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著作権の保護期間に関する戦時加算について
1. |
戦時加算の概要
サンフランシスコ平和条約第15条(c)の規定に基づき(注1)、日本が連合国に対して負っている義務として、
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連合国・連合国民が、戦前・戦中に取得した著作権の保護期間について、 |
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1941(昭和16)年12月8日(戦争開始時(注2))から、当該国との平和条約発効時までの期間の日数を |
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通常の著作権の保護期間に加算して保護する |
旨を国内法(連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律)上、規定している。
(注1) |
具体的には、連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律により措置。 |
(注2) |
戦中に取得した著作権については、戦争開始時ではなく取得時から起算。 |
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2. |
戦時加算の対象国と期間
平和条約の批准国46カ国のうち、平和条約の発効時までに、ベルヌ条約又は個別協定により、日本がその国・国民の著作権を保護する義務を負っていた国が戦時加算の対象国となっている。
具体的には、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア(3,794日)、ブラジル(3,816日)、オランダ(3,844日)、ノルウェー(3,846日)、ベルギー(3,910日)、南アフリカ(3,929日)、ギリシャ(4,180日)等があり、多くは約10年間の保護期間が加算されている。
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3. |
過去の保護期間延長の際の戦時加算の取り扱い
著作権法の全面改正について審議していた著作権制度審議会(当時)では、死後50年への保護期間の延長を機に戦時加算を解消できないかということが議論され、1966(昭和41)年の答申において、解消されるべきものと考えるとする基本的な方向性が示されていた。
しかし、その後、政府部内で検討された結果、平和条約の規定は著作物の保護が要求されるその時の国内法の定める通常の保護期間に戦時加算を行うことを求めていると解され、新法における保護期間(死後50年)に加えて戦時加算を行うこととした。
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4. |
諸外国の戦時加算について
○ |
ドイツ
ドイツは平和条約を締結していないため、平和条約における戦時加算の規定はないが、連合国高等委員会(Alliierten Hohen Kommission)指令 8第5条によって戦時加算について規定されている。同指令によると、連合国及びその国民はドイツ特許庁に1950年3月10日までに申し出ることにより、工業所有権及び著作権の保護期間を延長することができるとされ、延長期間は開戦から1949年9月30日までとされていた。
しかし、著作権については申出がなく、ドイツでは著作権の保護期間についての戦時加算は機能しなかった。(注3) |
○ |
イタリア
イタリア平和条約第15条付属書により、交戦国双方に加算の義務を課し、連合国側と双務的に6年間の戦時加算を行っている。イタリアは第二次世界大戦当初はドイツや日本と共に枢軸国を形成していたが1943年に降伏し、後年はドイツ、イタリア(「敵国」)とは異なる「特殊地位国」として取り扱われている。(注4) |
○ |
フランス
戦争の期間は精神的著作物の正しい利用が不可能であるとの立法者の判断にもとづき、フランスは戦勝国であるが、第一次世界大戦後に戦時加算(1919年法:6年152日延長(注5))を行い、また、第二次世界大戦後に公有に帰属していないすべての著作物に戦時加算(1951年法:8年120日延長)を行っている。また、1951年法による延長期間は1919年法による延長期間に追加することができる。さらに1951年法では、著作者がフランスのために戦死した時は、相続人または承継人のために30年の例外的延長を設定している。(注6) |
○ |
その他の諸国
第一次世界大戦後には、ベルギーが10年の戦時加算、ハンガリーが8年の戦時加算を行っている。第二次世界大戦後には、オーストリアが7年の戦時加算、ブルガリア、フィンランド、ルーマニア、ハンガリーについても戦時加算が行われている。(注7) |
(注3) |
加戸守行「著作権法逐条講義 五訂新版」(著作権情報センター,2006年)
オイゲン・ウルマー『Urheber und Verlagsrecht』(著作権資料協会,1960年)
阿倍浩二「著作権(著作隣接権)の保護期間について」『コピライト』(著作権情報センター,2007年7月) |
(注4) |
神出七郎「日米間の著作権保護の沿革( )-実務資料による日米関係の前史-」p27,P66以下,著作権シリーズ81(著作権資料協会,1989年)
前掲(注3)阿倍浩二「著作権(著作隣接権)の保護期間について」にも記載がある。 |
(注5) |
同法の加算期間の解釈については判例の見解が分かれている。 |
(注6) |
クロード・コロンベ著、宮澤溥明訳「著作権と隣接権」P202(第1書房,1990年) |
(注7) |
Joseph S. Dubin“Extention of Copyright”UCLA Law Review Vol.8:682(1961年)
前掲の(注3)オイゲン・ウルマー『Urheber und Verlagsrecht』にも記載がある。 |
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【参考】日本国との平和条約
第15条 |
(c)
( ) |
日本国は、公にされ及び公にされなかつた連合国及びその国民の著作物に関して1941年12月6日に日本国に存在した文学的及び美術的著作権がその日以後引き続いて効力を有することを認め、且つ、その日に日本国が当事国であつた条約又は協定が戦争の発生の時又はその時以後日本国又は当該連合国の国内法によつて廃棄され又は停止されたかどうかを問わず、これらの条約及び協定の実施によりその日以後日本国において生じ、又は戦争がなかつたならば生ずるはずであつた権利を承認する。
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( ) |
権利者による申請を必要とすることなく、且つ、いかなる手数料の支払又は他のいかなる手続もすることなく、1941年12月7日から日本国と当該連合国との間にこの条約が効力を生ずるまでの期間は、これらの権利の通常期間から除算し、また、日本国において翻訳権を取得するために文学的著作物が日本語に翻訳されるべき期間からは、6箇月の期間を追加して除算しなければならない。 |
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【参考】連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律(昭和27年法律第302号)
(著作権の存続期間に関する特例) |
第4条 |
昭和16年12月7日に連合国及び連合国民が有していた著作権は、著作権法に規定する当該著作権に相当する権利の存続期間に、昭和16年12月8日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間(当該期間において連合国及び連合国民以外の者が当該著作権を有していた期間があるときは、その期間を除く。)に相当する期間を加算した期間継続する。 |
2 |
昭和16年12月8日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間において、連合国又は連合国民が取得した著作権(前条の規定により有効に取得されたものとして保護される著作権を含む。)は、著作権法に規定する当該著作権に相当する権利の存続期間に、当該連合国又は連合国民がその著作権を取得した日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間(当該期間において連合国及び連合国民以外の者が当該著作権を有していた期間があるときは、その期間を除く。)に相当する期間を加算した期間継続する。
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(翻訳権の存続期間に関する特例) |
第5条 |
著作物を日本語に翻訳する権利について、著作権法附則第8条の規定によりなお効力を有することとされる旧著作権法第7条第1項(翻訳権)に規定する期間につき前条第1項又は第2項の規定を適用する場合には、それぞれ更に6箇月を加算するものとする。
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(連合国及び連合国民以外の者の著作権) |
第6条 |
前二条の規定は、日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日において、連合国又は連合国民が有する著作権(前二条に規定する加算期間を加算することにより、著作権の存続期間が同日以後なお継続することとなる場合を含む。)についてのみ、これを適用する。 |
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