ここからサイトの主なメニューです
資料4

検討課題の背景等について

1. 過去の著作物等の利用の円滑化方策について

(1) 課題の概要
 著作権の存続期間中は、著作物の利用を許諾する権利は基本的に著作者が専有することとなるため、他人の著作物を利用する場合や、過去に作成された著作物の著作権者が不明なとき、著作権者等が非常に多数にわたるとき等には、その利用が円滑に行えない場合がある。
 著作権法では、著作権者不明その他の理由により相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、文化庁長官が定める補償金を供託することにより、著作物を利用できる制度(裁定制度)を設けている。
 近年の技術の発達により、著作物を容易に利用できる環境が整備されている中で、過去の著作物等を有効に活用するための制度の在り方について検討が求められる。

(2) 最近の動き
「著作権法に関する今後の検討課題」(平成17年1月 文化審議会著作権分科会)
(備考)
2.  裁定制度の在り方に関しては、法制問題小委員会における検討に先立ち、契約・流通小委員会において、著作物の利用を促進する観点から権利者の保護の観点にも留意しつつ検討を行うことが適当である。
「著作権分科会報告書」(平成18年1月 文化審議会著作権分科会)
4  検討結果
(1) 著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条)
1 制度の評価
 この裁定制度については,貴重な著作物を死蔵化せず,世の中に提供し活用させるために有効なものであり,制度は存続すべきである。
 ただし,制度の存続に異論はないものの,制度を有効に活用するためには,制度面や手続面での改善を行う必要があるとの意見があった。

2 制度面の問題
 特定機関による裁定の実施
 裁定制度を簡便化するため,例えば,氏名表示が無い写真や著作物の複写等のように頻繁な利用ではあるが,小規模な利用分野において,特定の機関に裁定の権限を委ねるような仕組みを求める意見があった。
 これについては,例えば現行制度においても,著作権に関する登録業務を民間の指定登録機関に実施させる仕組みはあるものの(プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律第5条),裁定のように他人の私権を制限し,他人に代って利用者に許諾を与えるような業務について民間の指定機関に運用を任せるというような制度設計は難しいところであり,慎重に検討すべき課題だと考える。

 著作権の制限規定での対応
 一旦許諾を受けて利用したものの限定的な再利用(例えばデータベース化)等特別な場合については,裁定制度ではなく,著作権の制限規定で対応すべきという意見があった。
 これについては,現行の著作権制度においても,たとえ著作権者が不明等の著作物であっても,例えば,私的使用(第30条),教育目的の利用(第33条,第35条等),図書館等における利用(第31条),障害者の福祉の増進のための利用(第37条等)等の著作権の制限規定に該当する場合には,著作権者の許諾なしに利用できるのはいうまでもない。
 しかしながら,例えば,著作物の再利用に限定するとはいえ,商業目的の利用も認める著作権の制限規定を新たに創設することは,国際著作権関係条約や制限規定の趣旨に照らし問題が多いと思われるので,慎重な検討を行う必要がある。
 なお,現行制度の枠組では,このような結論はやむを得ないと考えられるが,インターネット時代における著作物の利用促進という面から,将来的には制限規定の導入を積極的に考えた方がよいという意見があった。

