資料5

図書館等における複製等に関する論点について

1.アーカイブの円滑化方策として提案された主な制度的事項

1 収集・保存に関する意見

  • ア 図書館での保存のためのデジタル化が、著作権法第31条第2項の規定の範囲内かは議論が分かれており、劣化した資料等の保存、パッケージ系電子出版物の再生方式の変更への対応、インターネット情報のフォーマット等の旧式化への対応のため、マイグレーション等を含むデジタル化による複製、図書館施設内での利用が保障されるような措置が必要ではないか。
  • イ 書籍が読み取りソフトの性能の問題から誤植のあるデータで保存されることがあり、これは同一性保持権についての問題が生じうる。デジタル化に伴う圧縮・解凍による同一性保持について柔軟な規定が必要ではないか。
  • ウ 書籍は劣化して変色等するため、新刊の時点で保存だけを目的としたなんらかの対応をとっておくべきではないか。
  • エ アーカイブの利用については裁定制度を簡略化してはどうか。

2 利用方法に関する意見

  • ア 出版物については、絶版でも著作権が消滅するわけではなく、複数の出版社や印刷媒体以外でも出版されていることもあり、絶版かどうかは判断が難しい。アーカイブ化されると出版物として世に出る機会は少なくなり、出版文化の衰退につながるため、保護期間が経過したものに限るべき。
  • イ 音楽配信については、公共のアーカイブスが現在の存在する事業を不当に妨げることも懸念されるため、収集するコンテンツの制限、利用方法(回線速度、利用回数等)の制限など調整が必要である。
  • ウ エンドユーザーにとって、多様な著作物の入手のしやすさは重要であり、アーカイブに手軽に触れられる機会を増やすべきである。
  • エ 教育機関、障害者が利用しやすいようなアーカイブを設計すべき。

2.現行の規定と図書館でのアーカイブ事業の論点

(1)再生方式の変更等への対応のための複製について

 「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存する場合に、関係がある現行規定としては、第31条第2号がある。
 同規定においては、「図書館資料の保存のために必要がある場合」には、図書館資料を用いて複製することができることとされている。

(図書館等における複製)

第31条  図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
 略
 図書館資料の保存のため必要がある場合
 略

●これまでの分科会での議論『著作権分科会報告書』(平成18年1月)

  • 第1章 法制問題小委員会
    • 第1節 権利制限の見直しについて
      • 4 図書館関係の権利制限について

 再生手段の技術革新が進むことによって、図書館等で利用できる資料が減ってしまうことになるため、図書館等の使命にかんがみて、本件要望の趣旨に賛同する意見が多数であった。
 ただし、当該著作物について新形式の複製物が存在する場合は除くべきではないか、また、入手の困難性に関して判断基準を明確にする必要があるのではないかとの指摘があった。また、現行の第31条第2号は、「図書館資料の保存のため必要がある場合」は著作権者の許諾を得ることなく複製が可能であることを規定しており、このような現行法の枠組みで対処が可能ではないかとの意見もあった。
 したがって、このような現行法の枠組みや権利処理の取組により、どこまで対処が可能であるかの限界や、どのような場合に対処可能であるかの判断基準について、今後必要に応じ検討することが適当である。

●現行規定の趣旨

 現行法の立案において、「保存のため必要がある場合」として想定していたものは次のとおり。

  • 1所蔵スペースの関係で、マイクロ・フィルム、マイクロ・フィッシュ等によって縮小複製して保存する場合(注)
  • 2所蔵する貴重な稀覯本の損傷・紛失を予防するために、完全なコピーをとっておく場合
  • 3所蔵する資料の汚損ページを補完するために複製する場合

(加戸守行『著作権法逐条講義(五訂新版)』社団法人著作権情報センター)

  • (注)なお、同書では、「所蔵スペースの関係でマイクロ・フィルム化する場合には、原資料を破棄することを条件として許容されると解すべき」としている。また、「新聞の縮刷版のように市販された入手可能なコピーが存在する場合にその新聞をマイクロ・フィルム化する行為は、本号にいう保存のため必要がある場合とは認めがたい」「他に代替できない場合に限る」と考えられている。

