(1) |
政府間協議
|
|
我が国権利者が外国で権利侵害を受けている状況の改善のためには、政府レベルで侵害発生国に対し対策を要請することが必要である。
これまで政府では、二国間、多国間での政府間協議などの機会を通じて、各国・地域における著作権保護の強化について要請を続けてきた。
特に中国とは世界貿易機関(WTO)の経過的措置レビュー、日中経済パートナーシップ協議、国際知的財産保護フォーラム(IIPPF)が実施する官民合同訪中ミッションなどの枠組みを利用するとともに、著作権担当部局間での二国間協議を実施してきた。その結果、中国がWCT、WPPTに対応するべく、情報ネットワーク伝達権保護条例を制定するなど、法整備面では一定の成果が上がっている。
しかしながら、国際レコード産業連盟が毎年実施している侵害率調査によれば、中国におけるレコード、CDの侵害率は、平成15年(2003年)の90パーセントから平成17年(2005年)の85パーセントへ若干減少しているものの、エンフォースメント面の実効性は依然として不十分である。
そこで、相手国による十分な行動の変化につなげるために、要請と支援、二国間と多国間、ハイレベルと実務レベルを戦略的に組み合わせることで実効性を高めることが必要である。
|
|
|
要請と支援
|
|
中国をはじめとする侵害発生国に対しては、WTOルールの毅然たる活用を含めた硬軟幅広い手法で要請を行うことが協議の中心となる。併せて侵害発生国が対策を容易に行うことができるよう能力構築などの支援を行うことを戦略的に組み合わせることが必要である。
|
|
二国間と多国間
|
|
著作権は国際ルールに則った制度であるため、侵害発生国に対してもWIPO、WTO等の多国間のルールに則して保護を求めることが基本となる。さらに我が国権利者固有のニーズへの対応を二国間で求めることで補うことが有意義である。
我が国から提唱した「模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」については、合意の枠組みも含め検討を行い、その早期実現のために積極的に議論を推進すべきである。
日本と同様、海賊版被害を受けており、かつ海賊版対策について豊富な経験を有する欧米諸国とは、二国間で海賊版対策に係る協力について協議し、侵害発生国に対し連携して要請を行うことが効果的である。
自ら侵害発生国でありつつ、中国等においては海賊版被害国でもある韓国等の中進国との関係においては、その中進国に対しては侵害の取締りを要請しつつ、第三国における海賊版対策の在り方について協力して検討していくことが必要である。
|
|
ハイレベルと実務レベル
|
|
閣僚級を含めたハイレベルでは一般的な改善及び特に重要な事項について不断の要請を行い、実務レベルでは、具体的な改善に直結する個別事項について、十分な情報収集に支えられたきめ細かい要請を行うことにより、我が国のニーズに対する相手国の国を挙げた政策につなげるべきである。十分な情報を得るためには、コンテンツ業界や著作権関連団体等からのインプット、政府内の各種調査結果、相手国における生情報、大学などの専門家の研究の活用が有効である。 |
|
(2) |
能力構築支援
|
|
|
戦略的な対象国選別
|
|
著作権に関する法制度を整備する上において、また、その法制度を用いた権利執行を実施する上において、それぞれに係わる各国の政府担当者や集中管理団体職員等の専門的能力を構築することが重要である。
これまで行ってきたアジア著作権制度普及促進事業(APACEプログラム)、JICA(ジャイカ)研修等は、近隣の東アジア地域から遠くは南太平洋諸国にいたるまで、支援の裾野を広げ、各国に「著作権保護思想の種をまく」という意味において意義深いものであった。しかしながら、海賊版被害の実態、著作権保護のレベルでも、アジア諸国・地域は非常に多様である。それに対し、わが国の能力構築支援の多くは、相手国の状況に応じた細かな課題設定を行なうにはいたらず、一定の研修内容をすべての国に当てはめて来ており、必ずしも最良の効果を得ることはできていなかった。
そこで、我が国からのコンテンツの発信という観点を中心に置き、各国における文化政策の進展の状況、歴史的・地理的経緯による各国それぞれの施策ニーズなども勘案しながら、能力構築支援の対象国を戦略的に選別し、各国の状況に対応した能力構築の実施方法を適用することが重要である。
そのためには、まず以下の項目に基づいて各国を分類し、優先して資源を投じるべきグループを選定すべきである。
|
・ |
日本のコンテンツ産業の進出状況 |
・ |
日本のコンテンツの海賊版被害状況 |
・ |
当該国におけるコンテンツ産業振興施策の状況 |
・ |
日本文化の海外発信先としての将来性 |
さらにそれぞれのグループ内でも、以下の諸項目の状況を勘案して優先的に実施すべき施策を決定することが望ましい。