3 手続面の問題
 次に手続面の改善であるが,この裁定の手続については,厳格すぎて利用しづらいという意見があり,政府の「知的財産推進計画2004」においてもその見直し等が求められたところである。これについては,文化庁で見直しを行い,不明な著作権者を捜すための調査方法を整理した上で,従来新聞広告等を要求していた一般や関係者の協力要請については,インターネットのホームページへの広告掲載でも可とするとともに,併せて,社団法人著作権情報センター(CRIC)では,不明な著作権者を捜す窓口ホームページを開設したところである。なお,裁定の手続きについては,「著作物利用の裁定申請の手引き」を作成し文化庁ホームページで公開している。
 この裁定制度の手続きの見直しにより,利用者に求められる調査の方法が明確になり,また従来に比べて調査にかかる事務的又は経済的負担も軽減されたと考えるが,今後の利用状況等を踏まえ,より良いシステムの確立に努めるべきである。
 当面はこの手続に従い,裁定事務を行うことで問題はないと考えるが,裁定事務の実施の過程で実務上の問題点が生じた場合,手続の見直しを行い,より利用しやすいシステムの構築を図っていく必要がある。
 なお,個人情報保護法に関連し,不明な著作権者を捜す作業の困難さを懸念する意見もあったが,このことを理由として,著作物を利用しようとする者が通常行うであろう調査方法に足りない方法でよいとすることはできず,例えばインターネット上の尋ね人欄に掲載しただけで調査を尽くしたとすることは難しいと考える。
 ただし,CRICの事例のような著作権者を捜すための手段を提供してくれる仕組みの創設,専門家や問い合わせ先の団体を紹介してくれる窓口等の充実,調査を代行してくれる団体等の設置等により利用者の事務的負担の軽減が図れると思われる。

4 その他
 第67条第2項では,裁定を受け作成した著作物の複製物に,裁定で作成した複製物である旨等の表示を義務付けている。最近では著作物のデータベース化にかかる裁定の申請が増えているが,送信された著作物が裁定で利用された旨を周知させるために,当該著作物の画面表示やプリンターで印刷した際にその旨の表示がされるよう,文化庁は制度の運用を考慮する必要がある。

「著作権法に関する今後の検討課題」(平成17年1月 文化審議会著作権分科会)
1  基本問題
(4) 共有著作権に係る制度の整備
 近年、映画やゲームソフトの製作等に関して共同企業体が著作権者となることが多くなっているところ、このような共同著作物に係る共有著作権の行使について、持分割合による多数決原理を導入することや、共有著作権の譲渡について、他の共有者が不同意の場合に譲渡人を保護する方策等、他の共有者の利益との調整を図るための制度の整備に関し、人格権との関係にも留意しつつ、検討する。
「著作権分科会報告書」(平成19年1月 文化審議会著作権分科会)
3  検討結果
 現行法上、共有に関しては、共有者間の人的関係及び共有の客体が著作物という精神的色彩の強いものであることから、民法の特例が規定されている。
 共同著作物に係る著作者人格権については、著作権法特有の問題であり、特にその人的関係に配慮して規定されている。
 検討課題1について、現行法は、著作者人格が一つのものであることから全員の合意を得る必要があると考えられる一方、共同著作者の一人の氏名表示が削除された場合など必ずしも全員の合意を求める必要がないと考えられる場合があることから、明文で規定せず、個々の具体的事例に応じた裁判所の合理的判断に委ねることとしているが、現時点において一律に立法上措置する必要性は生じていないと考えられる。
 検討課題25は、現行法が当該行為(権利の行使等)について、権利者全員の合意又は同意を要求していることに関係する課題である。現行法は、共同著作者の創作意図及び権利の目的物たる著作物の一体性の確保等から、民法上の共有理論をそのまま適用することは適当でないとして、その権利の行使等についても権利者全員の合意又は同意を必要としているところである。
 共有に係る権利の取扱いについては、共有者間における契約で定めることができる場合が多い。今回、ヒアリングを行ったソフトウェアの共同開発等や製作委員会方式においても、権利関係についてあらかじめ契約で定める場合が多く、また、権利関係の明確化の観点からも個々のケースに応じて契約で処理することが望ましいと考えられる。
 以上の立法趣旨及び実務における取扱いにかんがみた場合、契約によって対応できないような問題が生じているとまでは言えず、また、任意規定である現行著作権法の規定が実務の妨げになるものではなく、課題が生じているとしても、それらは契約実務上の課題として位置づけられるものである。
 したがって、共有の扱いに関しては、民法の規定に基づく分割請求の活用も含め、現行法の枠組みや契約で対応することが適切であり、現時点において緊急に著作権法上の措置を行う必要性は生じていないと考えられる。

