長谷川善一、平野健一郎、藤井宏昭、舩山龍二、星野紘、マイケル・カーン、桝本頼兼(代理)、森下洋子、渡邊守章、の各委員
(文化庁) 河合長官、銭谷次長、丸山審議官、遠藤文化部長、木谷文化財部長、村田国際課長ほか関係者
(その他) 文部科学省:木曽大臣官房国際課長、内閣官房副長官補室:池原内閣参事官、外務省:糠沢文化交流部長、能化文化交流部政策課長、国際交流基金:吉澤総務部長、岡芸術交流部長、小川企画課長ほか関係者

4. 概要
(1) 事務局から配布資料の確認及び説明が行われた。第5回会合の議事要旨について意見がある場合には1週間以内に事務局に連絡することとされた。

(2) 国際文化交流の推進方策について、3人の委員から具体的提言の発表があった。

<発表1>

  戦後日本の国際文化交流の発展段階は、1国際社会への復帰を目指し、相互理解を目的とした1950〜60年代、2国際化の一環としての国際文化交流を重視した1970〜80年代、3グローバル社会の中での共生、国際貢献、パブリック・ディプロマシーを目的とする1990年以降の3期に分けることができる。

  国際文化交流の対象地域は当初アメリカ中心であったが、1960年代後半の東南アジアへの企業進出にともない、また1977年の福田首相の東南アジア歴訪を契機に、東南アジアの比重が増していった。その後、中国・韓国など東アジアとの交流が非常に盛んになってきている。

  国際文化交流の主体は、政府組織によるものから、地方自治体独自の交流が増加し、1980年代後半以降は、企業、NGOなど非国家主体による交流が質量ともに拡大・多様化しており、多文化化の進展やグローバルな市民社会の形成を目指す動きなどが生じている。

  交流事業や活動の方法は、1人物交流、公演・展示による自国文化の紹介を中心にするものから、2留学生受入れなど双方向的で世界の多様性を理解しようとするものが増加してきており、最近では、3開発協力や、NGOを中心とするものなど多様な枠組みでの共同作業や、ネットワーク作りが新しい傾向として増加してきている。

<発表2>

  国が推進すべき国際文化交流政策には、1国際文化交流を通じて諸国民間の相互理解を増進すること、2国際文化交流を通じて日本の魅力を増すことにより、我が国のソフトパワーを強化し、経済、社会の活性化に資すること、の二つの主な目標がある。

  今日の我が国の国際文化交流は、芸術や言語、生活文化のみならず学術交流・知的交流、市民交流、青年交流、姉妹都市交流、国際文化協力等、幅広い分野を包含している。また、国際文化交流の主体が、個人、NGO、企業メセナ、地方自治体等多様化するとともに拡大しており、国にはそうした国際文化交流の担い手の活動を支え、促進する役割が求められている。

  21世紀の日本にとっての国際文化交流の重要性に鑑み、戦略的に外務省、国際交流基金と文化庁の連携・協力を進め、我が国の国際文化交流実施体制を強化していくことが肝要である。

  国際交流基金は、国際文化交流の海外拠点としての機能を強化し、そうした海外拠点を通じて蓄積された海外文化情報、海外ネットワーク、交流のノウハウ等を我が国民に提供するとともに、それらを活用して交流の対象国、対象層に従って、日本文化を魅力的に提示する役割がある。一方、文化庁は、国際文化交流のための国内基盤を充実させ、国際文化交流に携わる人材育成を図るとともに、そうした人材を通じて世界を魅了する日本文化を創造・発信していくという役割が期待されていると考える。

  今後、国際交流基金と文化庁が、例えば、1国際文化交流を担う国内及び海外、特にアジア地域の人材を共同で育成、2芸術文化分野その他の情報共有、関係者への積極的な提供、3周年事業における文化行事の円滑な実施のための情報交換や共同企画、4国内外の国際的な文化芸術フェスティバルに係る連携・協力、翻訳者の育成・支援等の具体的な共同事業の実施、などを通じて、一層の連携・協力を図る必要がある。

<発表3>

  旅行は文化交流の架け橋であり、平和に寄与するものである。1970年までは外国人受入数が海外旅行者数よりも多かったのであるが、その後逆転して、2001年には外国人受入数477万人に対して、海外旅行者数が1621万人と、大きく差が開いており、世界33位である。

