資料2

文化審議会 著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会 デジタル出版の現状とアーカイブについて

2007年11月26日
東京電機大学出版局 植村八潮

(1)デジタル出版・電子書籍の現況

 デジタル出版とは,ここでは「主にインターネットや携帯電話などのネットワークを利用した電子書籍(デジタルコンテンツ)の頒布活動」とする。
 分野・読者対象は幅広く,主に女性や若者向けのケータイ小説・ケータイコミック,一般文芸書のデジタル化などから,少部数の学術書や電子ジャーナルなどの学術論文まで多岐にわたっている。またビジネスモデルもマスマーケットを相手とした商業出版,学術情報におけるオープンアクセス,広告モデルによる無料配信,電子図書館向けのB to Bモデル,フリーコンテンツまで多様である。これをデジタル出版として,一律にとらえて論じることには注意が必要である。
 このなかで,最近,急速に市場が伸びているケータイ配信は,大手通信キャリヤやITベンダーが中心となっており,また,巨大市場となっている電子ジャーナルも欧米の大手商業学術出版社や学術団体が中心となっている。
 商業(有料)とフリー(無料),一般と専門の四極で仮に分けてみると,図のようになる。その多様性が理解できると思う。なお,フリーは必ずしもパブリックドメインではない。
 一方,電子書籍専用端末によるデジタル出版が,たびたび話題となってきた。おそらく一般の読者がデジタル出版に抱くイメージも一般文芸書のデジタル出版であろうが,この分野は既刊書籍の復刊が多少読者に支持されている程度で,売上げも極めて小さく成功しているとは言い難い。
 日本の出版社は,経営規模が小さく,デジタル出版のための投資が困難である。最近,電子図書館向けビジネスサービスが日本でも準備されているが,このようなデジタル出版のインフラが整備されることが望まれる。

デジタル出版の多様性

(2)著作権処理と著作権管理技術

 出版社はデジタル出版を行うにあたって,従来の出版権設定契約に加え,著作権者と電子化に係わる権利や公衆送信権などの権利について許諾手続きを個別に行っている。
 デジタル出版では,多種にわたるファイル形式が存在している。多くのファイル形式が専用ビューワー(読書ソフト)に公開鍵暗号方式を導入することなどによって,複製防止や二重ダウンロードを防止している。しかし,ファイル形式が標準化されていないこともあり,読者にとっていくぶん使い勝手の悪いものになっている(表参考)。

(3)デジタル出版における出版社の役割

 情報の生成,複製,流通,販売を一つのサイクルとすれば,出版社の活動は,印刷複製技術と物流による流通頒布を基盤とした上で,情報の生成加工を行っていることである。情報加工には,言うまでもなく読者が対価を投資するのに見合った情報の編集や信頼性付与が含まれる。
 デジタル出版はデジタル複製技術とネット流通を基盤とし,ローコスト化したことは事実であるが,情報生成にかかるコストは変わることがない。
 また,このサイクルは原則として税金や国庫補助のない出版界と読者のコスト負担による自立的システムである点に特徴がある。歴史的にさまざまな紆余曲折はあるものの,今日において表現の自由を確保する上で,時の権力者,為政者の影響を排除した,国民によって支えられた自立的情報流通システムであることを誇りにしたい。
 デジタル技術の進歩により,少部数であっても読者の需要があれば重版が可能となっており,人文社会系出版社による「書物復権」,オンデマンド出版の利用などが取り組まれてきた。さらに電子書籍としての品切れ本の復刊が容易になっている。

デジタルアーカイブと情報流通

(4)公的機関によるデジタル・アーカイブが出版活動に及ぼす影響

 一方,図書流通において図書館が担ってきた〈蓄積〉は,このサイクルにおいて〈販売〉とは別の複線を形成するハブとなる。国民の知る権利を担保するために図書館の果たしている役割は大きい。
 その上で,デジタルアーカイブを考えると,これは必ずしも蓄積を意味するのではなく,ネットを利用した流通システムでもある。出版物流通における〈流通〉をパスする複線ができることで,対価の回収を伴わないアーカイブにより情報が環流することになり,この流れを維持する運営費が外部から求められる。
 これは,(詳細は省くが)米国における学術情報流通システムは80年代まで大学やファンド,国家予算など外部資金に大きく依存していた。しかし,90年代以降の出版助成金の削減結果,この学術情報の流通システムが変化し,特に人文社会科学系の学術出版が困難になった状況を想起させる。これは自然科学系学会誌のジャーナルクライシスとともに,学術情報流通の危機として知られている。
 アーカイブについては,自立的情報流通システムとしての出版活動を阻害しないような注意が必要である。

参考 主な電子書籍のファイル形式
ジャンル ファイル形式 読書ソフト DRM 表示可能デバイス 特徴 運営元
マルチプラットホーム ドットブック T-Time あり PC/PocketPC/シグマbook/JPEG表示可能デバイス 文字と画像に対応。T-Time5.5からはJPEGでの書き出しが可能。 ボイジャー
XMDF ブンコビューア あり 携帯電話/ザウルス/PocketPC 文字と画像に対応。対応機器に専用ソフト「ブンコビューア」をインストールして利用。 シャープ
主にPC PDF Adobe reader なし PC/携帯電話/PocketPC/ 文字と画像に対応したフォーマットとして,欧米を中心にディファクト標準化している。リーダーは無料で配付されている。編集やファイル化は,「Adobe Acrobat」で行われるが,ファイル化のみのツールもある。 アドビシステムズ
Adobe eBook あり(RCA128) PDFにDRMを施した形式。読むためには,ダウンロードした電子ブックは,そのパソコンからのみ閲覧可能。
FlipBook Flip Viewer あり PC 画像ベース。専用ソフトリーダー「FlipViewer」(無償)を利用する。動画・音声も再生可能。 イーブック・システムズ
専用デバイス Hatch シグマBook あり シグマBook/PCシグマBook Archive 画像ベース。松下電器産業の電子ブック「シグマブック」専用フォーマット。PCでインターネットからダウンロードしたコンテンツをUSBもしくはSDメモリーカード経由で転送。 松下電器
BBeB Book リブリエ あり リブリエ/PC(LiBRle for windows 文字と画像に対応。ソニーの電子ブック「リブリエ」専用フォーマット。パソコンでインターネットからダウンロードしたコンテンツをUSBもしくはメモリースティック経由で転送。 ソニー
携帯電話 ブックサーフィン   あり(3G携帯) 携帯電話 コミックサーフィンは画像ベースでマンガのビューワーだったが,ドットブックファイルも読めるようになりブックサーフィンにバージョンアップ。 セルシス