「世界最先端のコンテンツ大国の実現を目指して」(平成19年3月 知的財産戦略本部 コンテンツ専門調査会)
4. コンテンツ大国を実現するための方策
(2) 法制度・契約を改革する
1 ビジネススキームをさせる著作権制度を作る
4 権利者不明の場合におけるコンテンツの流通
 我が国が蓄積してきた豊かなコンテンツを有効に活用するため、諸外国の動向を踏まえ、利用者が相当の努力を払っても権利者と連絡がとれない場合(権利者不明の場合)について、利用の円滑化を進める新たな方策について検討する。
 また、例えば、ノンフィクション番組の利用に際し、連絡先を把握しづらい一般人などからの申し出を受け付ける機関を作り、利用者の供託金によって運営する自主的な取組を奨励する。

(3) 裁定制度の概要
 裁定制度とは、著作権者が不明の場合、相当な努力を払っても著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け文化庁長官が定める額の補償金を供託することにより、著作物を利用することができる制度(著作権法第67条(注1))である。
 なお、平成17年に手続き等について運用改善を図っている。
裁定制度とは   運用改善のポイント
平成17年度 裁定件数 2件(著作物数 72,583)
これまでの実績 裁定件数 31件(著作物数 89,524)

(注1)第六十七条  公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができないときは、文化庁長官の裁定を受け、かつ、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、その裁定に係る利用方法により利用することができる。
2  前項の規定により作成した著作物の複製物には、同項の裁定に係る複製物である旨及びその裁定のあつた年月日を表示しなければならない。

(4) 諸外国における著作者不明の制度について
1 米国(救済制限型)
 米国では著作権者不明の著作物について、2006年に議会に法案が提出されたが廃案となっている。同法案の内容は、許諾なき著作権者等不明著作物の利用があくまでも権利侵害であることを前提としつつ、利用しようとする者が予め「善意で合理的に誠実な調査(reasonably diligent research in good faith)」を行ったにも関わらず権利者を見つけ出すことができなかった場合は、後に権利者が現れた場合でも、その権利者が求めることができる民事的な救済を一定程度に制限するというものである。具体的には、損害賠償については「合理的な報償(reasonable compensation)」に制限される。さらに、商業的利得の目的ない利用で、権利者から求められた際速やかに利用を停止した場合は、賠償は一切不要とされる。また差止命令については、侵害者が「著しい量の自己の表現(significant amount of the infringer's expression)」を加えて著作物を改変し二次著作物を作成した場合には、合理的な報償の支払いと氏名表示を行うことを条件に、差止命令が排除される。なおここで「合理的な報償」とは、事前に権利者と交渉していれば支払っていたであろう使用料相当額を意味する。

2 英国(権利制限型)
 イギリスでは、財務省が英国の知財制度に関する評価報告をアンドリュー・ガワーズ氏(Financial Timesの前編集長)に委託し、2006年12月、Gowers Review of Intellectual Propertyがとりまとめられた。この際、著作権者等不明著作物に関する詳細な研究がBritish Screen Advisory Council(BSAC)に更に委託されており、BSACが取りまとめた報告書に具体的な制度の案が示されている。これは、利用者が「最善の努力(best endeavors)」をしたにも関わらず権利者を見つけ出すことができなかった場合は、権利が制限されてその著作物を利用することができるようになるというものである。ただし後に権利者が現れた場合には、合理的(reasonable)な利用料(royalty)を支払わなくてはならない。利用料は、当事者間の合意なき場合、著作権審判所(Copyright Tribunal)が定めることができる。特定の場合を除いて、著作権者が現れた後に使用を継続することはできないが、著作権者の合意によって継続することはできる。権利者不明著作物が派生著作物に組み込まれている場合や利用停止によって利用者の経済的苦境が生じる場合は、利用料を払いつつ、利用を継続することができる。なお、Gowers Reviewは、同制度案は現行のEU指令2001/29/ECに反するため(注2)英国はこれをこのまま立法化することはできないとし、英国政府による立法を直接提言するのではなく、英国政府がこのような制度を可能とするためのEU指令の改正を提案することを提言している。

