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最近における交通網の著しい発達や情報化などの進展によって、「文化」の概念も変容せざるを得ず、外国の人々に日常生活を見てもらうことが大切になってきている。
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国際社会の中で日本の経済的な存在感が相対的に小さくなっている現状は、外国に日本文化を公正な目で評価してもらえる環境が整った好機である。日本は今こそ、開かれた自由な文化の国として、よいイメージを発信していくべきである。特に大学等の知識層に焦点をあてるべきである。
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文化交流をコミュニケーションとしてとらえた場合、正確さ、普遍性、合理性、矛盾のない首尾一貫を旨とする客観的「情報」(インフォメーション)と、必ずしも正確でなくても、人と人との関係性や、その場における真実を重視し、相手をその気にさせるという、情動的「働きかけ」(アフォーダンス)の二つの要素があるが、そのいずれかに偏重することは危険であり、双方のバランスをとることが重要である。
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苦しみ、悩みながら、希望・ロマンをもとめて進んでいくという点は世界中の人々に共通しており、日本人が自分自身をみがいて、目的・理念をもって世界の人々と接することが大切であり、芸術家の役割はその先駆けとして世界を舞台に活動し、メッセージを伝えることであろう。
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国際文化交流を行うときに、不要な摩擦を回避するため、ある程度の配慮は必要であるが、配慮が行き過ぎて、日本文化の中ですでに評価の定まった安全なものに限定して紹介するようになると、つまらないものになってしまう。何でも見せてしまうのも一つのあり方ではないか。その場合、「日本はこういう国である」ときちんと説明して伝えることが必要である。文化交流におけるコミュニケーションの機能を考えるとき、情報をコントロールするだけでなく、文化に接するコネクションの機会を作っていくことが重要である。意図せずに漏れ出すという交流の側面を生かしていくことも大切である。
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外国に日本文化の理解者を増やすことが大切である。それには日本文化に触れる機会を提供することが必要である。その場合、いわゆる芸術作品を高尚なものと位置付け、大衆的な文化を低く見る傾向があるが、大衆的な作品の方が、日本理解を進める上で効果が高いことが多い。そこで、現地の人が気軽に立ち寄ることのできる気軽な文化拠点を多数設置して、マンガ、ポップス、ニュースを含めたテレビ番組などを提供し、日常的な普段着の日本を伝えることも必要である。
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映画は純粋芸術と大衆文化の狭間にあり、より大衆に近づいた方が文化の相互理解を進める上で効果があるが、大衆に強いインパクトをもつ作品ほど、市場性が高く、経済的な利益に結びつくことが多いために、公的な資金援助などが受けにくくなってしまう。
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日本は、文化立国を基盤として東アジアの中で重要な役割を果たすべきである。国家、国民として自覚して文化交流に取り組むべき時期に、閉鎖的なイメージを与えることのないよう文化発信に努めるべきである。
日本の文化は国際社会の中ではローカルな特殊な文化であり、世界において日本文化を世界の人々に理解してもらうためには工夫と努力が必要であり、発信に際して格段の配慮が必要である。
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日本文化とは何かと考えるときに、芸術文化に大きな比重を置いて、芸術文化だけで日本の文化を代表させることは適切でない。文化は生活と密着しており、地方の文化の背景には、その文化を成り立たせている固有の精神性も含まれている。日本の生活文化のもつ精神性は世界的に見ても大変貴重である。日本文化は戦後に始まったわけではなく、千年以上の歴史を持っているということが、外国にきちんと伝わっていない。
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日本の文化交流、文化協力は、これに従事する人間個人の献身的な努力によって相手国で高い評価を得ているが、国家としての方針は明確でなく、その組織的な取組みが評価されているわけではない。
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アフガニスタンの文化財保護のための協力について、ヨーロッパ諸国では、恒常的な組織を設けてアジア、オリエント文化に関する研究を積み重ねてきた実績があり、その過程で、現地の人材育成や現地の人との人脈形成がなされてきた。このためその人脈を活用して、政府が公式に活動に着手する前に、NGOとして現地に入り、情報収集するとともに活動を展開している。日本の場合、いくつかの大学が調査研究を行ってきたが、相互に連携もなく、また継続性がなかっため、相手国との人脈形成や交流が途絶えてしまっている。今後は、各大学が個々に活動するのではなく、相互の連携と組織化を図り、継続的に調査研究、協力できる体制を整備する必要がある。
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ギリシャにおいては、文化大臣のイニシアティブにより、古代ギリシャ悲劇を世界に誇る文化として、外国の資源(演出家、劇団、資金)を活用しながら、世界にギリシャ文化を発信し、観光資源としても活用しつつギリシャの存在感を高めようとする高度な戦略を持っている。日本でこのような企画を発想、実行できる人材もいないし、そのような機能を備えた劇場もない。世界を巻き込む日本文化戦略を持つことが必要である。
