戻る


第2章 文化を大切にする社会を構築するために
 
第1章で述べた文化の持つ機能・役割を踏まえ,文化を大切にする社会を構築するため,特に,次に掲げる事項について,取り組むことが必要です。
 
アイコン   社会全体で文化振興に取り組む
     個人,企業,地方公共団体,国のそれぞれが文化の担い手として,その役割を果たし,社会全体で文化振興に取り組む。
     文化予算を充実するとともに,寄附促進のため,税制措置の充実を図る。
     国,地方公共団体,企業,芸術家・芸術団体,文化施設,教育機関,研究者,マスメディア等のネットワークを形成し,文化に関する情報の交流等を行う。
     
アイコン   文化を大切にする心を育てる   
     我が国の歴史,伝統や世界の多様な文化を尊重する教育の充実を図る。
     子供が文化活動に参加し,文化に関する様々な体験の機会の充実を図り,豊かな人間性や多様な個性を育む。
     教員が豊かな感性や幅広い教養を持ち,学校教育活動全体を文化的なものにする。
     文化の基盤としての国語の役割を重視し,国語教育の質的かつ量的充実など,国語に関する施策を推進する。
     
アイコン   我が国の「顔」となる芸術文化を創造する
     世界に誇れる芸術文化の創造活動への重点支援を行う。
     世界に通用する芸術家を育成する。
     
アイコン   文化遺産を保存し,積極的に活用する
     総合的な視野に立った文化遺産の保存・活用方策を検討する。
     人々の主体的な参加による文化遺産の保存・活用の取組を推進する。
     
アイコン   日本文化を総合的・計画的に世界に発信する
     国際文化交流を総合的・計画的に進めるためのマスタープランを策定する。
     外国人に対する日本語教育を推進する。
   
1. 社会全体で文化振興に取り組む
   
(1)文化の担い手としての民間,地方公共団体,国の役割
     文化は,個々人が創造性を発揮し,個性を伸ばし,自己の啓発を図ろうとする自発的・自主的な営みとしての側面が強く,文化を守り,次の世代につないでいく上でも個人の役割は大きなものがあります。また,企業も文化の在り方に極めて大きな影響を持っています。
     このため,まず,大人一人一人が自らが文化の担い手であることを認識し,身近なことがらとして文化を大切にする必要があります。特に,社会的な影響力のある各界各層のリーダーが,文化を重視した生き方を実践していくことが期待されます。
     また,家庭においては,礼儀,社会のルールや道徳心,言葉遣いなど,基本的なことがらをしっかりと子供たちに教えることが必要です。そして,大人は,子供はみんなの子供であるという意識を持って,責任ある態度で子供に接することも大切です。
     企業は本来の経済活動と並行して,社会の一員として,人間を大切にし,質の高い生活の実現を目指して文化に機軸を置いて行動することや,様々な形で文化への支援を行うことが期待されます。また,芸術団体や,文化活動に関する様々なNPO(Non Profit Organization:民間非営利団体),NGO(Non‐Governmental Organization:非政府組織)などの活動の活性化も期待されます。
     このように,文化の主役はまず,個人や企業などの民間であるわけですが,民間に任せてしまうというのでは,資金面においても,人的な体制の面においても不十分です。第1章で述べたような文化の機能・役割にかんがみれば,文化は社会的な資産であり,国や地方公共団体がそれぞれの立場から民間のエネルギーを支えていくことが必要です。
     地方公共団体においては,それぞれの地域の特性に応じて,幅広い住民の文化活動への支援を通じた文化の裾野の拡大,地域の文化遺産の継承・発展,各地域の文化施設の充実などが求められます。
     また,国においては,全国的な観点から,我が国の「顔」となる芸術文化の創造を推進し,文化の頂点を高めていくことや,文化遺産の保存・活用,地域における文化振興への支援,国際文化交流の推進,文化振興のための基盤の整備,文化を担う幅広い人材の育成などを行っていくことが必要です。
     このように,文化は,社会のあらゆる存在に深くかかわるものであり,文化を大切にする社会を構築するためには,民間,地方公共団体,国それぞれが文化の担い手であることを認識し,相互に連携協力して社会全体で文化振興に取り組む必要があります。
     その際,文化振興の方法として,国による支援が中心のフランス型と,民間による支援が中心のアメリカ型がありますが,我が国の現状を見ると,国による文化振興のための支援は必ずしも十分とは言えず,また,民間による支援も,近年,企業メセナ活動が活発になってきているとは言え,まだまだという状況です。したがって,これらの双方をより活性化するための方策を積極的に講じていくことが必要です。
 