●関係の学説

 関係の学説では、この趣旨にかんがみ、第31条第2号の要件を厳格に解する見解もあるが、一方で、以下のように同規定により複製を認める見解もある。

  • ◆「保存の必要および複製の方法を例示すると、…(略)…音楽の著作物や実演を劣化の進むアナログ媒体からデジタル媒体に移し替える。」(斉藤博『著作権法(第3版)』有斐閣)
  • ◆「図書館資料の保存のために必要がある場合…(略)…あるいは古い形式の記録媒体であるために読取り装置が市場からなくなり、新媒体に移し替える場合もあり得る。」(中山信弘『著作権法』有斐閣)
  • ◆「本号の解釈としてその可否は議論のあるところだと思われるが、オーディオ・ビジュアルの分野の作品は、その利用技術が日進月歩で発達する以上、当該施設が過去において収集してきたものについて、技術の進歩により利用が困難になるという事態は避けるべきであり、公的施設の果たすべき役割や住民サービスの観点から、少なくとも従前の固定物を廃棄することなどを条件として、新しいメディアへの移し替えは正当な行為として認められるべきものと考える。」(作花文雄『詳解著作権法(第3版)』株式会社ぎょうせい)

⇒ 「再生手段」の入手が困難である図書館資料を保存は、第31条第2号の規定との関係でどのように考えるべきか。

(2)閲覧について

1)館内での閲覧

 電子化された図書を館内の端末機器で閲覧する行為は、通常の図書を閲覧することと同じ機能であり、第38条の非営利・無料・無報酬の「上映」に該当し、現行法でも可能と考えられるが、留意すべき点はあるか。

(営利を目的としない上演等)
第38条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
2〜5  (略)

2)ネットワークを通じた閲覧

 ネットワークを通じて電子化された図書を閲覧できるサービスを図書館が提供することについて、どう考えるか。例えば、

  • 電子出版等のビジネスへの影響をどのように考えるか。
  • 著作物の種類(書籍、音楽、映像、ソフトウェア、美術等)ごとに分けて検討することが必要か。
  • 仮にネットワークを通じて閲覧できるようにする場合は、その範囲の限定や技術的方式などについて、どのように考えるべきか。

(それとも、次のネットワークを通じた複写サービスと併せて考えるべきか)

(3)複写サービスについて

1)図書館での複写サービスの規定の現状

 利用者の調査研究の用に供する等のために著作物を複製することができる、電子化された図書を複製する場合であっても、その図書館の保管資料であれば、通常の図書と同様である。

(図書館等における複製)
第31条  図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
 図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
二・三  (略)
●現行規定の趣旨
  • ◆複製の対象
     複製の対象は、当該図書館等の施設の蔵書や保管資料であり、資料の所有権が当該施設にあるか否かは問われないが、当該施設が保管している状態である資料であることを要する。
  • ◆複製の態様
     「図書、記録その他の資料」とは、書籍や雑誌、地図、写真のようなペーパーメディアによるもののほか、レコード・CD、録音テープ、ビデオ・テープ等の視聴覚資料など種々のものが含まれる。したがって、複製の態様も複写、写真撮影、録音・録画など様々なものがあり得る。

(加戸守行『著作権法逐条講義(五訂新版)』社団法人著作権情報センター)

2)他の図書館を通じた複写サービスの場合について

 他の図書館の依頼によって、電子化された図書を複製することについて、通常の図書と同様に考えられるか。その場合、電子化された図書の、図書館間でのやりとり(ファックス送付やメール送付等)についてどのように考えるか。

第31条(抄)  
 他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合
●これまでの分科会での議論『著作権分科会報告書』(平成18年1月)
  • 第1章 法制問題小委員会
    • 第1節 権利制限の見直しについて
      • 4 図書館関係の権利制限について

 本件の要望は、NACSIS-ILLを通じて大学図書館等において行われている複製物の提供方法と同様に、大学図書館等に限らず、利用者が身近な公共図書館等を窓口として所蔵館からの所蔵資料の複製物を受け取る方法として、ファクシミリや電子メール等を利用した送信を可能にしようとするものである。特に外国からの複製依頼に関して郵送のみによる対応に限定することは、研究活動等の著しい制限になり不合理であり、我が国が文化の発信に消極的であるとの批判を受けかねないことから、利用者の便宜を拡大することが強く望まれるとする意見があった。
 このようなことから、最終的な利用者に、窓口となる図書館から紙媒体による複製物1部を交付した後、中間的に発生した電子的複製物は所蔵館におけるものを含めてすべて廃棄することを条件に、認めてはどうかとする意見が多かった。ただし、大学図書館等に関しては、現状でもNACSIS-ILLを通じて、適切に運用されていると考えられるが、それ以外も含めて広く権利制限を行うことの適否については、大学図書館等間その他公共図書館等間におけるファクシミリ送信等の利用実績・ニーズを踏まえ、現行制度における権利処理の限界、権利制限の対象となる権利の種類、具体的な権利制限の規定の在り方、図書館における執行上のルールなどについて、具体的な問題点の整理が必要である。また現在、権利者団体と図書館団体との間で、図書館がファクシミリ等により複製物を提供できるようにすることについて、協議事項としている。
 したがって、本件については、上記の点を踏まえた、図書館関係者による具体的な提案が得られた段階で、権利者団体及び図書館関係者間の協議の状況も踏まえつつ検討することが適当である。

