I  日本語能力試験の改善について
  2  日本語能力試験の内容の改善について



(1)日本語能力試験の基本的な在り方
1目的・役割
  日本語能力試験は,知識だけでなく実際に運用できる日本語能力を測定することを今以上に重視するとともに,さらに,口頭能力試験や記述試験においても日本語によるコミュニケーション能力を測定する試験方法も考えていくことが望ましい。ここで用いる日本語コミュニケーション能力とは,人と人とが実際に接触し,意志の疎通をはかろうとする際に,日本語に関する知識だけではなく,例えば,様々な社会・文化的要素にも気を配るなど,双方向的かつ柔軟に運用できる日本語能力のことである。
  また,日本語能力試験は,日本語運用能力の測定と,学習奨励となるような到達度の測定の両方の役割を持った試験と考えられる。その場合,日本語学習者の学習目標の到達度(学習課題をどのくらい達成しているか)を見る性格が強い下位の級から,日本語運用の熟達度(日本語の運用能力がどのくらいあるのか)を見る性格が強い上位の級になるに従い,文字・語彙・文法といった知識的側面及び言語運用的側面の難度を高めることとすべきである。なお,各級の試験内容を見直す場合は,従来の日本語能力試験との継続性についても十分配慮する必要がある。
  さらに,国内外における日本語教育を巡る状況の変化の中で,異文化間の理解や共生等を促進するために,日本語非母語話者と日本人との日常的な接触・交流を支える日本語の運用能力を測定する試験という視点からの検討も忘れてはならない。

2受験者
  日本語能力試験は,原則として日本語を母語としない者を対象として日本語能力を測定する試験とする。

3認定基準
  現行の認定基準は,学習時間数を基準にして級別区分が行われているが,学習者の需要が増加し国内外での異文化接触・交流場面が多様化している現状においては,むしろ実際の接触・交流場面で共通して必要と考えられる具体的な言語技能や言語活動を勘案した認定基準を設けることが合理的であると考える。このため,例えば認定基準を記述する場合には,例示として「○級なら○○ができる」という,受験者にとって分かりやすい記述の方法が考えられる。
  また,現行の1級の認定基準における「大学における学習・研究の基礎として役立つような」の記述に関しては,「日本留学試験」の設置目的と明確に区別するため,日本語能力試験の認定基準においては,大学等の入学志願者のための日本語能力の測定を目的とするような記述は見直すべきである。

(2)日本語能力試験の構成
1級別の在り方
  級別の在り方については,現行の級別では1,2級と3,4級との間の差が大きいことが指摘されているが,このことについては,上位の級と下位の級の構成内容を調整することで解決できるであろう。
  また,将来は文字を媒介としないで受けられる試験を開設することにより,新たな受験者層を開拓できるものと考える。日本語学習への動機付け及び学習の奨励のために「5級」相当の試験を設けることも検討するに値する。ただし,当面は,従来の試験との継続性を踏まえ,級の数は4つとし,4級の中に「5級」相当の内容を含めることも一案である。

2初等・中等教育段階の学習者への対応
  近年の日本語学習者の増加において特に海外の初等・中等教育機関における学習者数は大幅な伸びを示しており,海外での日本語学習者数約210万人(平成10年度・国際交流基金調査)のうち,初等・中等教育機関の学習者は約3分の2を占めている。
  海外における初等・中等教育段階の学習者向けの試験は,その国の教育課程や日本語教育態勢等の状況に合わせて行うことが適切である。しかしながら日本語教育関係の人材が十分でない国も多く,そのような場合には我が国が初等・中等教育段階の学習者向けの試験問題作成を支援することも必要であろう。
  すでに各国において,初等・中等教育段階の学習者の日本語能力を測るために日本語能力試験が活用されている実態があるが,日本語能力試験の試験問題は,基本的に成人学習者を想定して作成されているため,年少者にとっては理解が困難な内容の設問が含まれている場合がある。試験問題の作成においては初等・中等教育段階の学習者への配慮も必要となる場合もあろう。
  なお,初等・中等教育段階の学習者への対応として,国際交流基金では日本語能力試験とは別の試験として,例えば年少者向けの試験問題用素材集(教材に近い形の試験キット)の開発が考えられている。



(3)日本語能力試験の構成
  従来の試験は「文字・語彙」,「聴解」,「読解・文法」の3類別で構成されているが,「読解・文法」は言語知識を問う文法と運用能力を問う読解が混在する類別となっている。しかし,類別としては主として知識面を問う「文字・語彙・文法」と,運用面を問う「聴解」,「読解」のような分け方が望ましいと考える。現在,実施団体において行っている統計的な調査分析を踏まえ,類別案についてさらに検討されることが必要である。
  また,類別とともに出題内容は,学習目標への到達度を測定する下位の級では言語知識を問うものを多くし,日本語運用の熟達度を測定する性格が強い上位の級では,運用能力を問うものを多くして測定することが考えられる。
  なお,口頭能力を測定する試験の開発や部分受験については,将来に向けての課題として検討することが望まれる。



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