1. |
地域文化をめぐる現状
地域文化に関する地方公共団体の取組みや地域の文化芸術活動の現状は,各種の統計などから分析すると,次のような傾向が見受けられる。
(1) |
地方公共団体の文化関係経費の推移
文化庁が調査した「地方における文化行政の状況について」(平成13年度)によれば,地方公共団体の文化関係経費 は平成5年度の9,553億円を最高額として地方財政の厳しさを反映して減少してきており,平成13年度は5,651億円となっている。
芸術文化の振興に係る芸術文化経費 についても平成5年度8,172億円から平成13年度4,533億円と減少している。特に,文化施設建設費 が平成5年度の5,878億円を最高額として平成13年度はその約1/3以下の1,682億円まで減少しているのが注目される。一方,芸術文化に関するソフト事業の経費である芸術文化事業費 については,平成5年度は583億円,平成13年度は637億円であり,年度による変動はあるものの,ここ10年間ではほぼ横ばいの推移を示している。
また,文化財保護経費 は平成5年度1,377億円から平成13年度には1,116億円となっており,減少傾向にある。
国や地方公共団体の財政状況は,今後とも厳しい状況が予測されることから,地域の文化芸術活動の支援のために,公的支援の確保に努めつつも,企業や地域住民からの資金援助の活用など,多様な資金確保方策に努める必要がある。
 |
「文化関係経費」とは,文化の振興に関する経費。芸術文化経費と文化財保護経費を合計した額。 |
 |
「芸術文化経費」とは,芸術・芸能・生活文化・国民文化等の芸術文化の振興に関する経費。文化施設建設費,文化施設経費及び芸術文化事業費を合計した額。 |
 |
「文化施設建設費」とは,土地購入費・建設工事費などの文化施設建設のための経費。また,「文化施設経費」とは,文化施設の管理運営のための経常的な経費。 |
 |
「芸術文化事業費」とは,県民芸術祭の企画・運営や芸術文化団体への活動支援などの芸術文化事業を実施するための経費。 |
 |
「文化財保護経費」とは,文化財の保存修理・買い上げ・調査・伝承・活用・管理等に関する経費 |
|
|
(2) |
地域における文化施設等の現状
座席数300席以上のホールを有する文化会館の数は平成2年度に1,010館であったのが,平成14年度には1,832館に増加しており,過去12年間で約1.8倍の増加である。1,832館の内訳は市町村立が1,549館,私立が155館,都道府県立が112館であることから,そのほとんどは市町村立の文化会館であると言える。また,職員数については18,198人であり,平均すると約10人の職員で一つの文化会館の運営・管理を行っていることになる。そのうち4,707人は非常勤の職員であり,全体の25.8%にあたる(文部科学省「社会教育調査」)。また,平成13年度において,公立文化会館のメインホールの平均稼働率は52.0%であり,自主文化芸術事業を実施している公立文化会館は76.3%にとどまっている((社)全国公立文化施設協会による調査)。
このように,文化会館は限られた人的資源で運営・管理されていることが多く,その設備や機能が十分に活用されているとは言い難い状況にあることから,文化会館の運営に関与する人材をいかに確保し,また,文化会館の事業企画能力をいかに高めていくかが課題となっている。
|
(3) |
地域住民の文化振興に対する意識
内閣府が平成15年に実施した「文化に関する世論調査」によれば,地域文化の振興に対する住民の意識は以下のようになっている。
 |
地域の文化芸術活動の振興に関する要望
地域の文化芸術活動をより活性化するため国や地方公共団体に対し要望することは何かを聞いたところ,「文化施設を整備・充実する」(35.4%)を第1位として,以下,「文化に関する情報を提供する」(27.4%),「国や地方公共団体による主催公演・展覧会などの文化事業,文化行事を実施する」(24.8%),「芸術文化団体・サークルの育成や援助を行う」(22.9%),「指導者を養成・派遣する」(20.7%),「民間の公演活動などの文化創造活動を支援する」(20.0%)等の順となっている。このうち「文化施設の整備・充実」については,昭和62年調査では52.0%であったが,平成8年調査では,45.7%となり,今回調査では35.4%となっており,ここ15年間のうちに17%近く減少している。
|
 |
地域の文化施設の整備等に関する要望
地域の文化施設の整備・充実を行うとしたら,どのような施設が最も必要か聞いたところ,前回(平成8年)の調査結果と比べ,「文化会館(音楽会や劇の公演などができる市民会館・県民会館)」を挙げた者の割合は28.8%から20.1%へと減少し,「美術館」も13.9%から11.7%へと減少したのに対して,「特にない」と答えた者の割合は11.2%から17.9%へと増加した。 の「文化施設の整備・充実」を要望する割合の減少と合わせ読めば,地域の文化施設の整備は相当程度進んでいるという認識が広がっていると考えられる。
|
 |
文化が息づくまちづくりのための要望
地域に根ざした独自の個性的な文化を生かして,文化が息づくまちづくりを進めていこうとした場合,国や地方公共団体はどのようなことをすれば良いと思うか聞いたところ,「地域の芸術文化団体・サークルの育成や援助を行う」を挙げた者の割合が32.4%,「歴史的な建物や遺跡などを活(い)かしたまちづくりを行う」を挙げた者の割合が30.9%と高く,以下,「文化フェスティバルなどの文化行事を開催する」(27.3%),「まちのデザインや公共施設の整備に芸術的な感性を取り入れる」(25.1%)等の順となっている。 |
 〜  の結果から,地域における文化施設等のハード整備が進んだことを受けて,住民の国や地方公共団体に対する要望の重点が,文化芸術活動に接する機会の増大,地域の文化芸術団体・サークルの育成・支援,文化財の活用等によるまちづくりなどのソフト事業の充実や地域振興政策における文化的側面の重視という方向に移行しつつあることが明らかになってきている。
|
(4) |
地域文化に対する企業等のメセナ活動
企業等の民間団体が文化芸術活動を支援する「メセナ活動」は,長引く経済不況の下で一時落ち込んでいたものの,企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)への認識が高まる中で,その支援形態を変えつつ再び活気を見せ始めている。
(社)企業メセナ協議会の「メセナリポート2004」によると,企業がメセナ活動を行う目的は,「社会貢献の一環として」(88.3%)に次いで「地域社会の芸術文化の振興のため」(62.3%)が第2位となっている。「地域社会の芸術文化の振興のため」は平成13年度(47.6%)から15%近く増加している。また,メセナ活動で重視した点として「地域文化の振興」は「芸術文化の普及」と並んで第1位(57.2%)であり,メセナ活動の評価項目では「社会に対する効果・影響があったか」(69.6%)が第1位となっている。
芸術文化振興のためにどこが支援すべきかとの設問に対しては,メセナを実施している企業の回答では,地方自治体(65.5%),企業(60.1%),市民(47.2%)の順となっているのに対して,メセナを実施していない企業の回答では,地方自治体(61.5%),国(41.6%),公益法人(34.4%)となっている。
民間企業のメセナ活動が,今日では,自社の社会貢献として地元の地域文化への貢献をますます重視してきていることがうかがえる。特に,メセナ実施企業の6割が,文化芸術活動の支援者として企業自らをあげているのは高い自覚の表れである。地域文化の振興に当たっては,このようなメセナ意識の高い企業の協力を得ることがますます重要となってきている。 |
|