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資料2−1

補償金制度の論点についてのJEITAの見解

平成20年7月10日
社団法人電子情報技術産業協会

1.著作権保護技術と私的複製の関係について

 当協会は、著作権保護技術が施されている場合には、当該著作物について、その保護技術が機能する範囲においては私的複製をオーバーライドし(例えば画像を写真に撮影したり、再生した音楽をマイクで拾い録音するような場合は別論)、いわば契約により法的に複製を許諾・制限しているのに等しい状況であり、当然ながら補償は不要との意見です。このことは、平成19年11月16日に公表した「私的録音録画小委員会中間整理に関する意見」にも詳細を述べています。関連の部分を引用すれば、以下の通りです。
 「技術的保護手段に該当する著作権保護技術を回避して複製した場合、私的使用のための複製とは認められず、著作権侵害に該当する(第30条1項2号)。したがって、著作権保護技術を利用していること自体が、著作権者等が権利行使をしているのと同視できるのであって、そのような場合にまで補償金請求権を与えることは、二重利得に該当するおそれが高い。すなわち、技術的コントロールという形でいったん権利行使をしている以上、さらに補償金を与えることは、技術的にコントロールされた複製についての逸失利益を填補することとなり、法が二重の権利行使を認めることになる。」(上記意見書p.3)
 「著作権法逐条講義 五訂新版」(加戸守行著)における、「著作権者は技術的保護手段を用いることで、家庭内で行われる私的な複製に対しても許諾権を及ぼせることになりました」も明確に当協会の意見を支持しています。
 また、総務相の諮問機関・情報通信審議会の情報通信政策部会に出席している消費者側の委員からも、ダビング10というコピー制限がある以上補償金は必要ないという趣旨の発言が聞かれ、当協会と同じ立場と言えます。

 著作権保護技術について、「ユーザーの複製行為が私的録音録画の範囲を超えないよう、ふたをかぶせるだけ」という意見があります。この考え方によると、私的複製として適法となる範囲は、採用される著作権保護技術が許容する複製の数によって、コピーワンスなら1個まで、ダビング10なら10個までと伸縮することになりますが、このような考え方が、法30条の解釈として相応しいものであるのか、小委員会等での学識者の意見を待ちたいと考えます。
 仮に、著作権保護技術によって私的複製の範囲が伸縮するということであるなら、むしろ、私的領域で行われる複製について契約で許諾を与える場合と、ますます以って法的評価は同様ではないかとも考えられ、契約によって許諾された複製を私的複製の範囲から除外するという考え方との相違について、法的な説明が必要になるものと考えます。

<契約と私的複製の関係>

<著作権保護技術が私的複製の範囲を画定するとの考え方>

 なお、当協会平成20年5月30日付見解にある「私的複製が際限なく行われること」は、著作権法30条の「私的複製」であっても、何ら技術的に抑制されない状況で行われる複製を指した表現であり、あくまで「私的複製」となる範疇で行われる複製行為について述べています。例えば、アナログ放送を受信して録画する場合には、現状では何らの技術的制約がないことから、可能性の点で、「際限なく」複製を取ることができます。すなわち、複製数を「際限なく」と表現したところで、「私的複製」である限り適法なのであって、『「私的複製が際限なく行われること」は同条の予定している範囲を超える』ことにはならないと考えます。

2.文化庁提案において縮小の道筋が明らかでないとする理由について

(1)著作権保護技術と補償の関係についての整理が不分明であること

 文化庁提案においては、次のように表現されています。

  • 1著作権保護技術が、「例えば権利者の要請による」場合には、補償は不要。それ以外については、「補償の必要性がなくなるとまでは言い切れない」(すなわち、補償の余地がある)としている。 【平成20年1月17日小委「資料1」】
  • 2権利者の要請について、現案では、いかなる場合に成就する条件であるのか、明確に書かれていないが、単に技術仕様の策定に参加していれば満足する条件ではないことは明らかとなっている。
    • 「策定されたルールが権利者の意向を反映していればいるほど、権利者側の被る経済的不利益は少なくなり補償の必要性もなくなるはずである。」(すなわち、権利者の意向がルールに反映されない程度によって、補償の必要性があるということになる) 【平成20年5月8日小委「資料2」】
  • 3補償の余地があるとしているダビング10について、その検討経緯に照らし、「権利者の要請により策定されたものといえないことは明らかである」としている。結局、ダビング10の検討経緯と同様に、当該技術仕様に関与するいずれかの権利者団体から異を唱えられると、要請のなかった技術と解釈されることになるものと読める。 【平成20年5月8日小委「資料2」】

