資料5
「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存する場合に、関係がある現行規定としては、第31条第2号がある。
同規定においては、「図書館資料の保存のために必要がある場合」には、図書館資料を用いて複製することができることとされている。
第31条 | 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。 |
一 | 略 |
二 | 図書館資料の保存のため必要がある場合 |
三 | 略 |
再生手段の技術革新が進むことによって、図書館等で利用できる資料が減ってしまうことになるため、図書館等の使命にかんがみて、本件要望の趣旨に賛同する意見が多数であった。
ただし、当該著作物について新形式の複製物が存在する場合は除くべきではないか、また、入手の困難性に関して判断基準を明確にする必要があるのではないかとの指摘があった。また、現行の第31条第2号は、「図書館資料の保存のため必要がある場合」は著作権者の許諾を得ることなく複製が可能であることを規定しており、このような現行法の枠組みで対処が可能ではないかとの意見もあった。
したがって、このような現行法の枠組みや権利処理の取組により、どこまで対処が可能であるかの限界や、どのような場合に対処可能であるかの判断基準について、今後必要に応じ検討することが適当である。
現行法の立案において、「保存のため必要がある場合」として想定していたものは次のとおり。
(加戸守行『著作権法逐条講義(五訂新版)』社団法人著作権情報センター)
関係の学説では、この趣旨にかんがみ、第31条第2号の要件を厳格に解する見解もあるが、一方で、以下のように同規定により複製を認める見解もある。
⇒ 「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存は、第31条第2号の規定との関係でどのように考えるべきか。
電子化された図書を館内の端末機器で閲覧する行為は、通常の図書を閲覧することと同じ機能であり、第38条の非営利・無料・無報酬の「上映」に該当し、現行法でも可能と考えられるが、留意すべき点はあるか。
第38条 | 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。 |
2〜5 | (略) |
ネットワークを通じて電子化された図書を閲覧できるサービスを図書館が提供することについて、どう考えるか。例えば、
(それとも、次のネットワークを通じた複写サービスと併せて考えるべきか)
利用者の調査研究の用に供する等のために著作物を複製することができる、電子化された図書を複製する場合であっても、その図書館の保管資料であれば、通常の図書と同様である。
第31条 | 図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。 |
一 | 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合 |
二・三 | (略) |
(加戸守行『著作権法逐条講義(五訂新版)』社団法人著作権情報センター)
他の図書館の依頼によって、電子化された図書を複製することについて、通常の図書と同様に考えられるか。その場合、電子化された図書の、図書館間でのやりとり(ファックス送付やメール送付等)についてどのように考えるか。
第31条(抄) | |
三 | 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合 |
本件の要望は、NACSIS-ILLを通じて大学図書館等において行われている複製物の提供方法と同様に、大学図書館等に限らず、利用者が身近な公共図書館等を窓口として所蔵館からの所蔵資料の複製物を受け取る方法として、ファクシミリや電子メール等を利用した送信を可能にしようとするものである。特に外国からの複製依頼に関して郵送のみによる対応に限定することは、研究活動等の著しい制限になり不合理であり、我が国が文化の発信に消極的であるとの批判を受けかねないことから、利用者の便宜を拡大することが強く望まれるとする意見があった。
このようなことから、最終的な利用者に、窓口となる図書館から紙媒体による複製物1部を交付した後、中間的に発生した電子的複製物は所蔵館におけるものを含めてすべて廃棄することを条件に、認めてはどうかとする意見が多かった。ただし、大学図書館等に関しては、現状でもNACSIS-ILLを通じて、適切に運用されていると考えられるが、それ以外も含めて広く権利制限を行うことの適否については、大学図書館等間その他公共図書館等間におけるファクシミリ送信等の利用実績・ニーズを踏まえ、現行制度における権利処理の限界、権利制限の対象となる権利の種類、具体的な権利制限の規定の在り方、図書館における執行上のルールなどについて、具体的な問題点の整理が必要である。また現在、権利者団体と図書館団体との間で、図書館がファクシミリ等により複製物を提供できるようにすることについて、協議事項としている。
したがって、本件については、上記の点を踏まえた、図書館関係者による具体的な提案が得られた段階で、権利者団体及び図書館関係者間の協議の状況も踏まえつつ検討することが適当である。
また、ネットワークを通じて、利用者に対して直接、電子化された図書を複製できるサービスを図書館が提供することについて、どう考えるか。例えば、
(略)
なお、図書館等の間の送信だけでなく、更に進んで、所蔵館から利用者に直接通信回線を利用した送信をすることについて権利制限を行うべきとの見解もあったが、これについては、そもそも図書館の機能を超えているのではないか、権利者の利益が相当に害されるのではないかという指摘があった。
著作権法第31条は図書館等における複製について、利用者に対する複写サービス(同条第1号)、資料の保存(同条第2号)及び他の図書館に対する提供(同条第3号)に係る権利制限を厳格な条件の下に規定しているが、図書館資料のデジタル化、通信ネットワークを利用した送信や複製物の提供などは想定していない。
(『著作権審議会マルチメディア小委員会 ワーキンググループ検討経過報告』(平成7年2月))
現行規定の解釈についての見解か立法論としての見解かを別として、例えば、以下のようにファックス送付等について肯定的な見解もある(なお、別途、一般の情報サービス業との競合にも言及しているものもある)。