3 カナダ(裁定型)
 カナダは我が国と同様、著作権者等不明著作物の利用のための裁定制度を持っている(カナダ著作権法第77条)。同制度では、発行された著作物等を利用しようとする者が著作権委員会(Copyright Board)に申請し、同委員会が、その者が権利者を探し出すための「合理的な努力(reasonable efforts)」をしたにも関わらず権利者を探し出すことができなかったと判断した場合は、同委員会はその者に対して利用条件を付して著作物の利用許可を与えることができる。通常は、決まった利用料を集中管理団体に事前納付することが要求され、後に権利者が現れた場合はその集中管理団体から利用料が支払われる。同制度は利用件数が少なく、先述の英国BSACレポートによると、1990年から2006年6月までに184件の許諾があったのみとされる。

(注2) EU指令2001/29/EC第5条は権利の例外・制限が許容される場合を列挙しているが、Gowers Reviewは、著作者等不明作品はこれに含まれていないとしている。



参考

カナダ著作権法の著作権者不明の場合の裁定制度規定

Owners Who Cannot be Located

77. (1)  Where, on application to the Board by a person who wishes to obtain a licence to use

(a)  a published work,

(b)  a fixation of a performer's performance,

(c)  a published sound recording, or

(d)  a fixation of a communication signal

in which copyright subsists, the Board is satisfied that the applicant has made reasonable efforts to locate the owner of the copyright and that the owner cannot be located, the Board may issue to the applicant a licence to do an act mentioned in section 3,15,18 or 21, as the case may be.

(2)  A licence issued under subsection (1) is non-exclusive and is subject to such terms and conditions as the Board may establish.

(3)  The owner of a copyright may, not later than five years after the expiration of a licence issued pursuant to subsection (1) in respect of the copyright, collect the royalties fixed in the licence or, in default of their payment, commence an action to recover them in a court of competent jurisdiction.

(4)  The Copyright Board may make regulations governing the issuance of licences under subsection (1).



2. アーカイブスへの著作物等の収集・保存と利用の円滑化方策ついて

(1) 課題の概要
 文化の健全な発展には、文化的所産としての著作物を幅広くの収集・保存しておくことや、絶版等の入手困難な著作物を一般に提供することなどが必要となる。これら「アーカイブ事業」について取り組んでいる図書館、博物館、NHKその他の事業者がコンテンツの保存・収集・利用を円滑に進める上での著作権法上の課題について検討が求められる。

(2) 最近の動き
「知的財産推進計画2006」(平成18年6月 知的財産戦略本部)
1. ユーザー大国を実現する
(4) アーカイブ化を促進し、その活用を図る
 2006年度も引き続き、NHKアーカイブや民間放送事業者等の保有する放送番組などの活用が図られるよう、関係者間の合意や過去の放送番組の二次利用に関する権利処理に係る取組を促す。また、放送番組センターや東京国立近代美術館フィルムセンターの機能の充実を図るとともに、漫画やアニメ関係資料、写真の収集保存について、地域・民間等での取組に協力する。
(総務省,文部科学省)
【P.91 第4章1.1.(4)】

「世界最先端のコンテンツ大国の実現を目指して」(平成19年3月 知的財産戦略本部 コンテンツ専門調査会)
3 一般ユーザーが著作物を楽しむ機会を充実する
2 放送番組アーカイブの活用
 NHKアーカイブのネット配信サービスを行えるよう2006年度中に放送法の改正を行うとともに、著作権や肖像権に関する課題を検討し、民間放送事業者や放送番組センターの保有する番組を含め放送番組のアーカイブの円滑な利用を促進する。

3 コンテンツの保存・収集・利用の促進
 公共的なデジタル・アーカイブにおける著作物の収集・保存や、絶版等に至った著作物で一般ユーザーが入手困難なものの提供など非営利目的や商業的利用と競合しない利用について、クリエーターへの補償措置も考慮しながら、コンテンツの保存・収集・利用を円滑に進められる方策を検討する。