(2)文化予算の充実
     国の文化予算は,近年急速に充実されてきていますが,文化の振興に果たすべき国の役割にかんがみれば,今後とも充実が必要です。
     一方,地方公共団体の文化予算は,近年減少傾向にありますが,文化の振興は地方公共団体の重要な任務であり,その一層の充実を図ることが求められます。
     また,国,地方公共団体を通じ,予算を有効に活用するため,施策の実施に当たっては,広く関係者の意向を汲むとともに,適切な評価方法に基づき,その手法や効果について評価していくことが必要です。
   
(3)個人,企業による寄附促進のための税制措置の充実
     予算による文化の振興も重要ですが,個人や企業が文化を支援することは,文化を大切にする社会を築いていく上で重要です。こうした支援は,多様な文化の進展にもつながります。
     そのためには,様々な文化活動に対して,個人や企業が寄附をしやすくなるような税制上の措置を講じていく必要があり,アメリカにおける寄附税制の仕組みなどを参考にして,積極的に対応していくことが求められます。また,あわせて,社会全体で文化活動への支援を促進していくための機運を盛り上げていくことも重要です。
   
(4)国,地方公共団体,民間等のネットワークの形成
     これまで,我が国においては,国,地方公共団体,民間等がそれぞれ独自に文化施策を展開し,相互の情報の交換や連携が十分ではなかったと言えます。そのため,国,地方公共団体,企業,芸術家・芸術団体,文化施設,教育機関,研究機関,マスメディアなどの間のネットワークを形成し,文化に関する情報の交換や,共同企画,研究などを行うことが必要です。
     また,国の各省庁の施策には,文化にかかわるものが多いが,文化行政の中心を担う文化庁がより積極的な役割を果たしつつ,各省庁間の連携協力体制を確立していくことも重要です。さらに,国,地方公共団体を通じ,文化に関する施策の窓口の明確化など,窓口機能の整備が求められます。
   
(5)文化の発展を支える幅広い人材の育成
     優れた文化を創造していくためには,その担い手に優秀な人材を得ることが不可欠であり,創造性豊かな芸術家の養成や,文化の作り手と受け手をつなぐ人材の育成など,文化を支える多様な人材の育成・確保が必要です。
     文化施設や文化団体においては,魅力的な活動を効果的に行うことができるよう,アートマネジメントの担当職員(文化活動の企画制作,広報,管理業務などに携わる職員)や,舞台技術担当職員等を対象の養成・研修の充実が必要です。
     また,多様な文化財の特性に応じて,文化財の専門職員や保存技術者・技能者の研修の充実や,ボランティア等の育成が重要です。
     さらに,公立文化会館,美術館・博物館,図書館等の教育・普及機能を向上させるため,学芸員等の専門家の充実や,ボランティア等の積極的な活用も求められます。
     文化行政を担当している職員については,その専門性と資質の向上を図るため,一定期間その任務を継続させるなどの取組が望まれます。
   
(6)文化拠点の整備
     美術館・博物館,劇場などが文化振興の拠点となるよう,事業内容や施設・設備の充実を図ることが必要です。また,これらの施設が,外国の文化施設などと交流することにより,文化発信の拠点として機能を果たすことが求められます。
   
(7)著作権制度の整備
     文化的な創作活動を促進するとともに,その所産の公正・円滑な利用を図るため,情報化の進展や国際的動向なども踏まえ,著作権制度について,法制の整備を更に進める(例えば,国際的にも検討が進められている実演家・放送事業者の権利の拡充など)とともに,権利者・利用者間の契約システムの構築を促進し,著作権の保護や適切な契約の習慣が,広く多くの人々に受容される状況を作っていくことが必要です。
     また,著作権に関する知識と意識を高めていくための施策の充実を図り,著作権の普及・啓発を図ることも重要です。
   