3)ネットワークを通じた複写サービスの場合について

 また、ネットワークを通じて、利用者に対して直接、電子化された図書を複製できるサービスを図書館が提供することについて、どう考えるか。例えば、

  • 電子出版等のビジネスへの影響をどのように考えるか。
  • 著作物の種類(書籍、音楽、映像、ソフトウェア、美術等)ごとに分けて検討することが必要か。
  • 仮にネットワークを通じて提供できるようにする場合は、その範囲の限定や技術的方式などについて、どのように考えるべきか。
●これまでの分科会での議論『著作権分科会報告書』(平成18年1月)
  • 第1章 法制問題小委員会
    • 第1節 権利制限の見直しについて
      • 4 図書館関係の権利制限について

 (略)

 なお、図書館等の間の送信だけでなく、更に進んで、所蔵館から利用者に直接通信回線を利用した送信をすることについて権利制限を行うべきとの見解もあったが、これについては、そもそも図書館の機能を超えているのではないか、権利者の利益が相当に害されるのではないかという指摘があった。

●現行規定の趣旨

 著作権法第31条は図書館等における複製について、利用者に対する複写サービス(同条第1号)、資料の保存(同条第2号)及び他の図書館に対する提供(同条第3号)に係る権利制限を厳格な条件の下に規定しているが、図書館資料のデジタル化、通信ネットワークを利用した送信や複製物の提供などは想定していない。

(『著作権審議会マルチメディア小委員会 ワーキンググループ検討経過報告』(平成7年2月))

●関係の学説

 現行規定の解釈についての見解か立法論としての見解かを別として、例えば、以下のようにファックス送付等について肯定的な見解もある(なお、別途、一般の情報サービス業との競合にも言及しているものもある)。

  • ◆(図書館間の提供に関して)「ここでは、複製物の提供が認められているのであって、依頼を受けた図書館等が自らは複製せずに、所蔵する資料を依頼してきた図書館等に提供し、依頼者の手元で複製させることまでは含まない。その一方、複製物の提供は、伝統的な郵送等に限る必要はなく、ファックスにて送付することも含めてよいように思う。」(斉藤博『著作権法(第3版)』有斐閣)
  • ◆「…(略)…形式的には、公衆送信権に抵触すると考えられている。…(略)…郵送は合法だが、ファックス・Eメールは違法とする実質的理由に乏しいし、特に海外のような遠隔地からの請求にも、郵送という手段でしか応じられないことになり、公共施設たる図書館の機能を減殺させ、また学問(特に理系の学問)の発展にとっても好ましくない。郵送かファックス・Eメールかは複製物の提供方法の違いに過ぎないのであり、図書館が手元に残る複製物を廃棄するということを条件に、ファックス・Eメールを認めても不都合はないと考えられる。」(中山信弘『著作権法』有斐閣)
  • ◆「…(略)…法を厳格に解するならば…(略)…公衆送信権についての例外措置は法文上存在していないのであるから、現在の段階では、このような送信サービスを著作権者に無断で行うことはできないと考えるべきであろう。しかし、利用者が図書館まで足を運べばコピーサービスが受けられるのに、ファクスによるサービスが受けられないというのでは一般に納得できないところであろうし、図書館に足を運ぶことのできない人にはコピーサービスのチャンスを閉ざすこととなって妥当でないといえる。立法時には全く予想されていなかった現在のファクスの発達・普及を考慮するとき、この点について法の改正が望ましいといえよう。」(半田正夫『著作権法概説(第13版)』法学書院)
  • ◆「…(略)…法の原則論からすれば、不特定の利用者に対して書面をファックス送信することは「公衆送信権」が働く行為であり、この権利を制限する規定はない。利用者の手元の受信機側でコピーがプリントアウトされるが、これは図書館が複製主体となる複写サービスであり、その間の電話線による送信行為は、当該複製に伴う作業過程上の行為に過ぎず、権利が及ぶ独自の行為と捉えるべきでないとの考え方もあり得ると思われる。また、このネットワーク時代において、結果として作成される複製物が同程度のものであるなら、利用者にわざわざ来館してもらう必要はないとの意見もあると思われる。しかし、立法論としてどのように考えるかはともかくとして、現行法第31条第1号の規定から、そのような送信行為は許容できると言い切ることには難しさが残ると思われる。」(作花文雄『詳解著作権法(第3版)』株式会社ぎょうせい)