|
・ |
著作権関係条約締結状況 |
・ |
著作権関係法令整備状況 |
・ |
集中管理団体整備状況 |
・ |
海賊版流通状況 |
|
|
キャパシティ・ビルディングからキャパシティ・デベロプメントへの展開
|
|
これまで行なわれてきた研修事業等は、個々の参加者の能力構築には大きな効果があるものの、当該国の自主的・持続的な政策につながっているかという検証がなされておらず、来日研修の終了とともにその関係も終結してしまっていた。また、このような能力構築支援の結果として、相手国の法令整備や権利執行態勢が進展したというフォローアップもなされていなかった。
そのため、能力構築支援事業の考え方を、個人の能力向上から社会全体への波及を視野に入れたもの、すなわち「キャパシティ・ビルディング」から「キャパシティ・デベロプメント」への転換を図るべきである。「キャパシティ・デベロプメント」は、セミナー等の研修を起点としながら、研修内容が派遣元国において普及され、最終的には途上国自身が自律的に政策を向上させていけるようになる過程を包括的にとらえ、そのための環境作りを含めた総合的な途上国の政策実現能力の発展をめざす研修事業のあり方であり、この考え方を海賊版対策における能力構築支援においても応用されることが望ましい。
そのために、より責任ある地位にある者を研修生として招聘するように努め、研修内容については、研修生の問題意識を事前に把握した上で、帰国後の行動計画作成を研修の中心に置く。また、研修終了後にも持続的な連携を保ち、必要に応じてフォローしていくことが重要である。
さらに、途上国の政策立案に対する能力開発を行なっていくという観点からは、日本から専門家を派遣するなどして「ナショナルセミナー」を開催する方がより効果が高いとも考えられる。
|
|
相手国の利害関心に応じたセミナー等
|
|
これまでの能力構築支援におけるセミナー等は、ともすると日本の考え方や国際的ルールを一方的に主張するだけで、相手方の利害関心やインセンティブへの配慮に欠ける部分があったため、我が国での研修等によって得た知見が当該国の政策としての、深く永続的な関心につながりにくく、結果として相手方の自発的な行動や協力を促しにくい面があった。
そこで、このような研修等においては、海賊版対策や著作権保護体制の整備がいかに相手国自身のコンテンツ産業と文化発展に役立つか、いかに相手国の権利者の利益となるかという点を前面に打ち出しながら事業を実施すべきである。また、相手国において影響力の強い権利者と連携しながら、事業を実施していくことも有効である。
また相手国政府が行うコンテンツ産業振興施策や文化振興施策と連携して、最も良いタイミングを選んで、もっとも適合する能力構築支援事業を実施するよう検討すべきである。
なお、海賊版対策や著作権保護体制の整備が相手国自身の発展に役立つということを効果的に説得するため、WIPO東京事務所においてそれを実証する研究を進めることも考えられる。 |
|
(3) |
権利行使
|
|
本来、私権である著作権の権利執行においては、権利者が、正当な権利を守るための主張を行うことが最も重要である。ただし、各国政府のエンフォースメント能力不足や、権利者の権利行使の経験の蓄積が後に続く他の権利者にも役立つこと、コンテンツの海外への発信は国を挙げて取り組むべき課題であること等から、政府においても一定の支援を行うべきである。
そこで、これまで政府は、政府模倣品・海賊版対策総合窓口の設置、侵害発生国現地における在外公館や日本貿易振興機構(JETRO)による支援、コンテンツ産業関係企業・団体が発足したコンテンツ海外流通促進機構(CODA)の活動の支援等を行ってきている。これらの施策により、例えば、CODA・CJマーク委員会等の中国、香港、台湾における権利行使の結果、平成17年(2005年)4月から平成18年(2006年)3月の間に、取締り1,091件、逮捕者515名、押収DVD、CD等2,276,180枚に上るなど、大きな成果を挙げている。
しかしながら、中国における刑事訴追基準引き下げの問題等、依然として、権利者に過重な負担を課する制度的問題と現地政府担当者の不十分な対応が相まって、権利行使が困難な場合が多い。
そこで、政府間協議を通じて、権利行使を容易にするための制度改正を要望していく際に、具体的な侵害に対する訴追状況についても情報提供を求めていくことが必要である。また、具体的な権利行使の際にも、政府間協議の際の相手国政府の回答に言及することが効果的である。
特に、無方式主義をとる著作権は権利の所在が見えにくいため、権利者から取締当局に対して情報提供を行うことが不可欠である。取締当局担当官に対するセミナー等を通じ、我が国のコンテンツの海賊版を識別するための情報提供を行うなど、さらなる関係省庁と権利者団体等の効果的な連携の方策を検討する必要がある。 |