 すなわち、技術仕様策定の場において、複製数等について権利者が立場を明確にしない場合や、表明した複製数と異なる結論となった場合には、権利者の要請があったとは考えられないとの一般則が導かれることになります。今後も、設定された技術仕様策定の場において、ダビング10と同様の経緯を辿れば、権利者の要請はなく、従って、補償の必要性があるということとなるのであって、この点において、縮小するとしていることに疑義が生じます。この疑義は、平成20年7月10日配付の文化庁作成Q&Aによっても、払拭されていません。
 当協会は、従来より、著作権保護技術の施されている場合には、補償は不要であるとの意見であることは上述の通りですが、著作権保護技術と補償の要否を検討するにあたっては、「権利者の要請」なる概念を持ち出し技術仕様の策定の時点での権利者の意思の反映を評価するのではなく、実際に著作物を提供する際の権利者の意思を評価すべきだと考えています。したがって、技術仕様を策定する経緯がいかなるものであろうとも、複製回数を制約する環境に著作物が提供される事実を以って、補償の必要性はないと考えます。

(2)対象となる機器に関して、縮小が確実なものとはなっていないこと

 携帯機器や、家庭内で用いられる機器に見るように、録音録画に供される機器は専用機器から汎用機器へと多様化してきています。将来、録音録画専用機器が存在しない状況となるとは考えませんが、明らかに機器は汎用化していくものと考えられます。
 そのような将来を考える場合に、現在の文化庁提案では、対象が縮小していくどころか、却って拡大していくように読むことができます。具体的には、以下の通りです。

  • 1PC等の汎用機器について、「現状では・・・対象とすべきでない」となっていて、制度上、今後対象とする余地を残す表現となっている。
  • 2「録音録画機能を附属機能として組み込んだ機器」についても、「現状では対象とすべきでない」となっていて、制度上、今後対象とする余地を残す表現となっている。

 録音録画のための機器が「移行」するのであって当然に対象とすべきであると主張する意見がありますが、当協会は、これらの例については、制度の「拡大」であると考えております。これまでPC等の汎用機器を補償金対象とすべきとの主張が繰り返されてこられたことに鑑みると、「現状では」との表現を根拠に、今後、同様の主張が繰り返されることは容易に想像されます。

3.HDD内蔵レコーダー、携帯オーディオレコーダーを対象とすべきでないことについて

 これらの機器は、タイムシフト、プレイスシフト、あるいは契約によって提供される著作物の録音録画に用いられる機器であることから、これらを補償金の対象とする合理性はないと考えます。
 タイムシフト、プレイスシフトに機器が用いられる場合に、補償の必要性があるとすることに対する疑義は、当協会は一貫して主張しています。この点についても、平成19年11月16日の当協会意見書(p.4-5)に詳述した通りです。
 たとえば、当協会実施のアンケート結果によれば、音楽の純粋なプレイスシフトだけで約35パーセントも占め、その他契約等で対価回収が可能な複製部分を加えると、補償が不要な複製は約78パーセントにもなります。また、映像のタイムシフトについても約72パーセントを占めています。このように、補償を不要とする複製に用いられる割合が7〜8割にも及ぶ、HDD内蔵レコーダー、携帯オーディオレコーダーを、補償金の対象とすることは認められるべきではないと考えます。この点、文化庁事務局は、Q&A問12の回答において、「一人の利用者が行う私的録音録画の全体に着目すれば経済的不利益を生じさせていることについておおむね共通理解がある」としていますが、一人の利用者が行う私的録音録画の全体に着目すると、全く複製を行わない者もいるということになり、「全体に着目すれば経済的不利益を生じさせている」と断じることはできないと考えます。さらに、単に経済的不利益があるというだけではなく補償が必要と言えるためには、少なくとも補償が必要な複製が大半を占める必要がありますが、利用実態はその反対の結果を示しています。
 それにもかかわらず、「プレイスシフト・タイムシフト自体の評価について明確にすることが望ましいことは言うまでもないが、このことを明確にできなくても、録音録画の実態から補償の必要性については一定の関係者の合意が形成されている」とするのは強引であり、また、「補償の必要性」につき関係者に合意があるとする点は、事実に反すると考えます。

 また、一体型機器を対象とすることに対して第5回小委(平成19年6月5日)において当協会委員から反対を表明しているほか、今次の小委「中間整理」にて、「対象にすべきであるとする意見が大勢であった」と記述されたことに関して、第11回小委(平成19年9月5日)における反対の表明、また、平成19年11月16日意見書でも表明しているように、当協会はHDD内蔵レコーダー(HDD録画機能付テレビを含む)、携帯オーディオレコーダー等の一体型機器を対象とすることについて、一貫して疑義を唱えてきており、その点は現時点でも異なるところではありません。

 なお、一体型機器の取り扱いについての「中間整理」の記述に関して、文化庁事務局は「なお、制度のあり方の問題については、先ほど亀井委員も御指摘されましたように、そう深くは議論しておりませんので、このまとめもそういう細かい点に踏み込んで問題点を整理し、かつ了承を得られたところは了承を得られた、異論があるところは異論があったという細かい議論をしておりませんので、一般論として書いているわけでございまして、確かに部分的に見れば、こういうケースはどうなるのか、ああいうケースはどうなるのかという御疑問はあると思いますけれども、現実にそこまで議論に至っていませんので、今までの議論を踏まえて整理をさせて頂いた次第でございます。」との発言をされています。「中間整理」の公表とパブリックコメントの募集以降、小委において、一体型機器の取り扱いについて、深く議論をしたという記録はありません。