放送法の一部改正に伴う動きについて
【通信・放送の在り方に関する政府与党合意(平成18年6月20日)】
  NHK関連
NHK本体について、子会社全体の整理・統合を図ることを前提として、
(中略)
番組アーカイブについて、ブロードバンドを通じて有料で公開することを可能とするため、必要な対応を行う。

放送法の一部改正(案)
番組アーカイブのブロードバンドによる提供
 NHKが放送した放送番組(番組アーカイブ)をブロードバンド等を通じて有料で提供することをNHKの業務に追加するとともに、利用者保護のため、その業務の実施基準について認可を要すること等を措置する。

【NHKアーカイブスの概要】
1. 運用開始時期
平成15年2月1日

2. 主な機能
1 NHKが過去に放送してきたニュース・番組を体系的に保存。
NHKが保有する過去の放送番組(平成17年度末現在)
  ニュース 番組
全国総計 365万8千項目 57万6千番組
NHKアーカイブス 134万2千項目 48万4千番組
東京本部 79万項目 5万5千番組
川口 55万2千項目 42万9千番組
地方の放送局 231万6千項目 9万2千番組
2 保存されている過去の放送番組をNHK番組制作に活用。
3 「番組公開ライブラリー」を常設し、過去の放送番組のうち著作権処理がなされているものを、オンデマンド方式により無料で一般公開
「番組公開ライブラリー」で公開している番組の数
  平成18年11月現在
テレビ 5,380番組
ラジオ 586番組
  平成18年11月末現在、全国54か所の放送局等で「ライブラリー」の利用が可能。
4 保存されている過去の放送番組を外部に提供。

3. 経費
23億7千万円(平成17年度決算)
(出典:平成19年2月9日 総務省デジタルコンテンツの流通促進等に関する検討委員会配付資料)

3. 保護期間の在り方について

(1) 課題の概要
 我が国では著作権の保護期間は死後50年とされているが、欧米諸国並の70年に延長すべきとの議論がある一方で、延長については慎重に議論すべきだとの意見がある。そこで、これらの様々な議論を踏まえつつ、保護期間の在り方について検討することが求められている。
 また、併せてサンフランシスコ平和条約に規定されている戦時加算特例(注3)の取扱について検討することが必要である。

(2) 最近の動き
「知的財産推進計画2006」(平成18年6月 知的財産戦略本部)
1 国内制度を整備する
3  映画の著作物については、その保護期間が「公表後50年」から「公表後70年」に延長されたが、映画以外の著作物に係る保護期間の在り方についても、著作物全体を通じての保護期間のバランスに配慮しながら検討を行い、2007年度中に結論を得る。
(文部科学省)【P.97 第4章1.2.(4)13)】

「著作権法に関する今後の検討課題」(平成17年度1月 文化審議会著作権分科会)
(6) 保護期間
1 欧米諸国において著作権の保護期間が著作者の死後70年までとされている世界的趨勢等を踏まえて、著作権の保護期間を著作者の死後50年から70年に延長すること等に関して、著作物全体を通じての保護期間のバランスに配慮しながら、検討する。
2 いわゆる戦時加算特例の廃止に関して検討する。

政府への要望等
平成18年9月22日 著作権問題を考える創作者団体協議会
  著作権の保護は創作者のインセンティブを高める上で極めて大きな役割を果たしている。
著作物が国境を越えて流通しており、保護期間の国際的調和が必要である。
戦時加算は保護期間の延長に併せて廃止することが必要である。
著作者や作品に関する情報が公開され利用者が容易にアクセスできる環境が必要である。

平成18年11月8日 著作権保護期間の延長問題を考える国民会議
  欧米では古い作品の著作権が切れそうになる度に延長が繰り返されており、今後も延長が続く懸念があること、また、一度延長されると短縮する例はほとんど見られないことから慎重な議論が必要である。
保護期間延長に関しては、単に権利者団体と利用者団体だけの問題に矮小化するのではなく、多様なセクターの関係者から広く意見を聞き、かつ文化的・経済的影響について実証的なデータや予測に基づいて慎重に議論することが必要である。
国民的議論を尽くさずに保護期間延長を決定しないように要望する。

