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資料2

諸外国の国立図書館等におけるデジタルアーカイブ事業の取組について

国立国会図書館総務部企画課
電子情報企画室長 田中久徳

1. 米国
 米国議会図書館では、所蔵する米国の歴史資料に関するデジタル化プロジェクト、American Memoryを1990年に開始、現在では、文書、写真、動画、音声録音等、1,100万件以上が蓄積されている(注1)。この事業は、著作権が消滅したパブリックドメインの資料(米国内刊行の場合、1923年以前刊行のもの。)が主体であるが、著作権が残存しているものについては、米国著作権法の公正利用(フェアユース)規定の枠内での利用が前提となっており、公正利用の範囲を超えた利用をする場合は、著作権者からの書面による許諾が必要とされる(注2)。
 他方で、米国では、企業による大規模な書籍のデジタル化プロジェクトが実施されている。その代表例であるGoogleによるGoogle Book Searchは、ハーバード大学図書館、スタンフォード大学図書館、ニューヨーク公共図書館等の大規模図書館の大量の蔵書を全文デジタル化し、著作権が消滅しているパブリックドメインの資料については、無料で全文を閲覧することを可能とし、また、著作権のある書籍の場合は、検索語の含まれる前後数行を閲覧することができ、あわせて、図書館の所蔵検索や書籍購入サイト等へ案内するものである(注3)。Google側は、出版社が特別に免除申請した資料は対象外としており、米国著作権法の公正使用の要件を満たすと主張している(注4)。また、Googleは、ビリントン米国議会図書館長が、2005年6月ユネスコ米国委員会で提唱した「ワールド・デジタル・ライブラリー構想」に300万ドルを寄附し、また、議会図書館蔵書のデジタル化を提携する等、議会図書館との連携を進めている(注5)。
 この他、米国では、電子情報の消滅を懸念する議会の主導により、特にボーンデジタル資料を対象とした収集・保存のための国家戦略、「全米デジタル情報基盤・保存プログラム(NDIIPP:National Digital Information Infrastructure and Preservation Program)」が2000年に立法化され、議会図書館は、その中心機関として活動している。議会図書館では、選択的ウェブアーカイブのプロジェクトMINERVAが実施され、大統領選挙や各種イベント、9.11同時多発テロ関係等37,000以上のウェブサイトが収集されている。これらの実施にあたっては、議会図書館は、すべての権利保有者と許諾協定を結ぶことを前提としており、公開条件等を個別に定めている(注6)。
(注1)   The Library of Congress, Digital Preservation,
(※アメリカ国会図書館ホームページへリンク)
(注2)  加藤多恵子「デジタルライブラリーにおけるデジタルコレクション」『情報管理』47(4), pp.258-266. 2004.7.
(注3)  鈴木尊紘「マスデジタイゼーションプロジェクトと図書館(特集:Open)」『現代の図書館』44(2), pp.82-92. 2006.6
(注4)  この主張に対して、2005年10月、全米出版社協会(Association of American Publishers)、全米作家協会(Authors Guild)は、著作権侵害として訴訟を提起した。現在も裁判は係争中である。米国議会図書館の報告書(CRS Report RS22356, 2005.12.28)は、Google Book Searchのプロジェクトに関して、裁判所は最終的に公正利用と判断する可能性が高いと予測している。
(注5)  ディアンナ・マーカム「ワールド・デジタル・ライブラリーは実現するか」『情報管理』49(10), pp.542-554. 2007.1.
(注6)   The Library of Congress, Web Capture & Archiving,
(※アメリカ国会図書館ホームページへリンク)

2. 欧州
 欧州の国立図書館においても、同様のデジタルアーカイブの試みが行われている。英国図書館では、英国の歴史に関する画像資料(手稿、写真、新聞、切手等)や録音資料のアーカイブCollect Britainを構築し、2006年3月からは、Microsoft社との提携により、著作権保護期間の終了した19世紀までの書籍10万冊を対象にしたデジタル化プロジェクトを実施している(注7)。
 他方で、欧州委員会(European Commission)が、2005年9月に計画を発表した「EUデジタル図書館構想」は、EU各国の国立図書館の協力により、2008年までに200万、2010年までに600万点の書籍、映画、写真、手稿等をデジタル化し、インターネット公開をめざすとする大規模プロジェクトである。これは、デジタル情報・知識を基盤とする経済社会の構築をめざす2000年のリスボン戦略を踏まえ、2005年6月に公表された「i2010欧州情報社会2010」イニチアティブの中核事業に位置づけられる事業である(注8)。
 当初、デジタル化対象資料は、参加各機関が、パブリックドメインとなっている資料及び著作権者の許諾が得られた資料の中から選定することとされていたが、対象資料のデジタル化の進捗がはかばかしくないため、2006年8月、欧州委員会は、取組みを推進する勧告を出すとともに、最大の懸案である著作権問題を解決するため、英国図書館長、世界複製権機構(IFRRO)事務局長、欧州出版連盟(FEP)理事長、欧州作家会議(EWC)事務局長等をメンバーとする図書館界、出版界、学術機関等の関係者による「高次専門家グループ著作権サブグループ(High Level Expert Group Copyright Subgroup)」を設置し、検討を行った。2007年4月に公表された提言では、「著作者不明作品(Orphan Works)」の利用に関しては、合理的な事前調査を実施することを条件として非営利目的のデジタル複製を認めること、また、「絶版資料(Out-of-Print Works)[権利者により、既に商業的価値を喪失していると宣言されている資料]」については、所蔵資料のデジタル化と図書館内等の環境下での閲覧利用等を認める契約ライセンスの導入(ただし、モデル案では、権利者は図書館に与えたデジタル利用権をいつでも撤回する権利を留保する。)等が勧告された(注9)。
 この他、欧州各国では、国立図書館が法定納本の枠組みによって、ウェブサイトの包括的収集を実施することを規定する法律の制定が相次いでいる(1988年ノルウェー、2002年スウェーデン、2003年英国、2004年デンマーク、2006年ドイツ、フランス、別表参照)。
(注7)  リン・ブリンドリー「新しい情報環境における英国図書館の挑戦」国立国会図書館編『デジタル時代における図書館の変革−課題と展望−』 pp.49-63, 2006.
(注8)  鈴木尊紘 前掲 pp.89-90.
(注9)   Report on digital Preservation, Orphan Works, and Out-of-Print Works. Selected Implementation Issues.,
(※ユネスコホームページへリンク)


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