4.地上デジタル放送におけるクリエーターへの適正な対価の還元について

 総務省情報通信審議会第四次中間答申の「基本的な考え方」の項において、その時点での「様々な場」での「コンテンツの流通の促進等に係る具体例が検討されている例」として、補償金制度も記載されているに過ぎず、補償金に限定されるとの記載は一切ありません。従来よりJEITAは以下のような疑問を持っていたところです。

  • 1クリエーターへの適正な対価の還元方法が、なぜ補償金制度に限定されるのか
  • 2著作物等の流通の過程で、契約処理ができるはずであるにも関わらず、それがなされないのはなぜか
  • 3そのような努力はなされているのか

 今般の第五次中間答申(6月27日)において、「適正な対価の還元」等にかかる関係者の認識に相違が見られるとしつつも、補償金以外の側面から情報通信審議会において検討することとされています。JEITAとしても、上記疑問などを含め、同審議会での検討が深まっていくことを期待しています。

第五次中間答申「デジタル・コンテンツの流通の促進」(概要版)抜粋

(4)以上のとおり、「適正な対価の還元」等に係る関係者の認識に相違が見られ、合成形成が困難であることが確認された後、権利者の合意として、権利者の立場から、以下の(a)(b)が提案され、ダビング10の開始期日を早期に確定することについて、委員会にて合意形成がなされたことが確認された。
(a)上記の意見にかかわらず、第四次中間答申が目指した「消費者の利便向上」の実現を優先し、「対価の還元」が「補償金」に限られない可能性を許容。以上の前提に立って、ダビング10の開始期日を早期に確定。
(b)今般の答申に、文化審の「補償金制度」に係る検討における合意形成への期待感、情通審として「適正な対価の還元の在り方」を継続して議論することを記載。

(2)上記の合意の形成過程で言及された「補償金制度」は、文化審議会で検討中の事項。当審議会としてもその検討における早期の合意形成を期待するものであるが、そのあり方自体が当審議会の検討対象ではない点については、今回の審議過程でも異論はみられないところ。
「クリエーターに対する適正な対価の還元」は、既に第四次中間答申で確認された共通認識。当審議会としては、「補償金制度」以外の側面から、権利者の立場から提案のあった「対価の還元」の具体策を今後継続して検討していくことが必要。
(3)また、本答申の「コンテンツ取引市場の形成」の項目においても、放送コンテンツの制作に携わったクリエーターが、透明で公正なルールの下、その活動に相応しい権利と、権利に応じた適正な報酬を得るための環境整備に係る事項が提言されているが、引き続き、「適正な対価の還元」に資するインフラ整備や、ルール整備の在り方を検討していくことが必要。

5.音楽CDをソースとする場合の補償金の必要性について

 音楽CDについては、著作権保護技術との関係について考察する限りでは「補償の要否」を検討する余地があると考えています。しかしながら、第4回小委(平成19年5月31日)における当協会委員の発言の通り、補償の要否を決するためには、録音によって権利者に重大な経済的不利益が生じているかどうかを吟味する必要があります。自ら購入した音楽CDをプレイスシフトすることによって再生したり、音楽配信サービスからダウンロードした音楽を再生したりすることを主目的として録音される場合には、重大な経済的不利益が生ずるとは考えられないことから、補償の必要性はないと考えています。
 また、レンタルCDからの複製が権利者に経済的不利益を与えているかどうかについては、JEITAは平成19年11月16日に公表した「私的録音録画小委員会中間整理に関する意見」(p.1-2)に既に見解を示しています。すなわち、レンタルCDについては、著作権保護技術という技術的な管理が及んでいない場合でも、権利者、レンタル事業者、利用者間の契約によって、複製への対価を徴収できるはずというものです。現に、JEITAの平成20年6月の調査でも、レンタルCD利用者の61パーセントが、レンタル利用料の中にリッピングの対価が含まれていると思っているとの結果となっています。

6.今後の検討に関して

 北米のコンテンツ産業の隆盛を目の当たりにして、それが補償金制度によってではなく、資本主義社会のルールである、契約によってもたらされていることに思いを致す必要があります。例えば、北米のコンテンツホルダーを中心としたビジネスモデルにおいては、コンテンツホルダーの要望を受け、メーカーがコンテンツ保護技術を開発・提案・導入し、コンテンツホルダーに対価が還元されるビジネスモデルが構築されてきたという事実があります。
 私的自治の原則の下、契約と技術による解決により対価が還元されるビジネスモデル推進のために、メーカーは技術の開発とその提供に努力してまいりましたし、今後もかかる環境作りを支援してまいります。
 したがって、補償金といった法制度によってではなく、契約と技術による解決を志向することにより、消費者の認識や不公平が是正され、権利者に対する利益の還元を推進し、さらに、産業の国際競争力強化にもつながる道を目指すべきと考えます。

以上