平成18年12月26日 日本弁護士連合会
  保護期間の延長について検討する際に、権利団体だけでなく延長によって直接的な影響を受ける実演家等関係者の意見を広く十分に聞くべきである。
著作者の創作意欲を高めるのか、知的財産権収支や国債流通にどのような影響がでるのか等の実証的なデータや経験に基づく検討が必要である。
仮に保護期間を延長するとされた場合、前提としてデータベースや実効性の高い裁定制度の整備や予算措置が必要である。
著作者の死後、その作品について保存・普及・研究・教育・福祉等を目的とする小規模利用や、非営利利用を困難にしないための更なる措置が講じられることを提案する。

平成19年1月23日 協同組合日本映画監督協会
  映画の著作物について他の著作物とのバランスから保護期間の起算点を「公表後」から著作者の「死後」にすることについて検討を求める。

「日米規制改革および競争政策イニシアティブ(注4)」における米国政府からの要望
 一般的な著作物については著作者の死後70年、また生存期間に関係のない保護期間に関しては著作物の公表後95年という、現在の世界的な傾向との整合性を保つよう、日本の著作権保護期間の延長を行う。

(注3)  戦時加算特例とは、戦後締結されたサンフランシスコ平和条約第15条(c)の規定に基づいて制定された「連合国及び連合国民の著作件の特例に関する法律」(昭和27年法律第302号)に規定されているもので、連合国又は連合国民が戦前又は戦中に取得した著作権の保護期間について、太平洋戦争の開始時(昭和16年12月8日)(戦中に取得した著作権については当該取得時)から、日本国と当該連合国との間に平和条約が効力を生じた日の前日までの期間に相当する日数(国によって当該平和条約の批准時が異なるため、加算される期間も異なる。例えば、米・英・仏等に関しては最長3,794日)を加算する措置。
(注4)  日米規制改革及び競争政策イニシアティブは、2001年の日米首脳会談において合意された対話の枠組みで、両国における国内規制・制度の改善を図ることを目的としている。毎年一回、相手国が改善を要すると考える事項について両政府が要望書を交換し、受け入れの可否等について協議を経た後、協議結果が一つの報告書に両国共同作業でまとめられ、翌年に両首脳に報告されている。「二年目の対話」(2002年〜2003年)から現在協議中の「六年目の対話」(2006年〜2007年)まで毎年合計5回の対話において、保護期間延長の要望が出されている。なお保護期間延長要望は、毎年の要望書において、「情報技術(IT)」章の「知的財産保護の強化」の項目に位置づけられている。

(3) 現状について
1 我が国における保護期間
一般の著作物(写真の著作物を含む。) 死後50年
無名・変名の著作物 公表後50年
団体名義の著作物 公表後50年
映画の著作物 公表後70年
著作隣接権 行為後50年

2 諸外国の保護期間
【著作者の権利】
(2005年4月現在)
  EU(注5) イギリス フランス ドイツ イタリア ロシア オーストラリア カナダ 米国 中国 韓国 日本
一般の著作物 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後50年 死後70年 死後50年 死後50年 死後50年
無名・変名の著作物 発行後70年 公衆への利用可能化後70年 発行後70年 発行後70年 発行後70年 発行後70年 発行後50年 発行後50年 発行後95年 公表後50年 公表後50年
団体名義の著作物 発行後70年 死後70年 発行後70年 死後70年 発行後95年 公表後50年 公表後50年 公表後50年
映画の著作物 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 死後70年 発行後70年 発行後50年 発行後95年 公表後50年 公表後50年 公表後70年