  海外からの旅行者が少ない原因として、日本発の情報が、政治・経済・アクシデントに集中しており、外国人にとっては遠くて、高くて、わからない国であり、興味のない国といわれていることなどが考えられる。しかしながら、訪日前には日本に対して「工業化の進んだ国」「独特の伝統と文化を持つ国」というイメージを抱いていた外国人達が、訪日後には「親切な国」「安全で清潔な国」というより親しみのこもったイメージを持つように変わっており、このことからも日本に実際に来てもらうことが重要であることが明らかである。

  日本への海外旅行者を増加させるには、1文化、文学、映画、それらを解説した案内書などの活用により、普段の日本人の生活に係る情報を発信すること、2日本の伝統文化に触れることなど、目的を明確化したツアーや、街並み・景観の保存等により日本の魅力を維持・増強し、発信させること、3旅行の低価格化、個人化、多様化といったニーズに対応するため、看板・標識、交通案内等、情報提示機能をはじめとするインフラストラクチャ整備、等の対策が必要である。また、日韓国民交流年、日中国交正常化30周年などの周年事業のほか、自治体の交流、留学生交流、修学旅行なども日本への旅客を増加させる効果がある。

(3) 国際文化交流の大綱的推進方策について、事務局がこれまでの審議を踏まえて準備した「たたき台」が示され、事務局から説明が行われた。

(4) 国際文化交流の推進方策を中心に、以下のような意見交換が行われた。

  日本映画を通じた日本理解を図る上で、できるだけ多くの人々に映画を観てもらう必要があり、この意味で海外への映画配給がうまく行くかどうかが重要な問題である。映画の場合、貿易振興がうまくいくことが文化交流の成功につながるという面をもっている。映画祭に出品するためには支援が得られるのに、映画の配給交渉のために海外に行くときには全く支援がないことはおかしい。国は貿易振興の観点から日本映画を支援するべきである。

  日本の対外文化機関において、それぞれの組織が遠慮しあって、積極的な事業展開の妨げとなっているような例もある。文部科学省から在外公館への出向者も十分に役割を果たせていないケースがあると思われる。対外文化機関に文部科学省の職員を派遣するなどして、国際文化交流の現場の感覚を学ぶことが必要なのではないか。人材の養成についても関係機関が連携協力して当たる必要がある。

  自分自身は戦後の苦しみを知らないが、多くの方々から話を聞いて学んできており、その体験が海外で活動するときに役に立った。豊かな日本を作ってきた世代の方々の、信念に学びつつ、各分野のリーダーを育成していくことが重要であり、その努力が集積されて国際文化交流という大きな目的を果たせることになる。

  欧米のオペラ座などに比較すると、我が国の舞台芸術公演などを見にくる外国人の数は非常に少ない。観光旅行には美術館、名所・旧跡、観劇・オペラ、食事、買い物というコースが一般的であるが、日本の場合、外国語による表示や説明が十分でないことなどから、来日した外国人にはこのメニューを満足にこなすことが困難であるという問題がある。観光は人が自ら移動して、実際に文化的体験を得ていくものであるが、日本ではそのためのしくみができていない。

  日本は外国からの観光客が多数来日できるように工夫をしなければならない。例えば修学旅行のように若い人が旅行する機会を設けることは有意義である。また単なる旅行だけでなく、そこにより知的な経験を盛り込んでいくことが良い。日本文化を知る、体験する旅行として売り出せばよい。

  日本からの文化発信は、知的な層だけを対象にする傾向があるが、いわゆるオタクやアニメーションのセル画など、周辺的な日本文化に興味を持つ人も多い。このような層の人々は、高価であっても日本に来て「本物」を買うはずであり、かえって大衆文化の方に、目的の明確な魅力的な市場がある。また、修学旅行については、貧しい時代の日本独自の文化であったようにも思われる。学生の卒業旅行やバックパッカーなど個人の活動に視点を据えて、大学が単位認定をするなど、動機づけの面で支援できればよいのではないか。

  修学旅行というシステム自体を外国に勧めていくことを考えてもよいのではないか。どうせならばより若い人に投資をしたほうがよい。

  経団連ではインドネシア、フィリピンの中学校、高等学校の教師を毎年10名ずつ日本に招へいしてきた。これは日本の企業が資金を提供し、相手国の教育省が人選をして2週間の滞在をさせるものであり、参加者は日本の先端企業を見学するなど、普通の観光では得られない体験をしている。この教師達が帰国した後、生徒達に自らの体験に基づく日本を伝えることとなり、波及効果が大きいものと期待している。

  海外から日本への修学旅行などにより、若い外国人が多数日本に訪れることは非常に望ましいことである。若い時に日本に接する経験をもち、日本に対して肯定的な印象を持つことが、将来の良好な国際関係につながる。