   
2.文化を大切にする心を育てる
   
(1)我が国の歴史,伝統や世界の多様な文化を尊重する教育の充実
     文化を大切にする社会の構築のためには,将来の文化を担う子供たちの豊かな感性を育て,文化を大切にする心を育むことが不可欠です。そのためには教育の役割が重要であり,家庭,学校などにおいて,我が国の文化の支えとなる自然,歴史,伝統や,社会のルール,道徳心,生活規律などの規範意識を身につけさせるとともに,世界の多様な文化を理解し,尊重していく態度を養うことが必要です。
     家庭教育においては,日常におけるあいさつの実践,本の読み聞かせ,親子での地域行事への参加などにより,文化の型を教えることが求められます。
     学校教育においては,初等中等教育から大学教育までを通じて,歴史,伝統や文化に対する理解を深め,尊重し,豊かな人間性を涵養するとともに,一人一人の個性や能力に応じた教育を展開し,文化を担う個を確立することが大切です。その際,国語,社会,音楽,美術などの各教科や,道徳,特別活動,総合的な学習の時間等を通じ,文化に関する学習,特に,体験学習の機会の充実が求められます。また,地域の芸術家や,文化財保護に携わる者,文化団体関係者等を特別非常勤講師や文化活動の指導者として学校に招いて,指導の充実を図ることが効果的です。
   
(2)子供の文化体験活動の推進
     豊かな人間性と多様な個性を育むためには,学校や家庭,地域において,子供たちが文化活動に参加し,文化に関する様々な体験の機会の充実を図ることが重要です。このため,地方公共団体において,年間を通じて多種多様の文化に触れ,体験できるプログラムを作成し,実施することや,図書館,美術館・博物館,文化会館などにおいて子供向けのプログラムを充実させ,学校においてその積極的な活用を図っていく取組を一層進めていく必要があります。国としても,こうした活動に対して支援していくことが求められます。
   
(3)教員の豊かな感性と幅広い教養の涵養
     学校において,子供たちに文化を大切にする心を育成するためには,まず個々の教員が豊かな感性と創造力を持ち,幅広い教養を身に付けることが強く求められます。教員自らが自己啓発に努めるとともに,教員の養成段階や研修において,このような配慮が求められます。こうした取組により,学校教育活動全体が文化的なものとなることが期待されます。
   
(4)国語の重視
     言葉は,コミュニケーションの手段であると同時に,その言葉を母語とする人々の文化と深く結びついており,文化を伝えるものです。このような,文化の基盤としての国語の重要性にかんがみ,学校教育においては,国語教育が質量ともに十分に行われるよう努めていくことが求められます。その際,古典の積極的な取り入れ,名文や優れた詩歌の素読・暗唱・朗読,読書や作文などの指導法の工夫・改善に取り組むことが求められます。
     また,学校教育に携わるすべての教員が,国語についての意識を高め,それを実際に活かしていくことが重要であり,教員の養成段階や,研修において,国語に関する知識や運用能力を向上させていくための配慮が求められます。
     さらに,国語に関する研究を振興するとともに,言葉に関するシンポジウムの開催などにより,地域や家庭など,日常生活の中で自分自身の考えを,相手や場面に応じた適切な言葉で伝えようとする意識の高揚を図ることも必要です。
     永い歴史の中で築かれてきた国語の特色ある表現や豊かさは,これからも大切にされ,一層磨かれていかなければなりません。近年,問題になっている外来語・外国語(いわゆる片仮名言葉)の氾濫は,社会における情報伝達の妨げとなるのみならず,伝統的な国語の良さを損なうおそれがあります。特に,官公庁や報道機関などにおいては,片仮名言葉を安易に用いることなく,個々の言葉の使用を吟味して,できるだけ分かりやすい言葉に言い換えたり,必要に応じて注釈を付けたりするなどの配慮が必要です。また,近年の情報機器の発達・普及にかんがみ,漢字の使用についての再検討も併せて求められます。
     なお,テレビ・ラジオ等の放送,新聞・雑誌等の出版物など,様々な媒体が人々の言語生活に及ぼしている影響の大きさについてはいうまでもなく,関係者においては,このことを十分に認識して行動することが強く期待されます。
   
(5)地域における文化の振興
     人々は,より身近な場所で,文化活動に参加し,文化を鑑賞し,創造することができることを期待しています。身近な場所で文化が育つことは,文化を大切にする心を育み,地域における文化の振興にもつながるものです。国や地方公共団体は,それぞれ全国的な視野に立ち,また,それぞれの地域の特性を活かして,地域における個性豊かな文化を育てる必要があります。
     このため,身近にある歴史的な建造物や伝統的な行事,祭りなどの継承や,地域の特色ある文化活動の推進,豊かな自然を活かしたまちづくりなどを進めることが有効です。
     また,図書館,美術館・博物館,文化会館等が地域における文化の拠点としての役割を果たしていくことが重要です。このため,来館者に対するサービスの向上,教育普及活動の推進,学芸員など専門家の充実,地域住民やボランティアの運営への参画,芸術家や芸術団体との連携の強化などの取組により,その機能を充実することが求められます。
 

ページの先頭へ