【著作隣接権】
  EU(注5) イギリス フランス ドイツ イタリア ロシア オーストラリア カナダ 米国(注7) 中国 韓国 日本
レコード 固定後50年 発行後50年(注6) 発行後50年 発行後50年 固定後50年 固定後50年 発行後70年 固定後50年 死後70年もしくは発行後95年(注7) 作成後50年 固定後50年 発行後50年
実演 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年 実演後50年
放送 放送後50年 放送後50年(注6) 放送後50年 放送後50年 放送後50年 放送後50年 放送後50年 放送後50年 放送後50年 放送後50年 放送後50年
有線放送 有線放送後50年(注6) 有線放送後50年 有線放送後50年
上記各国の保護期間は標記以外の例外の場合もある。
(注5) 「著作権及び特定の関連する権利の保護期間を調和させる1993年10月29日の欧州理事会指令」より
(注6) イギリスではレコード、放送、有線放送は著作物として保護されているが、保護期間については、それぞれ50年と規定されている。
(注7) アメリカではレコードは著作物として保護されている。

(4) 我が国の保護期間の変遷について
(旧法下)
  明治32年(1889年) 昭和37年(1962年) 昭和40年(1965年) 昭和42年(1967年) 昭和44年(1969年)
一般の著作物 死後30年 死後33年 全面改正に向けて、「死後38年」まで暫時延長
無名・変名の著作物 公表後30年 公表後33年 全面改正に向けて、「公表後38年」まで暫時延長
団体名義の著作物 公表後30年 公表後30年 公表後30年 公表後32年 公表後33年
写真の著作物 発行後10年 発行後10年 発行後10年 発行後12年 発行後13年
映画の著作物 独創性あり 一般 死後30年 死後33年 全面改正に向けて、「死後38年」まで暫時延長
無名・変名 公表後30年 公表後33年 全面改正に向けて、「公表後38年」まで暫時延長
団体名義 公表後30年 公表後30年 公表後30年 公表後32年 公表後33年
独創性なし 発行後10年 発行後10年 発行後10年 発行後12年 発行後13年

(現行法制定以降)
  昭和45年(1970年) 昭和63年(1988年) 平成3年(1991年) 平成8年(1996年) 平成15年(2003年)
一般の著作物 死後50年 死後50年 死後50年 死後50年 死後50年
無名・変名の著作物 公表後50年 公表後50年 公表後50年 公表後50年 公表後50年
団体名義の著作物 公表後50年 公表後50年 公表後50年 公表後50年 公表後50年
写真の著作物 公表後50年 公表後50年 公表後50年 死後50年 公表後50年
映画の著作物 公表後50年 公表後50年 公表後50年 公表後50年 公表後70年
著作隣接権 行為後20年 行為後30年 行為後50年 行為後50年 行為後50年

(5) 過去の著作権審議会等における検討
「著作権審議会第1小委員会経過報告」(平成8年9月 著作権審議会第1小委員会)
 保護期間の延長の問題は、欧米諸国の保護期間延長の動向を踏まえると、我が国としても積極的に取り組んでいく必要があると考えられる重要な課題である。また、先進諸国の大半が延長を行ってから後発的に取り組むと言うことではなく、国際社会における我が国の積極的な取り組み姿勢を示していくことに留意する必要がある。この問題については、今後も、保護期間の延長の問題、影響を更に具体的に検討する必要があると考えられるところであり、国際的動向に留意するとともに関係者の理解の進展をはかりつつ、法律改正について引き続き検討を進めていくべきものと考えられる。
  本報告書は、写真の著作物の保護期間について死後50年に延長する議論に付言されたもの。

「文化審議会著作権分科会報告書」(平成16年1月 文化審議会著作権分科会)
 インターネット環境の充実により,瞬時に世界中に著作物が流通することを踏まえると,国際的に保護期間を平準化することが必要であり,欧米並みの「死後70年」に保護期間を延長すべきとの意見があった。
 他方,国際的な平準化を目指すなら,保護期間を一番長く保護している国に合わせる必要があり,延々と保護期間が延長される恐れがあること,平準化するといっても,EU各国が「死後70年」にしたのは,個々の国は「死後70年」に反対であっても,EUの中で一番長い国にあわせざるを得ない事情があったことなど,欧米諸国が保護期間を延長した理由を仔細に検討すべきであり,数字だけを根拠に平準化すべきでないことから,平準化を理由とする保護期間の延長に慎重な意見があった。
 保護期間の延長については,国際的動向に留意するとともに,著作物の創作活動に対するインセンティブや文化活動,経済活動に与える影響など,保護期間延長の意義を具体的に分析しつつ,引き続き検討する必要がある。
 なお,著作権とともに著作隣接権についても同様に保護期間を延長すべきとの意見や,映画の著作物の保護期間の起算点について「公表後」から「死後」に改めるべきとの意見もあった。
  本報告書は、映画の著作物の保護期間の延長を踏まえて検討されたもの。

