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資料5

複数の権利者が存在する場合の利用について

 複数の権利者が存在するために、著作物の円滑な利用が阻害される可能性があるケースを分解すると、以下のようなものに分けられると考えられる。

1. 共同著作物・共同実演の場合など1つの権利が複数の者の共有に係る場合
 2人以上の者が共同して創作した場合や、2人以上の者が共同して実演した場合
 著作権や著作隣接権が、相続や契約により、複数の者に承継・譲渡等された場合

2. 二次的著作物の場合など1つの著作物に複数の権利が存している場合
 1つの著作物に、原著作物の権利と二次的創作を行った者の権利が存在している場合

3. 複数の著作物等でコンテンツが構成されている場合
 映像コンテンツに、脚本、音楽、美術、実演等の様々な権利が存在している場合
 写真や映画の背景に、ポスター等の著作物が、認識可能である程度に写り込んでいた場合
(○ 上記に加えて、肖像権など著作権法に基づく権利以外の権利も含まれている場合)



参考

共有著作権に係る制度について

(1) 現行著作権法における共有に係る規定

 共有著作物の創作意図及び共有著作物の著作権の一体的行使の観点、一般財産との対比における著作物利用の性質の特殊性等を考慮して、著作権法には、民法の共有に関する規定の特例規定が設けられている。

◆民法の規定との比較
  著作権法 民法
人格権の行使 全員の合意が必要(第64条)
※信義に反して、合意の成立を妨げることができない。
 
共有持分の割合の推定 (注) 各共有者の持分は相等しいものと推定(第250条)
持分の譲渡又は質権の設定 全員の同意が必要(第65条第1項)
※正当な理由がない限り、同意の成立を妨げることができない。
(持分の譲渡は自由とされている。)
持分の放棄及び共有者の死亡 (注) 当該持分は他の共有者に帰属(第255条)
権利の行使 全員の合意が必要(第65条第2項)
※正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない。
【管理】持分の価格に従い、その過半数で決する。(第252条)
共有物の分割 (注) 各共有者はいつでも請求できる。(第256条)
差止請求 単独請求可(第117条) 単独請求可(第252条但書)
損害賠償 持分に応じて単独請求可(第117条) 持分に応じて単独請求可
(注) 共有著作権の性質に適合する範囲内において民法の共有に関する規定が働くこととなる。

1 「共同著作物」の定義(第2条第1項第12号)
共同著作物・・・2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。
「共同著作」が成立するためには、2人以上の者が「共同して創作した」といえる必要があり、各人の寄与が創作性のあるものでなければならない。例えば、単なる著作者の手足として参画している補助者や、企画を立てただけで、実際の創作には何ら関与していないような者は共同著作者とはならない。

2 共同著作物の著作者人格権の行使(第64条)
権利行使⇒全員の合意が必要(*信義に反してその合意の成立を妨げることはできない。)
代表して著作者人格権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。

3 共有著作権の行使(第65条)
持分の譲渡又は質権の設定⇒全員の同意が必要(*正当な理由がない限り、同意を拒むことはできない。)
権利行使⇒全員の合意が必要(*正当な理由がない限り、その合意の成立を妨げることはできない。)
代表して共有著作権を行使する者を定めることができる。代表者の権限について加えられている制限は、善意の第三者に対抗することができない。

4 共同著作物等の権利侵害(第117条)
第112条の差止請求⇒単独請求可
損害賠償請求又は不当利得返還請求⇒持分に応じて単独請求可

 第65条、第117条の規定は、共有に係る著作隣接権についても同様となっている。

(2) 著作権分科会における過去の議論

「著作権法に関する今後の検討課題」(平成17年1月 文化審議会著作権分科会)
1  基本問題
(4) 共有著作権に係る制度の整備
 近年、映画やゲームソフトの製作等に関して共同企業体が著作権者となることが多くなっているところ、このような共同著作物に係る共有著作権の行使について、持分割合による多数決原理を導入することや、共有著作権の譲渡について、他の共有者が不同意の場合に譲渡人を保護する方策等、他の共有者の利益との調整を図るための制度の整備に関し、人格権との関係にも留意しつつ、検討する。


「著作権分科会報告書」(平成19年1月 文化審議会著作権分科会)
2  検討課題
【共同著作物の著作者人格権について】
1 著作者人格権の侵害に対する損害賠償請求の扱い
【共有著作権について】
2 共有者の1人[1社]が居所不明等により合意等が得られない場合の方策
3 共有著作権の行使に係る持分割合による多数決原理の導入
4 共有著作権の譲渡について、他の共有者が不同意の場合に譲渡人を保護する方策
5 共有者による共有著作物の「使用」

