ここからサイトの主なメニューです
資料9

「過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会」への意見表明にあたって

2007年(平成19年)4月27日
富田倫生(青空文庫呼びかけ人)

 検討課題四項目の内、以下の三点に関して意見を述べる。

2. アーカイブへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化方策について

「著作者の没年データベース」の整備を求める。

 アーカイブへの著作物の収録を検討する際は先ず、当該作品が保護期間にあるか否か知るために、作者の没年確認が求められる。
 この作業は現時点では、各アーカイブがそのつど、独自に行わざるを得ず、確認に困難が伴う例も少なくない。
 特に、第二次世界大戦における連合国の著作者に関しては、保護期間に、各国別の戦時加算分が上乗せされる事情があり、どの時点で保護の対象から外れるかがわかりにくい。
 文化庁著作権課が主導して、著作者の没年を調査し、インターネットで公開する体制を作れば、著作物の利用の促進が期待できる。
 また、かつて存在した翻訳権十年留保の対象となるものについては、個別の作品ごとに、翻訳自由となる時期が異なる。没年データベースには、翻訳権十年留保の対象となる作品が、いつから翻訳自由になったかのデータも盛り込むよう求める。

3. 保護期間の在り方について

 保護期間の延長には、反対である。
 著作物の保護に期限を設け、以降、広範な利用を促すことは、著作権法が目的とする「文化の発展に寄与する」有効な手段である。インターネットを追い風として、この手段は高い実効性を期待できるものとなったが、その際留意すべきは、これが、もう一方の手段である著作物の保護の水準をいささかも切り下げることなくもたらされた点である。
 インターネットのさらなる普及は確実である以上、延長を行わなければ、従来の保護の水準を保った上で、公正な利用をよりいっそう促して、文化の発展へとつなげられる。他方、作者が死んだ後の保護期間をさらに延長しても、創造意欲の増進につながるとは考えられず、今後、量的にも質的にも発展を期待できる過去の著作物の利用を、制約することのみが確実である。
「文化の発展に寄与する」という立法の趣旨に照らして、保護期間の延長には益がない。

 上記の考えを、意見発表者は、青空文庫と名付けたインターネット図書館の整備に関わる中で抱いた。
 青空文庫は、1997年(平成9年)夏、「電子化した本」の私的な公開サイトとして生まれた。以来10年間で、入力、校正、運営に関わるボランティア約670名の手によって整備が進められ、本日(2007年4月27日)現在で、6,200点の著作権保護期間を過ぎた作品を公開するに至っている。
 確乎たる財政的な基盤をもたない青空文庫は、主に広告で得た収入によって、年間200〜300万円程度の運営費用をまかなっている。ごく小さな予算規模で、曲がりなりにも電子図書館型のサービスを提供できている背景には、作品の収蔵と配付のコストを、インターネットが劇的に切り下げた事情がある。
 インターネットはまた、青空文庫なる一つのテキスト・アーカイブの利用機会を、全世界に提供している点でも注目に値する。日本全国は元より、アメリカ、EU、韓国、中国、ロシア等、世界各国からのアクセスがあり、在留邦人にも日本語による作品の読書機会を提供している。
 青空文庫のテキストの利用者は、晴眼者、健常者に留まらない。視覚障害者は、パソコンによる読み上げや、文字の拡大機能等を用いて作品に親しんでおり、肢体不自によって読書機会を制限されてきた人にも利用されている。
 第三者による商業利用を拒まない青空文庫のファイルを用いては、一冊百円の文学全集や、大活字本、お風呂で読む本といった商品が作られ、ゲーム機用読書ソフトの開発も進められている。
 青空文庫の利用形態は、単にパソコンや携帯電話、ゲーム機などを用いての「読書」にとどまらない。すべての収録作品に対して、全文検索をかけることができるため、青空文庫全体は、一つの用例集(コーパス)をなしている。青空文庫の収録作品を利用した、外国人のための日本語学習システムが開発されている。2000年(平成12年)に制定された、第3水準第4水準の漢字等を定めた文字コード、「JIS X 0213」のとりまとめに当たっては、青空文庫が提出した、文学作品に現れた外字に関する情報が、参考資料の一つとして利用された。アメリカにおいては、GoogleAmazonYahoo!、マイクロソフト等のIT企業が、図書館や出版社と連携し、時には著作権を巡って争いながら、書籍形式の著作物を、包括的に電子化しつつある。EUおいても、2008年までに200万点、2010年までに600万点の書籍、映画、写真、書類等の電子化、公開を目指す、「ヨーロッパ電子図書館」の整備が進められている。日本でも、国立国会図書館が、近代デジタルライブラリーにおいて、明治期に刊行された所蔵図書の電子化を進めており、現時点では12万7,000冊が公開されている。過去の著作物を、インターネットの情報網に組み込んで、検索・参照可能なものにしようとする、広範な試みが進んでいる。青空文庫の作業も、規模においては圧倒的に小さいが、そうした流れの中に位置づけられる。
 青空文庫の一例に見るとおり、インターネットは費用対効果にすぐれた、電子アーカイブの育成基盤を準備した。今後、社会の文化的な基礎を強化する上で、さまざまな領域の著作物をこうした仕組みに取り入れることは不可欠である。著作物の保護期間の延長は、こうした電子アーカイブの可能性一般を制約する。事実、アメリカやEUの書籍電子化計画においては、彼等が選択した長めの保護期間がすでに、収録可能な作品を限定する、プロジェクトの障害として意識されている。
 保護期間の延長は、インターネット社会の発展の流れに逆行する、時代錯誤の選択である。

 加えて、生年のみが明らかで没年が確認できない著作者に関しては、ヒトの寿命の限界を踏まえて、生後150年(生存期間100年プラス没後の保護期間50年)程度で保護を終える、生没年とも確認できない場合は、作品公表後150年程度で保護を終える規定の新設を求める。

4. 意志表示システムについて

「文化の発展に寄与する」上では、権利の縛りを外して当該著作物の幅広い利用を当初から促すこともまた、有効な選択である。
 こうした意志を表示するために提案された各種システムは、法が未だ規定していない要素を先取りして担う役割を負っている。
 これら意志表示システムに著作権法の裏付けを与え、システムと著作権法が齟齬をきたすことを回避するために、著作権に含まれる権利の内、何を望むかを選択して表明、もしくは登録できる制度の新設を盛り込んだ、法改正を求める。


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