前期(第6期)著作権分科会で出された主な意見の要旨
  欧米諸国にあわせて日本でも著作権の保護期間を死後70年に延長すべきである。
実演家の存命中に財産権の期限が切れることは他の権利者とのバランスを欠いており、著作隣接権の保護期間について見直しが必要である。
国際レコード産業連盟でも最重要課題とされているレコードの保護期間延長について検討してほしい。
映画だけが他の著作物と違う扱いになっている等、保護期間延長の議論と一緒に映像と音の権利の格差について検討してほしい。
経済的な分析や欧米で延長した際の議論の分析をして、それが本当に日本にも妥当するのか検討が必要である。
保護期間の延長に際しては、各著作者の団体によるデータベース、簡易な裁定制度等、利用者の利便性を考えたシステムを作る必要がある。
国際的にも保護期間が70年でない国は多くある。著作物の利用を円滑にすることで文化が発展していくのであり、保護期間の延長は問題がある。
戦時加算について
  保護期間を延長するとともに、戦時加算について見直すための交渉の道を探るべきである。国際小委員会でも扱ってほしい。
平和条約を改正するのは現実的ではなく、保護期間延長の問題とは別に議論すべきである。

4. 意思表示システムについて

(1) 課題の概要
 著作物等の利用を円滑に行うための方策の一つとして、近時、予め著作権者等の利用許諾に関する意思を表示しておく仕組みが広がりつつある。著作物等を自由に利用してよい場合の簡易な意思表示システムとして、「クリエイティブコモンズ」や「自由利用マーク」等の仕組みがあるが、これらの仕組みの利用促進にあたっての法的課題等について検討が求められている。

(2) 最近の動き
「知的財産推進計画2006」(平成18年6月 知的財産戦略本部)
2. クリエーターへの支援
(2) クリエーターの能力発揮を支援する
2 コンテンツの再利用を通じた新たな創作活動を促進する
 2006年度から利用条件を明確化したマークを作品に付す取組を奨励することなどを通して、自分の作品を積極的に利用してもらいたいと考えるクリエーターを支援し、他人の作品や保護期間の満了した作品を活用した創作活動を促す。その際、著作権等管理事業者の協力を得るなどして、このような仕組みの利便性を高める。
(文部科学省,経済産業省)
【P.93 第4章1.2.(2)】

「世界最先端のコンテンツ大国の実現を目指して」(平成19年3月 知的財産戦略本部 コンテンツ専門調査会)
4 コンテンツのネット流通の促進
 コンテンツのネット流通を促進するため、著作者が予め意思表示する際の利用条件の類型化やルール等を研究し、著作物等のネットワーク上での利用条件を意思表示するシステムを構築するとともに、民間における自由利用促進のための取組を奨励・支援する。

(3) 現行制度の概要
1 クリエイティブコモンズについて
 クリエイティブコモンズとは、知的財産の保護を図りつつ、積極的な著作物の流通を促進することを目的とする活動であり、著作物を自由に他者に使ってもらいたいととき、その意思を明示することができるマークを付けるものである。スタンフォード大学ロースクール教授のローレンス・レッシグ教授が提唱し、現在日本を含む29カ国で各国法に準拠してローカライズ化されており、日本では平成16年にGLOCOM(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)が日本法準拠版を作成し、支援ツールをWeb上で公開している。


2 自由利用マークについて
 自由利用マークとは、著作物を創った人(著作者)が,自分の著作物を他人に使ってもらってよいと考える場合に,予め意思表示をしておくための仕組みである。このマークを付すことで、事前に利用許諾を求める手間が省け、著作物の積極的な利用を促すことができる。



ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