  「日本には興味がない」といわれると愕然とする。溝口、黒澤、小津といった海外でも認められている日本映画の巨匠の力をもってしても、日本への関心を呼び起こすことはできなかったのであろうか。この監督達の映画も、必ずしも興行的に成功しておらず、大衆に広く浸透しているわけではない。一方、ハリウッド・ムービーによるアメリカのイメージは世界中に染み付いている。映画は多くの人に見られることが重要である。

  若い外国人に日本文化を体験させるということは重要である。自分自身も子どもの時に日本人の子供達と遊んだことが一番の思い出となっている。一般に日本人と外国人とのコミュニケーションは困難である。外国人の目から見ると、日本人は反応が遅くて何を考えているか分からない。言葉による交流ではなく、何かを一緒に行うことによって、理解が促進されると思う。

  ハコ物を作ることに対して批判が多いが、東京には世界に冠たる規模・内容の博物館・美術館を整備するべきである。世界の常識として、アジアを訪れた人が必ず立ち寄らなければ恥ずかしいと思うような文化的施設を持てば、観光客は自然に増加する。観光は経済効果も高いので、観光と文化を関連づけていくことは大切である。そのためにも魅力ある文化を発信していく必要がある。

  繰り返して日本にやってくるリピーターを増やすことが大切であり、この点において参加型、体験型の観光は有意義である。国民一人一人の活動がなければ文化交流はできないということを踏まえれば、「国際文化交流のための大綱的推進方策」(たたき台)の「2.国際文化交流の担い手、当事者である国民一人一人の活力を生かす。(その力量・能力の育成・強化を含む。)」の表現は半面的であり、工夫を要する。

  日本人が日本文化の意味を十分理解できなくなってしまっている現状がある。このため京都市では市民を対象にして、解説を加えて「能楽」を学ぶワークショップなどの事業を実施している。

  日本の道路表示などが不十分で、初めての場所を一人で移動することは日本人でも大変困難である。このため、「旅行」の概念を根本的に変えることも必要なのではないか。たとえば、一ヶ月間かけて、客船で日本沿岸を回るツアーを行うのはどうか。船の中で、色々な日本文化の学習ができるようにして、寄港地での見学と船内での学習を組み合せる。一ヶ月間の食費込みで旅行代金を設定すれば、お金がいくらかかるかわからないという外国人旅行者の不安を解消することもできる。

  伝統文化から先端の現代文化、知的なものから大衆的なものまで、日本文化は多様であり、また多重構造を有しているが、世代による感性、認識の違いという視点も必要である。日本は島国であるために、欧米や大陸から渡ってきたものが、次々と堆積され、日本的なるものへと同化、変質してきている。第二次世界大戦を実体験した世代と、知識だけでとらえている世代と、これを全く知らない世代とでは、日本や日本文化に対する認識や堆積された文化の残し方が大きく異なっている。このような視点を国際文化交流の大綱的推進方策の中に盛り込む必要がある。

  エリートのための文化交流か、大衆を中心とした交流かによって、その違いは大きい。文化交流の対象はエリートと大衆の二極に分かれるが、日本文化に対する外国人の理解や関心を考える時、その中間に一つの壁が存在するように感じている。日本を深く理解する少数の外国人と、表面的に理解する多数の外国人がいて、中間層が少ないのではないか。外国人が日本を理解するときに、最初は観光で来日して日本に対する興味を抱き、日本文学などに接するようになり、さらに日本理解が深まるという道筋が想定されるが、その段階において日本人との対話が必要となってくる。そのときに日本人の対話の進め方や論理的な説明の仕方が稚拙であるために、「日本人はわからない」と外国人に言われてしまう。日本のことを論理的に説明できる人材をどのようにして訓練するかが重要な課題である。例えば、日本に長期滞在している外国人に人材養成について相談してみるのも一案である。

  民俗芸能の海外公演などを行う際に、来日中の外国人の発案で選定した地方の民俗芸能が、海外でのニーズに合致して成功を収めたという例がある。このように現地のニーズを的確にとらえる工夫が大切である。

(5) 座長代理から、これまでの意見をもとに議論を更に深めるためのたたき台を作成する起草委員について、平山座長から、稲賀、佐藤、平野、藤井、及び渡邊明義の5名の委員が指名されたことを受け、これに平山座長と三善座長代理を加えて起草委員会を設置することとなった旨報告があった。事務局から、次回の懇談会は9月24日13:00から開催するとの説明があり、閉会した。


(文化庁国際課)

ページの先頭へ