3  検討結果
 現行法上、共有に関しては、共有者間の人的関係及び共有の客体が著作物という精神的色彩の強いものであることから、民法の特例が規定されている。
 共同著作物に係る著作者人格権については、著作権法特有の問題であり、特にその人的関係に配慮して規定されている。
 検討課題1について、現行法は、著作者人格が一つのものであることから全員の合意を得る必要があると考えられる一方、共同著作者の一人の氏名表示が削除された場合など必ずしも全員の合意を求める必要がないと考えられる場合があることから、明文で規定せず、個々の具体的事例に応じた裁判所の合理的判断に委ねることとしているが、現時点において一律に立法上措置する必要性は生じていないと考えられる。
 検討課題25は、現行法が当該行為(権利の行使等)について、権利者全員の合意又は同意を要求していることに関係する課題である。現行法は、共同著作者の創作意図及び権利の目的物たる著作物の一体性の確保等から、民法上の共有理論をそのまま適用することは適当でないとして、その権利の行使等についても権利者全員の合意又は同意を必要としているところである。
 共有に係る権利の取扱いについては、共有者間における契約で定めることができる場合が多い。今回、ヒアリングを行ったソフトウェアの共同開発等や製作委員会方式においても、権利関係についてあらかじめ契約で定める場合が多く、また、権利関係の明確化の観点からも個々のケースに応じて契約で処理することが望ましいと考えられる。
 以上の立法趣旨及び実務における取扱いにかんがみた場合、契約によって対応できないような問題が生じているとまでは言えず、また、任意規定である現行著作権法の規定が実務の妨げになるものではなく、課題が生じているとしても、それらは契約実務上の課題として位置づけられるものである。
 したがって、共有の扱いに関しては、民法の規定に基づく分割請求の活用も含め、現行法の枠組みや契約で対応することが適切であり、現時点において緊急に著作権法上の措置を行う必要性は生じていないと考えられる。



参考

諸外国の法制との比較(共有著作権に関して特別の定めがあるもの)

(※「外国著作権法令集」(社団法人著作権情報センター)より)
  日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ
「共同著作物」の定義 2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの(第2条第1項第12号) 2以上の著作者が、各々の寄与物を分離できないまたは相互に依存する部分からなる単一物に統合する意図をもって作成する著作物(第101条) 2人又は2人以上の著作者の協力により製作される著作物であって、各著作者の寄与が他の著作者のそれと区分されないもの(第10条) 2人以上の自然人が創作に協力した著作物(第113の2条第1項) 数人の者が著作物を共同して製作し、各自の寄与分が分離して使用されないとき(※「共同著作者」の定義:第8条第1項)
著作者人格権 全員の合意が必要(第64条) 【放棄】
著作者の一人が本項に基づき行う権利の放棄は、全ての著作者について当該権利を放棄する(第106A条(e)(1))
【著作物を傷つける取扱いに反対する権利】
全員の同意が必要(第88条(2))
全員の合意が必要。合意のない場合には、民事裁判所の決定するところによる。(第113の3条第2項・第3項) 【公表、変更】
全員の同意が必要
(ただし、各共同著作者は、信義誠実に反して拒むことができない。)(第8条第2項)
持分の譲渡 全員の同意が必要(第65条第1項)        
持分の放棄     【著作者人格権】
他の権利者に影響を与えない。(第88条(3))
  自由に放棄できる。当該持分は他の共同著作者に帰属。(第8条第4項)
権利の行使 全員の合意が必要(第65条第2項)
(ただし、正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない。)
【権利付与の終了】
共同著作物の二人以上の著作者が行った権利付与の場合には、権利付与を行った著作者の過半数をもって終了させることができ、かかる著作者が死亡している場合には、本節第(2)項に基づき著作者の終了権の2分の1を超える権利を保有しかつ行使することのできる者が、これを終了させることができる。(第203条(a)(1))
著作権者の許諾のいずれの要件も、それらのすべての者の許諾を必要とする。(第173条(2)、第191条のA(4)) 全員の合意が必要。合意のない場合には、民事裁判所の決定するところによる。(第113の3条)
【個々の寄与を分離した利用】
各共同著作者の関与が異なる分野に属する場合には、各共同著作者は、別段の合意がない限り、個々の寄与を分離して利用することができる。ただし、共同著作物の利用を害してはならない。(第113の3条第4項)
全員の合意が必要。ただし、信義誠実に反して拒むことができない。(著作物の利用から生ずる収益は、著作物の創作に対する各自の寄与の範囲に応じて帰属。)(第8条第2項・第3項)
差止請求 単独請求可(第117条)       単独請求可(第8条第2項)
損害賠償 持分に応じて単独請求可(第117条)       【請求権】
単独で行使可。ただし、各共同著作者は、共同著作者の全員に対する給付に限り、請求することができる。(第8条第2項)


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