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文化交流の究極の目的は平和友好であるが、交流自体はいわば戦いであり、勝たなければならない勝負である。その点で日本は戦略がなさすぎる。特に芸術の交流においては個人の力量がその底流にある文化を含めてを問われることになるので、どの国に誰を派遣すればよいのか、芸術家の力量をよく判断して選ばないと失敗して、外国から日本が軽んじられる結果になる。
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日本としての文化交流の戦略を持つことと同時に、文化交流の担い手となる国民の意識を高めることが重要である。文化交流は、活動に直接参加した人以外には関心が低く、一人一人が文化交流の主体であるという自覚を涵養する必要がある。
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文化庁、外務省、国際交流基金の3者が、それぞれの枠組みに閉じこもるのではなく、相互に連携・協力して国際文化交流の裾野を広げられるように、その在り方について、組織、予算も含めて検討するべきである。
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ヨーロッパの先進国に比べて、日本は少ない予算・人員で関係省庁等が文化交流に努力しているが、今後は、文化に対する関心を高め、十分な予算を確保する必要がある。
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ブリティッシュ・カウンシル、ゲーテ・インスティテュート等の海外の文化交流機関も類似の立場をとっているが、国際交流基金が政府から一歩離れたところで国際文化交流を支援する必要性は次の2点である。すなわち、文化交流はODA事業とは異なり本来個人が行うものであり、ときには政府に反抗する事業を支援し、政府との間に緊張関係が生じることもある。また、外交には浮沈があり政府の役人も異動するが、それに左右されずに長期的な利益を考えることができ、さらに時間をかけて人材を育成することができる。これら長期的継続性を確保するために国際国流基金の存在意義がある。
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国際交流基金が今後重要であると考える戦略は、効率性を高めるために、190カ国もの対象国、その中での対称層による事業の絞込みを行うこと、及び他機関との戦略的連携を強化することの2点である。
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日本の対外文化活動の中には、日常的な展開が不十分なことがあり、現地の大学や文化人層などにもっと深くつながりを持つ必要があるのではないか。広報の徹底など、イベントの実施方法についてもさらなる工夫が欲しい面がある。また、その効果に関してのきめの細かい注意も必要だと思われる。
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政府各機関が行っている映画に係る交流事業について、映画人が十分に知らないという問題があり、ウェブサイトや広報に載せるだけではなく、日頃行政に興味を持たない人にも情報が伝わるような工夫が必要である。
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民俗芸能の保護についての関心が高まっているが、この分野での国際交流についても、政府の支援策が、その相談窓口を含めて十分周知されてこなかったのではないか。
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自治体としての国際交流の仕組み作りをしようとしている。文化団体や個人が交流を行っていくための仕組み作りが重要である。
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日本文化という種を世界において育てていこうとするのであれば、外国がどのような土壌であるのか知る必要があり、そのためには在外公館や国際交流基金海外事務所等における情報収集能力を高めるとともに、その成果をデータベース等によって官民で共有できるようにすることが大切である。
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多数の外国人に来日してもらって、日常生活まで含めた日本を見てもらうことが必要であるが、その際、日本の生活環境の悪さが問題となる。文化交流のためには、日本に来る外国人のための生活基盤として、都市造りから考えなければならない。特に、若い留学生や研究者のために日本の生活環境を改善することは重要である。フランスのシテ・ユニベルシテールのような、宿泊施設も含めた文化交流特別区を都市の中に作っていくことが必要である。まず、若い世代の人たちに日本を好きになってもらう必要がある。
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戦略的な国際交流を行うべきであり、例えば、アメリカは財政支援とは別に産業振興の立場から民間の文化交流を支援しているように、商業的な活動と組み合せて文化交流を進めてもよい。
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日本もCNNやBBCのように、日本発の情報を海外に向けて恒常的に発信し続けることはできないであろうか。
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NHKにおいては、放送機関として番組を通して海外の文物を国内に紹介する一方で、例えば「おしん」のように番組を海外に提供することで外国人の日本に対する理解や関心を高めたり、国際放送のテレビやラジオを通じて日本発の情報を外国に送ることも行っている。
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国が文化交流のために何をしていくのか、ひとつひとつの事業の評価をどうしていくかを考えなければならない。目標の置き方によって評価は変わってくる。これまでに成功した交流事業をどのように評価していくのか、他国、他機関の事業を対象とすることも含めて、評価の方法を開発していくことが重要である。
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文化交流の効果をどうとらえるかにもよるが、文化交流事業は、効果が現れるまでに時間がかかるものが多く、事業の評価にあたっては、長期的な視野が必要である。 |